光と共に、領域内に降り立つ。
サムたちは武装の手入れをし。
天使長を見れば……。
「……帰った」
「「「……」」」
ゆっくりと地面に降り立つ。
月の上を模して造られた空間。
その中心には無数の光に扉が開かれていた。
そこから伸びる白く光る線。
正座をして目を閉じている天使長へと繋がっていた。
デウス・エクス・マキナ――それの開発をゲンブに命じたのは過去の俺だ。
アルメリアやタクミはデウス・エクス・マキナが世界を滅ぼしかねないものであると認識していた。
記憶を失っていた俺自身もそうであると考えていた。
今もその認識に間違いはない。
アレは世界を滅ぼせるだけの力を有しているからだ。
魔王とアレがぶつかり合う事によって世界が終焉を迎える、と……正しいだろうさ。
が、それは誤った使い方をした場合に限る。
アレは何の力も権限も持たない人類では御すことが出来ない。
欲望のままに使う事によってケガレが生まれ。
神は第二の魔王に転じてしまう。
故にこそ、アレだけは誰にも明かす事を許さなかった。
ゲンブのみであり、製造に関わった者は全て記憶を消しただろう。
それが俺が彼に語った願いであり……彼は役目を果たしてくれた。
その製造を知る者はいた。
が、アレそのものを意のままに操れる者はいない。
人工の神の力を恐れ、人類の切り札であるとだけ認識し。
魔王とその一派の動きすらも制限する事が出来た。
存在する脅威に対して、奴らは過剰な動きが出来ない。
力を失っているのならなおさらであり……だからこそ、このタイミングで動いたのだろう。
力の欠片を二つも手に入れて。
奴の力も少しは戻った筈だ。
その状態であれば、まだ完全な状態では無い俺と。
創られし神を相手にして勝つことが出来る、そう考えた筈だ。
俺自身の命を使った時間稼ぎも意味がなくなり。
いよいよもって、総力戦に挑む事になるだろう。
奴がどのような手で来るかは定かではない。
が、此方も奴の全力を想定して動く。
ゲンブも、タクミも……上手く動いてくれたよ。
ゲンブは死んだ神の代わりを生み出し。
タクミは“自らの記憶”を操作して、敵や味方である俺すらも欺いて見せた。
記憶を取り戻したからこそ、彼らの事も理解できた。
彼らがこれまでどれほどの長い時間をかけて、俺に協力してくれたのか。
タクミの記憶を戻す事は簡単だ。
だが、それをする事は俺には出来ない。
彼はそれを望んでいないからだ。
今の彼はタクミ・カブラギであり――ゲンブ・カブラギではない。
一つの魂が変質し。
二つの存在となっても。
そこにいる者は同じであり……だからこそ、もう十分だ。
これ以上、彼の生を滅茶苦茶には出来ない。
俺が干渉した事によって、彼の未来も大いに変わってしまっただろう。
幸せなものであったのなら幸いだが。
これ以上の負担は、不幸への道でしかない。
ありがとう――俺は心の中で伝えた。
最終段階へと移行している今。
デウス・エクス・マキナは敵の手に渡らせる訳にはいかない。
敵の手に渡れば、アルメリアの忠告通りの末路を辿る。
世界の崩壊を招く事態となるだろう。
それだけは絶対に避けなければならない。
アレは魔王に対して唯一対抗できる手段の一つ。
力を取り戻した俺と人工の神による力で、奴を打倒する計画だったのだ。
アレは確かに危険だ。
それだけの力があり、創り出す為だけに多くの天使の血を必要とした。
尊い犠牲とは言わない、死んでいった者たちに対して罪の意識はある。
が、それでも魔王を倒さなければならなかった。
“過去の俺”は奴の封印を望み。
“現在の俺”はアレを使って魔王を倒し――己の中へと戻そうとしている。
機械仕掛けの神は、使用者の願いを聞き。
それを思うままに叶える力を秘めている。
願望器であり、それそのものが神や魔王をも殺す――武器である。
そんな事を考えていれば――天使長が目を開く。
「……お待たせしました。もう間もなく――準備が整います」
「……そうか。助かる……サム、レイノス、レックス、ゴラム……お前たちもついて来てくれ」
「……俺たちが、ですか? その……いいのですか?」
「あぁ来てくれよ……今のお前たちになら――アレを任せられる」
「「「……?」」」
四人は困惑している。
何故、自分たちなのかという顔をしていた。
それはあの剣と共有したものが関係している。
デウス・エクス・マキナの起動には俺の力を必要とする。
が、それ以外でも起動は可能であり、それこそがあの剣の力という訳だ。
聖なる力、穢れ無き想いこそがアレを動かす力となる。
今の四人であれば、俺が動かさずともアレを操縦する事が出来るだろう。
可能であれば、俺がアレを動かさないでいたい。
もしも、デウス・エクス・マキナと俺が同じ場所に留まれば。
それだけ死のリスクは跳ね上がるからだ。
……もしかすれば、彼らの死の運命はそこなのかもしれないが……絶対にそうはさせねぇよ。
死んでもこいつらは俺が守る。
だからこそ、共に死地にて戦って欲しい。
俺の教え子として、俺の事をずっと見続けて来たこいつらの事だ。
他の誰よりも俺の事知り、連携も取りやすい筈だ――故に、彼らを操縦者とする。
「……俺自身はアレを動かさない。魔王に奪われない為の縛りとしてアレに制約を施す……だからこそ、サム……お前たちにあれの操縦を任せたい」
「ちょ、ちょっと待ってくださいよ! 急にそんな事を言われても、そんなもんの操縦方法何て……」
「分かってる。が、アレに乗れば……すぐに分かるんだよ」
「そ、それって……いや、分かりました。やってみますよ……貴方からの難題には慣れっこですしね」
「「「全くだな」」」
「……へっ、言ってろ」
……タクミには申し訳ないと思っている。
記憶を失った状態のアイツの願いはデウス・エクス・マキナの破壊だった。
人類の手に余る力は世界を滅ぼしかねねないと。
俺自身も今もそれはそうだと思っている。
が、魔王との戦いにおいてはアレを使わない選択肢はない。
その為に用意したものであり、それが終われば自壊するように設定はされてある。
……悪いな。だが、終われば始末はする……待っててくれよ。
俺は心の中で今のタクミに謝る。
すると、天使長の様子が変わる。
見れば何か慌てている様子で――光の線から黒いケガレが流れ込む。
「ぐぅああぁ!?」
「――どうしたッ!」
「待って下さい!! これは、敵の――あの、扉をッ!!」
彼女は目や口から血を流す。
俺が助けようとすれば、彼女は指を動かして俺たちの横に一つの扉を置いた。
その扉が開かれれば長い道が続いていた……この先か?
俺は天使長を見る。
彼女は血反吐を吐きながらもにこりと笑う。
「私の役目は此処までです。はは、大丈夫、死にはしませんよ……皆様の勝利を心から願っていますからね……さぁ早くッ!!」
「……ありがとう」
「「「……っ」」」
俺たちは彼女に頭を下げる。
彼女は笑みを浮かべながらケガレにその身を侵されて行く。
が、それでも気丈に笑って空間の意地に務めていた。
俺たちは扉に向かって走る。
サムたちも続いて、俺たちは扉を潜り長い道を走っていった。
真っ暗な空間であり、下にはガラスで出来たような透明な道が真っすぐに続いていた。
俺たちは走る。
後ろを振り返る事無く走る。
すると、背後で何かが砕ける音がした。
それは連続して響き、段々と近づいて来る。
空間内には黒い稲妻が走る。
それらが俺たちを殺そうと襲い掛かって来る。
俺は指を動かして結界を展開する。
結界に阻まれて稲妻は弾かれて行く。
が、後方から響く破壊音はどんどん大きくなっていく。
誰も何も言わない。
ただ真っすぐ前を見て走り――光が見えた。
「――掴まれ!!」
「「「……!!」」」
俺が全員に片手を差し出す。
すると、全員が俺の腕に掴まり――俺は飛んだ。
結界を破壊し、一直線に光の下まで飛んだ。
すると、破壊音は遠ざかり視界が白い光に包まれて――――…………
…………――――目を開く。
そこは巨大な倉庫のようで。
暗かった部屋の中は人口の明かりに満たされて行く。
途轍もなく広く、周りには破壊された無人機らしきものが転がっていた。
そして、俺たちの目の前には――白い巨人が鎮座していた。
《――――》
「……ようやく、か」
センサーに光は無い。
待機状態であり、俺の声にも反応はしない。
巨大な人工物であり、地球上には存在しない物質で作られた存在だ。
唯一無二で、星を統べる者であり……“あぁ、想像通りだ”。
デウス・エクス・マキナ――機械仕掛けの神だ。
ようやくここまで来た。
そう思いながら見つめて。
よろよろと立ち上がるサムたちに視線を向けて――結界を展開する。
瞬間、凄まじい勢いで風の刃が襲い来る。
それらは甲高い音を立てながら、俺の結界を切り刻んでいく。
一瞬にして何重にも施した結界が破られて。
俺はサムたちと自分を――デウス・エクス・マキナの足元に転移させた。
「……テメェか……嫌な奴に出会っちまったな」
「くくく、まぁそう言わないでくださいよ。私はどれほど貴方に再会する事を望んでいた事か……あぁ、正に愛ですよ。ヘルダぁ?」
ゆっくりと影の中から現れた男。
腰まで伸ばした金髪に、力を示すように額から白い角を一対生やしている。
その背には血に染まった真っ赤なマントを羽織っていた。
瞳は赤く、顔は恐ろしいほどに整っていた。
白を基調とした上等な衣服で身を包み、貴族とでも言わんばかりにごてごてとした装飾を身に着けている。
狐のように目を細めて笑い。
俺という存在を見ているようで、全く別のものを見ている、そんな気がした。
一人の戦士、一人の人間としてじゃない。
あの瞳に映っている俺は餌であり、奴は食事をしに此処に来たと言わんばかりの傲慢な態度だった。
貴族のような身なりに、人を嘲るのが趣味であるようないけ好かない顔。
俺を捕らえてほくそ笑んでいた時とはまるで違う。
その力は成長し、その体つきも洗練されたものになっていた。
驕り高ぶり、自尊心に満ちていた悪魔。
が、今やそれに見合うだけの力を得たようだった。
自力で到達したのか。それとも、魔王の力によるものか……恐らくは後者だろう。
隠す気もないほどに奴の体内から魔力とケガレが噴き出していた。
この目に映る奴は泥のような黒いケガレと血のように赤黒い魔力に染まっていた。
危険であり、この場に奴がいるのなら目的は同じだろう。
避けては通れない障害であり、否が応にも戦い排除するしかない。
奴はくつくつと笑う。
頬を紅潮し、その目には強く深い愛情が見える。
――が、綺麗なものではない。
狂い曲がり、汚れ切った歪んな愛情だ。
見ているだけで気持ちが悪く。
胃の中のものをぶちまけたい衝動に駆られる。
サムたちを見れば顔色が悪くなっていて、ケガレに当てられている様子だった。
奴はそんな俺たちを見つめる。
そうして、ばさりと背中のマントを翻し両手を広げて優雅にお辞儀をした。
「我が名はベルクゥリ。創世のベルクゥリ……再会を喜ぼうじゃないか。ヘルダー」
「……怒りしか湧いてこねぇんだよ。このストーカー野郎が」
「くくく、相変わらずお前は愛い奴だなぁ……お前たちは、アレの相手でもしていろ」
「けっ、雑魚かよ」
「……先輩」
別の影から現れたのはジョーンズとアルメリアで。
奴らは俺の事を見つめていた……やっぱり、来ていたか。
俺はサムたちに思念を飛ばす。
『こいつらの相手は俺がする。その隙に、お前たちはアレを起動しろ』
『起動しろって、どうやって――っ!!』
『何だ、これ――頭の、中に!!』
『今、俺の中の記憶の一部をお前たちと共有した……説明はいらねぇな?』
「「「……」」」
四人は何も言わない。
じりじりと後ろへと足を引き――走り出す。
瞬間、ジョーンズとアルメリアが地を蹴る。
俺はその動きを察知して、俺の背後に結界を展開した。
奴らは結界へと攻撃を仕掛ける。
が、俺の結界はびくともしない。
奴らはそのままベルクゥリの傍に戻りチラリと奴を見た。
すると、奴は舌を鳴らしていた。
「使えんゴミ共が……まぁいいでしょう。それならそれで――私は楽しませて貰いますよ」
奴はそう言って指を鳴らし――瞬間、俺の手足が切断された。
「……!」
「はは、良い色。そして――香ばしい匂いだぁ!」
奴が指を振るう。
瞬間、奴の元へと俺の切断された手足が吸い込まれていく。
奴はそれを宙に浮かせて、ゆっくりと手で握り――かじりつく。
目の前でくちゅくちゅと音をさせながら、俺の手を食べる悪魔。
おぞましい光景であるが、体が――動かない。
「……」
地べたに横たわりながら。
俺は冷静に今の自分について分析する。
能力を発動したようには見えなかった。
魔術的なものの痕跡はない。
周囲の魔力濃度は一定であり、ケガレも少ない。
奴が何をしたのかは不明であるが……動かないな。
奴は俺の手足をぺろりと平らげる。
俺はその間に手足を再生させた。
奴を見れば口元をハンカチで拭っていて――瞬間、奴の体が盛り上がる。
「あぁ来た来た来たぁ!!! これですよこれぇぇ!!! ははははは、最高だぁぁぁ!!!」
奴の力が一気に増した。
当然の事だが、俺の血肉を喰らったのだそうなるのは当然で。
なるべくそういった事態は避けたかったが――仕方ない。
【―――“
「「……!」」
「ほぉ」
俺が力を使えば、不可視の力は消えた。
俺はそのまま一気に奴へと近づく。
虚空から剣を出現させて、その首を狙い――跳ねた。
奴の頭が宙を舞う。
それを見つめながら、更に黄金の炎によって奴の肉体と頭を焼いた。
咄嗟に、ジョーンズとアルメリアが動き出し。
同時に俺を攻撃してくるが――瞬でジョーンズを切り刻み、アルメリアを吹き飛ばす。
「かはぁ!?」
「……」
ジョーンズの肉片を炎で消し。
結界の壁に当たり、膝をつくアルメリアを見つめる。
俺はゆっくりと片手を彼女に向けて――視界が動く。
「――は?」
見れば、俺は――床を転がっていた。
体の感覚は無い。
頭だけであり、見れば誰かが俺の体を食べていて――ベルクゥリだ。
「美味い、美味い――美味すぎるぅぅ!!!」
「……てめぇ、一体何を……何をしやがった!!」
俺は怒りのまま奴を睨む。
そうして、力を使ってすぐに体を再生させる。
剣を握りしめて駆けて、呑気に食事してる奴の頭から剣を振り下ろし――自分の体が真っ二つになる。
血が勢いよく噴き出し。
俺の体は地面に倒れた。
俺はすぐに体を再生させて、背中を向ける奴へと攻撃を仕掛ける。
斬撃に殴打に、魔力弾に炎。
あらゆる攻撃を繰り出し――全てが無意味に終わる。
体のど真ん中に風穴が開く。
ごほりと血を吐き出し、その場に膝をついた。
「――どういう、事だ?」
「くくく、理解できないかなぁ? まぁ無理もない……まだまだ時間はある。もっともっと――私を楽しませてくれよ」
「――ッ!!」
俺は体を一瞬で再生させて後方へと下がる。
奴は指についた血を舐めとりながら立ち上がり。
奇妙な姿勢で俺に視線を向けて来る。
その頬は紅潮し、瞳には強い感情が籠っていた。
三日月のように口は弧を描き、奴は俺という存在を――餌としてしか見ていない。
「「……」」
殺した筈のジョーンズも立っている。
アルメリアも無傷の状態であり……何だ、この違和感は?
仕掛けがまるで分からない。
どういう原理なのか。そもそもこれは何かの能力なのか。
俺の力は使えているが、奴の力による縛りも受けている。
理解できない力であり、奴の笑みが益々不気味に見えた……考えろ。
考えて、考えて――奴をぶっ殺す。
何時もの事だ。
祓魔師としての俺の仕事で。
俺は垂れて来た鼻血を指で拭ってから笑みを浮かべる。
「トライアンドエラー……やってみようかッ!」
「さぁさぁ――私を満足させてくれぇ!! ヘルダーッ!!」
奴は両手を広げる。
俺は黄金を纏いながら、剣を上に掲げて振り下ろし――