世界は――混乱に陥っていた。
昨晩、世界会議にて発令された“全人類総戦令”。
それは被害の希望が分からないほどに大きな悪魔災害が。
短期間の内に発生する可能性が高いという事で。
一般人は勿論の事、僕たち修道院の生徒たちも戦闘員や支援員として招集された。
一般人たちの中でも、悪魔に関する知識があるものは戦闘のサポートを行い。
非戦闘員である女性や老人たちは避難所での施設の維持管理のサポートを任されていた。
僕たちは祓魔師の見習いであるが戦闘が出来るだけの技量があると判断されて――今、ライツでの防衛線に参加していた。
多くの悪魔が空を覆い尽くし。
それらが海を越えてやって来る。
僕たちの心には確かに恐怖があった。
怖くて、逃げたくて……でも、誰も逃げなかった。
僕たちは覚悟していた。
あの日、先生たちが教えてくれた悪魔という存在の恐ろしさ。
残虐で非道で、そんな存在たちと戦うという事はどういう事かを。
もしも、此処で僕たちが逃げればどうなる?
悪魔たちは防衛線を突破して。
幼い子供たちを喰らい。
女性も老人も殺して……ダメだ。
それだけはダメだ。
だからこそ、僕たちは勇気を奮い立たせて――悪魔を殺す。
「ああああぁぁぁ!!!!」
「「「――――ッ!!!!」」」
拳を振り上げて――振り下ろす。
瀕死だった悪魔の頭部を破壊すれば。
悪魔は蒸気を発しながら消えてなくなる。
僕はそのまま背後から迫って来た悪魔の攻撃を回避。
すると、アデリナさんが魔力弾によって悪魔の体を貫く。
「大丈夫!?」
「僕は大丈――避けてッ!!」
「え?」
アデリナさんの背後に――悪魔が。
奴は大きく口を開けていた。
アデリナさんを頭から捕食しようとして――その体が鎖で捕縛される。
「ギヤァァァァ――――ッ!!」
「ぅ!?」
アデリナさんが顔色を青くさせながら此方に逃げて来た。
悪魔は鎖の力でその体を焼かれて――バラバラに引き裂かれる。
「止まるなッ!! 連携を続けろッ!!」
「「は、はい!!」」
クルト先生が鎖を操り、悪魔たちと戦う。
流石は実戦経験者であり。
並みの悪魔を歯牙にも掛けていなかった。
僕たちは再び四人での連携に戻る。
ヤン君が敵のヘイトを集中させて。
僕とエルナさんが近接戦闘で悪魔たちを潰す。
それでも殺し切れなければ、アデリナさんが遠距離から攻撃して確実に仕留める。
上手く行っている。
今はまだ、誰も戦闘不能になっていない。
――此処は地獄だ。
海岸線に展開した僕たち第七師団。
熟練の祓魔師たちを隊長とし。
ぞれぞれがライツを守る為に展開された超規模結界を守護している。
僕たちは結界の外にて、悪魔たちの掃討に当たっているが。
既に、多くの仲間が負傷。又は殺されていた。
死体だ。
そこら中に死体が転がっている。
悪魔だけじゃない、人間の死体もだ。
悪魔たちは死んだ人間たちの死肉を喰らい。
僕たちは補給もままならないままに、無限に思えるような悪魔たちを殺し続けていた。
一体一体の戦力は恐らく、それほど高くない。
実戦経験がまだである僕たちでも十分に戦えていた。
勿論、クルト先生がバックアップについてくれているのも大きいが。
それでも、誰も犠牲を出す事無く戦えている。
僕たちは死体の山を越えて。
仲間たちを鼓舞しながら戦う。
空を見れば、遥か上空でも激しい戦闘が行われていた。
軍の大型戦闘機や祓魔師の中でもハイレベルの人間たち。
それぞれが空中にて激しい戦闘をしていた。
恐らく、あの中にはケーニヒもいる筈だ。
僕たちが戦っているのは。
ケーニヒが殺すまでもない雑魚ばかりだ。
彼らは僕たちでは手に負えないような強敵を相手取ってくれている……そうだよ。
僕たちはまだまだ弱い。
現役の祓魔師たちと共に戦っていても。
僕たちは見習いで――でも、関係ないッ!!
この時、この場にいる限りは――僕たちも祓魔師だ。
戦う。戦ってやる。
先生たちのように、ケーニヒの方々のように――ランベルト・ヘルダーのようにッ!!!
悪魔たちが更に降りて来る。
僕は向かってきた悪魔の蹴りを避ける。
そうして、渾身の一撃を放ち敵の頭蓋を砕く。
肉片と共に血が噴き出して。
僕は悪魔の血を浴びながら、仲間たちと共に敵を見据えて――叫ぶ。
「オオオォォォォォ――――ッ!!!!」
戦え、戦え――――戦えッ!!!!
敵を、悪魔を、皆殺しにする。
人類の矛として、希望の象徴に集った祓魔師として。
僕たちは命を懸けて悪魔たちを殺し尽くす。
怒りと殺気に満ちて行く。
そうして、鳴き声を上げながら降り注ぐ悪魔に向かって駆ける。
対空砲の激しい音が響き。
ミサイルの一斉発射で爆炎が広がり。
破壊された戦闘機が炎を上げながら海に落ちて行く。
人間たちの悲鳴が響き渡り。
血潮が舞って、また一人、また一人と悪魔たちに食い殺される。
僕は拳を固めて――振るう。
殺して、殺して、殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して――次だ。
蛆のように湧いて来る悪魔共。
その瞳には僕たちが映っていた。
涎を垂らして目は血走り。
呼吸を大きく乱しながら、獣のように咆哮を上げて襲い来る。
ヤン君が前に出る。
そうして、大盾で敵の攻撃を防ぎ。
僕とエルナさんが彼を超えて飛び出し。
悪魔たちの頭部や心臓に目掛けて蹴りやパンチを繰り出す。
手足に嵌めた聖刃が、悪魔たちのケガレを祓いこの世から消し去る。
呼吸を乱しながら。
僕たちは動き続けて悪魔を殺し。
そんな隙を狙う様に、悪魔たちが四方八方から攻めて来る。
が、そんな悪魔たちはアデリナさんの魔力弾によって鉢の巣にされていく。
連携だ。
一人ではこの数相手には戦えない。
誰一人として欠けてはならない。
僕とエルナさんは互いに背中を合わせる。
ヤン君も額から血を流しながら、盾を振るって悪魔たちを退ける。
アデリナさんの服もボロボロで。
それでも、彼女は返り血を拭って魔力の回復の為のタブレットを齧り敵へと攻撃を続ける。
終わらない――終われない。
殺しても殺しても――悪魔は存在する。
今、この世界で何が起きているのか。
僕たちには何かは分からない。
でも、あの時、先生と会った事は覚えている。
僕たちに話してくれた事も、あの人が抱えていた秘密も――全て、覚えている。
忘れる筈がない。
絶対に忘れてはいけない。
僕たちと先生の絆であり。
先生が託してくれた想いを――僕たちは死んでも守る。
託されたんだ。
言葉ではない。
それでも、彼の視線でその心を見た。
この世界を、僕たち人類の未来を。
あのランベルト・ヘルダーがこんな僕たちにだ……最高じゃないか!
思い描いていた未来。
僕が目指していた場所。
右腕にはなれなかったかもしれない。
でも、僕たちはあの人に認められて――戦っている。
それだけで十分だ。
それだけで此処に立つ理由は――満たされていた。
僕は呼吸を乱し大粒の汗を流しながらも――笑った。
「勝つぞッ!!!! 絶対に生きて――先生にッ!!!!」
「「「オゥッ(えぇッ)!!!」」」
僕たちのやる気が闘志が――体に火をつける。
今にも倒れてしまいそうなほどに疲労が溜まっている。
しかし、先生から託された想いが。
人類を守りたいと言う僕たちの願いが――無限の力を与えてくれる。
僕は向かって来る悪魔の攻撃を避ける。
回避して、拳で打ち殺し。
また回避して、蹴りによって粉砕し。
回避しようとして――脇腹を敵の爪が抉る。
「うぐぅ!?」
「エゴンッ!!」
エルナさんがすぐに敵に攻撃を仕掛ける。
敵は腹を貫かれて絶命し。
彼女は僕の方に駆け寄り――目の前で閃光が迸る。
「「――ッ!!」」
閃光が晴れれば――ヤン君が立っていた。
盾を構えて攻撃を防いでくれた。
が、彼の体からは煙が出ていて――彼が膝をつく。
「ヤン君!?」
「心配、ねぇよ。この、程度……がほ!」
ヤン君は血を吐き出した。
が、僕から離れて走り出す。
彼が盾を振り地面に突き刺せば。
敵たちが一斉に彼に向かって襲い来る。
彼は全ての攻撃を盾から放つ魔力の膜で防ぎ――悪魔たちが鎖によって引き裂かれる。
クルト先生が空を舞う。
そうして、そのまま鎖を手足のように操り。
襲い来る悪魔たちを倒していった。
「ヤンッ!!! 結界内に入れッ!!!」
「いえ!! 俺はまだ!!」
「――命令だッ!!! お前たちはこの場から離脱しろッ!!!」
「「……ッ! 了解!!」」
「お、おい!!」
僕たちは先生に命令された。
だからこそ、負傷したヤン君を抱えて走り出す。
先生はそんな僕たちを守ってくれた。
道を防いでいた悪魔たちは死に。
僕たちは死体を飛び越えて走り――先生の悲鳴が聞こえた。
「……っ!!」
思わず足を止めて振り返る。
すると、先生が一体の悪魔の攻撃を受けて跳ね飛ばされていた。
他の悪魔とは違う。
体が大きく、僕たちでも分かるほどに高い魔力量で。
奴は倒れ伏す先生を見つめながらゆっくりと近づいて行っていた。
僕はエルナさんにヤン君を任せて走る。
走って、走って――“先生が落としたそれ”を拾う。
掴んだそれは重かった。
とても重くて、僕なんかじゃ到底扱え切れるようなものじゃない。
これはあの人の武器であり、人類最強にこそ相応しいもので――でも、今だけはッ!!!
「アアアアァァァァ――――ッ!!!!」
「……?」
悪魔が僕の声に反応して振り返る。
僕はそんな悪魔に飛び掛かり――悪魔が消えた。
何処に行ったのか。
視線を動かして――地面に叩きつけられる。
「がはぁ!?」
「……祓魔師……いやぁ、違うかぁ?」
悪魔が僕を押し潰す勢いで上から力を加える。
全身の骨が軋み。
僕は口から血を吐く。
悪魔はそんな僕を――更に叩きつけた。
バキバキと全身から音が鳴る。
意識が遠のいていくのを感じながら。
僕は薄く目を見開き、悪魔を見た。
悪魔はニヤニヤと笑っていた。
大きな手で僕の体を掴んで持ち上げていた。
そんな悪魔はゆっくりと口を開けて僕を食べようとして――僕は銃口を敵の口へと向ける。
「喰らえッ!!!!!」
「うぁ――ッ―――――…………」
悪魔の口内に、先生の愛銃の弾丸を放つ。
爆発音のようなものが響き。
僕の手から先生の銃は離れて飛んでいく。
同時に僕の両肩の骨は外れて激痛が走った。
僕は痛みに耐えながら、悪魔の手から零れ落ちる。
どさりと砂浜に落ちる。
そうして、虫の息になりながら悪魔を見れば――目が光る。
「このぉぉぉぉクソ人間がぁぁぁぁ!!!!!」
奴の頭はぐちゃぐちゃだった。
が、生きている。
やはり、先生のようには使いこなせなかった。
そう思いながら、僕は――瞬間、悪魔の体に鎖が巻かれる。
「何をぐがあああぁぁぁぁ!!!!?」
悪魔の体から炎が噴き出す。
そうして、悪魔の体は燃え尽き灰となった。
誰かが僕の体を抱えてくれた。
凄まじい速度で戦場を駆けて――結界内に入る。
結界内では、医療スタッフが待機していて。
担架を持った人間たちが僕をそれに載せる。
そこでようやく運んでくれた人の顔が見えて……クルト先生?
「馬鹿もの……が、助かった……ありがとう」
「……良か……った……は、は」
僕は笑みを浮かべる。
そうして、そのまま意識を沈めて行く。
まだ戦いは始まったばかりだ。
これからより一層苛烈になっていく。
こんな所で眠っている暇はない。
そうだと理解しているけど、今はもう動けそうにない。
少し休んで、そして、目覚めたら、僕は、もっと――――…………