【完結】祓魔師《エクソシスト》は休みたい   作:オタリオン

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124:満ちて穢れよ

「……」

 

 消えてなくなった十手の悪魔。

 砂のようになれば、もう奴の魂は何処にもない。

 灰となった奴を一瞥し、俺は武器を下げた状態で立っている――“敵を見つめる”。

 

「……何故、襲ってこない?」

 

 俺は奴らに質問した。

 ジョーンズはにやりと笑い、アルメリアの背中を叩く。

 

「こいつだよ。俺はこいつと――魔王を討つ協力関係にある」

「おい。それを明かしては……」

「問題ねぇ。此処は月で、魔王様の力の影響も此処では薄い。恐らくは、アレとヘルダーの影響だろうさ……会話を聞かれる事も無ければ、殺される心配も――ッ!!」

 

 俺は一瞬で奴らの傍に移動する。

 剣は消して、それぞれの首に手を添える。

 そうして、俺は静かに同じ質問を投げかけた。

 

 

「――何故、襲ってこない」

「……先輩、我々は!」

「よせよ。こいつはそんな答えは求めてねぇ……契約を結べ」

「……」

 

 奴は魔力を極限まで抑える。

 そんな奴を横目に見ながら、俺は力を使い――奴の力を制限する。

 

「――ッ!! はぁ!! ……これで、十分か?」

「……良いだろう」

 

 今、俺は奴に対して一方的な契約を結んだ。

 拒否すること自体は可能であったが。

 奴は自らの意志で力を制限した。

 その結果、無条件で契約を結ぶ事が出来た。

 

 嘘をつけば死ぬ。

 嘘をつかずとも此方の質問に真実で答えなければ死ぬ。

 逃走を計れば死ぬ。

 仲間に危害を加えようとしても死ぬ。

 

 複数の死の条件を食わてやれば。

 多少なりとも警戒は緩めてやれる。

 が、完全には信用しない。

 こいつも俺が殺すべき悪魔の一匹であるからだ。

 

 俺は二人から離れる。

 そうして、無言で奴らを見ながら話しをするように促す。

 

 ジョーンズは顎を動かし、アルメリアに話すように促した。

 彼女は暫く考えてから、ゆっくりと説明を始める。

 

「……私は悪魔の側に着きました……が、人類と敵対する為ではありません。その目的は魔王を討つ事です……ジョーンズは、私と利害が一致していて、此処まで互いに協力し合ってきました。勿論、全てを信用したわけではありません。が、私もこジョーンズに対して契約を結んでいます。少なくとも、裏切りの可能性は低いと思っています……先輩、この状況で私から言う事は恥知らずな行為だと心得ています。が、敢えて言わせてほしい……私も一緒に、貴方たちと共に戦わせてください」

「……魔王を討つ算段があるんだろう……聞かせてくれ」

 

 俺が問いかければ、アルメリアは静かに説明を始めた。

 

 当初の目的では、デウス・エクス・マキナを魔王と戦わせて。

 デウス・エクス・マキナが敗れた場合にジョーンズが動く手筈だった。

 魔王はデウス・エクス・マキナの内部に力の欠片が封印されている事に気づいていたからだ。

 それを吸収するタイミングでジョーンズが奇襲を仕掛ける……俺はそれを聞いて無理だと一蹴する。

 

「……アイツは俺以外の攻撃では殺せない」

「あぁその通りだよ……だが、方法があるって言えばどうだ?」

「……何だ」

 

 ジョーンズはにやりと笑う。

 すると、奴はゆっくりと自らの事について話し始めた。

 

「俺はな。魔王様によって生み出された――最初の悪魔だ」

「……やっぱりか」

「俺の役割は、悪魔として人間共を喰う事じゃない。その逆で、人間共を――生かす事が目的だった」

 

 ジョーンズは語る。

 自らは最初の悪魔ではあるが、厳密にはこの時間軸の存在ではないと。

 魔王は封印から解かれて、神や天使を殺し。

 ジョーンズを生み出してから、こいつを遥か太古の時代に飛ばした。

 

 俺と同じ時を操る力であり。

 それによって飛ばされたジョーンズは神や天使の監視を掻い潜りながら。

 人類に対して干渉し、知恵や力を授けていた。

 

 より多くの人間を生み出す為に。

 より悪魔たちが住みやすい環境を整える為に。

 ジョーンズは暗躍していたという……そうか。

 

「……お前が人間を食わないのは……そういう事か」

「……あぁそうさ。俺は人が喰えない。いや、食事っていう概念すらねぇ。笑えるだろ?」

 

 人類を生かす為に存在しているのだ。

 食欲によって人類を襲ってはキリがない。

 故に、魔王は最初の悪魔であるジョーンズから食欲を奪った。

 その結果、ジョーンズは長い時の間で誰も喰らう事が無かった。

 

「……この世界の人口は本来の世界の比じゃねぇほどに増えた……神や天使は不審には思っただろうが、動く事は無かったよ。アイツらは、不穏な動きにだけ対処する。人間が増えたところで関係ねぇからな……その結果、魔王様は封印から解き放たれて。神や天使たちは死に、悪魔が人類を餌として力をつけてきた……だがな、魔王様の目的は餌を増やす事だけじゃねぇんだよ」

「……刻印か」

「ご名答……刻印。魔術や能力を発動する為に必要な鍵……魔王様は、それを悪魔たちに植え付けて成長させたかったんだよ……何故なら、刻印は魔王様の力の一端で。それが成長し進化すればするほどに……あの方は力を蓄えて行く」

 

 奴は種を明かす。

 多くの刻印をばらまいたのは種まきと同じだと。

 その種が成長し実をつければ、奴はそれを回収し自らの力に変える。

 

 俺が移植した刻印たちもそうであるが。

 この身に宿した刻印は既に俺自身のものになっている。

 今更、これをどうこうする事は出来ないだろう。

 

 それらは理解した。

 理解したからこそ、魔王を討てるという根拠が分からない。

 俺が視線で訴えかければ奴は鼻を鳴らす。

 

「……俺が特別だって事だよ……飯を食わない俺が、何故、成長し進化できたのか……それは、俺が魔王様の合わせ鏡のような存在だからだ」

「…………まさか、お前は…………最初から、死ぬつもりだったのか?」

 

 俺は奴の言葉でその方法を理解した。

 魔王の合わせ鏡。

 それはつまり、このジョーンズという男も魔王であるという事だ。

 いや、力や姿はまるで違う。

 が、その本質が魔王と同じなのだ。

 

 奴がやろうとしている事は最強に盾に対して最強の矛を使うのと同じだ。

 絶対不滅の存在である魔王。

 そんな魔王に対しての攻撃はほとんどが意味をなさない。

 が、同じ魔王である存在の攻撃であれば――届くのだ。

 

 奴の不滅のカーテンは、自らの攻撃であれば通用する。

 俺の攻撃が通用するのと同じだ。

 が、ジョーンズは通常の攻撃手段では魔王に傷一つつけられない。

 そんな奴が魔王を殺すのであれば――自らの存在を代償にする自爆行為しかない。

 

「チャンスは一度きり。奴が油断した瞬間こそがベストだ……分かるな? 俺も、奴を殺せるんだよ」

「……お前をセカンドプランにしろって言いてぇのか? 悪魔の分際で? はっ」

「信じるも信じないも自由だ。が、俺はどっちにしろ実行するぜ……奴には恨みしかねぇからな」

 

 奴は暗い瞳で不気味な笑みを浮かべる。

 理解は出来る。

 悪魔にとっての喜びは殺しと食事で。

 そんな当たり前の行為が出来なくなったのであれば多少は同情するだろう。

 

 こいつは復讐がしたいのだ。

 魔王という絶対的支配者に対して。

 父として子である自分を道具として使った奴に対して――“妙だな”。

 

 話の整合性は取れている。

 楽しみを奪った存在を殺す気持ちは理解できる。

 動機は十分であり、奴との契約によって真実しか話していないのも理解できた。

 が、何故か奴の言葉に……重みが感じられない。

 

 奴という存在が喋っているが。

 その言葉は空気のように軽く。

 真実の筈なのに、どこか違和感を抱く。

 

 分からない。分からないが……考えている暇はない。

 

 俺はアルメリアを見る。

 彼女も決意しているようだった。

 俺は小さくため息を零し、踵を返す。

 

「……好きにしろ。だがな、それでお前たちの罪は消えねぇ」

「罪なんてつまらねぇもんに興味はねぇが……ま、覚えていてやるよ」

「……元より、裁きを受ける覚悟はあります」

「……なら、良い。俺たちはすぐに――ッ!!」

「「――ッ!!?」」

 

 

 

 瞬間――“強大な悪意を感じた”。

 

 

 

 全身の毛が逆立ち。

 心が冷えていき、呼吸が苦しくなる。

 が、それは一瞬であり。

 俺は力を行使して透視と遠見を行い――何だと?

 

 

 月から遠く離れた地球。

 小さな島の上に――“黒い球体が存在していた”。

 

 

 それは膨大な量のケガレの塊で。

 それからドロドロと黒いヘドロのようなものが流れ落ちて行く。

 島の木々は触れただけで枯れ果てて、海に触れれば腐敗し穢れて行った。

 

 

 ケガレの塊の正体は――知っていた。

 

 あのヘドロのようなものも――理解していた。

 

 これから何が起きるのかも――見えていた。

 

 

 

「始まる……魔王が……星に降りるぞッ!!」

「……そんな。このタイミングで!」

「このタイミングだからだよ。デウス・エクス・マキナの力を回収して、奴さんも戦える状態まで戻ってやがるんだ……不完全なカミと力が半減しちまった玩具だ。やるなら今しかねぇだろ?」

 

 奴の敵意と殺気。

 負の全てを遠く離れた此処から感じる。

 遂に、始まってしまうんだ。

 生死を懸けた戦いであり、世界の存亡を懸けた――“大戦争”が。

 

 

 俺は奴を見つめる。

 見つめて……。

 

 

「……先輩?」

「……あぁ?」

「何で……“笑って”……っ」

 

 

 俺はアルメリアの言葉にハッとした……笑っていた、のか?

 

 

 この俺が魔王が現れる事を喜んだとでも言うのか。

 いや、そんな筈はない。

 奴との再会が喜ばしい筈はなく……気のせいだ。

 

 俺は自らにそう言い聞かせる。

 すると、そのタイミングでデウス・エクス・マキナが動き出す音が聞こえた。

 振り返れば、白い巨人が内包する白い炎を装甲の隙間から放出している。

 

《先生!! 動きましたよ!! やる事は分かっています――派手に行きますよ!!》

「……無理はするなよ。絶対な」

《はは!! 無理はしますよ!! 全てが決まってしまうんですからね!! 死んで後悔など――したくはありませんから!!》

 

 

 サムたちはそう言いながらゆっくりと動き出す。

 俺はジョーンズの方に視線を向けた。

 すると、奴は既にアルメリアと自らに特殊な結界を張っていた。

 俺もそれを確認して、自らに結界を施す。

 サムたちがそれを確認すると、デウス・エクス・マキナのセンサーが強く発光した。

 

 瞬間、分厚い壁に囲まれていた空間が音を立てて動き出す。

 まるで、パズルのように動き出し。

 酸素で溢れていた空間が無重力になる。

 俺たちはそのまま月の上で浮かび。

 デウス・エクス・マキナを見れば――巨大な砲塔を抱えていた。

 

 凄まじく長大なライフルで。

 その銃口は宙に浮かぶ地球へと向けられていた。

 サムたちは準備は出来ていると言い――チャージが開始される。

 

《出力が落ちていますッ! 連発は出来ませんからねッ!! 頼みますよッ!!》

「あぁ、任せろ……先に行く」

「おぅ。行け行け……俺の分、取っておけよな?」

 

 俺は奴の軽口には応えない。

 そうして、力を使い――――…………

 

 

 

 

 …………――――目を開ける。

 

 そこは海の上だ。

 しかし、俺の知っている海の景色ではない。

 

 元々は綺麗であった青は。

 黒く濁り、ボコボコと不快な臭いを放つ気泡を発生させていた。

 魚の死骸が浮かんでいるが。

 一瞬にして骨まで溶けてなくなる。

 空を飛んでいた鳥たちも事切れて落下していく。

 

 更に空を見上げれば……無数にいる。

 

 空間に裂け目が生じて。

 その中から、無数の悪魔たちが這い出してきていた。

 日の光は隠れて、空は黒い悪魔たちの存在で覆われていた。

 奴らは不快な鳴き声を上げながら、世界中に飛び去っていく。

 俺が到着する前に、奴らは既に世界へ飛び立っていて。

 俺は手を翳してそいつらを殺そうとし――飛ぶ。

 

 一瞬にして、その場から離れた。

 瞬間、島の中心にて浮かんでいた黒い球体から攻撃が放たれた。

 光を超える速度であり、チラリと飛んでいった先を見て――大爆発が起こる。

 

 大陸を消し飛ばすほどの大爆発。

 その爆風によって空に浮かぶ俺の体が激しく揺さぶられた。

 巨大な波が発生し、俺へと襲い掛かり――消し飛ばす。

 

 思念だけで、高層ビルをも覆うほどの巨大な波を消し飛ばした。

 俺はゆっくりと球体に視線を戻す……やろうって事か。

 

「――」

「……上等だ」

 

 奴は何も言わない。

 不快な音を奏でながら、怒りと殺気を更に濃くさせる。

 空を飛ぶ悪魔たちは此方を一切見ない。

 奴らの目的は世界中に存在する人間たちでだ。

 

 ……祓魔師としては失格だが……任せるぞ。

 

 俺は此処にはいな仲間たちに地球を託した。

 そうして、球体が回転を始める。

 警戒しながら見ていれば、それから手足のようなものが生える。

 うねうねと動くヘドロの触手も無数に生えて。

 ぎょろぎょろと蠢く無数の目玉もセットだ。

 その体長はどんどんデカくなっていき……おいおい。

 

 山をも越えるほどの巨体。

 八千メートルは優に超える程に成長し。

 その体中の巨大な目玉が俺を捉える。

 

 

 

「我が半身よ。我が兄弟よ――お前を殺してやるぞッ!!」

「……やってみろや。えぇ?」

 

 

 

 俺は剣を出現させる。

 そうして、軽く回転させてから肩に当てる。

 掌を向けてくいっと動かして挑発してやれば――奴は絶叫した。

 

 空間の裂け目が更にデカくなり。

 噴き出すように悪魔たちが出てきやがった。

 厄介な事をしやがると思いながら、俺は力を高めていく。

 

 

 さぁ、やろうぜ――兄弟よッ!!!

 

 

「「――――ッ!!!!!」」

 

 

 俺たちは叫ぶ。

 そうして、互いにぶつかり合う。

 互いに半端ではあるが。

 それでも、世界そのものを震わすほどの力が迸る。

 

 俺は目の前の敵を見つめて――“笑みを深めた”。

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