【完結】祓魔師《エクソシスト》は休みたい   作:オタリオン

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108:月の上には祓魔師たちと天使長

 本から本へ移動をしていく――不思議だな。

 

 妙な感覚であったが、段々と慣れて来た。

 ページに包まれて目を開ければ、別の空間にいて。

 最初の空間は嫌にメルヘンな空間だった。

 

 遊園地の中のようだと言えばいいのか。

 人形たちが踊り、デフォルメされた馬などが走り。

 花びらのような何かが舞っていて、ラッパの音が響き甘ったるい匂いが充満していた。

 

 甘い匂いに頭をくらくらさせながらも、サムたちについていく。

 奥へと進んでいけば、派手な色の時計台の下にまたしても本棚が設置されていた。

 そこでサムは一冊の童話を取り出して、また別の鍵を差し込んだ。

 ページが噴き出し包まれて――次にはビーチのような場所に出た。

 

 異界化に似ている。

 やはり、天使も似たような力があるのかと思ったが。

 この異界化は明らかに複数の空間を同時に出現させて維持させているように感じた。

 異界化を行うにしても魔力が必要であり。

 その量はかなりのものだと俺は今までの戦いで分析していた。

 だからこそ、異界化を使えるのは最上級以上の個体で。

 それ以下では出現させる事も出来なければ、短時間であっても維持が出来ない。

 魔力の操作に長けた存在がいれば話は別だが。

 それでも、これほどに広い空間を複数も展開して維持し続けているともなれば……天使長は想像以上に強いかもしれない。

 

 そんな事を考えながら、ビーチを歩いていく。

 砂を踏みしめて歩き、パラソルが刺さっているだけの場所を歩いていく。

 すると、またしてもこの場には不釣り合いの本棚が設置されていた。

 

「……」

 

 足を止めて見れば、本の種類はやはりバラバラだった。

 漫画まで置かれており、これには何の意味があるのかと思ってしまう。

 

 俺の疑問をよそに、サムは慣れた手つきで本を一冊取り出した。

 次に彼が取ったのは本は本でも、世界の風景画を記録したものだった。

 説明はなく、ただ誰が描いたかも分からない風景画がびっしりとある。

 また表紙に鍵を刺すのかと思えば、彼はページをパラパラと捲る。

 

「……あった……これで最後です。驚きますよ? 私は驚きましたから。はは」

「……?」

 

 彼は鍵を翳す。

 それはやけに錆びが目立つ鍵であった。

 捲られたページには風景というよりも、月が中心に添えられた絵で。

 それが何なのかと見ていれば、鍵穴が出現し彼はまたしても差し込んで――――…………

 

 

 

 …………――――ん?

 

 ゆっくりと目を開ける。

 眠っていたのか、頭が少しぼんやりとしていた。

 目を瞬かせながら、伊達眼鏡越しに周りを見れば……は?

 

 

 ――“周りは暗い”。

 

 ――“闇のような暗さで、安らぎからは程遠い”。

 

 ――“音は無く、無音であり。この世とは思えない別世界に感じた”。

 

 ――“完全なる暗闇ではない。目の前で浮かぶ《巨大な青い半球》が光源として存在していた”。

 

 

「……」

 

 

 喉に手を当てる……呼吸は出来ていた。

 

 今まで踏みしめていた大地ではない。

 灰色のようであり、砂なのかも怪しい感触だった。

 いや、感触というよりは……“体が軽い”。

 

 上に飛べば、軽い力で建物を超えてしまうほどに飛べると感じる。

 それほどまでに体が軽く感じるが。

 これは重力的な問題であり、この空間とそれが結びついているのが分かった。

 

 

 目の前で半分だけ見えているのは“地球”だ。

 そして、俺の認識が正しいのであれば……此処は“月の上”だ。

 

 

 呼吸を出来ているのは、此処が本当の月の上ではないからで。

 あくまでも天使が作り出した偽りの空間でしかないからだろう。

 いや、本当に月の上である可能性もある。

 それほどまでに高度な作りの空間で。

 俺自身も自身の目を疑いたくなるほどには精巧だった……本当に作ったのか、これを?

 

 俺が少し困惑していれば、隣に立つサムが笑った。

 

「はは、やはり驚きますよね。我々も最初は驚いて固まってしまいました。ムサイの奴なんて慌てて息を止めていましたよ?」

「「「ふふ」」」

《……彼は純粋すぎますが……いえ、無理もありませんね。これほどの出来ならば》

 

 俺はそんな事を言いながら、目的の場所への案内を頼もうとして――

 

 

 

『――その必要ありませんよ。さぁ、此方へ』

「……!」

 

 

 

 脳内に直接響く声。

 次の瞬間には体が強制的に動かされた。

 まるで、体に括り付けた紐を勢いよく引っ張るように体が進み――止まる。

 

 光になったかのような速さで動いていた。

 が、体に痛みは無い。

 その上に寸分の狂いも無く、目的の場所にピタリと止まった。

 目の前には使い古された木のデスクとそこに座るモノクルをつけた――“男性”。

 

 

「ごきげんよう――“忘却の王”よ」

「……」

 

 

 男はぱたりと本を閉じる。

 そうして、椅子から腰を上げて、さわやかな笑みを浮かべて優雅に一礼した。

 

 若い――青年と思えるような声と背格好。

 

 身長は百八十ほどで、背中まで伸びた金髪はさらさらと美しく。

 黄金のように輝く金色の瞳は猫のように細められていた。

 全てが白いスーツを完璧に着こなし、優雅に厚みのある本を読んでいたようだった。

 月にはある筈のないデスクに加えて、いつの間にか地面からは本棚が出現し。

 俺たちを取り囲むように展開されていた。

 彼を見ながら、俺は静かに最初に思った疑問を口にする。

 

《……男?》

「……あぁ、そうだった……これは失敬……んん! ……これでよろしいかな?」

 

 男は咳払いをする。

 すると、その体つきが急激に変わっていった。

 厚みがあった胸板は膨らんでいき、肩はなで肩になり。

 顔つきは男のそれから、妖艶な笑みを浮かべる女性の顔つきに変貌し……はぁ。

 

 男は完全に女性の体つきになった。

 彼……いや、彼女はにこりと微笑んで確認して来た。

 

《……別に貴方が男でも女でもどうでもいいですが……いや、本当にどうでもいいです》

「ふふ、まぁそう仰らないでください。少なくとも、私には明確な性別が無く、この体も器でしかない為、服のように変える事が出来るだけなのですよ。つまり、変装です。敵を欺くにはこれ以上にないほどに便利なのですよ……あぁ、誤解なさらないでください。私に変身願望は無く、ただあくまで……いえ、この話は無意味ですね。申し訳ありません……ですがこれだけは言わせてください。外見の情報で判断するような手合いにはこれは便利とだけ、ね?」

 

 人差し指を曲げて唇に当てながら、奴は目を細めて笑う……あざといなぁ、おい。

 

 奴は自身の容姿が優れている事を理解している。

 あざと過ぎる程の奴であり、これ以上ないほどに色仕掛けが得意そうに見えた。

 イケメンにもなれて、美女にもなれる。

 ハニートラップを仕掛けて来る輩は苦手だ。

 こういう輩は厄介であり、あまり関わりたくはないが……まぁいい。

 

《会って早々申し訳ありませんが――正体について尋ねても?》

「ふふ、えぇ勿論。それでは遅くはなりましたが自己紹介を――」

 

 彼女は姿勢を正す。

 そうして、腰に片手を回しもう片方を胸に当てて優雅にお辞儀をして名を名乗った。

 

 

 

【我が名は“ヘリオウトゥス”。この世界にて天使長を任されし、神に仕える忠実な駒の一つです】

「「「……ッ!」」」

 

 

 

 奴が言葉を発すれば、それを聞いていたサムたちが頭を押さえる……なるほど。

 

 天使長の言葉ともなれば、人にとっては毒なのか。

 俺には害はなく、今度はちゃんと聞き取れていた。

 俺はサムたちに視線を向けてから、ゆっくりと彼女を見つめる。

 

《……私の事は、“私以上に”知っていると思うので自己紹介は省かせてもらいます……ヘリオウトゥスさん。貴方は私が此処に来る事を知っていたようですね。それは貴方の力によって知りえたのですか?》

「えぇ、その認識で間違いはありません。我が力は“時”に関わるものですので」

《……時……つまり、先の未来の情報を得る事も出来たと?》

「その通りでございます……ただ、少し訂正を加えるのであれば、可能性の一つを選び見ただけに過ぎません」

 

 天使長は説明する。

 時に関わる力であれば、進める事も戻す事も可能で。

 時間停止に関しても出来るが、それをしてしまえば自分自身の動きも止めてしまうと。

 未来予知も可能ではあるが、それは幾つもの時の流れの中で。

 彼女が今ある情報と手に入れた情報を照らし合わせて。

 この時間に進むという事を決めた上で見た未来の情報でしかない。

 

「つまり、私が見たのは貴方様が此処に来るであろう未来のみ。その選択を取る貴方様が確率的に高かったからこそ、言い当てる事が出来たのですよ……まぁ外れている場合もございましたがね。ふふ」

《……未来予知は万能では無い、と……私の知る存在と似たようなものですね》

「……そういえば、そこにいらっしゃるのは……あぁ、なるほど」

『……』

 

 バトラーは現在、俺のスーツの内ポケットに入れている。

 入れているというよりは、いつの間にか勝手に入っていやがった。

 奴は天使長が気づいたと言うのに声も出さない。

 天使長は何かを察して静かに頷いていた……あぁ?

 

「……そうですね。色々とお話をしたいところではあるのですが……“招かれざる客”がいらっしゃったようですねぇ」

「「「……!」」」

 

 天使長の言葉にサムたちは警戒度を跳ね上げたのが分かった。

 まさか、追跡を振り切れていなかったのか。

 そう考えれば、ヘリオウトゥスは首を静かに左右に振る。

 

「貴方様のミスではございません。ただ単純に、彼らの執念が上回っただけの事……さてさて、それでは私が対応しましょうか」

 

 ヘリオウトゥスはそう言って指を振るう。

 すると、空中に映像が投影されて。

 店の中にいる黒スーツたちが見えた。

 奴らは店の中にいた客たちを外に出し。

 店主と給仕を残して彼らに対して質問と状況の説明をしていた。

 別動隊はあの部屋を見つけてギミックを作動させて最初の部屋に向かっていた。

 

 完全武装の人間が五人であり、顔は見えないが手練れだろう。

 聖刃を持たず、対人用の装備で固めているあたり。

 此方に悪魔がいない事を見越している……当然か。

 

「キューネさん。客人がいらっしゃいました。おもてなしをするので、すぐに退避を」

《あ、はい! 了解です!》

 

 ヘリオウトゥスは受付にいるキューネさんに指示を出し。

 彼女はびしりと敬礼してから速やかに行動を始めた。

 後ろの鍵の中から一つを取って手元の本に差し込んだ。

 すると、彼女の姿はあっという間に消えて……その数十秒後に、武装した集団がなだれ込んできた。

 

 奴らは外部と連絡を取りながら何かを探している。

 見た事の無い棒状の機器を操り、それが反応を示した本を手に取った……あれは!

 

「……おや? すぐに分かったようですが……人間の知恵は恐ろしいですねぇ」

「呑気な事言っている場合かよ。どうすんだ?」

 

 サムが呆れたような声を出す。

 すると、ヘリオウトゥスは「慌てない慌てない」と囁くように言う。

 指を振るえば、映像越しに見えたキューネさんがいた空間の本たちが一斉に動き出す。

 奴らは少し驚きながらも即座に結界を周囲に展開する。

 強固な結界の中では、術式を解析する人間と攻撃系の術を発動しようとしている人間がいる。

 解析を終えれば即座に対処をするつもりだろう。

 ほとんどの術式は魔力が込められており、結界を発動していれば中にいる人間に影響は及ばない。

 教科書通りの対処法であり――ヘリオウトゥスはくすりと笑う。

 

「ふふ、攻撃が目的ではないのですよぉ。それ」

「「「……!」」」

 

 彼女が指をぱちりと鳴らす。

 瞬間、そこにいた筈の武装集団は一瞬で――“消えた”。

 

 跡形も無く消えており。

 宙を舞っていた本たちもすぐに元の棚に戻っていく。

 何が起きたのかは不明だ。そもそも、術式を発動した瞬間が分からなかった。

 何処に行ったのかと聞けば、彼女はただ遠くに飛ばしたとだけいう。

 

《……転移……それも、長距離移動が可能なそれを使えるんですか?》

「えぇ、天使長にもなれば必須ですからね。部下を送ったり、部下を戻したり……大変なんですよ?」

「……何でもありかよ」

「はは、何でもは出来ませんよ。戦闘に関してはあまり役に立てませんからね」

 

 ヘリオウトゥスはころころと笑う。

 サムたちは呆れたような顔で頭を掻く。

 

 そんな事をしている間にも、状況は悪化していく。

 店の中にいた黒服たちが異変に気付いたようだった。

 先発隊が消えた事によって、奴らは無線で外部と連絡を取る。

 すると、扉が勢いよく開け放たれて複数の人間が入って来て……おいおいおい。

 

 そいつらは黒いスーツやあからさまな武装はしていない。

 祓魔師として戦闘服を着ている。

 が、明確な違いがあるとすればその色で。

 白ではなく赤を基調とし、黒いラインが入っていた。

 一人を除いて他の人間たちは顔を覆い隠すような特殊なメットを被っている。

 

 その制服を着る人間はよく知っている。

 祓魔師の中でも特殊な任務につく部隊であり。

 暗部に属する悪魔ではない、“人間専門”の処刑部隊――“三十の銀弾(ドライセン・シルバーキューゲル)”。

 

「……そりゃ来るよなぁ」

「……だな」

《知っているんですか?》

「……まぁ言えませんが。仕事で何度か……奴らは悪魔も人間も関係ない。上にとっての敵を殺すだけですからね。機械と同じですよ。アイツを除いてね」

 

 サムたちはそいつらを見て冷汗を掻く。

 中でも、指を指した一人の男の事を警戒していた。

 

 先頭に立っている男――否、“偽少年”。

 

 ぱっと見では小学生くらいにしか見えない小柄な男。

 だぼだぼの制服を着ていて、髑髏のマークの入ったヘッドフォンをつけている。

 常にガムを食っており、手はポケットに入れられていて。

 底の厚いブーツを履いている生意気な面をしたそいつは――“ケーニヒ”だ。

 

「……」

「……やべぇな、おい」

「……ん? お知合いですか?」

 

 俺たちの緊張を感じ取り、ヘリオウトゥスは首を傾げる。

 が、俺たちが答えるよりも早く奴が此方の視線に気づいて映像越しに視線を向けて来た。

 奴はガムを噛みながら、にやりと笑って指で首を斬るジェスチャーをする。

 何をするのかと見ていれば、奴は徐に指を上げて――下げた。

 

 瞬間、眩いばかりの光が視界を潰す。

 俺たちは目を背けながら、奴が事を起こしたと理解した。

 強烈な光は一瞬で消えて、視線を戻せば――“建物が半分消滅”していた。

 

《儂の店がぁぁぁ!!?》

《ええぇぇぇ!!?》

「「「……」」」

 

 マスターたちの悲痛な叫び。

 奴はニヤニヤと笑いながら、もう一度指を上げて――下げる。

 

 奴は何度も何度も、地下にある施設に対して攻撃を行う。

 立ちふさがる障害も、奴がケーニヒであるという立場さえも無視して。

 奴は連続して派手な攻撃を行い続けた。

 見れば、キューネさんがいた空間にはバラバラと埃が降っていた。

 

「んーあの方の攻撃は……嫌がらせ?」

《……えぇそうですね。さっさと出てこい、そう言っています》

 

 このままでは、マスターの店が修復出来ないほどの損害を受ける事になる……いや、もう既に半分は消し飛んだがな。

 

《出て来いよぉ。僕にこんな事させないでよぉ。ほらほらぁ、さっさとしないとこいつの店、営業できなくなっちゃうよぉぉ?》

《ふぉおぉおぉぉぉぉ!!》

《あわわわわ!!?》

「「「…………」」」

 

 邪悪な笑みを浮かべるクズ野郎。

 目的の為には手段を選ばない俺以上のクズだ。

 奴ならば確実に、あの店を全損させるまで攻撃を続けるだろう。

 その証拠に、奴の部下は発狂している店主たちを無理矢理に外に避難させていた。

 外野がいなくなった事で、奴は大声で笑いながら更にド派手な攻撃を行った。

 

 屋根は消し飛び、壁は崩れて。

 置いてあったものやコップも全て消えて……やべぇ。

 

 一時的に武装集団を遠ざける事は出来たが。

 とんでもなく厄介で極悪な人間を引き出してしまった。

 あの店主と従業員には縁も所縁も無く。

 店がどうにかなっても俺の責任では無いが……まぁ少しは心が痛むよ。

 

《……どうするんですか?》

「そうですねぇ。説得は無理ですし、そもそも入口が発見されたので……よし、逃げましょうか!」

「「「……は?」」」

 

 奴はぽんと手を叩く。

 まさかの逃亡発言にサムたちは目を丸くしていた。

 が、俺は何かするつもりだと察して黙って奴を見る。

 

「これをこうで、こうして、あぁこの辺かなぁ……うん、此処にしましょうか」

 

 奴は目を閉じながら楽団の指揮者のように指を動かす。

 すると、空中には今まで見た事もないような模様が黄金となって描かれて行く。

 それらは力を持ち、確かな存在感を放ちながら浮遊していた。

 それらが幾つも出現し、重なり合っていき、天使長はゆっくり目を開けてパンと手を叩き――

 

 

「はい――“引っ越し完了です”」

「「「……は?」」」

 

 

 全員が間抜けな顔を晒していた。

 どういう事かと聞けば、彼女は簡単な事だと明かした。

 

「喫茶店の地下から、全く別の場所に施設を移したんですよ。ただそれだけです」

「そ、それだけって、おいおい……マジかよ」

 

 ヘリオウトゥスは信じられない俺たちに別の映像を見せる。

 そこは夏である筈なのに雪が降っている場所で。

 外観は壁と屋根があるだけの廃屋であるが、中に受付があると彼女は言う。

 驚いている間にも、彼女は空間の乱れを修正していく。

 散らばった本は棚に戻っていき、床に積もった天井の残骸は上に戻っていく。

 倒壊寸前だった部屋は新築のように元通りで。

 彼女は息を吐き額を腕でこすっていた。

 

《……あぁ? 手応えが……チッ、おい、見てんだろ? クソジジイがよぉ。さっさと戻って来ねぇと……分かってんだろうなぁ?》

「……」

《聞こえてる前提で忠告してやるがよぉ。俺たちは手段なんか選ばねぇ。テメェがこのまま本部に来るつもりがねぇなら……テメェの大事なもんを使ってよぉ。テメェが来なけりゃいけねぇ理由を作ったって》

《あ、切っていいですよ》

「……ん? いいのですか? 何やら貴方様に語り掛けているようですが」

《大丈夫ですよ。アレはただのハッタリなので》

「そうですか。では」

《手足の一二本をへし折ってよぉ髪をむしってなぁ――――…………》

 

 必死に話していた拷問の話はもう聞こえない。

 静かに息を吐いてから眉間の皺を揉む……やれやれ。

 

 サムたちを見れば、少しだけ怪訝な顔をしていた。

 まぁ人間を平気で殺せる奴らが言った言葉だ。

 少なからずやろうと思えばやれると感じるだろう。

 が、あんな事を言っても奴は立場のある人間だ。

 考える力があり、少し考えれば嫌でも分かる。

 

 もしも、俺の逆鱗に触れるような事をすればどうなるか。

 俺はアイツら以上に、俺の邪魔をする奴らを簡単に殺す。

 一切の躊躇なく、迷いも無く、蝋燭の火を消すように殺す。

 嘘でも無ければ、虚勢でもなく――これは紛れも無い事実だ。

 

《もしも、彼が言葉で言った事を実行すれば、私は彼だけでなく、本部の人間も殺しますよ。えぇ勿論そうしますとも》

「「「……確かに」」」

 

 サムたちは理解したようだった。

 奴らも下手な行動が出来ない。

 だからこそ、ハッタリしか言えないのだ。

 

 サムたちはため息を零して頭を掻く。

 そうして、必死に移動した場所が何処なのかを調べているゴラムに声を掛けて……顔を青くしてゴラムが俺を見る。

 

「……恐らく、南ヨーロッパの何処か……ふざけてますよ、こいつ」

「はは、ふざけているなんてとんでもない。私は何時でも真面目ですよぉ」

 

 ケラケラと笑っている。

 規格外の力を持つ天使長。

 そんな奴への警戒度を跳ね上げながら、どうしたものかと考えて――何かが降って来た。

 

「わわわぁぁ! いつっ……あ、どうも!」

「「「……」」」

 

 考えていれば、空からキューネさんが降って来た。

 彼女は空中でじたばたと暴れていたせいで、頭を地面に打ち付けていた。

 額を摩りながら痛そうにしていたが。

 俺たちの姿を見つけると眼鏡の位置を正し勢いよく立ち上がってびしりと敬礼をする。

 

《……まぁいいでしょう……今は時間が惜しい。聞きたい事だけ先に聞きます。拒否権はありません》

「えぇどうぞどうぞ。何なりとお申し付けください」

 

 奴は満面の笑みで頷く。

 そんな奴を見ながら、俺は今一番聞きたい事を聞いてやった。

 

《デウス・エクス・マキナを知っていますか》

「――イエス」

《それが何処にあるのかは?》

「――NO」

《……誰がそれを作ったかは?》

「――YES……と言いたいですが、これは微妙ですね」

 

 彼女の簡潔な答えに考える。

 デウス・エクス・マキナの事は知っている。

 が、それが現在何処にあるのかを彼女は知らない。

 開発者について心当たりはあるが、断言できないあたり……何か理由があるのか。

 

 嘘は言っていないだろう。

 視覚情報からは動揺は見られなかった。

 完全に見破れる訳では無いが……今は信じる他ない。

 

《……では、知っている事を教えてください。全てです》

「えぇ、勿論です。私はその為に、貴方様をお待ちしていたのですから」

 

 彼女は立ち上がる。

 そうして、ゆっくりと歩を進めて……目の前で止まる。

 

 ニコニコと笑っている美しい女性。

 人間ではない美貌であり、恐ろしさすら感じるほどだ。

 そんな彼女が俺をジッと見つめて来る。

 

 

「ではでは、お伝えしましょうか。この世界の事を。そして、我らが与えられた今は亡き――“神からの使命を”」

「「「……!」」」

 

 

 彼女は人差し指を立てる。

 すると、指先から光が発せられて。

 それは瞬く間に周囲に広がっていき、意識、が――――…………

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