【完結】祓魔師《エクソシスト》は休みたい   作:オタリオン

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115:愛に生きる女、愛が欲しい悪魔(side:クラーラ)

「――よっと!!」

 

 天井を蹴りでぶち破る。

 ガラガラと瓦礫が落下していき、私は翼をはためかせてゆっくりと着地する。

 日の光が穴から差し込んで、舞台の上に立つ――女悪魔を照らす。

 

 無数のカメラが動きを止める。

 舞台の上で脚光を浴びていた女も動きを止めた。

 そうして、奇妙な角度で首を曲げて私を見て――笑みを浮かべた。

 

 

「ようこそ――我が劇場へ。ケーニヒの祓魔師様」

「……」

 

 

 

 女は姿勢を正し、優雅にドレスの裾を摘まんでからお辞儀をする。

 背中まで伸びた白髪。

 目は猫のように細められて、青色の瞳は私を見つめている。

 男を誑かす体に、控えめなように振舞っていても自身の容姿に絶対的な自信を持っている顔つき。

 華美ではない。シンプルな青いドレスを身に纏っている。

 肌は病人と思えるほどに白く、手足は細かった。

 

 悪魔とは思えない姿。

 殺気も血の臭いもまるでしない。

 一見すればただの自信過剰な女だろう……でも、バレバレだ。

 

 

 一目見て理解した――こいつは上位の悪魔であると。

 

 

 強さからではない、単純な気配がそう認識させる。

 野生の勘とでもいうのだろうか。

 こいつからは並々ならぬオーラを感じる。

 最上位よりも、ネームド個体よりも遥か高みであり――危険だ。

 

「十手が一人。六掌、“游獄祈姫(ゆうごくきひ)”――エヌトゥヒィ」

「……十手……聞いた気がするような……ま、どうでもいいか。殺すし」

 

 にこりと微笑み、勝手に自己紹介を始めた女。

 姫にでもなったような気分なんだろうけど、どうでもいい。

 私は無感情に悪魔を見てから、周囲を確認する……やっぱり、いる。

 

 豪華なオペラ劇場。

 黄金宮殿とも言われただけの事はあるほどに眩い光を放っていた。

 席には無数の人が座っており。

 それらがゆっくりと席を立ち――武器を構える。

 

 どいつもこいつも祓魔師の戦闘服を着ており。

 襟元の階級章を見ればダーメまでもが奴によって支配されていると分かる……何やってんだよ。

 

 私は舌を鳴らす。

 そうして、悪魔を見れば――奴は笑みを浮かべたまま首を傾げる。

 

「貴方は……心が無いのですか?」

「……は? 何? ディスってんの? 笑える。ゴミの分際で私に?」

「……言葉にトゲがあるように見えて、一切の感情が無い……あぁ、なるほど! 私に全く興味が無いのですね? それはそれは――悲しい事ですね」

 

 奴が三日月のように口を歪めた。

 瞬間、周囲の祓魔師たちが一斉に襲い掛かって来た。

 私はその攻撃をバックステップで回避し。

 翼から手をブレードに変えて応戦する。

 

 操られているだけであり、寝返った訳じゃない。

 いっそ、寝返ってくれた方がぶっ殺せたのに……クソ。

 

 悪態をつきながらも、私は左右から迫って来た男たちの斬撃を全て受け流す。

 そうして、そのまま力任せにブレードを振るって男たちを風圧で壁に叩きつけた。

 奴らは無表情のまま血反吐を吐き、そのまま倒れ――否、そのまま奇妙な動きで飛び掛かって来た。

 

「……やば」

「ふふふ、彼らは私の御人形。最早、人のような存在ではございませんよ?」

 

 ぐぎぐぎと体から嫌な音を響かせて。

 腕を鞭のようにしならせて強制的にリーチを伸ばす。

 そうして、奇妙な角度から迫った斬撃を弾き。

 そのまま低い姿勢で向かってきた敵の首に剣の柄をぶつけて――腹を貫かれる。

 

「……!」

 

 剣による攻撃じゃない。

 敵の腕から――骨が突き出していた。

 

 あり得ない。

 魔術では無かった。

 完全に自分自身の肉体を突き破って骨が飛び出してきた。

 私は血を吐きながらも、ブレードから拳に戻して――男の顔面の横頬を殴りつける。

 

 男はそのまま壁にめり込み。

 私は腹から骨を抜いてから、二階席へとジャンプする。

 

 意表を突かれた。

 いや、想像もしていなかった。

 あんな攻撃が操られた状態では出来たのか。

 聞いたことが無いし、やっていた奴も知らない。

 

 ……死体を操っていた奴ならいた気がするけど……いや、いたっけ?

 

 そんな事を考えていれば、ダーメらしき祓魔師が動く。

 顔を鉄兜で覆い。

 バイザーのようになった場所が開いて――体が石化する。

 

 石となった瞬間に、ダーメは私の体を力任せに殴りつけて――破壊した。

 

 石片が飛び散り、その瞬間に石化は解除された。

 私は激痛を感じながらも、バラバラになった肉片をそれぞれで再生させる。

 

 危機的状況であり、絶対的に不利で。

 だからこそ、使いたくなかった奥の手を此処でも使った。

 

 分身が出現し、合計で六体の私が立つ。

 それぞれが殺気を放っており、この後に始まる殺し合いに胸焼けしそうな思いだった……だる。

 

「ふふふ、再生能力に分裂……まるで、あのお方のようですね」

「……誰の事は分かるけど、お前の口からその名は聞きたく」

「――ランベルト・ヘルダー様ですね?」

「……お前、めちゃくちゃ――性格ドブスだなぁ?」

「ふふふ、今の発言でもダメなようですね……次は興味を持っていただけるように頑張りますね!」

 

 奴は拳を握ってあざといポーズをする。

 女の見た目であり、同姓であれば嫉妬や怒りを覚えるだろう。

 が、私は無視であり、どうでもいい。

 

 相手は人間の姿をしていて女のようでも――“悪魔(ゴミ)”だしねぇ。

 

 私はそんな事を考えて――ダーメの攻撃を回避。

 

 意識外からの攻撃だ。

 すぐ真横に迫って来て連続の打撃を繰り出して来る。

 私はその攻撃を全て紙一重で回避し――奴の鉄兜に向かって唾を吐く。

 

 瞬間、私の唾はまるでセメントのように敵のバイザーを固める。

 それにより、奴は術を封じられて。

 私はそのまま奴の腹に触れて――電撃を流す。

 

 体の中で高圧電流を生み出す発電機を生成し。

 そのまま手を電極の代わりとし、ダーメの体内に流し込む。

 すると、奴の体は激しく震える。

 暫くすれば、電撃を止めてやった。

 ダーメの体からはぷすぷすと煙が出ているが……死んでねぇから問題なし!

 

 そのまま戦闘不能のダーメの腹を蹴り飛ばし。

 遠くへと避難させてやってから、私は二階から飛ぶ。

 他の祓魔師が飛び上がり攻撃してきたが。

 全て受け流して強引に突破し、親玉へと攻撃を仕掛ける。

 両手をマシンガンに変えて銃口を定めて――放つ。

 

 ガラガラと弾丸が発射されて木屑が舞う。

 分身たちも他の祓魔師たちを無力化し。

 そのまま四方八方からマシンガンでの攻撃を開始した。

 

 一斉掃射であり、敵に対して慈悲は無い。

 弾丸が弾けて跳弾によってカメラも証明も破壊される。

 大きく立派だった赤い幕はボロボロになり、千切れたそれらが風と共に舞う。

 無数の弾丸によって舞台の残骸が舞い続けた。

 奴の体は煙に包まれて見えなくなる。

 私たちはゴミを冷めた目で見つめるだけだった。

 

 撃って、撃って、撃って撃って撃って撃って――撃ちまくる。

 

 

 それでも尚、私たちは攻撃を続けて――“悪寒が走る”。

 

 

「「「――ッ!!」」」

 

 分身と共に攻撃を中断し。

 一気に距離を離そうとした。

 瞬間、光のようなものが駆け抜けて――私を含めた六体の分身の腹が切り裂かれる。

 

 何が起きたのか。

 何があったのか。

 それを考えようとして――大きく目を見開く。

 

 舞台の上に降り立つ存在。

 真っすぐにそれを見つめて――脳に手を突き刺す。

 

「――ぁ」

 

 沸き上がって来た――“感情”。

 

 脳を直接攻撃した事によって感情が鎮まる。

 手を引き抜き傷を再生しながら、冷静に紛い物を観察する。

 

 祓魔師の黒い装束で。

 手には短剣を二つ持っている。

 黒いぼさぼさの髪に、無精ひげが生えていて。

 すらっとした背格好に、鋭い眼差し――脳に手を突き刺す。

 

「……大丈夫ですか?」

「……うざ」

 

 私は破壊された席の残骸が飛び散る床に着地し、脳から手を抜く。

 ぼたぼたと血が流れるが、傷はすぐに塞がる。

 そんな私の心配などしていないが、本気で心配していると言わんばかりの泣き顔で見つめて来るゴミ。

 流石の私でも怒りを覚えそうになりながらも。

 脳破壊の強烈な痛みと意識のリセットで何とか奴の術中から逃れる。

 

 ……あんなものまで作れるなんて……ダーリンより遥かに劣っているけど……面倒ではある。

 

 明らかに“彼”を模倣して作られた贋作にイラつきそうになっていた。

 姿形は同じ、唯一違うのは肌の色がバラバラで、顔や露出した肌は継ぎ接ぎだらけで。

 完全に別の人間同士を組み合わせて作ったような感じだ……まぁ“多少は”似ている気はする。

 

「ふふ、これがよほど気になるご様子ですね。此方は私の能力によって“夢”を集めた結果、精巧に作られた“英雄の影”です。お世辞にも、英雄様のような力があるとはいえませんが……“ケーニヒ程度”であれば、十分すぎるでしょう?」

「……はは、本当にぃ――うぜぇな、お前」

 

 私は無感情に舌を鳴らす。

 そうして、体から箱を出し中身を上に投げて――指につける。

 

 全力だ。

 全力でなければ――やられる。

 

 そう判断し、理解したからこそ私は本気で行く。

 体から魔力が溢れ出し、体外へと放出されて行く。

 床に亀裂が走り、足の筋肉が盛り上がりビキビキと血管が浮き出す。

 

 短期決戦であり、私は周りへの被害も無視して――翔ける。

 

 彼の贋作。

 その脇を一瞬で抜けて女に鋭い爪を向けて――横腹に強い衝撃を感じた。

 

「――!!」

 

 そのまま壁を突き破り。

 ガラガラと駐車場に止まっていた車たちを跳ね飛ばして転がる。

 そうして、手で地面を叩きつけえて空を飛び。

 眼前に迫った贋作に対して拳を叩きつける。

 が、それは私の攻撃を短剣の刃で受け流し。

 そのまま回転したかと思えば、私の体を斜めに切り裂いてきた。

 

「ぐぅ!?」

 

 血が噴き出す。

 が、私はにやりと笑い――それの頭を掴む。

 

 そうして、そのまま力任せに地面へと投げ飛ばした。

 一直線に地面へと落ちて行くそれ。

 そのまま潰れろと思えば――器用に地面に足をつけた。

 

 大きなクレーターを作りながらも、それは再び跳躍し向かってくる。

 私も宙を蹴りつけて奴へと接近し――連続攻撃を仕掛ける。

 

 互いに空中にて攻撃を行う。

 常人であれば捉えられないほどのスピードで。

 攻撃の余波によって周囲の木や車が吹き飛んでいく。

 私は唸り声を上げながら攻撃を続けて――奴の短剣を払う。

 

 瞬間、奴の隙だらけの腹が露になり――全力の拳を打ちこんだ。

 

「死ねェェェ!!!!」

 

 奴の体からメキメキと音がし。

 体をくの字に曲げながら地面へと飛ぶ。

 そうして、今度は着地も出来ずに地面に激突し。

 土煙が上がって、私はそのまま足を突き出し追撃を行う。

 

 確実に当たる。そう考えて――体が止まる。

 

「――は?」

「……」

 

 

 体が止まった――否、“止められた”。

 

 

 私の蹴りを奴は片手で受け止めていた。

 呆けた顔で奴を見ていれば得物が消えていて――“体に取り込まれていた”。

 

「おま――アアアアァァ!!!!?」

 

 声を出そうとした。

 が、その瞬間に強烈な炎によって体を焼かれた。

 

 私は悲鳴を上げて、咄嗟の判断で足を斬り飛ばした。

 そうして、そのまま奴から距離を取り。

 体を地面で転がして炎を消す。

 

 ただの炎だ。

 ダーリンのような強さも特徴も無い。

 が、明らかに普通のものでも魔術のものでもない……危険な類の炎だった。

 

「……傷が、再生しない……違う。抑制されてる」

「……」

 

 十中八九があの炎の影響だ。

 再生の能力持ちの人間に対して。

 それを抑制する効果のある炎を放つ。

 効果は抜群であり、捨て身覚悟の攻撃は出来なくなる。

 

 私は切り離した片足に対して。

 近くに転がっていた建築用の鉄パイプを持つ。

 それを爪で適当な長さに切り――切断面に突き刺す。

 

 ぐちゅぐちゅと音を立てて深くまで差し。

 再生能力が抑制されながらも、何とか鉄パイプとつなぎ合わせる……これで、いいや。

 

 私は両手を地面に当てる。

 そうして、バチバチと体からスパーク音を立てながら。

 体を肥大化させて、むき出しの牙で奴を威嚇する。

 

 獣だ。

 獣になれ。

 敵を、獲物を食い殺す――“肉食獣(ハンター)だ”。

 

 私は限界まで力を高める。

 どうせ、長期戦には向いていない力だ。

 本体であるあの悪魔自体の強さは低いと見ていいだろう。

 だったら、此処でさっさと偽物を食い殺して――あのゴミも喰らう。

 

 

 それで十分であり、私の計画に――抜かりはない。

 

 

「さぁ、行くぞ――食い殺してやるよッ!!!!!」

「……」

 

 

 奴は拳を構える。

 その体からは見えない炎が出ている。

 不可視の炎であり、何処まで人の感情を揺さぶろうというのか。

 

 私はそれでも冷静だ。

 あくまであアレは贋作だ。

 本物には程遠いチープであり……あぁ、会いたい。

 

 

 ダーリンに会いたい。

 ダーリンに抱きしめられたい。

 ダーリンにキスされたい。

 ダーリン、ダーリン、ダーリンダーリンダーリンダーリン――愛してるよ。

 

 

「だぁぁぁぁぁりぃぃぃぃぃんッ!!!!!!!!」

「……」

 

 

 私は愛を叫ぶ。

 他なんていらない、何も必要ない。

 私の世界はダーリンと私だけで。

 私たちの世界を侵略するゴミ共は――全部私が掃除するからね。

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