【完結】祓魔師《エクソシスト》は休みたい   作:オタリオン

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123:呪われた未来を(side:ベルクゥリ)

「……あ?」

 

 

 私は――“何をしていた”?

 

 

 ゆっくりと周囲を見る。

 いや、手を見れば食い掛けの人間の腕があり……あぁ、そうだ。

 

 視線を前に向ければ――いた。

 

 その体は血に染まり。

 虚ろな目で私を見つめていた。

 人類最強。いや、神々を統べる存在――カミだ。

 

 私は笑う。

 手にもった腕にかじりつき。

 そのまま肉を飲み込めば、更なる進化が――違和感。

 

 肉体は進化している。

 が、想像の範疇であり……いや、少ない?

 

 不思議だ。

 カミという存在の血肉だ。

 想像を絶する美味さであり、幾らでも食べられる筈なのに。

 何故か、私の腹は――満たされていた。

 

 訳が分からない。

 どういう事か、そう考えていればヘルダーが動き出す。

 ゆっくりと足を動かしたかと思えば、すぐ目の前に現れて――私の体を斬る。

 

 血潮が噴き出し、私は笑みを浮かべる。

 

 意味のない事だ。

 どれだけ私を攻撃しようとも、どれだけ強力な術を行使しようとも――無意味。

 

 私の中でガチャリと歯車が回るような音が響く。

 瞬間、私の受けたダメージは無効化されて。

 私の体は奴の背後に立っていた。

 奴の体は完全に静止しており。

 愚かな部下共も何も出来ずに立ち尽くしていた。

 

 私はくつくつと笑う。

 そうして、手の爪を鋭利なものとし――奴の心臓を貫く。

 

 どくどくと血が流れた。

 腕を引き抜いて、滴り落ちる血を舐めとる……あぁ、良い。

 

 

 我が力。

 我が最高の能力――“絶対支配権(ハイエンペリゥス・コール)”。

 

 

 疑似的な世界を産み出し、その世界の支配者となる。

 能力発動時の違和はほぼ無く。

 感知不可能であり対処も不可能だ。

 我が領域内に存在する全ては私の所有物であり。

 我が願いのままに、全ての事象も意のままだ。

 

 死からの蘇りも、ダメージの無効化も。

 あらゆる事が叶う世界であり――あぁ、最高だ!

 

 私はヘルダーから離れる。

 そうして、奴の体から血が噴き出している様を見つめながら――時を動かす。

 

 瞬間、奴の体は血だまりの中に沈み。

 ぴくぴくと痙攣する様を私は眺めた。

 

 

 愉快であり、最高であり――“胸から何かが生える”。

 

 

「あぁ?」

 

 

 視線を下へと向ける。

 すると、そこには血に濡れた剣があり――私は命令した。

 

 

「――消えろッ!!!」

 

 

 瞬間、私の背後にいた存在は掻き消えて。

 剣も消滅した。

 私は呼吸を僅かに乱しながらも傷を再生させて。

 周囲を警戒しながら見て――腹に強い衝撃を感じた。

 

「ごはぁ!?」

「……」

 

 めりめりと拳がめり込む。

 そうして、力のままに吹き飛ばされた。

 奴の展開した結界に当たり大きく亀裂が走る。

 私はすぐに拳を突き出す奴を視認し――命令する。

 

「完全に――消え去れッ!!!」

 

 瞬間、奴の体は消滅した。

 塵も残す事無く完全に消えた。

 奴の反応はない。

 奴そのものがこの世から消えてなくなった。

 

 私は床に足をつく。

 そうして、汗を流しながらも笑って――全身が床に叩きつけられた。

 

「ぐあぁ!? な、何が――そんな、馬鹿、なァ!?」

「……」

 

 視線を上げれば――奴がいた。

 

 氷のように冷たい目。

 私を見下ろしながら、何も考えていない。

 私の体は奴の力によって押さえつけられていた。

 

 私は自らの体に命令する。

 己が身体を最上級まで強化し。

 無理矢理に体を起き上がらせて――

 

 

【――――Erschöpfung(ヒレフセ)――――】

「ぐあぁぁ!!?」

 

 

 私の体は更に床にめり込む……あり得ない!

 

 私の体は奴の血肉によって進化し。

 能力自体も、魔王様の力によって進化していた。

 カミであろうとも、奴はまだ不完全で。

 今の私であれば勝てる筈だ……なのに、何故!?

 

 奴は私の頭上で足を上げて――振り下ろす。

 

「ぎぐぅぅ!!?」

「……」

 

 痛い、痛い、痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い――何故だァァ!!

 

 この痛みは紛れも無い本物。

 脱出不可能な力の正体は奴本来の力。

 完全に力を取り戻せる筈がない。

 そうであるのなら、私を殺してすぐに魔王様の元に行っている筈だ。

 こんな玩具に頼らなくてもいい筈で……何故、だッ!!

 

 私は激しい痛みに襲われながら疑問で心を満たす。

 すると、奴が私の頭から足をのけた。

 そうして、徐に私の髪を掴んで持ち上げた。

 私は血反吐を吐きながらも体を再生させる。

 

「死ねッ!!!」

 

 奴の心臓へと己が腕を突き刺そうとし――捻じ曲がる。

 

 不可視の力。

 それを認識した瞬間に腕に激痛が走る。

 私の腕はぐちゃぐちゃになり、捻じ曲げられていた。

 奴はそんな私を見つめて――不気味な笑みを浮かべる。

 

 

「どんな、気持ちだ?」

「は、あ、は、ぁ?」

「どんな気持ちかって――聞いてんだよ」

 

 奴は底冷えするような低い声で疑問を吐き――私の腹を殴りつけた。

 

「おごぉ!?」

 

 凄まじい力だ。

 腹に風穴があくほどの力で。

 私は激しく血反吐を吐きながら奴を睨む。

 

 奴は笑っている。

 が、その目は喜びではなく――怒りに満ちていた。

 

「お前は理解できねぇだろうな。お前がしていた愚かな行為も。そして、俺に対してしでかした――罪も」

「罪、だと? く、くくく……お前が、この私を裁くなどッ!! 万死に値するッ!!!」

 

 

 私は力を――覚醒させた。

 

 

 残りの使用回数など関係ない。

 この一度のみで勝負を決する。

 故にこそ、全力だ。

 世界の強度を上げて、奴の力も寄せ付けないほどの力を手に入れる。

 

 私は雄叫びを上げながら、奴の拘束を解き。

 そのまま体を再生させて、奴に対して暴力の限りを尽くす。

 

 奴の体を殴り吹き飛ばす。

 奴の体は結界を砕いて、建物の外へと出る。

 何重にも展開されていた頑丈な壁を貫いてだ。

 そうして、宇宙へと出れば奴の体は更に進んでいく。

 私は一息で奴へと追いつき、そのまま奴の背中目掛けて膝蹴りをした。

 バキバキと骨が砕ける音が響き、奴の体は闇の宙へと上がる。

 私は笑みを深めながら、奴を追い掛けた。

 

 そこからは一方的な殺戮だ。

 殴り、蹴り、吹き飛ばし。

 魔力の塊を叩きつけてずたずたにし。

 奴の足を掴んで力のままに回転させて吹き飛ばし。

 それでも尚、原型を留めている奴に対して連続攻撃を行った。

 

 殺す、殺す、殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す――殺すッ!!!!

 

 私の中のケガレと魔力が勢いよく噴き出す。

 暴力そのものと化し、奴の体を打ち続けた。

 永遠に思えるような時間の中で、私は奴を攻撃し続ける。

 

 

 ――“奴はボロボロの顔で涙を流していた”。

 

 ――“必死になって助けを求めている”。

 

 

「――――っ!!?」

「は、ははははははは!!!」

 

 哀れな人間と何らか変わらず。

 恐れる要素など何一つない。

 

 醜く弱く、哀れで空しく。

 何処までも愚かな人間であり――にん、げん?

 

 

 

 私の中に疑問が生まれて――――“次の瞬間には、私は地に伏せていた”。

 

 

 

「…………ぁ?」

「……楽しかったか。えぇ?」

 

 

 

 声が、聞こえた。

 ゆっくりと見上げれば――薄い笑みを浮かべるヘルダーがいる。

 

 私は自らの体に視線を向ける。

 すると、私の手足は半ばから切断されていた。

 だらだらと血が流れており……再生しない?

 

 命令した。

 が、世界は私を拒絶する。

 支配者たるこの私を否定し――目の前のカミを肯定した。

 

「塗り替えられた……そうか。お前は、私の、能力を」

「あぁ、理解した。理解して――“上書きしたよ”」

 

 今までの戦闘。

 アレは幻のようなものだ。

 私の願望が見せた幻影であり。

 本当の私は既に、こいつによって自由を奪われていた。

 その幻影を見せたのはこいつであり。

 抗えない力を見せて付けたのもこいつだ……あぁ、そうか。

 

 魔王様の真の狙い。

 それは私の力によってこいつを殺す事ではない。

 こいつを私が殺せるなど微塵も思っていなかった。

 故にこそ、私に対して与えた命令は――理解できた。

 

「ヘルダー。私はどうやら、お前に、勝てないらしい」

「そうだな。お前は負けて――死ぬだけだ」

「あぁ、そうだ。だが、魔王様の望みだけは――果たさせて貰うぞ?」

 

 私はにやりと笑う。

 瞬間、奴は力を行使しようとした。

 そうはさせまいと先手を打とうとし。

 不可視の力が私の肉体と魂を締め付ける。

 全身に激しい痛みが走り、血管が裂けて血が噴き出した。

 骨は砕けて、筋肉が蠢く中で死が迫りくる。

 視界が赤く染まり、呼吸をすれば血で満たされる。

 

 が、私は止まらない。

 己が使命を理解した。

 魔王様の忠実なる僕として、私に期待してくれた事。

 それを果たせずして死ぬ事は許されない。

 

 

 

 私は“己が魂を代償に”捧げて――能力を発動させる。

 

 

 

「ガゲラよぉ!! 我が王の元へ――イゲェッ!!!!!!」

「……!」

 

 

 

 血反吐を吐きながら、私は命じる。

 一瞬だ。ほんの瞬きの間だけであったが。

 私は世界の支配者に戻り、世界は私の願いを――聞き届けた。

 

 デウス・エクス・マキナに封じられし魔王様の力の欠片。

 それが解き放たれて、地球へと向かう。

 奴は動く事が出来ず、ただ上を見上げるだけだった。

 私はこれで、役目を果たせたと認識した。

 

「「……」」

「お前たちは……あぁ、やっぱり……使え、ない、な」

 

 私を見つめる存在たち。

 ジョーンズと元ケーニヒの女。

 最初から好ましくなく。

 共に行動しても疑念は晴れなかった。

 が、その視線から遂に理解できた……アレらは、我々の側ではない。

 

 敵であり、不要な存在で。

 何を企んでいるかは知らないが。

 奴らは魔王様に仇名そうとしている。

 

 ゆっくりと切断された腕を奴らに向けた。

 が、魔力弾を放つ事は出来ず。

 体が蒸気を発しながら消えて行くのを感じた……あぁ、ダメ、か。

 

 此処までであり、これ以上は何も出来ない。

 十手へと至り、魔王様の右腕になれるやもと思ったが。

 私はそこまでの存在だったようだ。

 

 思えば、この男との出会いが奇跡で。

 私のような存在が十手へと至れたのも……く、くく。

 

 私は血に染まった瞳でヘルダーを見つめる。

 奴は何も語らない。

 死にゆく私を冷ややかな目で見つめるだけだった。

 私はそんな男を見ながら、呪いを吐き出した。

 

「お前が、全てを、変えてしまった……もう、元には、戻らない……この先の、未来で、お前は必ず、絶望する……お前の選択が、お前の取ったものが、過ちとなり、全てを崩す瞬間が、楽しみだ、よ……ヘルダー、私は、お前を、見て、いる、ぞ……」

「……」

 

 体が崩壊していく。

 私は最期まで何も語らない奴を見続けた――――…………

 

 

 

 …………――――深く暗い、闇の底――光が消えた瞳で見えぬ光を見つめる。

 

 真っ暗闇の中で浮かぶ私に――――無数の手が迫る。

 

 

「ははは、ははは、ははは――ははははははは!!!!」

 

 

 氷のように冷たい無数の手。

 

 それに奈落へと引きずり込まれていく。

 

 

 奈落の底には、亡者たちの怨念が満ちていた。

 

 

 

 私は笑い声を上げながら、そこにある光を、奴の未来を――――“ノロイツヅケタ”。

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