静まり返った空間内。
敵の気配は無く、ケガレもほとんど消えていた。
そんな中で静かに息を吐き、周囲を確認する。
「……妙だな。おい」
ゴミ共を始末した。
絶具なんて呼ばれていた玩具の所有者は死んだ。
ケガレもほとんど無くなっていて、箱としての機能は死んでいる筈だ。
それなのに、一向に解放される気配が無い。
破壊される事の無い特別な空間。
百万を優に超える悪魔共の全力での攻撃や術にも耐えていたのだ。
負荷によって空間内が崩壊する可能性は大いにあったが……それでも、妙だ。
奴の言動や行動からして、全く破壊の恐れが無かった訳じゃないだろう。
でなければ、最初から全力で悪魔たちの力を解放させていた筈だ。
それこそ、俺が生と死の狭間を知覚するよりも前に勝負を掛けていれば流れは変わっていたかもしれない。
破壊のリスクはあった。
だが、そのリスクは現実には起こらなかった。
そう考えるのが妥当であり……まぁそれならそれでやりようはある。
既に力の扱い方は大方掴めた。
後はその力を使って此処を出ればいい。
まぁ力を使わずとも分析を進めれば出られるだろうが……。
「なるべく早い方がいい。嫌な予感がするしな」
俺はそう言って、言葉を発しようとし――“肩に何かが触れた”。
「――へぇ、やっぱ分かるのかよ。ヘルダー」
「――あ?」
声が聞こえた瞬間――俺は大きく横に吹き飛ぶ。
脳が大きく揺れていた。
視界がバチバチと弾けて、体が凄まじい速度で回転している。
音を置き去りにして空を飛でいた。
鼻からは血が噴き出し、地面を転がっていた。
何度も何度もバウンドし、灯篭を破壊して。
体勢を無理矢理に体勢を戻そうとし――背中に強い衝撃が走った。
「ぐあぁ!!?」
骨から嫌な音が鳴り響く。
背骨が呆気なく破壊されて口から吐血した。
俺はそのまま遥か彼方へと飛ばされる。
何十キロ。いや、何百キロも飛ばされていると思える速度。
俺は力を使って、何とか体勢を戻す。
そうして、全方向に対して結界と力を併用したシールドを展開し――それが一瞬で破壊された。
バラバラと結界の残滓が舞い。
目の前には闇よりも深い瞳が存在する。
まるで大好きな玩具を前にした子供のような笑みを浮かべて、拳を固める敵の姿が――
「ばぁ!」
「……!」
俺が動く前に、奴の拳が俺の顔面を捉えた。
視界が大きく弾けて、歯が砕けて血が噴き出す。
が、俺はその場に留まる。
短剣を奴の腕に差し込み、もう片方の刃を振るって奴の首を落とそうとし――奴の体は霞のように消えた。
「――ッ!」
殺気を感じた瞬間――肩に何かがめり込む。
バキバキと音が鳴り響き、強烈な痛みが走った。
打ちこまれた手刀が深々と刺さり。
肩が大きく抉れて、俺は痛みで表情を歪めた。
そうして、抗えぬ暴力によって俺の体は地面に落下し――衝突する。
「がはぁ!?」
水が弾け飛び、大きなクレーターが出来上がる。
口から血を盛大に吐き出した。
心臓の鼓動が早まり、全身が僅かに痙攣する。
恐怖か。痛みによるものか――どうでもいい。
俺は両手で地面を叩き、勢いよく立ち上がる。
純白のマントがたなびき、黄金と白き炎が俺の傷を一瞬で癒す。
片手の指で口元の血を拭い、もう片方の手で煙を払い飛ばす。
傷はすぐに再生した。
魔力も、力そのものにも影響はない。
アレらの攻撃は純粋な魔力と腕力によるものだ……が、それでも脅威だ。
アレほどの力を振るえる存在はそうはいない。
今の俺にダメージを通せるほどの奴ともなれば、多くとも両手の指で足りる程度だろう。
その中でも、明確に俺に恐怖を覚えさせる存在は――“たった一匹”だ。
俺は苛立ちを覚える。
口の中に溜まった血を吐き捨てて、目の前で肩を鳴らし薄い笑みを浮かべるクソ悪魔――“ジュダス”を睨む。
「何で、テメェが此処にいやがる――“ジュダス”」
悪魔の中でも、最も好戦的な悪魔。
どの悪魔よりも凶暴で、比較にならないほどの力を有し。
歴史上で最も多くの祓魔師を屠ったとされるは恐らくこいつだと俺は考えている。
ダーメも、ケーニヒも。
腕に覚えのあった奴らは全てこいつに殺された。
骨も残さず食されて、千年以上もの長き間、闘争に明け暮れた悪魔。
立ち向かった全ての祓魔師を殺してきた最凶最悪の悪魔――奴が目の前にいやがる。
何故、どうして、疑問が頭の中を駆け巡る。
警戒しながら俺は奴をジッと見つめる。
たらりと頬を汗が伝っていき……奴は指を俺に向ける。
「あぁ? 何でって……お前がいるからだよ。ヘルダー」
奴は至極当然だと言わんばかりに言ってきた。
人を嘲るような薄い笑みに、光が一切ない闇のような瞳。
ケガレに満ちた短い黒髪に、鍛え上げられた鋼を超えた強靭な肉体。
青を基調とした服装に、数多の猛者の血を吸い上げてボロボロになったロングコートを羽織って。
動物ではない魔物の革で作ったグリーブや籠手を嵌めている……同じだ。
あの日、初めて相対した日と変わらない。
同じ装いであり、姿形さえも変わってはいない。
ニンドゥで会った時もそうだ。外見に一切の変化は無かった――が、違う。
奴は拳を鳴らす。
そうして、邪悪な笑みを浮かべながらゆっくりと宣言する。
「さぁ、あの時の続きをしようぜ――ランベルト・ヘルダー」
「……ッ!!」
奴が言葉を発した瞬間。
身の毛もよだつような魔力とケガレが奴の体から放たれた。
凄まじい量であり、その質も通常の悪魔とは比べようもないほどに高い。
ニンドゥの化け物も、スタンピードの全ての悪魔よりも――強い。
この特別な空間にあった全てのケガレよりも濃く。
何百万体も存在した悪魔たちよりも多量の魔力を有し。
今まで相対したどんな敵たちよりも――脅威に感じるほどだ。
全身が震える。
恐怖を感じていた。
生命の危機であり、この俺の頭に逃走の選択肢がちらつく。
奴は口を大きく歪めて目を細めながら俺を見つめていた。
この俺が、覚醒した状態の俺が――“死を感じ取っていた”。
真面ではない。今までの雑魚とは格が違う。
十手と呼ばれるものが何かは知らない。
が、確実にこいつはその中でも上位の存在だと直感で分かる。
危険だ。どんな悪魔や魔物よりも――こいつは人類にとっての敵だ。
俺はマントを翻す。
そうして、剣を構えながら俺自身も笑う。
汗がたらりと流れて嫌でも緊張が走った。
外見は変わっていない。
が、明らかに以前の奴よりも数段――いや、それ以上に成長していた。
俺自身が力を覚醒させたように。
奴自身も己の力を覚醒させたとでもいうのか。
俺はそんな事を考えながら、ジッと奴を見て――互いにぶつかり合う。
「「――ッ!!!」」
奴の拳が俺の剣に当たる。
互いに力が衝突しあい。
音が僅かに遅れて響き渡った。
衝撃波だけで地面は大きく抉れて、水は全て蒸発した。
ケガレに満ちた漆黒の魔力と黄金が混じった俺の力が激しく拮抗する。
互いに全力であり、一歩も退く事を許されない。
地面には大きな裂け目が出現し。
激しい稲光のようなものが周りに発生していた。
強大な力のぶつけ合いであり――奴の拳が動く。
「ウラァァ!!!!」
「……!?」
奴が叫ぶ。
瞬間、俺は奴の力で後方に飛ばされた。
奴はそのまま地を蹴り、一瞬で俺の背後に移動する。
俺はそんな奴の動きを予測し、剣を振る斬撃を飛ばした。
奴は驚きながらも、俺の斬撃を片手で受け止める。
が、完全に受け止め切れずに地面を滑り――奴はそれを砕く。
俺はそんな奴の背後に一瞬で移動。
そのまま剣と炎による攻撃を繰り出す。
奴の体は引き裂かれて、そのまま白い炎に燃やされて――奴が振り返る。
「――ッ!?」
「はははは!!! いてぇじゃねぇかよ!!」
奴はそのまま俺の肩を掴む。
俺はその腕を斬り飛ばそうとした。
が、それよりも速く奴が拳を連続で繰り出し、俺は吐血した。
「オラオラァ!!!! まだまだァ!!!」
奴はそのまま連続攻撃を俺の全身に見舞い。
そのまま最後の一撃によって俺を遥か彼方に飛ばした。
俺は地面に足をつけて滑り。
姿が見えないほどの速度で駆ける奴の動きを予測し斬撃を飛ばす。
千を超える斬撃。が、奴を捉える事は出来ない。
奴はその斬撃を全てギリギリで回避。
そのまま此方に接近し、拳を放って――“俺の残像が消えた”。
「へぇ!!」
俺は驚く奴の背後に回る。
そうして、そのまま奴の心臓に剣を突き刺した。
剣を回し、黄金が混ざった“透きるように透明な炎”を噴出させた。
奴は炎に焼かれて、俺は更に火力を高める。
このまま存在を消そうとし――奴が剣を掴む。
「足りねぇなッ!!! 足りねぇよッ!!! ヘルダーッ!!!」
「……!!」
奴は炎に焼かれながら、全身から漆黒の魔力を放つ。
それが俺の炎を浸蝕し。
奴のケガレと魔力が俺の剣を朽ちさせていった。
俺はすぐに剣から手を離す。
瞬間、剣は完全に侵食されて自壊していった。
奴は全身の火傷を回復し、心臓の穴すらもすぐに埋めてしまった。
口の端から流れる血を指で拭い。
そのまま奴は姿を消し――俺は短剣で攻撃を防ぐ。
頭上からの踵落としだ。
それを防げば、足が半ばまで埋まる。
奴はそのまま、体を回転させて俺を横から蹴りつけて来た。
防御はした。が、衝撃を逃せずそのまま吹き飛ぶ。
腕がじんじんと痛み激しく痺れていた。
地面スレスレを滑空しながら、俺は舌を鳴らす。
奴は動く。が、先ほどよりも速い。
影しか捉えられない。
静かに迫ってきているのを感じながら――俺は言葉を発した。
【――
「――ぁ?」
奴の体が空中で弾けた。
肉片が飛び散り、ごろごろと地面を転がる。
全身がバラバラになり、奴の頭がくるくると回って――“再生した”。
「ハッ!! また面白れぇ事を覚えたか!!! ヘルダー!!!」
「……うぜぇ」
傷はない、服すらも元通りだ。
奴は子供のように笑っている。
奴の存在を完全に消せない。
ダメージは与えられている。
が、奴そのものを消せない。
そう理解したからこそ、俺は剣を再び手に出現させてから。
地面に足をつけて止まり――分身を十体生み出す。
分身は一気に空を翔ける。
奴へと追いつけば、奴に対して攻撃を開始した。
奴は笑みを浮かべながら、分身たちを殺しに向かう。
敵はたった一体。
それで十体の俺を相手取り。
余裕の笑みで全ての攻撃を両手で弾いて――
「邪魔だァァァ!!!!!」
「「「――ッ!!!!」」」
奴が全身からケガレと魔力を放つ。
瞬間、全ての分身体がそれを浴びて。
一瞬にして浸食されて体をズクズクに溶かされた。
ぼちゃりと崩れ落ちた分身たちの残骸。
奴はそれを見る事無く俺へと迫って来た。
俺はそれを見ながら指を構えて――
【――――
「――お?」
奴はピタリとその場で停止する。
が、止まっているのはおよそ数秒だろう――が、十分だ。
俺は一瞬にして動く。
両手の剣を振るい――奴の後方を歩いていく。
静かに息を吐けば。
後方で激しく炎が燃えあがる音が聞こえていた。
振り返れば、奴の体は細切れにされて。
そのまま肉片が燃やされていた。
【――――
重ねるように更に力を使う。
瞬間、ジュダスの肉片は花になる。
綺麗な白い花が咲き乱れて、花弁が舞い――“黒ずんでいく”。
「……は?」
花が一気に黒く染まり。
その中からケガレが噴き出して――奴の姿を象った。
一瞬にして、花は枯れ。
ジュダスは肩を鳴らしてから自らの体の状態を確かめていた。
「あぁ、なるほどなぁ。これがお前の力かぁ……“理解できたぜぇ”」
「何を、言って」
俺は奴を見つめる。
すると、奴はにやりと笑って指を向けて――
【――――爆ぜろ――――】
「――ッ!!!?」
奴が発した言葉。
それを理解した瞬間に――俺の体が爆ぜた。
バラバラと肉片が舞い。
俺の頭は地面を転がる。
が、体はすぐに再生し。
俺は汗を流しながら、大きく開いた目で奴を見つめた。
奴は先ほどの力に対して笑みを消していた。
まるで、思っていたものと違うと言わんばかりで――
「あぁ、ダメだな。これは……“俺には合わねぇな”」
「……ふざけてやがるな……ジュダス。テメェ、本当に悪魔かよ。おい」
「あぁ? 悪魔だろうよ。人間喰らって、好きに暴れて……お前の敵だ。さぁ殺そうぜ! もっともっと殺し合いてぇだろ? お前はそういう奴だ!! 俺と同じ世界に生きる。生粋の戦士だ!! さぁさぁさぁ!! 俺を――殺して見せろよ!! ヘルダー!!」
奴は両手を広げて笑う。
その魔力は荒々しく。
消え去ったケガレがまたこの空間に満ちていく。
圧倒的なまでの理不尽で、殺戮を好む純粋な悪魔で。
どうしようもないほどに――生かしておけねぇ存在だった。
俺は剣を自らに――“刺す”。
激しい痛み。
それと共に、己が体に刃が流れ込んできた。
俺は魔力を全力で解放しながら――口を大きく歪ませる。
「いいぜ。やってやるよ。此処でお前を殺してやるよ――ジュダスッ!!!!!」
「ハハハハハ!!!! 最高だなァァァ!!!!!」
奴は笑った。
俺も笑った。
互いに笑い声が響き――衝突する。
拳がかち合い。
空間が大きく歪む。
俺たちはそのまま拳を固めて殴り合う。
一発一発が殺意に満ちて。
力のある存在であろうとも消し飛ばせるほどの威力を孕んでいる。
そんな攻撃が万を超えて繰り出されて。
互いの体に打ち込まれて、俺たちは血をだらだらと流す。
そうして、渾身の一撃を互いに放ち。
それが互いの頬へと深く刺されば、互いに後方へと吹き飛ばされる。
俺たちは一瞬にして、足で地面を蹴りつけた。
そうして、高く飛ぶ。
高速で空を移動しながら、互いにぶつかり合う。
拳同士が激しくぶつかり、空間そのものが悲鳴を上げていた。
それでも俺たちは戦いを止める事無く。
全ての魔力を攻撃に回して、互いに命を削った。
打って、打って、打って打って打って打って打て打て打て打て打打打打打打打打打打打打打打打打打打打打――打ち続けるッ!!
「オオオォォォォォォ――――ッ!!!!!!!!」
「ラアアアアァァァ――――ッ!!!!!!!!」
互いの叫び声が響き――ぶつかる。
一撃必殺の拳が衝突し。
空間内に嵐が発生した。
空間内が悲鳴を上げて、全ての残骸が消し飛び。
互いの光が、空間内に勢いよく広がる。
互いに血まみれだ。
再生が追いつかないほどに傷らだけだった。
「ハハハハハッ!!!!!」
「――――ッ!!!!」
ジュダスは血をだらだらと流して笑って拳を振るう。
俺も血反吐を吐きながら拳を固めて更に拳を打ち込む。
互いの攻撃が相手の頬を捉えて、互いに血と共に歯が数本吹き飛んだ。
互いに後方へと吹き飛ばされる。
そうして、そのまま地面に叩きつけられてごろごろと転がっていく。
強ぇ。死ぬほどに、絶望的に――――うざってぇほどになァァァ!!!
体の中が熱い。
熱せられた溶岩の中かと思うほどに。
苦しくはない、痛くもない。
気持ちが良く、己の体が更に軽くなっていく。
今この瞬間にも、己の力が増しているのが分かる。
数分前の自分を超えていっていた。
格段に相手を殺す為に成長し――が、奴も同じだ。
俺が成長すれば、奴も比例するように力が増す。
傷つきながらもその力は高まり洗練されて。
奴の攻撃の方が多く俺の体に刺さっていた。
成長スピードが桁違いだ。
その力に限界が感じられない。
正に、戦いの申し子であり。
奴そのものが戦の神と言われても信じてしまうだろう。
「――――ガァッ!!!」
俺は地面に足を突き刺す。
そうして、爆発的な加速で奴に接近する。
奴はぎょろりと目玉を動かし、蹴りを放ち――俺は避けた。
「……ッ!」
奴の背後に回り――奴の攻撃を回避。
意表を突くように、奴の傍に回る。
そうして、全力で俺は奴の腹に蹴りを叩き込む。
奴は血を吐き出して、上へと飛ばされた。
俺は奴を追いかける。
奴は逃れようとしたが、俺はすかさず術によって奴を強制的にその場に縛り付けた。
「しゃらくせェェェ!!!!」
「……!!!」
が、奴は自らの腕力だけで俺の拘束を突破した。
奴への攻撃が――外れる。
奴の姿を見失い――視界が揺れた。
頭が砕かれるほどの衝撃。
それを認識した頃には、地面に叩きつけられていた。
全身の骨が砕けて、大きく吐血し、再び地面に巨大なクレーターが出来上がった。
「がはぁ!?」
「――ガアアァァッ!!!!!」
奴は獣のように叫ぶ。
そうして、ケガレと魔力に満ちた拳を振り下ろした。
それが俺の腹に命中し、耐えられずに腹に風穴が出来た。
奴はそのまま馬乗りになり、連続して攻撃を放ってくる。
千を超え、万を超えて。
体中に穴が空き、血や肉や骨が飛び散る。
意識が飛びそうになり――ぶちりと何かが切れた。
【――――ッ!!!!!!】
「うぉあ!!?」
怒りのままに叫ぶ。
瞬間、ジュダスの体は遥か頭上に飛ばされた。
俺は黄金が増した炎を噴き上がらせて傷を即座に再生し、血走った目で奴の姿を捉えて――魔力弾を放つ。
否、弾ではない。
光の線であり、奴はそれを両手で受け止める。
奴の体は更に高く上がる。
そうして、限界に到達し体が押しつぶされて行く。
奴は必死に俺の魔力を浸蝕しようしていた。
が、それよりも速くに力は流れていき――奴のケガレが噴き出す。
「ガァァ――――ッ!!!!!」
奴が叫んだ。
瞬間、奴は空間に大きな亀裂が走るほどに跳躍した。
真っすぐに魔力の線を突き抜けて――奴の拳が俺の顔面を殴る。
俺は血を噴き出しながら転がっていった。
奴はそのまま高く飛び。
拳にケガレと魔力を纏わせて――放つ。
「――ウガァァ!!!?」
「ブッ潰れろッ!!!!!」
巨大な隕石。
それと同じほどの質量の黒き塊が光よりも早く押し寄せて来た。
俺はなすすべなくそれに潰される。
全身にケガレが回っていき、体を浸蝕しようとしていた。
痛い、苦しい、辛い、吐きそうだ――が、関係ない。
俺は歯を食いしばる。
そうして、限界を更に超えて――力を放出させた。
黄金が噴き上がる。
それらが俺に力を与えた。
俺は浸食を跳ね除けて、そのまま奴のケガレと魔力を抱える。
ゆっくりと起き上がりながら、俺はそれを両手で掴み――
「ガアアアァァァァ――――――ッ!!!!!!!!!!」
「マジかァ!!!!」
俺はそれを己が体に――取り込む。
致死量だ。
ケガレを含んだそれは猛毒で。
が、俺はそれを体内に取り込み――己が力に変える。
髪が更に伸びて。
心の中から破壊衝動と殺意が溢れていく。
ジュダスの魔力が俺の心に影響を与える。
俺は口を大きく歪めながら――地を蹴る。
「――アガァ!!!?」
【――――ッ!!!!!!】
殺意のままに翔ける。
言葉とも思えない何かを吐けば。
体に変化が表れて、より攻撃に適したものへと変わっていく。
骨格が変化し、獣のようになり。
手足が強化し、鋭利な刃物のようになる。
視界が変わり、全てのものを知覚できるようになった。
変わる。変わっていき――進化する。
ジュダスは弾き飛ばされて。
俺は光を超えた速度で駆けて奴を攻撃していく。
残像を超えて、音を置き去りにし。
光を超えて空を翔けて。
ジュダスという敵を攻撃し、あらゆる方向へと飛ばし続けた。
まるで、空一面が黄金で満ちたかのように軌跡が残り。
俺は喜びに満ちた声で――強く叫んでいた。
――骨を折る感触が心地よく。
――肉を穿つ瞬間が堪らなく。
――血を吐く敵は美しく。
――戦いそのもが素敵に感じた。
俺は笑う――笑って、笑って、笑った。
そのまま暴力の限りを尽くす。
心が躍る感触に喜び、奴の頭を力任せに破壊しようとして――腕を掴まれた。
「……ッ!!?」
「楽しいだろぉ? じゃ――俺の番だなァァ!!!」
奴は俺の腕を砕く。
そうして、そのまま頭突きを浴びせて来た。
視界が激しく点滅し。
俺は空中から地面に激突し、そのまま地面を滑っていく。
一瞬にして体勢を戻して地面を駆けて――横腹を打たれた。
そのまま横に飛ばされて。
奴の接近を感知し、後方に魔力弾を飛ばす。
が、そこには誰もおらず――頭が揺れた。
横からの強い衝撃。
頭が激しく揺さぶられて、気が付けば頭だけが飛んでいて。
すぐに再生するが、一瞬にしてまた体をバラバラにされる。
見れば、ジュダスが手刀を作っており――視界がズレた。
理解した。
一瞬にして頭を両断された。
奴はそのまま俺を手刀で俺の頭を消し飛ばし――俺は無から再生する。
「ハハッ!!! 愛してるぜェェェェ――ッ!!!!!」
「――――ッ!!!!!!」
振り返ったジュダス。
奴は声を上げて笑っていた。
俺は獣のように叫ぶ。
より強く、より戦闘に特化し。
ジュダスを殺せる存在へと――“進化しろ”。
バキバキと全身から音が鳴る。
俺の体はより攻撃的なフォルムとなり。
ジュダスも空を翔けながら、己が体を悪魔のものへと変えていく。
羽は無い。
服そのものが肌に浸透し、全身が赤黒く染まっていく。
眼球はドロドロに溶けて、空いた眼窩からはケガレが噴き出していた。
口は大きく裂けて、鋭利な歯がむき出しとなる。
後頭部から首に掛けて、二つの角が伸びていた。
傷だらけの体であり、それがまるで文様のようになっていた。
手足はまるで龍の如く鱗が生えており、足には三本の指と後ろに一本の指がある。
無駄が無い。
洗練された戦いの為の体だ。
俺はそんな奴の姿を視界に収めながら――空を翔ける。
【【――――――ッ!!!!!!!!!】】
互いに叫ぶ。
そうして、一秒にも満たない時間でぶつかり合う。
万を超えるほどの衝突。
力を解放し、暴力のままに翔ける。
一瞬の衝突だけで、星そのもが消し飛ぶほどの力が生まれる。
それを繰り返す事で、空間そのものの亀裂が更に深刻なものになる。
が、俺はそれを無視して叫ぶ。
【――――ッ!!!!!!】
【――――もっとだァァァァァ!!!!!!!】
殺す、殺す、殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺――――――――…………………………
…………………………――――――――――ぁ?
「……」
「……?」
俺は何もせず――ただ立っていた。
俺はゆっくりと前を見る。
すると、全身から血を噴き出しながらも立っている状態のジュダスがいる。
蒸気を発すれば、その体は人間体へと戻って行っていた。
何故、どうして……………………“理解した”。
俺もゆっくりと力を解く。
体が人間の状態に戻っていき、少しだけけだるさを感じた。
奴を見る。すると、人間体に戻った奴は手を動かして何かを要求してくる……はぁ。
俺は異空間から煙草の箱を出す。
面倒だからと箱ごと奴に投げれば。
奴はそれを受け取って、一本出してから指で火をつけてゆっくりと吸っていた。
「……はぁぁ……やっぱ、わっかんねぇな。こんなのが、お前、好きって言うのかよ。えぇ?」
「……テメェには一生かけても分からねぇだろうよ。クソ悪魔」
奴は箱から一本出して俺に投げ返してきた。
俺はそれに魔術で火をつけて味わう様に吸う……うめぇ。
殺し合いをしていた。
命を懸けた戦いだった……“だが、潮時だ”。
空間内が崩壊している。
当然だ。アレほどの力がぶつかっていたんだ。
逆に良く耐えた方で……俺はジュダスに声を掛ける。
「良いのか。此処で、決着をつけなくて」
「……中途半端な戦いほど、俺が嫌うものはねぇ。やるからには全力だろう……それに、“俺の仕事”はこれで終いだ……待ってろよ。テメェとこの俺に相応しい舞台を必ず用意してやる。それまで、テメェの命は――“見逃してやるよ”」
「ほざいてろ。クソ悪魔……テメェは必ず、この俺が祓ってやるよ」
「はは、そうだろうよ。テメェ以外に、俺を殺せる奴はいねぇ……楽しみにしてるぜ。
奴はそう言って、煙草の箱を異空間に仕舞う。
そうして、別れも告げずに歩き去り。
その姿はケガレとなって消えていった。
「……」
俺は煙草を吸いながら周りを見る……変わった奴だ。
空間内のケガレは奴が消えた事で完全に無くなった。
これで空間が崩壊しても、外への影響は無いだろう。
俺は意識を集中し、外に出ようとした。
すると、俺の意識はゆっくりと歪んでいき――――…………
…………――――意識が覚醒する。
「「「……え?」」」
「……」
周りに祓魔師がいた。
奴らは突然、現れた俺に困惑していた。
足元に目をやれば、灰のようなものが小さく積もっていた。
それはあの箱の残骸であり……急ごう。
多くの人間が動いている中で。
声を掛けて来た人間たちを押しのけて俺は走る。
俺は驚く奴らを無視して跳躍し、そのまま空を飛んでいった。
かなりの力を使い、疲労感などを感じている。
万全の力は出せないが、そんな事に構っている暇はない。
『主様。お急ぎを――危険が迫っています』
「……」
鳩野郎の警告に静かに頷く。
そうして、無言で飛行の速度を速めた。
妙な胸騒ぎは俺も感じている。
その中でも、俺は生徒である――ハリ・カブラギの身を案じていた。