……苦しい。
…………苦しい。
………………苦しい。
何も見えない、何も聞こえない。
全身が氷のように冷たくて。
指先の感覚すらも無くなっていた。
深く暗い闇の底。
絶望の世界で俺は静かに落ちて行く。
もう、十分だ……もう、何も考えなくていい。
精一杯、頑張っただろう……俺は十分、働いた。
守るべき世界は消えて……俺という存在も直に消滅する。
「……」
無理もないさ。
魔王は進化を果たして、俺は不完全のままで。
全盛期の俺よりも遥かに強く。
奴には俺の攻撃は一切通じないんだ。
理不尽であり、意味不明であり。
笑えないほどの差があって……だから、負けて当然なんだ。
そう、負けた。
俺の完敗であり、敗者は大人しく死んでいくしかない。
そうだ、それでいい。
仮初の死を何度も経験し。
俺の心は擦り切れて。
人間社会でも神々の世界でも。
俺はずっと身を粉にして働いてきた。
頑張って来たんだ。
今まで見返りを求めずやってきたんだ。
だったら、もう此処で終わりにして。
俺は永遠の眠りに――
《――本当に、そう思っているのですか?》
「……」
声が、聞こえた気がした。
が、今更、俺に応える義理は無い。
そもそも、応えたところで意味なんて無い。
もう俺には戦う力も、誰かの期待に応えてやる意志もねぇんだからな。
《戦う力が無い……ふむ、確かに今の貴方には何も無い――ただの抜け殻だ》
「……」
失礼な奴だ……でも、その通りだ。
力は奪われた。
あったとしても、俺の心は既に死に果てた。
これ以上、立ち上がる事は出来ねぇんだ。
どんなにこいつが願った所で、俺にはもう何もねぇ。
悪いとは思わない。
そもそも、もう何も考えたくねぇ。
俺はこのまま静かに消えて無くなればそれで――
《消えてなくなる? はは、それはおかしい事ですね。人も神も、貴方でさえも、死して燃え尽きたとして――完全に消える事はありませんよ》
「…………ぁ?」
俺の口から掠れた声が漏れる。
勝手にもれちまった声だ。
この声の主が、俺の心を動かす事を言いやがったからだ。
妙な期待なんてさせるな。
死ねばそれで終いだ。
魂も何もかもが消滅したのなら、残るものなんて何も……!
俺がそう思っていれば――ふよふよと小さな光の玉が出て来た。
小さく、弱弱しく。
吹けば消えてしまう蝋燭の火のような光だ。
そんなものが一つ二つと増えて行く。
俺の元に集まるようにそれらがやって来て――瞬間、声が、聞こえて来た。
『先生は! ランベルト・ヘルダーは! 世界の希望なんです! だからこそ、行って――世界を救ってください!!』
エゴンの、声だ……あの、時の……っ。
『そんな理由なら引き留められる訳ねぇだろ……たく、アンタって人は本当に……絶対に勝ってくれよ!!』
ヤン……でも、お前たちは、もう……。
『先生の事、私は信じてるからね!! 絶対に、絶対に――勝つってね!!』
アデリナ、どうして……何で、お前たちの、声が……!
『先生は最強。最強は一人。故に、先生は負けない……もしも、世界を救ってくれたら……毎日お供え物する』
……はは、エルナめ……そうか、いる、のか……。
『先生!! 負けんじゃねぇぞ!! 悪魔のボスなんかワンパンだ!!』
『そうそう!! 先生ならやれるぜ!! 何せ、俺たちの先生だからな!!』
レン、ショーン……お前たちは……いや、お前たちも、そこに……。
『く、くふふ……が、頑張って、ください……後、サイン……な、何でもないです』
『ほぉぉぉ! ……これって持って帰れるの?』
コルネリア……お前の声は……忘れてねぇよ。
『先生!! 頑張って!!』
『先生!! 負けるなぁ!!』
『ファイトだよ!! ガッツガッツ!!』
『『『先生!! 先生!!』』』
あぁ、くそ……聞こえちまう……アイツらの声が、俺の心を……。
『ヘルダー様を信じるんだ!! あの方ならきっと!! 我々に未来をッ!!』
『そうだ!! 人類の希望は負ける筈がないッ!! 信じるんだッ!! 我らの希望の火をッ!!』
『勝って!! お願いします!! 貴方でなければ、私たちは!!』
アイツらだけじゃない……顔も知らない奴らが、俺の事を……くそ、くそ!
『ダーリン……待ってるよ』
『マスター……私は貴方が神であろうとも……貴方の事を』
『私はまだお前に勝てていない。故に、お前は負けない……戻って来い』
『パイセン。ちゃちゃっと片して……飯、奢ってくださいよぉ』
『先輩は負けない。あの方は、必ずや……私は信じる!!』
『歌を皆に!! 彼が希望の火を絶やさないように、僕は歌を歌い続ける!!』
『先生。我ら朽ちて果てようとも、最期の瞬間まで貴方様の為に!!』
『娘を救ってくれた君ならば、魔王であろうとも……必ず礼をさせてくれよ』
クラーラ、クルト、ゾーヤ、ボブ、シンイチ……仲間たちの声が、ずっと聞こえている。
死に絶えた筈の心が動いている。
心臓の鼓動がゆっくりと聞こえていた。
氷のように冷たい体に、熱が広がっていく。
俺は望んでいない。
俺はこのまま消えてなくなりたいと思っていた。
が、俺の肉体は魂は……まだ、戦えって言うのか?
《命尽き果て、世界が終ろうとも……世界に命ありし者たちの想いは永遠に消える事が無い》
「想いは、繋がり受け継がれて……新たな想いとなり、世界を、巡っていく……そうだな」
俺は奴の――バトラーの言葉に応じる。
バトラーは笑う。
俺の中にずっといたんだ。
俺と共に滅ぶ事もあったというのに。
こいつは最後まで俺から離れずに……ありがとう。
《貴方が出会い、灯した火。既にこの世にいなくとも、彼らは貴方の元へと集った。彼らは今も尚、想いとなって生きています。貴方を信じ、貴方を助ける為に……もう一度、聞きましょうか……貴方は本当に、此処で消える事をお望みですか?》
バトラーは問いかける。
俺は笑みを浮かべて――手足を動かす。
体を縛り付ける無数の怨念。
絶望に染まった者たちが俺を引き留めようとしてくる。
が、無数の想いが俺の体へと入り。
少しずつ俺の体に力を与えてくれた。
俺は歯を食いしばりながら、ぶちぶちと拘束を解き――抜け出す。
真っ暗闇の中。
ほのかに灯る想いの光たち。
それらに照らされながら、俺は笑い――
「アイツらが望むのなら、俺はもう一度――戦ってやるよッ!!」
《……おかえりなさい。主よ》
バトラーの声が響き……想いの一つが俺の前に現れる。
片手でそれを受け止めれば――それが光の剣となった。
『先生。ありがとう……今度は、僕が――“僕たち”が先生の剣になるよ』
「……! ハリ……そうか……あぁ、一緒に行こう。皆で!!」
剣の柄を掴む。
瞬間、無数の光が剣へと吸い込まれて行く。
一つだけであればか細い光。
が、無限に等しい想いが一つとなり――闇を晴らしていく。
絶望が消えてなくなり。
隠れていた存在が目に映る。
巨大で理不尽で。
俺よりも遥かに力を持った悪魔たちの王。
無と化した世界で、ケガレを放ち続けるそいつが――俺を睨む。
「……あのまま果てればいいものを……愚かだな。カミよ」
「はっ! 愚かで結構だ……生憎と、俺には休みがねぇもんでな」
俺が光の剣を振るえば、光が俺の体に巻き付いていく。
そうして、俺の姿を――祓魔師としての姿に変える。
黒い装束で、中二病満載で。
誰しもが俺を俺だと思ってしまう――俺の姿へと。
光を放ちながら、俺を剣を回して――奴へと向ける。
「さぁ決着だ。泣いても笑ってもこれっきり……俺はカミだが。この時、この瞬間だけは、こう名乗らせてもらうぜ?」
魔王はケガレを更に噴き出す。
そんな奴を見ながら、俺を笑みを深めて――
「俺は祓魔師、ランベルト・ヘルダー……さぁ最後の仕事だ!! 全力でお前を――ぶっ殺すッ!!!!」
「――戯言をッ!!」
奴が戦闘態勢に入る。
瞬間、俺の体は凄まじい量のケガレに包まれて――光がそれを晴らす。
「効かねぇッ!!!!」
「……!」
俺は笑みを浮かべたまま、奴へと翔ける。
遥か遠く、届く筈の無い距離。
縮める事が出来ない絶対の領域に――“光の道が繋がる”。
「これは……そうか。それがお前の答えか!!」
「あぁ、そうさ。お前が負の感情を力にするのなら……俺は希望を!! 夢を!! 願いを力に変える!!」
アイツらが俺に道を示してくれている。
魔王との距離を縮める為の道を繋いでくれていた。
俺はその道の上を全力で疾走する。
すると、魔王が指を鳴らす。
瞬間、ケガレの中から無数の悪魔が生み出された。
それらは凄まじい力を有していた。
十手と同等であり――剣から光が放たれる。
「お前ら……!!!」
『『『――――!!』』』
剣から飛び出した想いたち。
それらが形を作り、無の世界を駆けて行く。
彼らは皆、武器を持ち。
俺の道を塞ぐ悪魔と戦ってくれていた。
剣から次々と人の形をした想いが出て来る。
武器じゃなく、別の何かを持っている奴らもいた。
戦い何てやった事もねぇ奴らが――俺の為に道を開いてくれている!
俺は笑う。
最高であり、最強であり……頼もしいなァ!!
俺は走る。
光の道を駆けて行きながら、襲い来る残りの敵を斬り捨てて行った。
斬って、斬って、斬って――魔王の力を感じた。
瞬間、魔王が指先を此方へと向けて――ケガレの塊が放出される。
俺はガードをしようとし――別の想いが飛び出した。
「ゾーヤ!!」
『――!!』
ゾーヤは光の剣を構えて――抜き放つ。
瞬間、強大なケガレは一刀両断されて消えてなくなる。
ゾーヤは俺の前方に止まり、そのまま悪魔たちの群れへと翔けて行く。
俺は止まらない。
更にスピードをあげて走る。
すると、苛立った魔王が自らの分身を生み出して俺にけしかける。
大きさは人と変わらない。
が、その力は十手を遥かに超える力だ。
俺はたらりと汗を流しながら、身構えて――また、別の想いが飛び出した。
「ボブッ!! シンイチッ!! アルメリアッ!!」
『『『――!!』』』
仲間たちが駆けて行く。
何も無い空間に清廉で力強い歌声が響いた。
瞬間、全ての想いたちの光が強さを増し。
ボブとアルメリアたちは魔王の分身に同時に攻撃を仕掛けて――弾き飛ばす。
魔王が呻き声をあげた……効いてる!!
ケガレに満ちていた空間に。
想いの力が満ちて行く。
心を壊すほどの負が、正しき心によって浄化されて行っていた。
奴の力が確実に弱まっている。
俺はそう感じながら、更に翔けて――奴が力を行使した。
【――――砕け散れッ!!!!】
「――ッ!!?」
奴の不可視の力によって、道が破壊される。
想いたちも吹き飛ばされて行き。
俺は無の奈落へと落ちて行く。
悪魔共が鳴き声を上げながら、俺へと向かってきて――剣が輝きを増す。
「――!! クラーラ!!」
『――!!』
クラーラが飛び出し、その姿を大きな鳥に変える。
俺はその背に跨り、クラーラと共に無の世界を翔け抜けた。
凄まじい速度で飛行し、悪魔たちを置き去りにして――瞬間、消えた筈の想いたちが戻って来る。
「何だと!? 馬鹿な、消し去った筈ッ!?」
『想いを消す事など出来ない。それが正しきものであれば尚の事……優しさや願い。誰かを想う心こそが、道に迷い挫折したものたちを立ち上がらせる……貴方は答えを間違った』
「何ッ!? 我は間違わないッ!! 我こそが正しいのだッ!!!」
奴は怒りと殺意を漲らせる。
そうして、内包していたケガレを放ち。
俺を攻撃して来た。
クラーラは翼をはためかせながら、追尾してくるケガレを回避していく。
俺も剣を振るって攻撃を消し飛ばすが……数がッ!!
「このままじゃ……!!」
俺の心の呼応するように剣が輝き――生徒たちが飛び出す。
「お前たち……! クルトか!」
『『『――――!!!!』』』
アイツらは俺を見て頷き――ケガレへと向かっていく。
アイツらを中心に光のカーテンが現れた。
それがケガレを阻み、俺たちは魔王へと繋がった。
クルトの想いが手から白く輝く鎖を放ち――道を示す。
「……最高だ。お前たちは、本当に……ありがとうッ!!」
俺は笑う。
そうして、鎖を辿ってクラーラと共に魔王の元へと向かう。
既に奴との距離は縮まり、決着の時が迫っている。
魔王は焦り、全てのケガレを放ち俺たちを殺そうとしてきた。
俺たちは濃厚なケガレに触れてしまう。
道となった鎖も、クラーラの想いはボロボロになり消えて。
俺は奴のケガレを真面に受けて――激しい絶望に襲われる。
「ガアァァァァァ――――!!!!!?」
「ハハハハッ!!!! 無駄だッ!!! 完全体でもない貴様などッ!!! 助けて貰わなければ我にも届かぬ弱者など――此処で消え去れッ!!!!!」
奴のケガレが俺の体を溶かしていく。
服は焼き消え、皮膚は爛れて。
骨がむき出しになり――が、止まらない。
「……!!」
「いでぇ、いでぇよぉぉぉ――――だが、これしきの事でッ!!!!!」
俺は進む。
致死量のケガレを浴びながらも足を進めて行く。
奴は更にケガレを噴き出し、俺の体は――再生していく。
「馬鹿なッ!!! そんな筈がッ!!!!」
「あるんだよボケがぁぁぁぁぁ!!!!」
俺は笑う。
血を吐きながらも笑い続けた。
狂っているのか、壊れているのか――いや、違う。
怒りも悲しみも。
不安も恐怖も――絶望も。
俺は知っている。
俺は知ってしまっていた。
だからこそ、希望というものを――胸に抱いている。
俺の心の中で燃え盛る想いが。
俺の体を動かし、前へと進む力を与えてくれる。
「いてぇし苦しいし最悪だ――でも、乗り越えられるぜッ!!!!」
「あり得ない、あり得ないッ!!!! 真なる絶望だぞッ!!!! お前の心を折るほどの苦痛を受けてッ!!!! 不可能だッ!!!」
「不可能何て誰が決めたァァ!!! 俺の辞書に――不可能何て文字はねぇんだよボケがァァァ!!!!」
俺は更に進む。
そうして、剣を両手で持ち。
切っ先を奴の心臓へと向ける。
奴は恐怖していた。
だからこそ、なり振り構わず攻撃を仕掛けて来た。
放たれたケガレの弾丸が。
俺の肉を抉り、骨を砕いていく。
血肉が飛び散り、激しい苦痛が俺を襲う。
が、受けた傷は一瞬で再生し。
残った苦痛を俺は受け入れて――剣を押し込む。
「テメェの敗因は一つッ!!!! それはこの程度の絶望如きで俺を殺せると思った事だァァァ!!!!」
「この程度、だと……ふざけるな……ふざけるなッ!!!!! 認めないッ!!! こんな事、認められる訳がァァ!!!」
奴が怒りのままにケガレを噴き出す。
暴風であり、それらが俺を奴から引き剥がそうとする。
が、俺は耐える。
耐えて、耐えて、耐えて――更に、進むッ!!!
「認めなくともこれが現実だッ!!!! 俺だけじゃねぇッ!!! 人も、アイツらも同じだッ!!!! 例え、心が壊れちまっても、命はッ!!! 時間を掛けてでも起き上がる生き物なんだよッ!!!! 失敗したって、苦しくってもなッ!!!! 希望がある限り、アイツらは絶対に――消せやしねェッ!!!!!」
「……ッ!!」
俺はボロボロになりながらも。
剣を更に押し込んでいく。
奴は自らの守る盾として結界を展開した。が、俺は足に力を込めて――翔ける。
奴の結界に触れて激しく火花が散り――亀裂が走る。
「あ、ああぁ、あああぁ!!!」
「見くびるんじゃねぇッ!!!!! お前が思っているほど命はなぁ――脆くはねぇんだよッ!!!!!」
結界の亀裂が更に大きくなっていく。
魔王はその場から逃げ出そうとし――溢れた想いたちが奴を取り囲む。
「ぐ、あぁ!!? 邪魔だッ!!! 退けッ!!!!」
『『『――――!!!!』』』
想いたちを奴が腕を振るって消す。
が、消せば別の想いが奴を囲み。
何度消そうとも、新たな想いが立ちふさがる。
それは奴を殺す為ではない――奴を救う為だった。
「俺はテメェを殺す――が、俺もアイツらもテメェを見捨てねぇッ!!!!」
「な、にぉッ!!!」
俺は剣を突き出し――結界が砕け散る。
俺はそのまま全力で奴へと翔けて――奴の心臓に剣を差し込む。
瞬間、剣から強い光が発せられた。
それがケガレに包まれた魔王を覆い。
奴の負を祓っていく。
奴は絶叫しながら、俺や想いたちを否定する。
俺は柄を全力で押し込みながら――笑う。
「兄弟ッ!!!! 今度こそ――お前を受け入れるぜッ!!!!」
「馬鹿なァァァァァ――――ッ!!!!!!!」
奴は激しく絶叫。
無の空間が激しく揺れた。
そうして、奴の体が完全に光で覆われて――――…………
…………――――目を開ける。
「……」
「……よ!」
目の前で背を向けて座っている男。
その後ろ姿は弱弱しいが。
姿は俺と瓜二つで……しょぼくれてやがるな。
真っ白な空間にて、俺は片手を上げて奴に挨拶をする。
が、奴は此方を見ず。
ただただ黙っていた。
俺は髪を掻いて、面倒だと思って――
「……何故だ」
「……あぁ? いきなり質問かよ……何がだ?」
奴は顔を向けない。
が、静かに小さな声で問いを投げて来た。
「……何故――我を消さない」
「……あぁそういう事か……救うって言っただろ? 忘れたのか?」
奴は気になったようだ。
奴を殺して、俺の中へと戻したと言うのに。
自分の自我が消えていない事に。
俺はそんな事かと思いながら、理由について明かしてやった。
すると、奴は少し顔を上げて……。
「救う、だと……お前は愚かだ……我はお前の守って来たものを壊したんだぞ……お前にとって我は、憎い仇であろう……慈悲など要らぬ。消してしまえ。我とて、お前に生かされる事など」
「――うるせぇよ。負けた奴が文句言うんじゃねぇよ。アホか」
「……」
俺は目を細めながら負け犬に黙れと伝える。
奴は口を閉ざして、また顔を伏せてしまう……はぁ、見てらんねぇな。
「別に、お前が本気で消えたいっていうのならそうしてやるよ……でも、いいのか?」
「……何がだ」
「何がって……リベンジだよ。しねぇの? 仮にも魔王を名乗ってたやつが、たった一回負けてそれでおしまいなのか? えぇ?」
「……何を考えている」
奴は肩を震わせる。
怒りかそれとも……どうでもいいさ。
「何も? ただ、せっかく出来た兄弟を消しちまうのは勿体ねぇんでな……喧嘩なんざ兄弟ならするもんだろう。失ったものは帰ってこねぇが、お前はまだ此処にいる。最高にムカついているし、恨みだってあるけどよぉ……ま、手伝ってやるよ。今度こそ、テメェが間違わねぇように、俺が――本当の世界を教えてやるよ……つっても、お前を生み出しちまった責任? 俺にもあるしな。産んで消すのって、最高にひでぇだろう? だからま、そういうこった! はは!」
俺は笑いながら手を伸ばす。
いい加減であり甘々であり。
無責任もいいところな発言だ……でも、これでいいんだよな?
『『『――――』』』
俺の視界の端に映る想いたち。
俺が灯した希望の火は、こいつにチャンスを与えろと言っていた。
消された奴らがそう思っているのかはカミである俺にも分からない。
が、奴らの残した想いは確かにそう言っていた。
故に、俺はこいつを消さない。
奴は小さく息を吐く。
そうして、ゆっくりと振り返る。
その目には光は無い。
虚ろであり、抜け殻で……が、奴は笑う。
「……理解できん……が、お前が我を生かすというのなら……良かろう。リベンジとやら、してみせようぞ」
奴は俺の手を――弾く。
そうして、そのまま何処かを目指して歩いて行った……可愛くねぇぇ。
俺は舌を鳴らして奴を追い掛ける。
奴は来るなというが、俺は奴の後ろをついていく。
「……後悔するなよ。此処で、我を消さなかった事を」
「しねぇよ。てか、自我はあるだけで、好き勝手を許す訳じゃねぇからな? 分かってるよな? あぁ?」
「……黙れ……そうだ。ならば、一日、我にお前の体を」
「――断る。こりねぇなぁ。その野心は誰に似たんだろうなぁ? たく」
「くくく、お前とて野心はあるだろう。望めば、我が共に世界を」
「あぁあぁ!! 聞こえねぇ!! 聞こえねぇよぉぉ!!」
「……時間はある。ゆっくり、じっくりと貴様の心を……くくく」
「……はぁ、こりゃ骨が折れるなぁ」
俺はため息を零す。
奴はそんな俺など無視して先へと進んでいった。
俺はそんな奴を追い掛けようとして…………そうだな。
「……よし!」
「…………何をしている」
「んー? 別にぃ」
俺は伸びをする。
そうして、肩の骨を鳴らしながら。
両手を空へと向ける。
初めての共同作業。
魔王とカミが一つになって。
最初に行う仕事……いや、仕事じゃねぇな。
「こいつは、俺からお前たちへの――礼だ」
体から光が発せられて。
その光が空へと舞い上がっていく。
放たれる強大な力が。
世界を照らす輝きが。
無となり消え去った世界へ――広がっていく。
俺は目を細めて笑う。
そうして、光が世界を満たしていくのを感じながら――――…………