【完結】祓魔師《エクソシスト》は休みたい   作:オタリオン

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120:創世は月を求める(side:ベルクゥリ)

 重厚な扉が音を立てて開かれる。

 隙間から心すらも凍えるような冷気が漏れ出していた。

 完全に開かれれば、先ずは私が歩を進めて中へと入る。

 続いで、ジョーンズと元ケーニヒの女も入って来た。

 

 チラリと奴らの顔を見た。

 ジョーンズは涼し気な顔であるが、女の方は表情を僅かに引きつらせていたように感じる。

 私はそれを一瞥してから部屋の中央まで進む。

 暗闇であり、我々悪魔にとっては心地の良いケガレに満たされていた。

 私たちは静かに膝を屈して、我らが王に挨拶をする。

 

「十手・七掌“創世”のベルクゥリ――御身の前に」

「「……」」

 

 ケガレに満ちた魔王様の御前。

 我々は膝をつき頭を垂れた。

 すると、闇の中から巨大な眼球が現れた。

 殺意と怒りに染まった瞳であり、それが我々を見つめる。

 

 魔王様の目だ。

 それは私たちを見つめながら――静かに発言する。

 

「――話せ」

「ハッ……エヌトゥヒィの働きにより、必要な情報が集まりました。多くの人間たちの魂、それを鍵とし“星の記録”へとアクセスし。デウス・エクス・マキナの場所と起動に必要なものも判別いたしました。鍵自体は、私の能力でも問題はなく」

「――他の欠片は何処だ」

「……恐らくは、天使の生き残りが隠しており……それは、あの男に渡ったかと思われます」

 

 私は必要な情報を魔王様に伝えて行く。

 自らの手を見れば僅かに震えていた。

 これは紛れも無い恐怖であり。

 私は魔王様を本能から恐れていると分かる。

 どんなに力をつけようとも、我々悪魔はこのお方には逆らえない。

 魂がそうであるように作られているからだ。

 

 ……それにしても、デウス・エクス・マキナか。

 

 対魔局の上層部に潜り込んでいる十手・四掌“鏡双(キョウソウ)”のノートス。

 奴が我々にもたらした情報では、アレは魔王様に傷をつけられる代物らしい。

 上層部の一部の人間たちはその存在を知っていたが。

 場所は勿論の事、起動の方法までもが知らされておらず。

 ノートスはかなり情報を得るのに手こずっていたようだった。

 

 驚かされたのは事実だ。

 何せ、製造をした人物はあのカブラギの人間であり。

 その子孫も生きていたからだ。

 調べれば簡単に分かると思っていたが。

 実際にはその所在はまるで分からなかった。

 

 存在していると知っている人間がいるのに、誰もその場所を言えない。

 創った人間が確かに存在しているのにその記録は一つも無かった。

 あるのは、それが強大な力を有して世界を意のままに操れるだろうというあやふやな情報だけだった。

 

 機械仕掛けの神という大層な名前だけが語り継がれて。

 対魔局の上層部も最終的にはそれを使えるものだと考えていた……浅はかだよ、全く。

 

 愚かすぎる人間共。

 だが、ゲンブ・カブラギなる男はかなりの切れ者だったようだ。

 まさか、地球にて製造したデウス・エクス・マキナを秘密裏に月に作らせた施設に移送していたとは。

 場所を知っている人間たちには記憶処理を施していたのだろう。

 死人は何も語らず、その子孫も当然、何も知らなかった。

 月への移送に関しては他の生き残りの天使と協力し、その場所を秘匿していたとは……いや、少し違うかな。

 

 天使の力にしては、場所の秘匿性がかなりの精度で高められていた。

 今までの調査では見つけられず。

 ノートスによってその名前と存在が確実なものとなるまでは。

 本腰を入れての調査も出来なかったからだ。

 それだけあの場所の秘密を守り切る事が出来ていたのなら……神、いや、それ以上の存在の……あぁ、なるほど。

 

 私はにやりと笑う。

 つまり、あれ自体も奴の仕込みであったと言う事だ。

 記憶を消し、人間社会で生きていたあの男。

 カミである事を隠し、私でさえも騙されたその演技っぷりは……流石としか言いようがない。

 

 もしも、我々に殺されていればどうしていたのか。

 いや、殺す事が出来ずとも。

 私のように奴を監禁し、その身を悪魔共が喰らい続けていれば……ふふ、狂っているよ。

 

 最高にイカれた賭けだ。

 自らの存在をチップとし。

 全ての準備が整うまで何も知らない自分を盤上で動かしていた。

 恐らく、この世界に来た時点で力の大半は喪失しかけていただろう。

 最後の力をデウス・エクス・マキナと己の肉体の補強に当てて。

 力を完全に取り戻すまで、ランベルト・ヘルダーとして過ごしていた。

 

 もしも、魔王様がより早く奴の存在に気づいていれば……いや、どうだろうか。

 

 私は常々考えていた。

 恐らく、魔王様は――“最初の段階で気づいていた”のではないかと。

 

 奴がこの世界への侵入を果たした時点ですでに気づいていた。

 が、我々に命じて全ての戦力を投じる事によって奴を捕獲する事は命じなかった。

 そもそも、奴の正体ですらもここ最近になるまで明かさなかった。

 それはつまり、奴を我々に――捕縛させない為だったのではないか?

 

 理由は幾つかあるだろう。

 先ず一つは、奴そのものを早期の段階で消していれば確実に我々の世界は滅んでいた可能性がある事だ。

 恐らく、奴がこの世界へとやって来る前に神々に命じていた筈だ。

 自らが死んだ場合、即刻、世界諸共、消滅させるようにと。

 そうすれば、世界に影響が出るものの、完全に復活できていない魔王様はそのまま別の封印を施される事になる。

 力の欠片を一つも回収できていない状態であれば、数十名の神の力でも封印は事足りていたかもしれない。

 つまり、カミは己の命を爆弾の起動スイッチのようにしていたのだ。

 五体満足で生かしていた状態では結果は同じであっただろう。

 

 もう一つの理由は、魔王様の復活に関わる事だろう。

 力の欠片を取り戻す事が、魔王様の復活の最短の道。

 それに変わりはないが……どうにも腑に落ちない。

 

 魔王様は何かを狙っている節がある。

 それは分からないが、確実にあの男が関わっているのは分かる。

 あの男を利用して何かをしようとしている。

 我々には必要な情報しか与えられないからこそ、これ以上は考えられないが……まぁいいでしょう。

 

 この二点から、魔王様が奴を泳がせていたのは察しが付く。

 が、デウス・エクス・マキナについては完全に出し抜かれていた。

 

 我々もデウス・エクス・マキナの存在を知った時は、確実に奴らの頭であれば知っていると考えたが……抜け目のない事だ。

 

 記憶を失っていたとはいえ、あのランベルトですらも騙すほどだ。

 我々の調査が難航したのも頷ける。

 が、結果から言えば情報戦における切り札を使う事によって――居場所は分かった。

 

 ノートスも、可能な限り奴らの妨害はしていたようだが。

 もうそれも意味はない。

 奴らの動きからして、上層部の一部の協力者についても掃除を始める頃だろう。

 ノートスの痕跡やエヌトゥヒィの痕跡。

 そして、奴の力による星の記録の閲覧により逃げ道は無い。

 

「魔王様。ノートスに命じ、奴らの始末を」

「――必要ない」

「……お言葉ですが、此処で人間の統率を――ッ!!!」

 

 私が発言をしようとすれば。

 全身に凄まじい力が加わり。

 足が床にめり込んでいく。

 今にも体が破裂しそうであり。

 私は口元から血を垂らしながら魔王様の目を見つめる。

 

 

「――逆らうのか」

「「「……!!!」」」

 

 

 全員が心を凍り付かせる。

 私は額を地面につけて――謝罪を口にする。

 

「申し訳、ございません。私が、愚か、でした……貴方様に、逆らうなど、滅相もござい、ません!」

「……ならば、すぐに動け……事を進めろ」

「ハッ……っ」

 

 力が弱まり。

 私は少し頭を上げた。

 すると、そのタイミングで扉が開き……ほぉ。

 

 三体の悪魔たち。

 それぞれが我々の背後に立ち……膝をつく。

 

「十手・八掌“六冥衆(ろくめいしゅう)”ザバーランザ……御身の前に」

「十手・九掌“殺戮煉情(さつりくれんじょう)”ピーシピーラ……御身の前に」

「十手・十掌“負音招継(ふおんしょうけい)”ヌスアァレンタ……お、御身の、前にぃ」

 

 同じ十手である悪魔たちが集う。

 が、その姿は傷ついており……負け犬共が。

 

 魔王様は奴らを静かに見つめる。

 そうして、その体から黒い触手が伸びて行く。

 

「我が子らよ。貴様らの血肉を――我に捧げよ」

「「「ハッ!」」」

 

 奴らは立ち上がる。

 そうして、両手を広げて――心臓を貫かれる。

 

 瞬間、奴らの体から全てが抜かれて行く。

 その体は一気に痩せ細り。

 カラカラになるまで吸われて。

 灰となって消えてなくなり、後に残ったのは奴らの魂とピーシピーラが持っていた心臓だけだ。

 それらがゆっくりと魔王様の元へと吸い込まれて行き――魔王様の放つケガレが更に濃くなる。

 

「……足りない。全く、満たされていない……が、今は、これで良い……我が子らよ――戦の準備だ」

「「ハッ!」」

「……っ」

 

 私とジョーンズは応える。

 が、女は応えなかった……まぁいい。

 

 用は済んだからと我々は立ち上がりその場を去ろうとする。

 が、私は魔王様に呼び止められて――心臓を触手で貫かれる。

 

「な、に、を――ッ!!!」

「褒美だ――受け取るがいい」

 

 魔王様から流れて来るケガレ。

 それが全身を駆け巡り。

 体が凄まじい熱を帯びて行く。

 まるで、太陽の表面で焼かれるが如き熱。

 

 

 熱い、熱い、熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い――気持ちがいい!!

 

 

「はは、ははは、はははははは!!!!」

「――行け。役目を果たせ」

「仰せのままに!!」

 

 私は深々と礼をする。

 そうして、マントをはためかせて謁見の場を後にする。

 扉を潜れば勢いよく扉は閉まり。

 我々は魔王上の廊下を歩いていく。

 

「ジョーンズ。それと、女……私の足を引っ張るなよ?」

「けっ、ほざいてろ」

「……」

 

 私は激しい熱を感じる。

 魔力が溢れており、ケガレに満ちていて。

 今なら特異能力ですらも強化されていると感じられる。

 

 通常の状態でも強力な力だ。

 それが更に強化されているのであれば……届くかもしれない。

 

 理を司る存在たちに。

 世界の絶対的な支配者たちに。

 この私の能力が――届き得る!!

 

 あぁ、素晴らしい。素晴らしいほどに――私は完璧だぁ!

 

 自らの才能と力に惚れ惚れする。

 必ずや魔王様のご期待に添い、己の力を示して見せる。

 この手によって必ずやデウス・エクス・マキナを――“御して見せよう”。

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