【完結】祓魔師《エクソシスト》は休みたい   作:オタリオン

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130:希望は潰えた

「……かはぁ!」

「――! 先輩!」

 

 俺はせき込みながらも体を起き上がらせる。

 見れば、アルメリアが側にいて。

 氷の上にて、ずっと俺を守ってくれていたようだった。

 俺はどれくらいこうしていたのかを尋ねた。

 

「十分ほどです……ジュダスによる襲撃で、先輩が消えて……そこから計算して、およそ一時間が経過しています」

「一時間だと……アレか」

 

 俺は体を起き上がらせて空を見上げた。

 すると、遥か彼方で黒い星のようなものが輝いている。

 ケガレを放ちながら宇宙に浮かぶそれ。

 巨大な力を感じるそれは、既に羽化しようとしていた……体は……いけるな。

 

《全快とは行きませんでしたが……頼みます》

「……」

 

 俺は拳を握り静かに頷く。

 そうして、アルメリアに指示を出し。

 すぐに安全な場所へと退避するように命じた。

 彼女は何かを言い掛けたが、すぐに了承し去っていく……聡い奴だ。

 

 自分の力では、アレには届かないと理解していた。

 本当は戦いたい筈なのに、だ。

 良い後輩を持ったと思いながら、俺は黒い星を見つめて――力を解放する。

 

 黒い祓魔師としての戦闘服は完全に戻り。

 マントを手で祓いなびかせて。

 俺は剣を出現させてそれを片手で持ち――翔けた。

 

「待っていろ。今度こそ確実に――お前を殺すッ!!」

 

 ぐんぐんとスピードを上げる。

 そうして、一気に成層圏を超えて――見えた。

 

 黒い靄のようなものはケガレであり。

 それらを纏いながら、中心にて体を丸める魔王。

 ジョーンズを依り代とし、この世への復活を果たそうとしている奴。

 赤黒い光が連続して発光して、心臓の鼓動のようなものも響いていた。

 

 大きさにして一キロを優に超える巨大なケガレの塊。

 触れるだけで命が終わるそれ。

 奴は地球や周りの星々から生命を吸い取っていた。

 

《先生! ご無事でしたか!》

「サム! 状況は?」

 

 サムに簡潔な説明を求めた。

 すると、出現直後に攻撃を開始したが。

 こいつは一切ダメージを負わず。

 それどころか、攻撃を吸収してしまったという。

 

《此方では対処できず……先生、頼みます!》

「あぁ、任せろ!」

 

 これ以上、野放しにするのは危険だ。

 羽化するまで時間は無く――俺は剣を上に構える。

 

 

【――――――】

 

 

 黄金の炎が噴き出し。

 言の葉の力によって力が洗練されていく。

 奴そのものを容易に砕けるほどの力を練り上げていく。

 奴は羽化する前であり、俺の攻撃を防ぐ事は出来ない。

 

 俺は言の葉を紡ぎながら。

 奴という存在を見つめて――剣を振り下ろす。

 

「これで――終いだッ!!!!」

 

 黄金の炎が剣から放たれる。

 半月状の巨大な刃が真っすぐに突き進み。

 ケガレの星へと迫り――ぶち当たる。

 

 凄まじい衝撃。

 黄金がケガレを浄化していき。

 無数の亡者の叫び声が響き渡る。

 

 不快であり、心を壊す音で。

 俺はそれに耐えながら、静かに星の消滅を見守って――“消えた”。

 

 

 

「……ぁ?」

 

 

 

 消えた。星ではない――“攻撃そのものが掻き消えた”。

 

 が、星も既にそこにはなく――“巨大な人型が浮いていた”。

 

 

 

「……ほぉ」

「何で、テメェが……どうして……まだ、完全じゃ」

 

 

 

 俺の声は震えていた。

 一時間。たったの一時間だ。

 そんな短時間で、奴が完全に復活できる筈がない。

 だからこそ、攻撃を仕掛けて……奴の“黄金の瞳”が俺を見つめる。

 

「簡単な事だ――――想いとやらを、吸収したのだ」

「想い、だと……まさか!?」

 

 俺は地球に視線を向ける。

 すると、そこにあるべき――ケガレが存在しない。

 

 いや、それだけじゃない。

 ほとんどの人間たちや生き物たちの心から、怒りや殺意。

 負となるものが抜け落ちていた。

 穏やかで静かで――異常だ。

 

 奴に視線を戻す。

 すると、奴は大きな手を動かしながら自らに集った負に――酔いしれる。

 

「ありがとう。我が兄弟よ……お前が俺を認めたように、我もお前を認めた事で――答えを得た」

「……ッ!!」

 

 奴の体からケガレが――否、絶望があふれ出る。

 

 負の感情の具現化であり。

 それが奴に無限の力を与えていた。

 強大であり、そのオーラを浴びただけで俺の体は切り刻まれた。

 血が噴き出し、俺はその場で血を吐き出した。

 

『主様!!』

 

 咄嗟に、バトラーが俺を守る様に結界を展開する。

 が、強固な結界ですら耐えれずに破壊されて――奴が呟く。

 

「あぁ耐えれんか。すまん……まだ、順応していないようだ」

 

 奴は指を鳴らす。

 瞬間、奴のオーラは体へと戻っていく……ふざけてやがる。

 

 その体は人間のようであり、人間ではない。

 腕は四本であり、体の中心には深淵が如き深い穴が渦を巻いていた。

 その中では無数の命がいると分かる。

 絶望し、狂い、泣き叫び。

 怨念のように呪いを吐き続ける生命が存在していた。

 人間だけじゃない、悪魔もいて、それ以外もいて……無限だ。

 

 無限の想い。

 人の中に自然と生れ落ちる感情。

 醜悪とされて忌み嫌われるそれを奴は力に変えている。

 絶対に無くすことの出来ないそれを、だ。

 

 奴が腕を振るえば、奴の体には巨大で長い純白の布が巻かれて行った。

 髪も雪のように白く後ろに流されていて。

 全長が地球を包み込めるほどあっていても、恐ろしい美しさを感じてしまう。

 奴の巨大な瞳が俺を見つめて、その額の第三の目も開かれて行った。

 

 手足には黄金の装飾があり。

 その一つ一つが俺の全力の力を超えるほどの力を内包していた。

 奴は手で印を結びながら、溢れ出そうになるオーラを操り。

 それを表面に展開させて、自らの体内で循環させていた。

 

 強く、巨大で――恐ろしい。

 

 今までに出会った事が無い。

 否、存在している筈がない程に――底が見えなかった。

 

 俺は汗を流し、呼吸を大きく乱す。

 視界が揺れていて、今にも心が折れそうで。

 そんな中で、奴は静かに言葉を発した。

 

「気づきをありがとう。そして、我の為に新たな力を届けてくれてありがとう……もう十分だ。お前の役目は――これで終わりだ」

「――ッ!! ふざけんじゃねぇッ!!!」

 

 俺は叫ぶ。

 そうして、奴へと飛んでいく。

 

 

 加速、加速、加速加速加速加速加速加速加速加速――――が、届かない。

 

 

 どれだけ翔けても。

 どれだけ動こうとも。

 音速を超えて、光の速度を超えようとも――届かない。

 

「は、あ?」

 

 奴は目を細めて俺を見る。

 俺はそんな奴へと剣を振るって攻撃する。

 黄金の炎が斬撃となり奴へと飛んで――“消えた”。

 

 消えた――否、違う。

 

 消えた訳じゃない。

 奴が何かをした訳でもない。

 それは単純であり――“何もしていなかった”。

 

 攻撃をした。

 確かに剣を振るった。

 が、結果は何も起きていない。

 どういう事かと考えて。

 結果、何もしていなかったと体が明かした。

 

 理解不能、現象不明――――“理不尽”。

 

「……馬鹿、なッ!」

「……哀れだな。お前はもう、何も出来ない……我は既に、全盛期のお前ですらも超えたのだよ」

 

 奴は高みから俺を見下ろしながら言った。

 全身が冷たくなっていく。

 体が、心が冷えていき――“恐怖”だ。

 

 得体の知れない存在。

 自分の力が通用しない存在。

 出鱈目で、理解できない――”超常”。

 

 理解した。

 

 理解してしまった。

 

 だからこそ、俺は叫びながら――動き続けた。

 

「アアアァァァァ―――ッ!!!!!」

 

 剣を振るう。

 振るって、振るって振るって振るって振るって振るって振るって――振るい続けた。

 

 黄金が噴き出し奴へと向かう。

 鳥となり龍となり。

 敵を滅しようと飛んでいく。

 俺は力のギアを上げ続けて。

 全ての能力と力を使い、奴へと攻撃を続けて――――

 

 

 

【――目覚めよ】

「――――ぁ」

 

 

 

 奴の言葉が空間に響く。

 瞬間、俺の思考はクリアとなり――何も起きていなかった。

 

 あれだけの攻撃。

 宇宙の果てまで届くほどの攻撃。

 それらを放ち続けて――――“無意味”。

 

 

 何もしてない。

 何もやっていない。

 動いてすらいない。

 何も見えていない。

 

 

 何も、何も、何も何も何も何も何も何何何何何何何何ナナナナナナ――――奴が手を伸ばす。

 

 

 俺の体は動かない。

 拘束されていない。

 奴は力など使っていない。

 俺は奴のオーラと力の前に――動けなかった。

 

 

 心の中でバトラーが叫んでいた。

 サムたちも俺に呼びかけている。

 攻撃を行っている音が聞こえた。

 が、何事も無かったように無音になる。

 

 

 バトラーが、サムたちが叫び続けるが――俺の心には響かない。

 

 

 

 俺は大きく目を見開きながら、眼前を覆う巨大な掌を見つめて――――…………

 

 

 

 

 

 …………――――?

 

 何も、見えない――何も、聞こえない。

 

 此処は、何処だ――俺は、一体?

 

 手を伸ばす――が、何も掴めない。

 

 俺はそれでも手を動かし――何かに触れた。

 

 それを掴んで持ち上げて――淡い光を放つ。

 

 

「……! これは……そうか。俺は……まだだ」

 

 

 掴んだのは剣だ。

 俺が手に入れた剣で。

 その聖なる光が俺の目を覚まさせてくれた。

 

 俺はすぐに理解した。

 この空間が魔王の中で。

 奴の絶望の世界であり、俺は奴に吸収されようとしていた。

 

 圧倒的な力だった。

 この俺が、勝てないと一瞬でも考えてしまった。

 負けであり……が、まだだろう。

 

 一度の敗北。

 たった一度の完敗だ。

 それだけであり――リベンジだ。

 

 俺は剣を掴み聖なる力を高めていく。

 ゆっくりと体の中から黄金が漏れ出し。

 俺はそれを剣へと注いで――

 

 

 

「――もう、十分だろう?」

「……!」

 

 

 

 背後から腕が伸びる。

 その冷たい手で、俺の手に添えられた。

 体が動かない。

 視線が動かせない。

 が、その声と気配は――魔王だ。

 

 奴は俺と同じ大きさで姿を現した。

 何故、此処に。どうして――奴が言葉を続ける。

 

「お前は負けたのだ。何度やろうとも、結果は変わらぬ……お前に勝利など無い」

「……誰が決めた。俺は勝つぜ。勝ってお前をぶっ殺して――世界とやらを救ってやるよ」

 

 俺は笑う。

 が、心では激しく動揺したらりと汗が流れた。

 奴は俺の手に自らの手を添えながら――くすりと笑う。

 

「……何がおかしい」

「……おかしい、か……そうだな……世界を救うとは……あの世界の事か?」

 

 魔王は問いかけて来る。

 あの世界というのは、ランベルト・ヘルダーとして生きたあの世界の事で。

 俺は当然だと奴に返してやった。

 すると、奴は納得した様に頷き――

 

 

 

 

 

「そんなものは――“存在しない”」

「………………あ、ぁ?」

 

 

 

 

 

 今――何と、言った?

 

 存在しないって――――何、が?

 

 

 

 

 

「存在しない……もう、何処にも無いのだよ」

「何、言って…………何を、言ってッ!!!! 嘘をッ!!!!」

「――感じるだろう。今のお前でも、外の状況は分かる筈だ」

 

 

 奴は笑う。

 俺は心を震わせながら、力に集中して――――“無い”。

 

 

 無い、無い、無い無い無い無い無い無い無い――探す。

 

 

 無い無い無い無い無い無い無い無い無い無い――探す。

 

 

 無い無い無い無い無無無無無無無無無無無無無無無無――さが、す。

 

 

 無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無無――――

 

 

 

 

 ――――“ナニモ、ナカッタ”――――

 

 

 

 

「嘘、だ…………そんな、事…………お前は、俺と…………出来る、訳、が」

「あぁそうだな……我はお前と戦っていた。お前を吸収した今、意識を集中する必要がある……だからこそ、命じた」

 

 奴は淡々と告げた。

 部下の一人。

 十手が一人、壱掌の悪魔。

 奴こそが、最後の手札であり。

 この時、この瞬間に用意していた――“終末装置”であったと。

 

「あ、あぁ………ぁ、ぁあ!」

「分かるか? 何故、我が態々、小さな世界を消滅させたのか……お前の為だよ」

 

 奴は手をのける。

 そうして、俺を抱きしめながら耳元で囁く。

 

「お前の心に絶望を。お前の心を完全に破壊する為。その為だけに……我は待ってやったんだ」

「ぁ、ぁあ、あ、ぁあ」

「何時でも、お前を殺す事は出来た。何時でも、お前を捕らえる事は出来た。お前の策など関係ない……我は、お前のその表情が見たかったから――我慢、してやったんだぞ?」

「…………っ」

 

 奴は囁く。

 その言葉を聞くたびに、心が音を立てて壊れて行く。

 

 もう一度、戻せばいい――そうじゃない。

 

 あの世界はもう戻らない。

 存在そのものを抹消された。

 それはつまり、その世界も生きていた命たちも――全てが完全に消滅したという事だ。

 

 欠片も無い。

 砂粒ほどの存在も無い。

 ゼロであり、無であり――――もう、会う事はない。

 

 

 

 

 理解した瞬間に――“心が砕け散る”。

 

 

 

 

「…………」

「……満足した。これで、我の復讐は終わりだ……後はゆっくりと我の中で……溶けていけ」

 

 下から無数の手が出て来る。

 冷たく汚れ切った手が俺を下へと連れて行く。

 俺は抵抗しない。

 何もせず、ただ口を小さく開けるだけだった。

 

 体が沈んでいき。

 奴が上から俺を見下ろしていた。

 奴は目を細めながら、弧を描くように笑って――

 

 

 

「眠れ――――永久に」

「…………」

 

 

 

 俺は奴の言葉を聞く。

 

 

 そうして、視界が手に覆われて。

 

 

 

 俺の体はそのまま冷たい絶望の中へと――――…………

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