【完結】祓魔師《エクソシスト》は休みたい   作:オタリオン

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116:勝利の後に絶望を(side:クラーラ)

「――――ッ!!!!!」

 

 咆哮を上げて対象へと音波攻撃を仕掛ける。

 贋作は両手をクロスさせて攻撃を防ぐ。

 が、衝撃を殺し切れずに後方へと吹き飛ぶ。

 

 私は地を蹴る。

 そうして、一瞬で敵へと肉薄し――攻撃を仕掛ける。

 

 連続する拳打。

 肉を打つ感触がするが――当たっていない。

 

 敵は全ての攻撃を見切り。

 両手で受け流す。

 その目は光が無いがジッと私を見つめて――私は敵の肩に噛みつく。

 

 ぶしゅりと血が噴き出し。

 顔面を血に染めながら、敵を遥か上空へと投げる。

 そうして、私はアスファルトの地面を蹴りつけて――飛ぶ。

 

 空中で回転する敵に拳を放つ。

 そうして、そのまま貫通する勢いで拳を突き出し――“敵が消えた”。

 

「……!?」

「――」

 

 雲のように、空気のように消えて――全身が切り刻まれる。

 

 傷口から血が噴き出し、私はくぐもった声を上げた。

 後方を見れば、奴が落下しながら私を見ている。

 その手には武器は無く、両手から血が滴っていた。

 

 私は傷が再生しないと理解している。

 だからこそ、ダメージなど考えずに――空を蹴る。

 

 連続して爆発音が響き。

 私の体は奇妙な軌跡を描く弾丸のように飛ぶ。

 そうして、奴が私を視界から外した瞬間に――爪で切り裂く。

 

 頭を狙った攻撃。

 が、狙いが逸れて耳だけが削がれた。

 奴はそれでも無表情のままで、やはり心が無いただの人形だ。

 私はそうであると再認識し、そのまま風となり奴の周囲を飛ぶ。

 

 奴の体を確実に切り裂きながら。

 奴が再び空気のように消えそうになるのを察知し――電撃を周囲に放つ。

 

 稲妻であり、それが持続している。

 奴は逃れる事が出来ずに真面に受けて。

 全身を黒焦げにしながら落下していく。

 そんな敵を見て、好機だと認識し――拳を固める。

 

 ビキビキと血管が浮き出して、腕が肥大化し。

 私は歯をむき出しにして笑いながら――飛ぶ。

 

 奴の真正面に躍り出て拳を――振り下ろさない。

 

 敵は一瞬にして私の残像を細切れにする。

 不可視の炎も噴き出していた。

 そうすると感じたからこそ、一撃を捨て――ニ撃目で決める。

 

 敵が落下する中で地面にぶち当たり。

 両足に力を込めて――跳躍。

 

 道路がバラバラに砕けて穴が出来ていた。

 が、そんな事など気にする事無く空を翔けて――敵の背中に拳を叩き込む。

 

 が、敵はその寸前に腕をあり得な動きで回転させていた。

 そうして、手刀を私の右目に打ち込んできた。

 顔の半分に強烈な痛みと熱を感じる。

 焼かれており、それを感じながらも――更に力を込める。

 

「逝っちまえェェェェ――――ッ!!!!!」

 

 敵の骨が砕ける音が響く。

 如何に模倣しただけの頑丈さがあったとしても。

 この攻撃に耐える事は出来ない。

 

 全力での一撃であり、敵はそのまま――空の彼方まで吹き飛ぶ。

 

 一条の光となり天を翔けて。

 その光が小さくなっていき――完全に消えた。

 

 私は落下していきながらも何とか体勢を整える。

 ぼたぼたと全身から血を流し。

 荒い呼吸のまま膝をつき、流れる汗も拭えないまま呼吸を整えようとする。

 

 そうして、全身から蒸気を発し、強化状態が解除されて行く中で。

 贋作との戦いに勝った事を認識し――

 

 

 

「――お疲れ様です」

「――ぁ?」

 

 

 

 声が聞こえた。

 

 瞬間、体が揺れた。

 

 ゆっくりと胸の方に視線を向ければ……“心臓を赤く染まった手が貫いていた”。

 

「……お、まえ……どう、して」

「どうして? ……何となく、でしょうか……最期は私がこの手で……いえ、違うような?」

「……ふざ、けてる、な……きめぇ、ん、だよ……ぼ、け……」

 

 奴は私の胸から手を引き抜こうとし――私がそれをさせない。

 

 奴は少し戸惑うような声を出す。

 が、私は筋肉によって奴の手の動きを止めた。

 そうして、血を吐きながらも大きく笑い――“告げた”。

 

 

 

「さっさとやれよ――“脳筋女”」

「――シィ!」

 

 

 

 瞬間、強い風が吹き――“甲高い音が鳴る”。

 

 

 風が収まれば、ぼとりと何かが落ちる音がして。

 ころころとそれが転がり――目が合う。

 

「……あら? 貴方以外にも動ける方がいらしたのですね……少し驚きました」

「すこし……見え透いた、嘘だ、な……ざまぁ、みや、がれ」

 

 悪魔は微笑む。

 ゾーヤの一撃により首を斬られただけじゃない。

 全身も細切れであり、再生は不可能だ。

 どんな強者も、どんな超状の存在でもアイツの刀に斬られれば――それでお終いだ。

 

 奴もそれを察したのだろう。

 悲しそうな顔をしながら最後の言葉を紡ぐ。

 

「私の油断による幕引き。何とも悲しく、何とも愚かな最期でしょうか……あぁ、哀れですね。本当に可哀そうです」

「……ほら、トドメ、しろよ……聞こえてねぇの?」

「……」

 

 悪魔の腕を引き抜き転がす。

 ゾーヤの方を見れば、目隠しの上に耳まで覆っている。

 完全に視界を潰した上に、耳まで塞いで……どうやって来たんだよ。

 

 戦闘中に奴の気配を感じたから良いものの。

 もしも来なかったら、こんな危ない賭けは出来なかった。

 奴は私に対して――“嫉妬”を覚えていた。

 

 分からないだろう。

 男では絶対気づけないような感情。

 女の見た目をし、自らに絶対的な自信を持っていたからこそ。

 そんな自分に無関心であった私が許せなかった。

 だからこそ、最後は自らの手でとどめを刺しに来ると考えて……何で、当たるかなぁ。

 

 嫌な勘が当たった。

 こんなものよりも、ダーリンの考えが読める力が欲しい。

 そんな事を考えていれば、ゾーヤが刀を握りながら近寄って来る。

 私は傷の回復に集中しながら。

 奴が私を斬ろうとしているのではないかと思って慌てる。

 

「お、おま、あっち、あっちだよ! 馬鹿!?」

「ふ、ふふ……あぁ本当に……馬鹿馬鹿しい。こんな人間たちに、私は……だからこそ、私も、そんな貴方たちに、最後の贈り物を――――…………」

 

 ゾーヤが刀を突きさす。

 奴は最後まで言葉を言い切れずに殺された。

 私はふぅっと安堵の息を漏らす。

 そうして、ふらふらと歩く馬鹿の足を小突いてさっさとそれを取れと伝える。

 すると、ようやく私の意志が伝わったのか。

 奴はのそのそと目隠しと耳当てを取り……寝ぼけた目と目が合ってしまう。

 

「……おはよう。起きてるぅ?」

「……? もう昼過ぎ。当たり前」

「……はいはい……ててて……ちょっと手、貸してよ……いや、それよりも!! ダーリンの居場所!! さっさと教えて!!」

 

 ゾーヤは私の手を掴む。

 そうして、持って来ていた回復薬を瓶事私の口に突っ込む。

 すると、アレほどまでにひどかった傷が塞がっていく。

 完全には治らないけど、それでも動けるほどには回復した。

 

 私は何とか立ち上がり……バラバラとヘリの音が聞こえた。

 

 見れば、増援部隊であり。

 その一部が近くの駐車場に降りてきて、武装した祓魔師たちが降りて来る。

 全員が特殊なメットを被っていて、周囲を警戒している。

 私たちの姿を見つけた隊長であろう人物が近寄って来て話しかけて来た……チッ。

 

「皆さまよくぞご無事で!! 我々は上層部からの命により」

「――あぁもういから。さっさと行けよ。邪魔だから」

「あ、は、はい! では!」

 

 隊長らしき男はぺこぺこと頭を下げて去っていく。

 武装した奴らはそのまま周囲の状況を調べに行き。

 他のヘリは遠く離れてしまったオペラ劇場を目指していった……はぁ、たく。

 

「で? 報酬は? 情報は? 早く、はぁぁやぁぁくぅぅ!!」

 

 約束の報酬を払うように私は促す。

 すると、ゾーヤは「あぁ」と言って紙を渡してきた……何これ?

 

「支部長から。読んで」

 

 私はすこぶる嫌な予感を抱く。

 が、読まなければいけないのならばと静かに紙を開いて……。

 

「…………場所は不明。連絡取れず。すまない…………ははは――殺すッ!!!!」

 

 私は紙を引きちぎり、怒りの形相で奴がいるであろう方向を睨む。

 ゾーヤの奴は知らない顔でただ突っ立っているだけだった。

 私は馬鹿の事は無視して、そのまま――互いにその場から飛ぶ。

 

 瞬間、何かが私たちが立っていた場所に撃ち込まれた。

 凄まじい威力であり、周囲にあったものが熱でドロドロに溶けていた。

 私たちはすぐに戦闘態勢に入り……は?

 

「冗談、でしょ……あのクソ悪魔ッ!!」

 

 

 視線を向けた先には――贋作たちがいた。

 

 

 それも一体や二体ではない。

 合計で十体であり、それぞれが違った武器を持っている。

 槍に銃に、太刀に鎖に大鎌に大砲であったり……まずい。

 

 オペラ劇場の方に視線を向ければ黒煙があがっている。

 ヘリが撃墜されたようであり。

 調査に向かった音を聞いて引き返してきた。

 奴らは武器を構えながら、空に浮かぶ贋作たちの顔を見て――動揺する。

 

「な、何故――クソォォォォ!!!!」

「おい、馬鹿やめ――ッ!!」

 

 怒りに駆られた馬鹿が突っ込む。

 ガントレッドを構えて飛び上がり――体が消し飛ぶ。

 

 手足が転がり、メットを被った頭が転がる。

 贋作の一体が銃口を向けていた。

 祓魔師たちは仲間の一人が殺された事に動揺し――隊長の男が叫ぶ。

 

「時間を稼げッ!!! ケーニヒの方々を――逃がすんだッ!!!」

「「「了解ッ!!!」」」

「……! 馬鹿な事――おい! 何してるんだ!?」

「……逃げる。勝てない」

 

 ゾーヤは私を担ぐ。

 そうして、そのまま――駆けだす。

 

 贋作たちが私たちを追って来ようとした。

 が、隊長の男が結界を展開した。

 小規模な結界であり、数秒も保てないだろう。

 しかし、奴らの攻撃音は聞こえてもそれが壊れる気配はしない――アイツら!

 

 

 命を代償にした――“術式の超強化”。

 

 

 結界を張る事。そして、奴らを足止めにする為に――死を決断した。

 

 ゾーヤは何も言わない。

 ただ、真っすぐに走るだけだった。

 振り返る事無く走っていて……あぁ、クソ。

 

 どうでもいい、何とも思わない。

 勝手に助けた気持ちになって、勝手に死んでいって……迷惑だよ。

 

 うざくて、気持ち悪くて。

 一欠けらの憐れみも感じない。

 でも、その分――強い怒りを覚える。

 

 何がケーニヒだ。

 何が、モナートを除けば最高の戦力だ……話しにならないよ。

 

「……ゾーヤ……次は、何」

「……指示は無い。私はただ、命令されて此処に来た……ただ、始まりが近いのかもしれない」

「……始まり?」

「スタンピード……それを超える。遥かに大きな――“決戦”が」

「……!」

 

 ゾーヤの言葉に、流石の私も驚く……そう。

 

 スタンピードは知っている。

 ダーリンでさえも傷つきながら、何とか退けた戦い。

 悪魔たちと祓魔師たちによる大戦争。

 多くの犠牲者を出しながらも、勝利した戦いで……それが再び起きるのか。

 

 私は――震えた。

 

 死ぬことへの恐怖からではない。

 愛する人が傷つく未来を考えて――怖くなった。

 

 もう彼に傷ついて欲しくない。

 もう二度と彼の心を曇らせたくない。

 その為ならば、私は命だって捧げられる。

 

 彼が笑っていてくれるのなら、それだけで――ゾーヤが足を止める。

 

 周囲を見る。

 崩壊した街の中であり、広い道の真ん中で止まっていた。

 

 

「何で止まって…………あぁ、最悪だ」

「……そう、最悪なまでに――“絶望”だ」

 

 

 崩壊した街の中。

 ビルの残骸の上に立つ――“九体の悪魔”たち。

 

 一人は真っ赤なドレスを身に纏い。

 ピエロのような派手なメイクをして、灰のような髪は後ろに流し。

 片手には悪趣味なセンスを持っていて、もう片方の手はむき出しの骨だった。

 ただの骨じゃない。よく見れば、人間の子供の骨で構成されていて。

 それが巨大な手を形作っていた。

 

 もう一体はくちゃくちゃと大きく裂けた口を動かしながら人を喰らう悪魔。

 でっぷりと太った体は強き存在とは思えないほどに醜い。

 肌は灰色で、眼はくりぬかれて穴のようになっていた。

 口は大きく裂けており、鼻は削がれており骨が見えていて耳は鋭く尖っている。

 翼は半ばから千切られていて、魔物の革で作ったと思えるような禍々しい気配のする腰巻のようなものを巻いているだけだ。

 

 残りの六体は暗殺者のような黒衣を纏っていた。

 全員が姿形が異なっていて、女や子供らしき存在もいる。

 それぞれに変わった形の面をつけていた。

 狐、猫、トラ、犬、鹿、人。

 不気味な顔つきであり、人間に至ってはこの世のものとは思えない形相をしていた。

 

 

 

 そんな九体の悪魔たちは、紛れも無い――“強者”だった。

 

 

 

 先ほど殺したあの女の悪魔のような隙が見えない。

 経験不足による油断も無ければ、私たちに対して向ける視線も見下すようなものが無い。

 完全に一人の敵として認識し――全力で来ようとしていた。

 

 

 強い。隠しきれていないほどに――魔力量が桁違いだった。

 

 

 ドレスの女がセンスをたたむ。

 そうして、眼を細めて笑いながら――言葉を発した。

 

「貴方たちがぁ――ケーニヒ、なのかしらぁ?」

「「……」」

「沈黙はぁ、肯定ってぇ……受け取るわねぇ? きひひひ」

 

 女は満足そうに笑う……何?

 

 ケーニヒである事を確認して来た。

 それに何か意図があるような口ぶりだった。

 まるで、ケーニヒを探していたような……デブの悪魔が叫ぶ。

 

「なぁ!? 喰っていいか!? 喰っていいよなぁ!!? ケーニヒ喰いてぇよ!!!」

 

 奴は子供のように地団駄を踏む。

 すると、ビルは音を立てて崩れて行く。

 奴は残骸に埋もれて――全てが一瞬で消える。

 

 見れば、奴が口を動かして……喰ったのか?

 

 私はゾーヤから離れる。

 そうして、戦闘の姿勢を作りながらも敵を注意深く観察する。

 すると、六体の悪魔たちがくつくつと笑い始めた。

 

「慌てるでない。喰おうと思えば、何時でも喰える……が、その前にやるべき事があるであろう?」

「そうそう! 目的を忘れちゃダメだよ!」

「魔王様より賜った命……絶対に忘れてはいけない」

「で、でもぉ。こ、この人間たち、て、抵抗する気じゃ」

 

 六人の悪魔が口々に喋る……“違和感”。

 

 私の目には確かに六体いるように見えている。

 が、私の勘があれらに対して違和を訴えてきている。

 まるで、アレらは実際は異なる何かと――センスを叩く音が響く。

 

「食べるのはぁ後でぇ。先ずはぁ、魔王様の命を優先ですわよぉ……まぁ、用があるのはぁ、そこにいる貴方だけなんですけどねぇ?」

「……私か……なら、お前は先に」

「――冗談でしょ? 行く訳ないじゃない。ダーリンに怒られるし……それに、行かせる気、絶対ないでしょ、あれ?」

 

 私は冷汗を流しながら、先ほどから餌として見て来るデブを警戒する。

 ぼたぼたと洪水のように口から唾を流していて。

 アイツに限っては、命とやらが無い限りすぐに殺してくる可能性がある。

 

 ……アイツは一番危険……でも、他の奴らも……あぁ、ダメだ。

 

 勝てるヴィジョンが――全く見えない。

 

 圧倒的なまでの強者であり。

 一部の隙も見えてこない。

 力の差は歴然であり、一体だけであろうとも二人が全力の状態で互角……いや、それもあり得ない。

 

 それほどまでの差であり。

 私は静かに指につけた指輪に口を近づけて――接吻する。

 

「……覚悟は出来たよ……アンタは?」

「出来ている……背中は任せた」

「はは、嫌だけど……ま、いいよ」

 

 私は両手を地面につける。

 ゾーヤも腰を低くし刀を握る。

 敵はそんな私たちを見つめて――三日月のように口を歪めた。

 

 

 

「それではぁ――“踊れ”」

「「――――ッ!!!!」」

 

 

 

 私たちは奴の言葉と同時に飛ぶ。

 敵へと向かい力を覚醒させる。

 全力であり、命を懸けて――――…………

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