【完結】祓魔師《エクソシスト》は休みたい   作:オタリオン

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113:世界を統べる王と祓魔師

「……」

 

 ステンドグラスから差し込む陽光。

 六角の祭壇にて、白き輝きを放つ剣が眠る。

 聖なる剣の前にて、俺はただ座っていた。

 

 サムたちはもう此処にはいない。

 儀式が済んだ瞬間に、彼らは天使長が待つ場所へと帰還した。

 此処にいるのは俺と――バトラーだけだ。

 

 バトラーは何も語らない。

 ただ剣に触れながら、何かを考えていた。

 

 何を考えているのかは分からない。

 いや、その考えを俺は理解しようとしていなかった。

 

 この空間は、魔王の力の欠片を封印する場所。

 が、本来は全く異なる場所であると俺は“記憶していた”。

 

 此処は神殿でも無ければ、神が集う白でも無い――“墓”だ。

 

 神々が役割を終えて深き眠りにつき。

 天使たちが帰るべき場所。

 

 此処は地球の中に存在していない。

 全く異なる空間にて存在する――“天の墓所”だ。

 

 妙だと思った。

 神殿というにはあまりにも仕掛けが無く。

 城というには、あまりにも質素な作りに。

 

 澄んだ空気に、清らかな水が流れて。

 本来であれば、人が至る事も出来ない神秘の地だ。

 そんな場所に入れたのには理由がある。

 

「……バトラー。何故、お前は……アイツらの入場を助けた?」

 

 声を出す。

 この場限りであれば、言の葉の影響を考える必要は無い。

 故にこそ、俺は自然と自分の言葉で問いかけた。

 

 サムたちが無事でいられたのは。

 バトラーがアイツらの命を守っていたからだ。

 俺であっても異変を感じれば、すぐに対処は出来ていたが。

 奴は敢えて、それをさせないように先に手を回した。

 それは恐らく、俺が此処へと至る事で本来の流れとして……記憶の一部を取り戻す為なのだろう。

 

 完全には戻っていない。

 が、この場所にいる事でゆっくりと記憶を縛る紐がほどけて行くのが分かる。

 

 俺は人間じゃない。

 そして、天使でも無ければ神でもない……それしか分かっていないがな。

 

 間違っても悪魔ではない。

 俺は悪魔や魔王にとっての天敵で。

 神々の側につく存在だと記憶している。

 

 バトラーという存在に心当たりはないが。

 奴という存在に触れていた事で。

 薄っすらとアイツと俺の関係が分かったような気がした。

 

 そんな事を考えながら、俺はアイツの返答を待つ。

 すると、奴は剣から手を離して背中を向けたまま言葉を紡ぐ。

 

『主様のお手を煩わせたくなかった……そして、貴方様自身の選択を見届けたかった。ただ、それだけです』

「……で? 俺の選択は……正しかったと思うか?」

 

 俺は敢えて聞いてやった。

 奴の答えは決まっている。

 が、それでも聞かざるを得なかった。

 

 奴はぬいぐるみの姿をしたまま――くすりと笑う。

 

『私は貴方様の従者。否と答える権利はございません……が、それでも今回ばかりは――“間違い”であると進言します』

「……!」

 

 奴の体から黄金が舞う。

 透き通った白い力に、黄金の粒子が舞っている。

 俺と同じ力であり、奴自身も俺と近しい存在で――謎の力によって体を床に押し付けられる。

 

「……ッ!」

『何故ですか。何故、貴方は――戦いから逃げようとするのですか?』

「俺は、逃げてなんて……ぐぁ!?」

『いいえ、逃げています。彼らの死をトリガーとして、欠片の消失を計った。それはつまり、魔王の完全なる復活を阻止し、永久に――奴を生かし続けるという選択を取ったという事ですよ』

「そんな事は、アイツらは、絶対に死なせ――う、がぁ!?」

 

 力は更に強くなる。

 床からは嫌な音が鳴り。

 体から骨が軋む音が聞こえるようだった。

 奴は静かに歩みを進めて、俺のすぐ前に立つ。

 光の無い作り物の瞳で俺を見下ろしながら、奴は――笑った。

 

『死なせないというのならば、何故、それをトリガーとしたのですか……貴方の心には大きな矛盾が生まれているのですよ。彼らの死によって魔王を倒せずとも再び封印する“王としての貴方”の願い。そして、彼らの死の運命を跳ね除けて未来へと導きたいという“この世界で生きた貴方自身”の願い……聞かせてください。今の貴方は……何方が本物なのですか?』

「……っ! 俺は、俺、は――――ッ!!!!」

 

 俺は力を覚醒させる。

 祓魔師としての俺の戦闘服。

 黒い装束へと姿を変えて、白きマントが炎と共に出現する。

 髪は伸びていき、瞳は黄金へ至り――バトラーの姿が変わる。

 

 ぬいぐるみは力なく倒れ。

 黄金が混じる透明なオーラが人の形を作り出す。

 顔も見えない性別も不明。

 が、確実にいえる事は――間違いなく、この存在こそが最強だ。

 

『それが貴方の答えであるのならば。私は主様の従者として、自らの役目を果たしましょう。我が主――“世界を統べる王”の剣として』

「……ッ!」

 

 奴が指を鳴らす。

 瞬間、周りの空間が勢いよく変わっていく。

 空間が一気に広がり、床は水面のようになり。

 空には欠けた巨大な月が浮かび――それは、姿を現した。

 

「お前は――っ!?」

『……』

 

 天より降臨した存在。

 純白の装束と純白のマントを纏い。

 手には身の丈を超えるほどに長大な剣を持っていた。

 顔は視認できず。黄金が体から噴き出していた。

 

 

 人型であり、顔は見えずとも――アレは、俺だ。

 

 

 もう一人の俺。

 が、確実に言えるのは現在の俺ではない……そうか、そうだったのか。

 

「……バトラー。やっと理解したぜ……俺が誰で、何者だったのか」

『それは良かった……ですが、私は貴方を――“認めない”』

 

 奴は俺を否定した。

 瞬間、地に降り立ったそれが刃を振るう。

 その衝撃波だけで、遥か彼方へと消し飛ばれそうで。

 俺は足を踏ん張り手で風をガードしながら、奴と一体化したバトラーを見た。

 

『王は完璧でなければならない。不完全な状態では、王とは呼べない……貴方が我が主であると言うのならば。証明してください。私が知る王を倒し、現在の貴方が――“本物”である、と』

「……回りくどい奴だな、テメェは……ハッキリしろ。そう言いてぇんだろう……分かった。証明してやるよ。俺が俺で、何がしたいのか――此処で、決めてやるぜッ!!!」

 

 俺は手を振るう。

 瞬間、二振りの剣が出現し俺はそれを握りしめた。

 

 バトラーは俺を見ながら、長い剣を刺突の体勢で構える。

 

 

『えぇ決めてください。さもなくば――私が此処で、貴方を殺す事になりますからね』

 

 

 奴が笑って――目の前に迫る。

 

 俺は咄嗟に剣をクロスさせて防ぐ。

 瞬間、強烈な衝撃が体全体に走り――俺は大きく後方へと吹き飛ぶ。

 

「――ッ!!」

 

 完全にガードした。

 が、腕が激しく痺れて体全体が痛みを感じていた。

 防いだ筈の攻撃を。その衝撃が、俺の体にダメージを与えた。

 

 俺はそのまま地面を蹴り上に飛ぶ。

 奴を見れば、遥か彼方で俺を見上げていて――剣を横に振るう。

 

 甲高い音が鳴り響き、すぐ横で奴が剣で俺の攻撃を防いでいた。

 一瞬だ。瞬きも無い合間に、横へと移動した。

 が、そんなのは当たり前だ。

 出来て当然であり――俺は刃を振るう。

 

 全力で振れば、一瞬にして万を超える斬撃が奴を襲う。

 奴は片手で剣を動かして、その全ての斬撃を受け流す。

 まるで、雲であり、手応えがまるでない。

 俺はそれでも攻撃を続けて――視界が弾けた。

 

「ぐ、おぉ!?」

『……』

 

 一気に後方へと吹き飛ぶ。

 何が起きたのかは分かった――蹴りだ。

 

 連続攻撃の合間。

 ほんの一瞬の隙に、奴は蹴りを俺の鳩尾へと放った。

 視認できないほどの速さであり。

 以前の俺であれば、あの一撃で木っ端みじんになっていただろう。

 吹き飛ばされながらも、体勢を整えて急停止し――体全体が潰された。

 

「があぁ!?」

 

 何が起きた、何をされた――地面に寝ている。

 

 見えない、感知できない。

 圧倒的なスピード。いや、違う。

 アレは最早、瞬間移動の次元だ。

 一秒の時間も掛けていない。

 現れてから攻撃のモーションすら見せず。

 次の瞬間には、地面に当たり潰されていた。

 

 俺はすぐに起きようとし――腹に何かがめり込む。

 

「ぐがぁぁ!?」

 

 メリメリと音を立てて、奴の蹴りが刺さる。

 そうして、そのまま宙を舞い――全身に衝撃が走った。

 

「――――ッ!!?」

 

 声も出ない。

 凄まじい速度。いや、速度ではない――瞬だ。

 

 認識できないレベルで、攻撃が打ちこまれる。

 当たったと思えば、既に別の場所が攻撃されて。

 斬撃を受けたかと思えば、全身から血が噴き出す。

 万を超え、億も超えて――分からない。

 

 理解できない、考えられない。

 その領域であり、今、自分自身がどういう状態なのかも分からない。

 何も見えず、何も感じず。

 ただ視界が光に染まっているのを感じ――体が地面にめり込む。

 

「がはぁ!?」

 

 現実に戻り――激痛が走った。

 

 全身の骨が砕けて、肉を裂かれて。

 指一本も動かせないほどにダメージを負った。

 気が付けば、水面のような地面にめり込んでいて。

 虫の息のまま、倒れ伏していた……“次元が違う”。

 

 

 分からない。何も見えていない。

 強い。これほどまでに――違うって言うのかよ?

 

 

 体の傷は再生したが、体力は大幅に削られた。

 それでも、俺は全身に力を込めて立ち上がろうとした。

 

 ――が、次の瞬間には頭に強い衝撃が掛かる。

 

 星が落ちてきたかのような衝撃。

 抗えないほどの力が頭に加わり、口と鼻、眼から血が流れ出る。

 

 両手に握っていた剣が消失し。

 俺は地面に埋まっていく。

 

「ぐ、がぁぁ!!?」

『……』

 

 奴だ。

 奴が俺の頭を踏みつけていた。

 それも片足であり……次元が違い過ぎる。

 

 圧倒的な強さであり、並ぶ者が無いほどの威圧感。

 完璧な存在といったのは正しい。

 こんな化け物、勝てると思うほうが異常だ。

 

 最強だともてはやされていた自分が。

 たった数分。いや、数十秒の間に赤子のように扱われて。

 手も足も出ないまま、殺されそうになっている。

 

『……“ヘルダー様”。理解できましたか。主の本来の強さを。そして、今の貴方がどれほどまでに――ちっぽけであるかを』

「……っ! ちっぽけ、か……ぐがぁ……そう、かも、なぁ!!」

 

 俺は血を吐きながら笑う。

 王である俺はそんな俺の頭を更に踏みつけた。

 今にも潰れちまいそうになりながらも――俺は笑う。

 

「俺は、弱い!! テメェの完璧な、主様は、今の俺じゃ、名乗れねぇよな!! でも、なぁ……俺は、それでも……願いが、やるべき事が、あるんだよ……弱くても、ちっぽけでも――俺は、俺だァ!!!」

『……!』

 

 俺は全身に力を込める。

 腕の血管が浮き上がりぶちりと千切れる。

 歯を食いしばれば罅が入るのが分かった。

 鼻からは勢いよく血が噴き出し、それでも俺はゆっくりと体を起き上がらせる。

 

「俺は、逃げていた!!! だが、それは今の俺じゃねぇ!!! 今の俺の選択は――魔王をッ!!! この手でぶっ殺す事だッ!!!!」

 

 俺は足に力を込める。

 奴は俺から飛びのき、拳を放ち――俺は片手で受け止めた。

 

『……まさか』

 

 バトラーが驚いていた。

 が、俺はそんな事は関係ないと――笑った。

 

 

「俺の邪魔をする奴らはぶっ殺すッ!!!! 俺の希望を奪う奴もぶっ殺すッ!!!!! 俺の好きなものを踏みにじる奴らも――ぶっ殺すッ!!!!

 

 

 奴の力が増す。

 奴の体が激しく揺れて、奴の拳を抑える手から血が噴き出した。

 皮がめくれて、筋繊維が千切れて。

 骨に亀裂が走り――が、拳は進めない。

 

 

 

「俺はランベルト・ヘルダーだッ!!!! 俺の仲間も、俺の生徒も、俺をもてはやす馬鹿野郎どもも――俺がこの手で守ってやらァァァァ――ッ!!!!!」

『……ぅ!?』

 

 

 

 俺は頭をのけ反らせる。

 そうして、歯を喰いしばり――奴の顔面に叩きつけた。

 

 頭蓋が砕けて、脳漿をぶちまけた。

 視界がパチパチと弾けていて、そのまま盛大に胃の中のものをぶちまける。

 格好が悪い。ダサすぎる……が、倒れない。

 

「ざまぁ、ねぇな……はは」

『……』

 

 奴を見れば、顔を起点として亀裂が走っていた。

 なんてことはないただの頭突きで、王とやらはダメージを負った。

 大したことはない、その程度だ。

 が、俺はしてやったりの気持ちで震える手で中指を立てた。

 

 最後の力であり――足から力が抜ける。

 

 その場に倒れて、血を口から垂れ流す。

 奴を見れば、砂のように消えていって……ぬいぐるみに戻ったバトラーが目の前に現れる。

 

『……貴方は、以前の貴方には遠く及ばない……が、そんな今の貴方でも誇れるものがありました……今の貴方には、紛れもなく心をおける存在がいる……弱くとも、貴方は、補う術を知った』

「……そ、う、か……は、ぁ」

 

 俺はにへらと笑う。

 奴も笑ったような気がした。

 

 

 

『……なれば、私も覚悟を決めましょう。最悪となり、全てを終わらせるか。最善となり、全てを救うか……お供いたします。我が主――“カミ”よ』

「……まぎ、らわ、しぃ、なぁ……ふ、ぁ……」

 

 

 

 俺はなんてことはない悪態をつき、そのまま、意識、を――――…………

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