「だーりぃん? 此処かなぁ……うーん、いないなぁ」
人間がボケっと立ち尽くしているだけの公園の中。
大きなゴミ箱の蓋を開けて中を覗く。
が、やっぱりいなかった。
街中を探しても、ダーリンの痕跡は見つからない。
時刻は既に昼頃で。
少しお腹も空いてきた。
本当はダーリンの為に料理を作ってあげるつもりだったのに……もぉ、ダーリンったらぁ。
「でも、ダーリンだから仕方ないよね? ダーリンは強くて有能で、頂点だから。ゴミ共のせいで忙しくて、クズ共のせいで仕事を……あれ? アイツら殺しておきべきかなぁ?」
私は唇に手をあてながら考える。
考えて、考えて、考えて……ま、今はいいや。
それよりもダーリンだ。
私は公園の中を歩きながら必死に探す。
ゴミ箱の中や公衆トイレの中。
噴水の中であったり、唾を垂らして立ち尽くすおっさんがいるキッチンカーの中に……いない。
「何処ぉぉ……はぁぁぁ、聞くぅぅぅ?」
何処に行ったのか、その手掛かりでもあればいいけど……はぁ。
本当は嫌だった。
けど、繋ぐしかないだろう。
私はそう考えて、端末をポケットから取り出す。
そうして、番号を入力してから耳に当てた。
ワンコール、ツーコール……出ないなぁ。
私は少しイラっとする。
が、それでも辛抱強く待ち……繋がる。
「もしもし? 私だけど、ちょっと聞きたい事が」
《――無事?》
「……いきなり何? 意味不明なんだけど」
電話に出たゾーヤが妙な事を言った。
私は舌を鳴らしそうになったのを我慢し話を続けた。
「ダーリンが何処にいるか知らない? 街中探しても見つからないんだけど? ま、私が知らないのにお前が知ってる筈ないけどさ。一応、確認の……ねぇ、誰かいるの?」
電話の向こうで複数人の声が聞こえていた。
私は更にイラっとして、もう切ってやろうかと考えた。
が、それをする前にゾーヤから電話の主が変わり……げぇ。
《やぁ、夢幻躯動。その様子なら、敵の支配下には置かれていないようだね》
「……何だよ。お前の声なんて聞きたくないんだけど?」
電話に出たのはダーリンが嫌っている男だった。
アントホルンの支部長であり、名前何て覚える気も無かったから忘れた。
ちょくちょく私に連絡を繋ごうとしていたけど、私は全て無視していた。
……そんな奴とゾーヤが一緒にいる理由は……どうでもいいやぁ。
「……あのさ? 言いたい事あるならさっさとしてくれない? 私、凄く忙しい」
《――彼の居場所なら知っているよ?》
「……それを早く言えよ!! 何処!? 何処なの!?」
《うーん。教えてもいいが……その前に、やって欲しい仕事が》
「誰!? どいつを殺すの!? どの
私は問答はしないつもりで聞いた。
すると、ムカつく野郎はくすりと笑い説明する。
《……知っているかどうかは問わない。出来る事なら、知らないでいてくれた方が助かるからね》
「……はぁ?」
《敵の悪魔は現在、世界中の電波をジャックし。自らの歌声を世界中に響かせている……今、君と通話をしている間も、我々は奴の歌を聞かない為に特殊な通信方法を取っている……君は確か、街の中にいると言っていたが……歌は聞こえているかい?》
「え、歌ぁ? えぇっと……あぁこのうるさいのか。聞こえてるけど、何?」
何か聞いた気がするような。
忘れているという事は私にとってどうでも良い事で。
気にもしなかったら、本当にどうでも良い事で……あぁその悪魔をぶっ殺せばいいのかぁ。
《……歌を聞いている状態で、何故、君だけが活動を続けていられるのかは謎だが……恐らくは、対象者への理解度。もしくは、対象への興味関心。そういったものが、敵の能力もしくは術式に関係しているのかもしれない……すまないが、我々も時間が無い。此方から提示できる情報は何も無いが、何とか敵の居所を突き止めて排除してくれ……頼んだよ》
「はいはぁい。じゃねぇ………っと。興味とか理解度とか意味わかんないけど。いつも通りで良いって事だよねぇ」
私にとってダーリン以外はその他大勢で。
へのへのもへじであり、死んでいようが生きていようがどうでもいい。
まぁある程度、仲の良い人間であれば少しくらいは愛情はあるけど。
歌を歌っているだけの悪魔には何の関心も恨みも無い。
ただ命令されるから、邪魔だから殺す。
ダーリンがそれを私に望むからしているだけだ。
人間を助けるのも同じであり、ダーリンがするなと言えば絶対にしない。
私の世界の中心はダーリンであり、ダーリンだけいれば他はいらない。
私は端末をポケットに入れる。
そうして、“ダーリンの元”を取り出して静かに口元に当てて成分を体の中に入れて行く。
天を仰ぎ見ながら、身も心もダーリンに染め上げて――あぁ。
「――充電完了」
ゆっくりとそれをポケットに戻す。
そうして、静かに息を吐き――周囲の人間が動き出す。
私に向かって飛び掛かり。
手に持った杖や鞄を振りかぶっていた。
その目に生気は無く、虚ろな目で私を見ていて――私は大きく飛び上がる。
両手を翼に変えて、私は空を舞う。
うるさい歌を流しているゴミを殺しに行こう。
そうすれば、ダーリンにまた会えるから。
私は翼をはためかせて、加速する。
ぐんぐんとスピードを上げながら、先ずは何処に行こうかと考えて――横へとズレる。
瞬間、勢いよく銃弾が走っていく。
下を見れば、軍隊らしきものが見える。
対悪魔用の装備であり、恐らくは“特戦軍”だろうか。
アイツらも悪魔に操られていて。
戦車なんかも持ち出している。
主砲が此方に向けられて――轟音が響く。
真っすぐに進んできた砲弾。
が、私は難なく回避する。
すると、砲弾は空中で軌道を変えてそのまま遥か遠くに落ちて行く。
破壊音と共に、建物が倒壊する……あぁ。
人が死んだかもしれない。
いや、確実に死んだだろう。
アレは私の責任になるのか。
そんな事を考えて――私はその場から離脱する。
「……面倒だなぁ」
考えながら戦うのは面倒だ。
が、そうでもしなければアホな敵は好き放題に暴れる。
人間たちは操られているだけであり、悪意も殺意も無い。
それが余計に質が悪くて……うざったい。
街から離れて行けば攻撃は止む。
が、また別の人間からの攻撃に遭う。
下からのアホな投石であったり、警官たちの発砲。
中には、ビルの上から飛び降りる奴もいる……だる。
意味のない自傷。
それらは私の心を動揺させる為なんだろう。
お前のせいで人が死んでいる。
これをやっている私はとても残酷な存在だ。
憎め、恨め、怒れ――どうでもいい。
会った事もなければ話した事も無い。
知らない人間が飛び降りたからなんだ。
それは私の所為でも無ければ、敵を恨む要因にもならない。
敵は敵であり、そういう事をしてきて当たり前だ。
だからこそ、これはただの日常であり……そんな事より何処だよぉ?
電波をジャックしたと言っていたが。
恐らくは、放送局にはいないだろう。
アナログでもケーブルでもないのなら――システムへのハッキングしかない。
結局、放送局に向かう他ない。
ハッキングを受けたシステムにアクセスするのならそこが一番だからだ。
私は目的地を定めて、翼を動かしトップスピードで空を翔けた。
◇
「……此処かぁ」
ライツで一番大きい放送局。
そこに侵入しようとすれば、大勢の兵士や――祓魔師たちがいた。
完全武装であり、私を殺す気で掛かって来た。
殺した方が私としては手っ取り早かったが。
後でダーリンに知られて幻滅されたくなかった。
だからこそ、攻撃を受けながらも何とか無力化し……何とかメインサーバーのある部屋に辿り着いた。
「……いてて」
頭に刺さった剣を引き抜く。
体にも銃弾やら杭が打ちこまれていて。
再生しながら、それをぼとぼとと床に転がしていく。
死なないレベルでも痛いものは痛い……ま、いいけど。
傷を治し、服を修復して。
手からアクセス用のケーブルを作り出し。
適当なサーバーに接続する。
瞬間、私の脳内には電脳世界の光景が広がる。
電子の海を泳ぎながら、私は必要となる情報を探して――見つけた。
サーバーへとハッキングをしたPC……いや、違う。
かなりの高性能なものを使用している。
PCなんて可愛いものではなく。
国家の秘密組織が所有しているような一級品だ。
それも複数を同時に操作して、ハッキングを行っていた。
気づかれる前に、歌を流せば目的は完了であり……“国内”か。
ライツにいる。
それも、分かりやすい場所であり――“国立オペラ劇場”だ。
「……ふざけてんのかぁ? ……ま、いいけど」
ケーブルを無理矢理抜く。
そうして、敵の待つ場所へと行こうと――勢いよく後方へと飛ぶ。
瞬間、壁が一気に膨れ上がり。
目の前が白い光に包まれて――全身がバラバラになる。
肉片となりながらも。
破壊された放送局から脱出し。
そのまま体を再生させて、翼を動かして空を舞う。
何が起きたのか、それは空を飛ぶ鋼鉄の兵器の仕業であり――“戦闘機”だ。
「戦車の次は戦闘機……だるぅぅ」
ミサイルを撃ち込んできた。
それも人が大勢いた放送局にだ。
大きかった放送局は崩壊し。
ガラガラと瓦礫が落ちていき。
辺りにいた人間たちは飲み込まれる。
土煙りが周囲を覆い尽くしていた。
見境が無く、悪魔らしい――“馬鹿みたいな戦い方”だった。
戦闘機は旋回し、私を狙う。
私はそんなものには構ってられないと。
足をジェット機の推進ユニットへと変えて――加速する。
ぐんと視界が動いて、空を音速で飛行する。
引き離せるそう思ったが――速いなぁ。
最新の戦闘機はかなりスピードが出るようだった。
街中でもお構いなしで機銃を掃射して。
ミサイルまで放って来る。
私は空の上で回転しながら、即席のフレアを背中から噴射し回避する。
戦闘機はそれでもついてきて――私はその場で急停止する。
二機の戦闘機は急には止まれず。
私に体当たりをしようとした。
が、その動きは読めており――私は肉体を液状化させた。
バシャリとコックピッドにある場所に付着し。
そのまま隙間から中へと入って。
中にいる人間に即効性の麻酔を投与する。
すると、暴れそうになっていたパイロットはぐったりとし。
別の機体に乗り込んだ“もう一人”の私も同じ事をして――機体を破壊して外へと飛び出す。
機体は空中で爆発し。
残骸がひらひらと舞う。
音速での飛行で、街から少し離れた田舎の上についていて……ま、どうでもいいけど。
抱えたパイロットに私が作ったパラシュートを装着させる。
二人は手足をだらりとさげて、そのまま空をぷかぷかと漂っていく。
後は適当に寝ていろという気持ちで舌を鳴らし、私と分身はさっさと敵のいる場所を目指す。
互いに無言――が、私は良い考えを思いついた。
「……そうだ。お前、一人でやって来いよ。私はその間に、ダーリンに会う準備を」
「は? 意味わかんねぇ。お前が行けよ。ダーリンと会う準備は私がするからさ。はい、頼ん」
「――馬鹿なの? 偽物の分際で会える訳ねぇだろ? 殺すよ?」
「やってみろよ? あぁ?」
私は空中で生意気な分身を睨む。
奴も私に殺気を放ちながら睨んできた。
互いに譲る事無くにらみ合い――衝突する。
目的も何もかもを忘れて。
私たちは互いがオリジナルであると主張するように。
全力で自分自身と――殺し合いを始めた。