空から降りる。
星空を塗りつぶすほどの黒煙が立ち昇り。
全てが真っ赤に映っていた。
「……」
燃えている。
全てが燃えて、灰になっていく。
轟々と音を立てながら――“研究所が燃えていた”。
カブラキ製薬研究所の建物が燃えている。
近くには心臓を刃物で貫かれた死体が転がり。
警備員たちも息絶えて転がっていた。
「……」
俺は死体に手を触れた。
まだ時間が経っていないのであれば蘇らせられると考えて……ダメだ。
治癒の術は発動した。
が、体が全く再生しない。
時間が経過したからか……少し違う。
何かしらの力が働いている。
治癒を阻害する何かであり。
死体の中でどす黒い何かが蠢いていると感じた。
俺は立ちあがる。
心の中で何もしてやれない事を遺体に謝った。
移動する。
燃え盛る建物を横目に歩いていった。
表の建物がこれであれば、地下の施設はどうなっているか……やっぱりだ。
カモフラージュをしていた木は破壊されていた。
半ばから破壊されて、無理矢理にエレベーターが出ていた。
既に機能は死んでおり、壁からむき出しになった配線から火花が散っていた。
下へと通じるエレベーターは完全に破壊されている。
俺はそれの中に入り、床を破壊して下へと降りる。
降りて、降りて、降りて――止まる。
半壊した扉。
両手を隙間に差し込んで、それを変形させて中へと入り……あぁ、まただ。
近くに転がる――“死体”。
死体だ。死体、死体、死体で……全員、死んでいる。
残っていたであろう研究員の死体たち。
恐怖に染まった表情で、真っすぐに手を伸ばして息絶えていた。
そのどれもが心臓を鋭利な刃物で貫かれている……いや、違う。
銃弾のようなもので殺されている死体もある。
壁には弾痕があり、蜂の巣にされた死体が惨たらしく転がっていた。
辺り一面が血の海であり、むせ返るような血と硝煙の臭いが広がっていた。
足を動かして進んでいけば、警備員たちの死体もあった。
抵抗したのだろう。
バリケードを築いた跡もあったが、破壊されていた。
手足が斬り飛ばされて、苦悶の表情で息絶えている。
知っている、会った事がある。
話をした職員もいて、この街の事を教えてくれた人間もいた。
その全てが殺されていて、その全てが死に絶えて……。
「……」
諦めていない。
まだ生き返らせる事は出来る筈だ。
が、今はそれよりも優先すべき事がある。
『……主様』
『……分かってる……急ごう』
鳩野郎の言葉で足を動かす。
俺は死体の山から目を背けて、静かに歩いていく。
怒りは無い。悲しみも無い。
ただひたすらに――空しかった。
「……」
警報機の音が鳴り響き。
非常事態を知らせるランプが赤く点灯していた。
室内は熱く、煙が立ち込めていた。
残っていればこんな事にはならなかった。
去らなければ対処が出来ていた。
そんな言い訳は意味がない。
此処に残れば、街は深刻な被害を被っていた。
何方かを取ったからこその結果だった……だからこそ、空しい。
足を進めて行けば、目の前に何かが飛び出す。
「撃てッ!!!」
飛び出したのは完全防備の兵士だ。
黒尽くめの装備に、ガスマスクのようなものつけている。
十人の兵士がライフルを構えて銃を乱射する。
俺は防御する事無く、全身で銃弾を受け止めた。
バラバラと弾丸が飛び、血潮が舞っていた。
全ての銃弾に貫かれて、俺はゆっくりと後ろに倒れる。
開き切った目で天井を静かに見つめる。
すると、無言で一人の兵士が近づいて来る。
ライフルを構えて攻撃を仕掛けようとし――背後に立つ。
「――ぇ?」
「……」
首が百八十度回転していた。
若そうな声の兵士はそのまま絶命する。
他の奴らが仲間の死を認識し攻撃を仕掛けて来る。
俺はそれを一瞬で避けて、すれ違いざまに奴らの首を折る。
全員が奇妙な動きをしながら銃を乱射し、そのまま倒れた。
ぴくぴくと痙攣しており、俺はそれを静かに見つめた。
「……」
悪魔じゃない……人間だ。
人であり、化け物じゃない。
殺した時の感触と動きからしてすぐに分かった。
ゆっくりと屈んで、兵士のマスクを取る。
すると、若い男の顔であり……違う。
犯罪者ではない。
リストには載っていなかった。
リストから逃れた人間でもない。
「……」
こいつらは確実に此処で多くの人間を殺した。
罪がない訳ではない。
――が、法の裁きも受けていない人間を俺は殺した。
あの時に殺したクズとは違う。
裁きから逃れて、のうのうと生きるカスではない。
法の裁きを受ける機会があった人間を俺は手に掛けた。
その事実を認識しながら、俺は片手で兵士の目を閉じさせる。
体から出た銃弾を指で摘まみ、観察する。
見かけはただの鉛弾だが、明らかに中に込めているものが違う。
魔力……いや、これは“呪い”だ。
先ほどの死体でも感じた呪いで。
治癒や蘇生を阻害するものであり。
ダメージを負った俺自身の傷の治りが今までよりも遅い事に気づく。
何の為にこんなものを用意したのか……分かるよ。
俺だ。
俺がいる事を知って、こんなものを用意した。
俺自身に有効なダメージを与える為――違う。
俺が職員たちの蘇生に時間を掛ける事で、時間を稼ぐ為だ。
「……っ」
歯を強く噛む。
弾を握りしめてバラバラに砕いた。
腐っている。何処までも計算高く、人の心を踏みにじっていた。
怒りはすぐに静まる。
ゆっくりと立ち上がってから、俺は先に進んでいった。
歩いていた足は速くなり。
気づけば走っていた。
進めば、進むほどに血の臭いが濃厚になっていく。
死体は増して、争いの痕跡も広がっていく。
壁や床には銃弾の跡や燃えた跡があり。
研究していたものは破壊されて、スプリンクラーが起動した痕跡がある。
「――! 止まれ!!」
「……」
扉の中から兵士が出て来た。
奴らが攻撃をする前に――殺す。
すれ違いざまに手刀で首を斬り付けた。
鮮血が噴き出して、死体たちは銃を乱射する。
騒ぎを聞きつけて別の部屋からも兵士が出て来る。
それらへと近づき、手刀で首を叩き折る。
短い悲鳴と銃弾の音。
錯乱した兵士が手榴弾のピンを投げて。
それを足で蹴り返し、そのまま奪った銃で敵の足を撃ち抜く。
そうして、部屋から飛び出せば爆発が起こり。
部屋から炎と煙が噴き出した。
中の奴らは爆散し、通路の奥から残りの兵士が出て来る。
俺は銃を構えて走る。
ライフルの弾丸が視界を埋め尽くし。
それらを魔力のみで弾いていく。
火花が散り、兵士たちが驚き目を丸くし――銃弾を放つ。
「ぅ!?」
兵士の一人のマスクに命中。
兵士は驚き取り乱していた。
統率に乱れが発生し、その混乱を利用して敵の一人に接近し足を折る。
ライフルを強引に奪って、他の兵士に乱射する。
奴らは銃弾を至近距離から受けて溜まらずに転がる。
防弾装備であろうとも、銃弾を受ければ痛みは生まれる。
兵士の首を折り、装備していたナイフを奪って転がる敵に近づく。
奴らは俺に攻撃を仕掛けるが、全てをナイフで弾く。
そうして、一瞬にして奴らの手足の腱を切断する。
「「「ぅあ!?」」」
「……」
これで抵抗は出来ない。
俺は一人の男の前に屈み、そいつのマスクを強引に剥がす。
そうして、髪を乱暴に掴んで顔を近づかせる。
俺は目を大きく開きながら、魔術による声で質問した。
「お前たちは誰だ。目的はなんだ。言え」
「……言わ、ない!! 我々は、決して、情報はッ!!」
「……!」
敵が大きく歯を噛み慣らす。
瞬間、かちりと小さく音が聞こえた。
俺は敵から一気に距離を取り――爆ぜた。
敵の体が破裂し。
爆炎が広がっていく。
俺は魔力を体に纏わせてそれを防ぐ。
ゆっくりと炎の勢いが収まっていく。
視線を向ければ、全ての敵がバラバラになっていた。
通路は瓦礫で塞がれて……関係ない。
俺は瓦礫に手を翳し――破壊する。
強力な炎の塊によって瓦礫を焼き尽くす。
道が開けて、俺は足を前へと動かした。
兵士の気配はもう無い。
アレが最後であり、通路や部屋の中には死体しかない。
俺はそれらを横目に見ながら走る。
走って、走って、走って――走った。
あの場所を目指す。
天使たちがいたあの場所へ。
胸騒ぎはずっとしていた。
此処へ到着したと同時に、結界のようなもので閉ざされていた空間が解放されて。
俺の分身が消えた事を察知して……クソが。
死体を超えて行けば、破壊された壁が見える。
全てのセキュリティが突破されていた。
俺は進む。
心臓の鼓動が早くなっていくのを感じながら走っていった。
走って、走って、走って走って走って走って走って…………。
「……」
ゆっくりと足を止める。
最後の扉も破壊されていた。
中へと入れば、明かりは消えていたが。
機材から出る火が、周りを照らしていた。
炎が燃え盛り、薄く煙が広がり。
死体が転がる中で…………“彼女は、いた”。
「……やはり、来たのですね……“ランベルトさん”」
「……何、してるんだよ……“アルメリア”」
ゆっくりと彼女が振り返る。
腰まで伸ばしたプラチナブロンドの髪。
切れ長の瞳は海のように澄んだ色をしていた。
端正な顔立ちで、絵に描いたような真面目さで。
弱き人を救い、悪を憎む。誰よりも優しく、誰よりも正しく生きていた女性――アルメリア・シリングスだ。
西洋剣を模した聖刃。
彼女が愛用していたそれからは赤い血が垂れていた。
全てのポッドの天使たちは死亡し、最期の一体も殺されたと感じた……いや、違う。
殺されてはいる。
が、その死体の状態は完全に異常であった。
綺麗だった彼女たちはズクズクに溶けて。
骨すらも腐敗し、液体となってポッドから垂れていた。
アルメリアを見る。
すると、妙な事に気づく……“若い”。
若干ではあるが、彼女の肉体が若返っているように感じた。
以前とは比べ物にならない魔力量に。
その体の筋肉質も向上し、ケーニヒであった時とはまるで違うと感じた。
その体からは白い炎が漏れ出しており……“近づいている”。
俺が発していた炎に近づいている。
いや、もう至っているのかもしれない。
模倣し生まれた偽物では無い……まさか。
「……力を、奪ったのか?」
「……流石ですね……えぇ奪いました。天使の力を。この私が……後悔などしていませんよ。これが私の選択です……カブラギは、今の私にとっては消すべき対象……此処を潰さない限り、混沌は広がってしまうから」
「……何を言っている。混沌だと……俺には、お前がしている事こそが、混沌に見えるぜ」
「そうですね。貴方はその場所にしかいられない。希望であるからこそ……だからこそ、この施設の歪さにも気が付かなかった」
「……!!」
アルメリアは剣についた血を払う。
瞬間、彼女の体から膨大な魔力が噴き出す。
その体は白い炎に包まれて、彼女は今此処で俺とやり合うつもりだった。
俺は視線を死体に向ける……最悪だ。
そこには顔なじみがいる。
研究員ではない。
俺の教え子である“ハリ・カブラギ”と“タクミ・カブラギ”が――“殺されている”。
他にもいた。
戦闘服を着こんだ人間たちで。
そいつらは体を切り刻まれてバラバラにされていた。
戦闘の跡は少なく、勝負は一瞬で決したと思えた……マジなのか。
アルメリア・シリングスが全ての敵を屠った。
カブラギの精鋭も、俺の分身も全て――“たった一人”で。
信じがたい事実。
だが、カブラギたちが死んでいるのは事実だ。
心臓を貫かれたのだろう。
口から血を流し、重ね合うように死んでいた。
どれくらいの時間が経っているのかは分からない。
もしも、時間が経過しているのであれば――武器を取り出す。
「……!」
「……」
互いの武器がかち合う。
アルメリアは炎を噴出させて俺を焼こうとした。
彼女の炎は強力であり、想像を絶する痛みが俺を襲う。
魔力によるものではない。
完全に天使の力による炎で――俺は彼女を弾き飛ばす。
彼女は回転しながら後方に下がる。
俺は呼吸を乱しながら己の傷を癒そうとした……あぁ?
傷が――“癒えない”。
いや、厳密に言うのなら治りが極端に遅い。
自己再生も機能せず、治癒の魔術も効果が薄い……呪いだと、そんな馬鹿な……っ!
俺はアルメリアを見る。
すると、奴は目を細めて笑っていた。
「……それが今の私の力です……“悪魔の血”と“天使の血”。二つの血が混ざりあい……私は貴方の想像を超えた」
「悪魔の血、だと……お前、それはッ!!」
俺は奴を睨む。
自分で何をしでかしたのか理解しているのか。
俺はそういうつもりで問いただした。
奴は悲しそうに微笑み、静かに頷く。
「……理解しています。私に起こる事も……ですが、私にはやらなければならない事がある……今の貴方には理解できないでしょう。それをして欲しいとも思いません……さぁ此処で私を殺しますか?」
アルメリアは両手を広げる。
俺は傷の治療を止めて奴を見つめる。
「……まだ、やり直せる。罪を償え。そして、帰ろう……お前がいる場所は、そこじゃねぇだろう」
「……貴方は優しい。悪魔に対しては砂粒ほどの慈悲もありませんが。人間に対しては何処までも慈悲深い……貴方の提案は飲めません。私は私の道を進みます。例え、世界で一番尊敬している貴方が敵となったとしても」
「……本気か。俺は、お前を殺したくない……世界何て、関係ない。俺は、お前が必要だ……お前がいれば、より多くの人間たちを、救えるんだ。だから」
彼女は静かに首を左右に振る……ダメ、か。
彼女の意志は固い。
考えを改める気は無いようだった。
説得は不可能であり、何をしても彼女は悪魔たちのもとへ行ってしまう。
俺は静かに息を吐く。
残念だ。すごく残念であり、死ぬほど悲しい――“でも、仕方がない”。
「……!」
「――」
俺は一瞬にして――アルメリアに攻撃を仕掛ける。
彼女は剣を振るって俺の攻撃を止めた。
俺は彼女に視線を向けながら、確実に殺す気で戦いを挑む。
「……やはり、貴方は変わらない」
「……」
最早、言葉など不要。
俺たちの道は分かたれて、彼女の心は敵のものとなった。
考えを改めず、多くの人間を殺すのであれば――敵だ。
俺は枷を解く。
彼女と同じように白い炎を吹かせた。
以前の不安定な力ではない。
完全に制御下に置いた状態で使用し――床を蹴る。
一気に彼女の周りを残像で囲む。
そうして、剣による連続攻撃を仕掛けた。
彼女はそれを全て刃で弾き、目にも留まらぬ刺突で俺の体を貫き――それは霞のように消えた。
彼女の背後に迫り。
俺は刺突の姿勢で刃を彼女の心臓に向ける。
そうして、彼女の無防備な背中から刃を突き刺した。
彼女は血を吐き出し、ゆっくりと振り返って――笑う。
「……!」
気配を感じた瞬間――全身を貫かれる。
アルメリア・シリングスが何人もいる。
全てが剣を持ち、俺の体を串刺しにした。
彼女たちは剣を回して白き炎を放出し、俺は全身を激しく焼かれた。
絶叫する事も無く。
激しい痛みの中で足掻いて――笑う。
「「「……!!」」」
全身から炎を噴出させる。
それらが彼女の炎を飲み込む。
分身たちは一気に焼かれて消え。
俺は離れた場所に立つ本体へと飛び掛かる。
彼女は目を細めながら剣を構えて、俺の斬撃を受け止めて――弾かれる。
壁を破壊し、突き進む。
彼女の勢いは止まることなく。
地下研究所の壁を何十にも破っていった。
彼女は壁に深々と埋まっていた。
俺はそんな彼女を追い掛けて、更に刺突で攻撃する。
彼女は腹を貫かれて血を吐く。
今度は本体であり、俺は一気に彼女の体を焼く。
「――――ッ!!!」
彼女は叫ぶ。
痛みによって勝手に声が出ていた。
そんな彼女を静かに見つめて――彼女の体からケガレが吐き出された。
それが炎を浸蝕し。
俺は彼女から離れた。
アルメリアはゆらゆらと立ち上がり。
俺が持っていた剣を腐らせて破壊する。
口からだらだらと血を吐き出しながら彼女は薄く笑う。
その腹の傷はケガレによって塞がれた。
彼女はケガレを体に戻し、片手で出した白い炎で埋められたケガレを焼く。
二つの力が混ざり合い、彼女の体には奇妙な文様が浮かび上がる。
血管のように赤く脈動し、傷口を中心に広がっていく。
元は綺麗であった白い肌は、一部が黒ずんでいた。
悪魔の血と天使の血。
その二つは強力だ……しかし、肉体への負荷は想像を絶する。
一つでも命の危機があるものを。
二つも入れているともなれば、寿命が一気に削っていくようなものだ。
そんな中でも意識を保ち、使いこなせているのはアルメリアだからだ。
彼女は脂汗を掻きながら、乱暴に血を拭って笑っていた。
「貴方が相手であれば、使う他ないですね」
「……」
奴は剣を構える。
いや、構えではない。
ただ脱力し、剣を下に下げているだけだ。
が、その姿勢を俺は構えであると認識した。
何かをする気だ。
俺はそう悟り、一瞬にして奴に近づき首を撥ねようとし――――
「――“
「………………ぁ?」
鈴の鳴る音がした。
その瞬間に、体から力が抜けた……いや、違う。
体の感覚が消えて、ゆっくりと視線が下がっていく。
頭が勝手に動き、床に転がった。
動きが止まり、視線の先ではアルメリアが剣を鞘に仕舞っていて……あぁ、そうか。
「お前、その体に……“刻印”が出来たのか」
「……えぇ、二つの力によって生まれたもの。誰にも宿す事の出来ない刻印です……貴方であれば、もしかすれば……ごほぉ!」
アルメリアは吐血する。
先ほどの術は相当な負荷が掛かるのだろう。
が、たった一回で俺は致命傷を負わされた。
傷も再生しない事から、俺を殺す気であれば今しかない。
アルメリアは俺に視線を向ける。
そうして、小さく笑った。
「……カブラギは天使を蘇らせた……ですが、それは人類の幸福の為ではない……カブラギの本当の目的は、天使を使って……一部の人間たちの“楽園を築く事”です……悪魔でもない、天使でもない……私のような存在を生み出し、悪魔も人間も、全てを支配する……“
「……カブラギが……そんな馬鹿な事が……カブラギが、そんな事を」
あり得ない、不可能だ……断言が出来ない。
タクミ・カブラギには親としての情が確かにあった。
が、あの時に彼が俺に話した言葉を覚えている。
『私は、この世界の真実が知りたい。そして、叶うのならばこの手で――神を生み出したい』
もしも、あの言葉が嘘偽りのない真実ならば……ふざけてやがる。
「……カブラギッ!」
俺は歯を食いしばる。
怒りや失望。それらが混じり合っている。
アルメリアは何も言わない。
彼女はすぐに俺の考えを見破ったのだろう。
今の言葉は、奴の言葉を信用してでたものではない――“疑念”だ。
もしも、神を作り出そうとしていたのなら。
何故、そんな重要な事を俺にタクミは教えたのか。
恐らく、タクミの願いは本物だ。
その願いが、対魔局の人間たちによって“何らかの細工”が施されている。
認識の操作、記憶の塗り替え。
考えれば何でもあるが……何かがあるのは確かだ。
対魔局は一枚岩ではない。
カブラギに関しても俺はまだ知らない事が多い。
そんな中で、アルメリアの言葉を聞いて……知りたくなったよ。
「……アルメリア、俺はお前の言葉を信用しない……俺はお前を――“諦めない”」
自分の言葉に驚く。
勝手に出た言葉だが、諦めないか……それはどういう意味なのか。
アルメリアは微笑む。
そうして、背中を向けて来た。
「……彼らを、対魔局を信用しないでください……彼らの願いは平和ではない。その対極のものです」
「……悪魔に、騙されている可能性も、あるがな」
「……そうかもしれません。ですが、私は自分で考えて答えを出した……貴方が力ある存在であるのなら、貴方にも選択する術はある……さようなら、ランベルト・ヘルダー……次に会う時に、貴方が真の英雄である事を」
「……クソが」
アルメリアは去っていく。
彼女の体はケガレに包まれて。
その姿は完全に消えてなくなる。
俺は歯を食いしばる。
見す見す逃がし、頭を悩ませる事を吐き捨てて……俺は口を動かす。
【――――“Heil werden《治れ》”――――】
力を使った。
すると、体に纏わりついていた呪いが一気に祓われる。
体は再生し、俺はすぐに服を着て……っ!!
その場に膝をつく。
口元を抑えてせき込めば……血がついていた。
「……やべぇな。おい」
『その力は何度も使用できるものではありません。少なくとも今の貴方様では、多用は出来ないでしょう……努々その事をお忘れなきように』
俺は鳩野郎の言葉に頷き。
ゆっくりと動き出す。
カブラギたちの死体に近づき、分析を開始して……クソ。
やはり、強力な呪いが施されていた。
治癒は上手く機能しないだろう。
他の死体たちもそうであり……懸けるしかねぇな。
俺はカブラギ親子を並べる。
彼女たちの開いた胸に手を置いてゆっくりと目を閉じた。
大丈夫だ。
まだ一回なら何とかなる。
他が救えなくとも、こいつらだけは絶対に。
俺はゆっくりと言葉を発する。
瞬間、俺の掌から黄金が混じった透明な炎が噴き出す。
それらがカブラギ親子の体を包み込んでいった。
「……!!」
全身に激痛が走る。
溜まらず口から血を吐き出した。
が、それでも意識を保って蘇生に専念する。
大丈夫だ。問題ねぇ。
約束したんだ。
絶対に死なせねぇって。
どんなにクソ野郎な自分でも、教え子の約束だけは守ってやる。だから――
「帰って、来い。タクミ――ハリッ!!」
炎の勢いが増す。
二人の体の中に浸透していった。
朦朧とする意識の中でそれを見つめながら、俺は――――