「「――――ッ!!!!!」」
互いに叫び――衝突。
得物がかち当たり、衝撃波が周囲に広がる。
雷鳴のような強い音が鳴り響き、空間に亀裂が走った。
剣はびりびりと振動し、衝突だけで互いに体から血が噴き出す。
俺たちは更に力を込めて――互いに弾く。
一瞬の接触。
が、その瞬間に万を超える斬打が飛ぶ。
互いの力が相手の命を狩ろうと蠢き。
その身に無数の傷を作り、血潮が舞う。
千を超え、万を超え――無数の未来が光となって見える。
大空を駆け抜け。
剣を振るいながら、自ら軌跡を作る。
殺気に満ちた瞳が俺を見つめていた。
俺もそんな魔王に殺気を向けていた。
殺す。殺すさ――お前と同じだ。
魔王が夢見たように。
俺もこの日を待ち望んでいた。
互いの事を知り尽くし、互いの事を想いあい。
互いの意志をぶつけて、互いに殺し合い――互いに理解を深めた。
こいつとは絶対に――分かり合えない、と。
世界を混沌にする事を望むのなら、俺がお前を殺す。
世界に調和と秩序をもたらすのなら、お前が俺を殺す。
気に入らないから殺す。
邪魔だから殺す。
理由も、目的もどうでもいいほど――お前を殺してやりたい。
怒りや殺気に染まりし魔を統べる王。
俺という存在も、奴と同じように怒りと殺気を孕んでいた。
が、俺は冷静であり、奴の姿をハッキリと見ていた。
穏やかな心の中に、激しく燃え上がる殺意の炎。
相反する二つが心の中で共存し。
互いが影響し合い、車のエンジンのように――俺に力を与えていた。
心臓が激しく鼓動。
体中が燃えるほどの熱を持つ。
視線には力が入り。
自然と口角が上がっていく。
戦いが、殺し合いが――俺を戦士に変える。
カミでは、魔王でもない。
俺たちは今この瞬間だけは戦う為だけに存在する戦士だ。
心行くまで、満足するまで――殺し合おうじゃねぇかッ!!!
「オオォォォォ――――ッ!!!!!」
「アアアアァァァ――――ッ!!!!!」
互いに咆哮。
そうして、再び接触し――無数の光の線が駆け抜ける。
空に世界に、光が広がっていく。
互いに不可視の攻撃が線となって。
軌跡のように描いて行けば、自然と周囲の空間は光のベールに包まれる。
奇妙な音が鳴り響き、空間は大きく歪んで――互いに空を舞う。
そうだ――分かり切っていた。
互いに一線を超えた瞬間に、命を奪い合うしか道は無いと。
俺はお前を認める。
お前は確かに俺であったと。
だからこそ、此処でお前を殺して――俺に帰す。
加速し接触――血潮が舞う。
そんな中で、剣を振るう。
奴も剣を振るって互いにすれ違い――片腕が飛ぶ。
「「……!!」」
傷は一瞬で塞がる。
腕は再生し、互いに離れて――迫る。
黄金の炎の弾丸を飛ばせば、奴はケガレのカーテンでそれを防ぐ。
そうして、ケガレを周囲にまき散らして俺に浸食させる。
体が腐り、俺は炎を纏わせて腐食を消し再生させる。
魔王はその隙に、ケガレの塊を放出し――それが無数の弾丸となる。
俺は加速する。
そうして、迫りくる弾丸を回避。
触れようものなら黄金の炎にて打ち消し。
そのまま氷の大地へと降下し滑っていく。
剣を回転させて黄金を放ち。
即席の結界を展開して残りの弾丸を防ぐ。
そうして、術式を展開し転移ポイントを複数設置。
瞬間、魔王の気配を察知し――背後に刃を振るう。
「――ッ!」
が、そこにあるのは残影のみ――次の瞬間、自らが両断される未来を見た。
俺は間髪入れず転移を使用。
瞬間、俺がいた場所にはケガレの斬撃が飛び氷の大地に亀裂を走らせた。
俺はそれを見て――転移。
「――ぐぁ!!?」
「ハハハッ!!!」
回避――出来ない。
予測された。
いや、未来を見たのか。
奴の放った斬撃が俺の体を両断し――術式が発動する。
「ぐぅあ!!!?」
俺の体から鎖が飛び出す。
黄金を纏った鎖で。
それらが奴の体を一瞬で拘束する。
奴は力を込めて拘束を解こうとし――数秒。
数秒の時間があれば――十分だ。
俺は――“転移する”。
変わり身だ。
古典的な技だが、奴には通用した。
転移の瞬間に分身体を生み出して意識を共有。
本体の力を極限まで弱める事で奴の感知を欺いた。
俺は刃の切っ先に黄金を集中させて――放つ。
「ガァァッ!!?」
刺突により放たれた黄金の炎。
奴はそれを真面に受けて大きく吹き飛ぶ。
彼方まで奴は飛び、俺はそれを追いかけた。
空を駆け抜ける。
そうして、奴の移動先に先回りし。
奴の首を撥ねようとして――奴が消えた。
「……!!」
霧のように奴が消えた――魔術か!
奴も俺と同じように刻印による魔術を使用している。
奴の気配を探り――あばらに強い衝撃を感じた。
「うがぁぁ!!?」
「吹き飛べッ!!!!」
奴が拳を振るい――ケガレを放つ。
俺はそのまま空中を激しく回転し。
全身がケガレに侵されて肉を腐らせて骨を露出させる。
眼球が落ちそうになり――黄金が噴き出す。
傷が再生。
体が元に戻る。
が、かなりの力を使用している。
互いに全力だ。
力の消耗は激しい。
が、此処で全てを出し切らねば――負ける。
「魔王ッ!!!!!」
「カミッ!!!!!」
互いに叫んだ。
そうして、更に力のギアを上げて――大空を翔る。
光の線となり。
世界を駆け抜ける。
地球を何周もしながら、互いに武器を振るう。
斬撃が、力が。
持てるもの全てが――世界を彩る。
道を塞ぐ悪魔たちは消し飛び。
山は一瞬で吹き飛び。
落下した衝撃で海には巨大な穴が出来る。
全力での攻防が世界を変えていく。
が、今の俺たちには――どうでもいい。
俺たちは敵しか見ていない。
広い世界で、無限に等しい命が存在する中で。
俺たちの敵は――目の前にしかいない。
どんな強敵も、どんな存在も。
完全なものになった俺たちには届かない。
理解している、それは当然の事だ。
故にこそ――全力だ。
出し惜しみなどしない。
次があるとは思わない。
此処であり、この瞬間こそが――終わりだ。
「「――――ッ!!!!」」
咆哮――衝突。
互いに連続して衝突。
互いの力が激しくぶつかり、大地には大きく亀裂が走る。
それでも尚ぶつかり合い――俺は黄金の炎を噴き出す。
一瞬だ。
時が止まり、魔王の動きが――加速。
時が止まった空間で。
俺たちは互いに高速で動き。
お互いの得物を振るい相手を殺そうとする。
静止した空間にて、衝撃による光が無数に発生し。
俺たちの残影が痕跡を残して――時が動き出す。
瞬間、暴風が吹き荒れて。
大地は音を立てて崩壊し、山は噴火していた。
俺たちは遥か上空を目指して昇っていく。
ぶつかり、ぶつかり、ぶつかり続けて――大気圏を突破した。
魔王は黒い炎を噴き出し。
俺は黄金の炎を纏い瞳を輝かせる。
魔王が更に加速し黒い宇宙を背にして剣を掲げた。
【死ニ晒シ朽チ果テロッ!!!!】
「……!」
奴が力を覚醒させる。
瞬間、宇宙空間には無数の渦が出現し。
その中から濃厚なケガレが噴き出していく。
ゆっくりと星を覆い尽くすほどのケガレが周囲に広がり――無数の奴の反応を確認した。
「「「「死ネッ!!!!!!」」」」
「……っ!?」
剣を振るって奴らの攻撃を防御。
が、隙間を縫うように斬撃が飛び――血潮が舞う。
ケガレの中に無数の魔王が存在する。
その名から即死級の斬撃を放ってきた。
黄金を纏わなければ死ぬ。
そう感じるほどに、無数の斬撃が俺の体を切り裂いていった。
斬撃、斬撃、斬撃斬撃斬撃斬撃斬撃斬撃斬撃――体がバラバラになる。
頭が宙を舞う。
奴がにやりと笑い――俺は力を使う。
【――――
「「「「――――ッ!?」」」」
鐘の音が鳴り響き――巨大な手が出現する。
宇宙より来る黄金の手。
それがケガレに包まれた俺を握り――黄金が漲る。
炎が噴き出し。
白い衣となり、黄金の炎を背に背負う。
剣の長さが伸びて、その輝きを増し――翔けた。
周囲のケガレを一瞬で祓う。
そうして、隠れ潜む本体を見つけて――背中に移動する。
奴は此方を攻撃しようとした。
が、それよりも速く。
俺は片手を向けて――黄金の炎を放つ。
「ガアアァァ――――ッ!!!!!」
奴は叫びながら炎に焼かれる。
黄金の炎は龍となり、宇宙より星へ向けて流れて行く。
真っすぐに、真っすぐに。
元いた場所を目指して落下していく。
俺は転移を使い――奴の落下地点に飛ぶ。
「……」
静かに氷が砕けた海の水面に立つ。
ゆっくりと剣を下に構えた。
両手で握り、俺は力を蓄える。
黄金が剣へと流れて、周囲のケガレが消えてなくなり。
白い光の玉が空へと舞い上がっていく。
生命であり、魂であり。
命あるものの願いであり、希望であり――想いだ。
俺は彼らの火を受け取る。
そうして、剣へと力を注ぎ――奴が見えた。
黄金の竜が落下していく。
奴は拘束から逃れられていない。
その身を焼かれていて――変化が起きた。
黄金の竜の口。
そこから黒いケガレの炎が噴き出す。
そうして、一瞬にして黄金の炎は姿を変えた。
黒く不浄の龍で、その目は赤く殺意と怒りに満ちていた。
奴は龍となり、俺を見ながらその口を大きく開けた。
【――――灰燼ニ帰セッ!!!!――――】
【――――
龍の口から世界を滅ぼす闇が放たれる。
俺はそれに合わせるように黄金に満ちた聖なる光を放つ。
闇と光が一直線に飛び――かち当たる。
瞬間、世界から一瞬で色が消え失せて――“記憶が流れて行く”。
『――――!!』
「「……!」」
世界の記憶。
全ての命の記憶であり。
それらが全ての人間たちの心に流れて。
色を失った世界に無数の声が響く。
それを聞き、見て――白と黒が咆哮を上げた。
色が戻り。
互いの力がぶつかり合うのが分かった。
氷は全て消えてなくなり、海は大きく荒れていた。
空には何も無く。
強大な力の作用によって、世界の外を映し出していた。
そこでは、天使や神々が此方を見ていた。
が、彼らは此処へは来れない。
魔王を倒さなければ、外との繋がりは復活しない。
此処が正念場であり、此処が最大の重要なポイントで――何かが動く。
「魔王ォォォォォ!!!!!」
「――ッ!?」
「ジョーンズッ!」
姿を見せていなかったジョーンズ。
奴が黒い龍となった魔王の背に乗る。
そうして、その手を黒く輝かせたかと思えば――龍の背に刺す。
「ぐがぁぁぁ!!?」
「――この瞬間をッ!!! 待っていたぜッ!!!!」
ジョーンズが何をしているか――理解した。
自らと魔王の繋がりを使って。
奴に対して自らに存在する死の概念を付与している。
完全体で無ければ死なない筈の魔王。
その魔王唯一の強みを――奴が打ち消そうとしていた。
理解した。
此処に来て、全てを理解した。
アイツは最初から自分の手で――俺に道を切り開くつもりだった。
龍のブレスが弱まっていく。
俺は更に力を込める。
すると、ジョーンズの体から黒い炎が噴き出して――奴が吹き飛ぶ。
「――ッ!」
俺は目を見開く。
すると、体が燃えてなくなっていく奴と視線が合い――奴が笑う。
「さぁ、終わらせろや――カミ」
奴が指を向ける。
そうして、そのまま体は海へと落下していった。
俺はそれを一瞥し――光の中を駆けて行く。
剣を奴へと向けて突き。
そのまま奴の放ったケガレを――掻き消す。
俺は空を飛ぶ。
そうして、苦しみ藻掻きながらも大きく目を見開く奴を見て――叫ぶ。
「これでッ!!! 終いだァァァァ!!!!!」
「――――ッ!!!!!」
俺は全ての黄金を剣に注ぎ――龍を貫く。
魔王の核。
それを精確に砕き。
俺は空を舞いながら、魔王を見た。
すると、奴は咆哮を上げながら俺を見つめて――消えて行く。
「こんな、ところで、こんな形で――――…………」
「……」
魔王の気配が消えて行く。
俺はそれを感じて――――“瞬間、体を拘束された”。
「これは!?」
「――馬鹿がッ!!!!!」
龍の中からケガレを纏った人型が飛び出す。
ボロボロであり、その姿は崩れていっている。
が、その目は殺気と怒りに満ちていた。
体が全く動かない。
そんな状態の中で、奴が手を此方に向けて飛んでくる。
まずい、まずい、まずいまずいまずいまずいまずいまずいまずい――俺は笑う。
瞬間、海上から一直線に魔王に向けて――“槍が飛んできた”。
それは精確に魔王の体を打ちぬいた。
奴の体が一瞬止まる。
が、すぐに槍はケガレによって朽ち果てて――俺は剣を振るった。
一瞬。
ほんの一瞬だった。
が、その僅かな時間が――俺を救った。
「アルメリア……やるじゃねぇか」
「馬鹿、な! そんな、事が……あ、ああぁ……」
魔王は体を両断された。
そうして、その体を黄金の炎によって焼かれて――消えてなくなった。
残ったものは、魔王の力のみで。
それがその場で浮いていた。
俺は剣を消して、それを片手で掴む。
残った力で再び海を凍らせて。
その場に立ちながら、俺は黒い力の塊を見つめて――
「さぁ――帰ろう」
俺は自らの心臓に魔王の力を当てる。
すると、それは俺の体の中に入って行く。
魔王の怒りや殺気を感じる。
が、反応は明らかに小さく。
俺はようやく一つになれたのだと感じて――――“体が、揺れた”。
「…………は?」
ゆっくりと視線を下に向ける。
そこには、真っ赤な手が伸びていた。
俺の心臓を掴んでいて、しっかりと握りしめていた。
自らの心臓が鼓動しているのを見つめながら、俺は――
「流石だなカミ――やっぱり、お前に任せて正解だったよ」
「――ジョーンズッ!!!!」
俺は怒りのままに力を解放した。
が、それよりも速く奴はその場から退く。
奴は手に持つ心臓を――口へと入れた。
瞬間、奴の体から――凄まじいケガレが噴き出す。
俺は傷を再生させながら。
奴の事を睨みつける。
「何故だッ!!! お前はあの時ッ!!!」
「あぁそうだ。あの時の俺は、そうだろうな……だけど、今の俺は違う。何せ、記憶が戻ってるからなぁ!!」
「まさか、お前!!」
奴はケガレに包まれながら。
舌を出して、己のこめかみを親指で叩く。
「あぁそうさ!!! お前が得意な記憶操作。俺だって使えるんだぜッ!!!! お前らを騙して、最後に――魔王様を復活させる為になッ!!!! ハハハハハ!!!!」
奴が笑いながら両手を広げる。
その体はケガレに満ちていた。
奴は遥か上空へと飛んでいく。
奴は地球の外にて浮かび、まるで星のように黒く輝きを放ちながらその場にいた。
奴の目的は最初から、俺たちを油断させる事だった。
魔王を復活させる為に必要な残りの欠片。
それを全て回収する為に、敢えて魔王殺しを協力した。
その結果、俺が魔王を己へと戻す瞬間に――奪われた。
互いに全力で。
互いに命を懸けて。
だからこそ、小さな綻びを見過ごした。
「先輩ッ!!!」
「……アルメリア……すまねぇ。俺は……クソッ!!!」
「……私が浅はかでした。契約程度で悪魔を縛れる筈がなかった……ですが、まだ我々は負けていない。そうでしょう?」
アルメリアが俺の肩に手を添える。
その目は真剣であり、まだ光が見えていた……あぁ、そうだな。
「……恐らく、魔王はまだ完全に復活していない。一度は俺が殺したんだ。今はジョーンズの体を依り代にして再生しているんだろう……力が順応して、奴が完全体として蘇る前に片を」
「――させねぇよ」
「「……!!!」」
声が聞こえた。
瞬間、俺たちは動こうとした。
が、それよりも早く。
不可視の力に俺の体は覆われた。
アルメリアが俺に手を伸ばす。
俺も手を伸ばしたが掴めず。
闇に覆われながら、前を見れば。
邪悪な笑みを浮かべながら俺を見つめる。
――――“ジュダス”の顔が――――…………