空を――駆け抜ける。
迫りくる触手。
触れれば肉も骨も一瞬で溶かしきるもの。
それらを回避するが、触手は無数に分裂し迫る。
それらを回避し、剣で打ち払い――体に不可視の力が加わる。
「ぐぁ!?」
大きく彼方まで飛ぶ。
そうして、隕石でも直撃したような衝撃を感じながら――空を舞う。
何度も何度も体を打たれて血反吐を吐きながら回転し。
そのままケガレに包まれた魔王から吐き出された巨大なケガレの塊が空を舞い――降り注ぐ。
雨であり、流星であり。
それが体に激しく打ち付けられて――体を浸蝕していく。
「ぐぁあああああ!?」
「呑め、呑め、呑めッ!!!!」
奴が呪いのように言葉を吐く。
瞬間、一気にケガレによって体を侵食されて――カッと目を見開く。
【――――
「ぐうぁ!!?」
奴の放ったケガレが――花となる。
白き花弁が舞い。
俺の体は再生されて。
マントをはためかせながら、俺は大空を舞う。
俺を追い掛けるように触手と周囲に飛び散ったケガレが迫る。
俺は剣を天高く掲げて――力を解放する。
【――――
瞬間、眩いばかりの光が世界に満ちて行く。
海面に広がっていたケガレは消え去り。
触手や迫って来たケガレも消える。
本体である奴は全身を震わせて――叫ぶ。
【――――ケガレ、ノロワレ、シニサラセッ!!!――――】
「ぐぅ!!?」
奴も力を解放した。
それにより、消し去った筈の穢れが元に戻る。
互いに力が拮抗し、黄金と闇が世界に広がっていく。
俺たちは互いに敵を睨み――弾き飛ばす。
俺は後方へと飛び。
空中で体勢を立て直し、そのまま空を翔けた。
魔王も体を震わせながら、触手を再生させる。
そうして、より濃いケガレを纏わせながら、無数のそれで俺を捕まえようとする。
風を切り裂き迫る触手たち。
空中で先端から分かたれて無数に分裂し。
蛇のように口を開きながら、俺を喰らおうとしていた。
右から左。
上、下、横、前前前後下下横横上下横前横下下下――未来が無数に見える。
それらの軌道を読む。
隙間を縫うように飛び、体を回転。
前方を防がれそうになれば剣を振るって突破し加速。
そのままトップスピードで駆け抜けて、俺は四方から迫る触手を剣を振るって斬り――敵の眼球が光る。
咄嗟の判断でその場から――転移。
瞬間、元いた場所に一条の黒い光が走り――空と海が割れた。
一直線に出来た溝。
空は割れて、星空が鮮明に見えて。
海は裂けて、遥か海底まで続く闇が見えていた。
それを一瞥し――更に転移をする。
連続しての転移。
奴は此方の位置を認識しそこへケガレの光を放つ。
光、光、光光光光光光光光――無数の光線だ。
一撃で景色を変えてしまうほどの威力。
それらが周囲の景色を大きく歪める。
ケガレに満ちた海は干上がり空気が淀み。
空の色は昼間なのに深みを回して星々が妖しく煌めいていた。
触れればただでは済まない。
それを回避。
回避、回避、回避回避回避回避回避回避回避回避――ガードを固める。
瞬間、前方より凄まじい衝撃を感じる。
展開した結界は一瞬で砕け散り。
剣はびりびりと激しく振動し、全身が黒い炎に焼かれて行く。
途轍もない激痛。
蒸気を発しているからこそ熱を帯びている。
否、それは断じて違う。
熱いのではない、冷たさだ。
それが激しい熱であると自然すらも錯覚させて――心が凍り付いていく。
「――ッ!!!」
俺は己の力を高める。
どくどくと心臓が激しく鼓動し。
全身に強い熱を感じれば、透き通る炎に包まれて行く。
そうして、目の前に広がる穢れを――弾く。
「あああぁぁぁ!!!」
上へと軌道が逸れた。
それは上へと進んでいき、遥か彼方まで進んで――爆ぜた。
黒い光に視界が覆われて。
爆発の衝撃によって周囲の海が大きく弾かれて行った。
俺は移動をしながら奴に対して斬撃を飛ばす。
黄金の混じった透き通る炎。
それを斬撃に載せれば、奴の穢れた体に当たり――が、消滅した。
一瞬だ。
一瞬で此方の攻撃が無効化された。
いや、ダメージは入っている。
が、想像以上に手応えが少ない……これは?
「――そうか」
奴の体内。
強化した眼で見れば――理解した。
奴の中に複数の刻印を確認した。
奴が生み出した力なのだ。
あって当然だ。
奴は力ある刻印を取り込んで、己の物としている。
その中には厄介な事に――ゾーヤの刻印もあった。
アレは危険だ。
魔王が使う事によってその能力も強化されているだろう。
それは文字通り一撃必殺であり……隙を伺っているな。
今までの攻撃でアレによる攻撃は無かった。
つまり、アレを隠し手として使おうと……だったらッ!!
俺は体を――“光と化す”。
奴の周囲を駆け抜けながら、俺は奴に対して斬撃を放つ。
奴はそれら全ての攻撃を触手のガードによって防ぐ。
俺はそれでも攻撃を続けた。
すると、苛立ちを表すように奴が吠えて――奴の体から何かが飛び出す。
合計で六つの穢れの塊。
それが空中で形を変えて人型となる。
様々な武器を携帯しているそれらが――此方に迫る。
空中を激しく動きながら。
俺は魔王の分体と剣を交える。
互いの力が激しくぶつかり合い。
火花を散らして、戦闘の余波が空間に亀裂を走らせる。
俺たちはそのまま上空へと上がる。
そうして、悪魔たちの群れの中へと突っ込み――力が放出された。
一気に放出された事によって。
ケガレの闇が悪魔たちを溶かし。
俺の炎が悪魔共を一瞬で焼き消していった。
互いに武器を構えて――翔ける。
一気に下へと降りながら。
互いの首を落とそうと斬撃を放つ。
無数の斬撃が空を塗りつぶし。
迫りくるそれらを互いに弾き消し、打ち払い――舞う。
黄金が走り。
闇が後を追う様に翔けた。
魔王はそんな俺に対して、能力を発動し――俺は転移した。
心の警鐘に従い大きく距離を取る。
瞬間、俺が飛んでいた空間は周囲半径五百メートルがくっきりと“抉られていた”。
空の色も、ケガレや魔力の残滓も何も無い。
真っ白であり、空間事、奴の力が抉り抜いた。
歯型のようなものが見えており、魔王を見ればその体が蠢いていた。
「――!」
またしても悪寒が走り――転移。
空間が抉り取られて、連続して転移する。
移動する場所が抉り取られて、周囲の景色が不自然なほどの白になる。
それを見ながら、俺は体から黄金を噴出させて――分身を三体生み出した。
それぞれが動き。
分身たちは魔王の分体を相手取る。
俺は真っすぐに本体へと迫り――剣を振るう。
瞬間、剣からは凄まじい衝撃が走り。
魔王の触手を一気に斬り取り――奴の体に攻撃が届いた。
が、奴にはあまり効果が無く――俺は剣を回転させ、真っすぐに突き出す。
【――――
「――ッ!?」
力を解放。
俺の刃から放たれた光が――奴の体に存在する眼球を穿つ。
ケガレが血のように噴き出し。
奴が悲鳴のようなものを上げた。
効いている。やはり、そうだった。
露出した眼球が全てを攻撃する事が最適解。
俺はそう認識し、そのまま奴を――胸に何かが突き刺さる。
「――ぐぅ!?」
不可視の刃――見覚えがある。
十手が一人の女の悪魔。
ピーシピーラが使用していた能力……取り込んでいたのか。
生命力が吸われて行く。
魔王の傷が急速に癒えて。
俺は胸に手を置いて力を解放し――能力を解除した。
魔王は傷を癒したが。
これで二度も同じ手は効かない。
俺は空を翔けながら奴へと攻撃を再開し――奴の体が弾けた。
「……!!」
意表を突かれた。
咄嗟に結界と炎によって防御を取る。
瞬間、弾けたケガレが俺の防御を浸蝕する。
俺は剣を振るって穢れを排除した。
すると、残りの穢れが空中に集まり――鳥となる。
「――――ッ!!!!」
不快な音を発しながら。
それが空を舞いながら、ケガレの羽を飛ばして攻撃して来た。
羽は一瞬にして周囲を覆い。
それらが俺へと迫るが、俺は剣を回転させる事によって炎を飛ばして防ぐ。
が、小さな羽が隙間から俺の体に触れて――体が溶ける。
「……!」
俺は一瞬で溶けた部分を切除した。
そうして、そのまま羽の包囲網を突破し。
そのまま空を舞うケガレの鳥となった魔王を追う。
奴は何処かを目指していて……まさか!!
奴の向かう先、それは――ライツだ。
ライツ領内に入り、奴は人間を喰らうつもりなのか。
その速度は一気に速まり、俺は奴を追い掛ける。
剣による斬撃を放てば、奴は体を回転させてケガレを噴き出し攻撃を防ぐ。
羽が周囲に飛び散り、それらが風に乗って俺に迫って来た。
俺はそれらを回避しながら触れないように注意を払う。
見れば、分体と戦っていた俺の分身たちが帰ってきていた。
俺は奴らに指示を出し、魔王の進行方向へと向かわせた。
奴らは両手を広げて、力を解放し強固な結界を展開する。
魔王はその結界に当たり、強い衝撃とケガレによって結界には大きく罅が走る――上等だ。
俺は奴の頭上を飛ぶ。
そうして、剣を構えて――放つ。
瞬間、無数の光の線が放たれて。
それらが鳥の体に浮き上がった眼球を全て貫く。
またしても、ケガレが噴き出して奴は苦しみ叫んだ。
効いている。
確実にダメージが入っていて――怖気が走る。
「――ッ!!」
俺は考えるよりも早くに回避行動を取る。
瞬間、魔王の本体から黒い靄のようなものが飛び出し――瞬で俺の体を包み込む。
「うがあぁぁぁ!!!?」
瞬間、激痛と共に己を塗り替えられていく不快な感覚を覚えた。
俺は全身を激しく震わせながらも脱出を試みた。
が、指一本も動かせないほどに強力な力が加えられていた。
まずい、まずいまずいまずいまずいまずいまずい――殺気ッ!!
見れば鳥の形状から一変し。
奴はズクズクに溶けた巨大なガイコツとなっていた。
奴は大きなケガレの剣を生み出して。
それを天高く掲げて能力を発動させる。
俺はそれを見つめながら、ゾーヤの力を確認し――
「――“
「――アルメリア!」
瞬間、アルメリアが俺を抱きしめてその場から飛でんいた。
遅れて魔王が攻撃を仕掛けて――転移。
魔王の斬撃は空を斬り。
刃が通った場所には裂け目が生じた。
それらがブラックフォールのように周辺に存在する全てのものを飲み込もうとする。
俺はアルメリアを強く抱きしめる。
そうして片手を裂け目へと向けて力を解放し、その裂け目を何とか閉じた。
俺は魔王から一気に距離を取り、海面へと降りる。
そうして、能力によって海面を一気に凍らせた。
アルメリアを下ろしてから、どうやったのかと尋ねた。
すると、奴は苦しそうな顔をしながらも簡潔に答える。
「私の能力は結果だけです。過程においてどんな障害があろうとも、可能であると認識すれば……貴方の事も救える。その分、代償は大きいですがね……ごほ!」
アルメリアは血反吐を吐く。
俺は奴に手を伸ばすが、アルメリアは首を左右に振り魔王へと剣を構える。
「私の事はいい……行ってください。もしも、またアレがあれば私が何とかします……さぁ!」
「……ありがとう」
俺は静かに礼を伝えて飛び立つ。
そうして、剣を出現させて奴へと向かう。
奴は剣を横に振るい、ゾーヤの力で俺を殺そうとする――させねぇッ!!!
俺は自らの能力を一つ使い――ゾーヤの能力を模倣する。
奴と同じタイミングで剣を振るえば。
互いの力が作用し、周辺の空間が激しく振動していた。
「――ッ!!!!」
「ぐがああぁぁ!!!」
互いに耐える。
耐えて、耐えて、耐えて――俺は叫ぶ。
「――今だッ!!!!」
《了解ッ!!!》
此処にはいな人間たちの声。
それを聞き、俺は敵の攻撃を――打ち消す。
互いに硬直状態だ。
が、俺の傍には一瞬でアルメリアが現れる。
そうして、俺の体を抱えて一気に離れる。
すると、それを確認したサムはデウス・エクス・マキナを動かし――空が光る。
瞬間、一条の光が耳をつんざくような雷鳴を轟かせて天から降り注ぐ。
それらは空を覆っていた悪魔共を消し飛ばし。
一直線に魔王へと降り注いだ。
目玉も何も関係なく。
白き輝きがケガレを消し去っていく。
魔王は絶叫していた。
俺たちは視界が白一色染まる中で。
雷鳴のようなものを聞き――光が収まる。
見れば、魔王はそこにいて……が、弱まっている。
明らかに今の攻撃で弱体化した。
ケガレの濃度が弱まっている証拠であり。
俺はアルメリアから離れて、彼女に対してある事を頼む。
手に出現させたのは一つの槍。
何の変哲もない銀の槍。
が、俺がそこに力を注げば……これでいい。
「これをお前に託す……もしも、魔王が俺か世界に対して危険な攻撃をした時に……これを奴に使え」
「私が?」
「あぁお前しかいない……タイミングは任せる」
「……心得ました」
アルメリアは俺の手から槍を受け取る。
彼女は槍と剣を持ちながら、魔王を見つめて――奴からケガレが気となって噴き出す。
見る見る内に奴の体は小さくなっていき――悪魔となった。
全長三メートルほど。
ケガレに覆われているが、その体表には真っ赤な刻印が全身に走っている。
眼球は真っ赤に充血し、頭からは二本のねじれた角を生やしていた。
鋭利な爪と牙であり、奴が腕を広げれば、二対の歪な翼が広がった。
ケガレの濃度は弱まっている……が、力そのものは強くなっているように感じる。
「殺す。殺す。殺す……殺して、やるぞッ!!!! カミッ!!!!!」
「何度でも言ってやらァ! やれるもんなら――やってみろやァァ!!!」
俺は地面を蹴り――翔けた。
魔王も歪な剣を出現させて。
互いに大きく得物を振るい――かち合う。
火花が散り、接触した衝撃だけで周囲の氷が砕けて行く。
アルメリアの気配を探れば、空を飛んでおり――
「我を見ろォォ!!!!」
「……!!」
奴の殺気が力となり。
俺の体は一気に後方へと飛ぶ。
奴は空を翔けながら、黒い斬撃を無数に放つ。
俺はそれを転移によって回避しながら。
同じように斬撃を放ち、炎の竜を三体生み出し奴へとけしかけた。
奴は斬撃を全て打ち消し。
炎の龍に飲み込まれて――ケガレによって俺の炎は溶かされた。
「オオオォォォォ――――ッ!!!!」
奴が叫ぶ。
瞬間、弱っていた筈のケガレが戻ろうとしていた。
怒りと殺意。
恨みや復讐心が奴を強くする。
負の感情こそが奴の力の源だ……歪んでやがるな。
俺は空を舞いながら、たらりと汗を流す。
やはり、腐っても魔王で……そう簡単にはいかねぇか。
魔王は翼を広げて俺を追って来る。
周囲に黒いケガレが渦を巻き。
そこから放たれた弾丸が奇妙な軌道を描いて俺を襲う。
俺は触れないように回避しながら、意図的に魔王をライツから引き離していく。
アイツらの所にいってやりてぇ。
が、俺は魔王と決着をつけなきゃならない。
クラーラ、ゾーヤ、ボブ、クルト……それにアイツらも。
エゴンたちは強い。
短い間でも、俺はアイツらに教えられる事は教えた。
並みの悪魔なら問題はない。
何より、アイツらはチームで……任せたぜ。
俺は此処にはいない仲間を想いながら――戦場を翔け抜けた。