未来が――“見える”。
「――」
大空を翔けていき、敵の動きを光として捉える。
無数の光の線が四方八方で蠢き。
それを体全体で感じながら、手足を動かす。
音速を超えるほどの攻撃。
鋭く重く、殺意の籠った連撃。
蛇のように特異な軌跡を描き、俺の首を撥ねようと迫る。
上から下から、右、左、後ろ――“全て、見える”。
「「「――ッ!」」」
四方八方から飛ぶ斬撃に拳打。
合わせるように剣を動かし、その攻撃の軌道を逸らす。
剣は激しく振動し、衝撃が体の横を抜けて行く。
衝撃だけで周りに存在した建物の残骸には風穴が開き。
受け流した力が巨大な一本の道を創り出す。
一撃一撃が必殺。
喰らえば即死級で。
今までの俺なら……いや、違う。
今までの俺は――“もういない”。
全ての攻撃の軌跡を見つめながら。
俺は考える事も無く手を動かす。
剣を振るっているんじゃない。
剣を添えるようにするだけで、全ての攻撃を受け流す。
静かに呼吸し。
時が止まったような感覚を抱きながら、剣を横へと振るい――“瞬間、無数の斬撃が飛ぶ”。
「「「――ッ!!」」」
敵たちから血が噴き出す。
本能でガードをしていた。
が、それを貫通して敵を切り刻む――浅い。
まだだ、まだこんなものじゃない。
完成にはほど遠い。
そう感じながら、敵が距離を取る。
そうして、六体の仮面の悪魔たちが手をギュッと握り――能力を発動させる。
「「「――
仮面の悪魔たちの能力。
それが発動し――俺の周りの空間から無数の手が現れる。
死人のような青白い手で。
それらが俺の体を掴む。
その瞬間に、俺の視界は暗転し。
目の前にはカラカラと音を立てて笑っている髑髏が姿を現す。
それが俺の魂を吸い上げていく。
体から力が抜けていき、意識が消えそうな感覚を覚えた。
俺の体から熱が奪われ。
命の火が消えかける。
蝋燭の火のようにか細い火で――息を吐く。
「「「――ッ!?」」」
瞬間、無数の手が黄金の混じった炎に焼かれて消えた。
髑髏は視界から消し飛び、視界は元に戻る。
一瞬で不気味な手は燃え尽きて、俺の体の熱は戻る。
仮面の悪魔たちは武器を構えてすぐそこに迫っていた。
俺はそんな奴らを見る事無く――吹き飛ばす。
「「「ぐぁ!!?」」」
体から魔力を発しただけだ。
それだけで上位に位置する悪魔たちは彼方まで吹き飛ぶ。
俺は空中で静止しながら、静かに空を見上げた。
魂を吸い取る能力。
簡易的な領域を形成し、対象を縛り付けて攻撃する即死級の力だ。
常人であれば一つの手のみで死んでいただろう……が、意味はない。
そんな事を考えいていれば、他の悪魔たちが一気に距離を取る。
静かに視線を向ければ、デブの悪魔の魔力が高まり――叫ぶ。
「――
巨体の悪魔が叫ぶ。
瞬間、周囲一帯に不可視の力を感じて――周囲の地形が抉り取られる。
建物も何もかもを一気に削り取った。
範囲にすれば半径数百メートルほど。
地面を見れば歯型のようなものが見える。
俺自身にも今も何かが結界に当たっていた。
巨体を見れば、歯ぎしりをしながら怒りをあらわにしていた。
どう動くかを考えて――女の悪魔が側に降り立つ。
「……やはり、噂は本当のようでしたねぇ。人類最強?」
「……」
「何か言ったらどうなんですかぁ? それとも、別の呼び方がぁ――カミ」
「……くだらねぇよ」
「――“条件達成”」
ドレスを纏った女が不気味な笑みを浮かべる。
奴は地面の上でセンスを広げていた。
それをパンと折りたたむ。
瞬間、俺の心臓に――不可視の剣が撃ち込まれた。
これは何かと考えて――生命力が一気に減っていく。
ドレスの女悪魔を見れば、その体に力が溢れて。
ドレスの下の体が盛り上がっていた。
魔力量も上昇しており、肉眼で見えるほどに赤黒い魔力が天まで昇っていた……あぁ、なるほど。
「……生命力の吸収。それを能力者へと譲渡……“十手”だけの事はあるな」
「……知っていたんですかぁ? きひひひ」
奴は笑う。
そうして――一瞬で目の前に現れる。
拳を握り、俺の腹に叩き込んで。
メリメリと音を立てて、俺の体は遥か上空に飛ばされた。
成層圏まで瞬で達し、奴らの体が見えなくなり――背中に強い衝撃が加わる。
「きひ!!!」
「――」
俺はそのまま垂直に落下する。
地上から一気に離れて、即地面へと落下していく。
体は凄まじい熱に包まれて、光となって空から降り落ち――衝突する。
大地が大きく揺れた。
土煙が周囲一帯を飲み込んで。
巨大なクレーターが出来上がる。
俺は体を大の字にしながら、煙の先を見つめる。
女悪魔が追撃してくる未来を視認し――剣を横に振るう。
瞬間、俺の前に達する前に女悪魔の体は――“切断された”。
「――うぐ!?」
遠く離れた本人の表情は困惑であり。
俺はゆっくりと地面から立ち上がって、剣を振るう。
瞬間、再び能力を発動し俺を喰らおうとしたデブは――頭が飛ぶ。
「あぁ?」
「……」
煙の中だ。
肉眼では何も見えない。
が、俺には“未来”と“確かな結果”が見えていた。
確定した運命であり、曲げる事の出来ない道。
それをなぞるように動けば――認識した結果のみが残る。
俺は何も思わない。
ただ作業のように敵を殺す。
チラリと視線を向ければ、仮面の悪魔たちが立っており――その姿が変質していた。
まるで獣。
抑えきれないほどの魔力量に、殺意に染まった瞳。
体も大きく成長し、奴らの手には砕けた仮面が握られていて――理解した。
「……自らの死。その回数による自己強化……お前たちは“壱”か」
「……くくく、何もかもお見通しか。流石は――我らが宿敵だァ!!!」
「「「ガァァァ――――ッ!!!!」」」
悪魔が消える。
そうして、残像を無数に生み出しながら大地を駆けた。
速度は光となり、無数の攻撃が体に打ち込まれる。
俺の体は空を舞い、地面へと激突し。
更に空へと舞い上がり、それでも止まる事無く攻撃が行われる。
上昇、衝突、また上昇。彼方へ飛ばされて――視界が目まぐるしく変わっていく。
敵の攻撃のみで、長い距離を強制的に移動し。
あっという間にライツを超えて、遥か海の上を滑空する。
それでも尚、敵の攻撃は止む事無く。
四方八方から密度を極限まで高めた魔力弾が撃ち込まれた。
全身が激しく焼かれて手足はねじ曲がり。
服はボロボロで、原型を留めていないほどに傷ついていた。
全ての敵の攻撃が急所を狙っていて。
確実に俺を殺すと言う意志を感じる。
それを認識しながら、俺は剣を――振るう。
静止した時の中で横に剣を振るえば。
時が動き出して――鮮血が舞う。
六体の悪魔たちの体が切断されて、ぼとぼとと海に落ちて行く。
唯一、致命傷を逃れた人の仮面をつけた悪魔は切り飛ばされた腕の切断面を抑えながら。
海を凍らせて土台を作ってそこに膝をつく。
奴は驚愕したような目で俺を見つめていた。
「何故、どうして――元に、戻っているッ!?」
「……」
空中にて制止する俺は、ボロボロの姿“だった”。
奴の言った言葉の意味は、そんな俺の姿が“完全な状態で元に戻っている”事についてだろう。
俺は小さくあぁと呟きながら――
「――“こうあるべきだから、だな”」
「こう、あるべき……ふ、ふふ……そうか。やはり、貴様は……“完全なる理”をッ!!」
奴がそんな事を言えば、氷を突き破って悪魔たちが復活する。
完全な状態。否、更に力を覚醒させた状態で蘇っていた。
奴らは獣を超えて魔性となり、俺へと殺意を向けて飛び掛かり――
「――はぁ」
「「「……!!?」」」
俺は奴らを通り過ぎて。
海面に足をつけて止まる。
瞬間、後方で何かがはじけ飛ぶ音が響いたかと思えば。
赤黒い雨が降って来た。
俺はそれが体に掛らないように結界で防ぐ。
俺はゆっくりと振り返り、元いた場所をイメージし――地面に降り立つ。
瞬間移動。
あっという間にライツへと帰って来た。
新たな力、というよりは元々あった力。
違いがあるとすれば……アイツと混じり合っている。
「……この程度、か……まだだ」
俺は自らの力を再認識する――足りない。
渦を巻くように心の中で破壊衝動が溢れていた。
殺意と怒りであり、それが俺をカミではなく獣に変えようとする。
本能のままにあらゆるものを壊す存在であり――が、そうはならない。
内に秘めた強大な破壊衝動。
が、それが表面に出て来る事は決してない。
完全に制御出来ており、自分でも分からないが新たな力を――使いこなしつつある。
まだまだ発展途上。
十手の中でも、奴らは下位の存在だ。
それに、アイツらは最後まで“本気の状態”では相手をしてこなかった。
恐らく、アレは本体とは別の分身のようなものだろう。
手応えはあったが、確実に偽物であると分かる。
まぁ本物であっても、ジュダスには遠く及ばない存在たちだ……急ごう。
残された時間は少ない。
このままでは、間に合わなくなる。
急がなければ――決戦の日が来る。
「……」
俺は剣を消す。
そうして、クラーラたちの元に移動し。
彼女たちの体に触れて――飛ばす。
支部長がいる場所へと飛ばした。
後はアイツが何とかしてくれるだろう。
俺は立ち上がり――――天使長の元へと戻る。
星空の見える空間。
疑似的な月の上の世界。
そこにはサムたちと優しく微笑む天使長がいた。
「「「……!!」」」
「――王の復活を、心よりお喜び申し上げます」
「……デウス・エクス・マキナの元へ行く」
サムたちは俺を見て驚く。
が、俺は彼らには声を掛けず。
天使長に対してデウス・エクス・マキナの元へ行くと伝えた。
「……場所が、分かるのですか?」
「……あぁ、記憶が戻ってな……アレは俺が蒔いた種だったよ」
「……なるほど。道理で、私が感知できなかったのは……して、どのような方法で?」
天使長は聞いて来る。
その口ぶりからして通常の手段では辿りつけない場所である事は理解しているようだった。
俺は異空間からあるものを取り出す。
それはタクミ・カブラギから渡された謎のキーカードで――それを砕く。
瞬間、キーカードの残骸から白い光が発生し。
それらが線となって――道を示す。
「デウス・エクス・マキナは――月にある」
「「「……!!」」」
「なるほど、月に…………この術式の構築からして、特殊な結界内。それも許可ある者以外は何人も立ち入る事の出来ない強固な結界ですね……記憶を失う前に、貴方様がこれの為に力を使ったのは分かりました……それで、私がこれを?」
「……あぁ、これを構築する上で縛りを設けた。俺と魔王、その二つがこれを解く事は出来ないと……頼めるか?」
「……分かりました。少しお時間を頂きますが、必ず……その前に、やるべき事があるのであれば……」
天使長はくすりと笑う……知られているようだな。
俺は助かると伝えてその場を後にしようとした。
サムたちが何処に行くのかと問いかけて来る。
俺は振り返る事無く伝えた――
「日之国……聖命病院だ」
「病院……何を?」
「……聞くんじゃねぇよ」
俺は舌を鳴らす。
そうして、そのままその場を去る。
イメージをし、足を動かして――次の瞬間には、病院の屋上に立っていた。
「……」
空を見上げる。
日は完全に沈んで、月が見えていた。
病院は閉まっている頃だが……仕方ねぇよな。
時間が無い。
恐らく、もう二度と此処には戻ってこれないかもしれない。
だからこそ、アイツに……“アイツら”に――教師としてケジメをつけなければならない。