《はい、いいですよ。そのまま維持してください》
「あああぁぁくそがぁぁぁ!!!!」
俺は指で銃の形を作り赤髪の不良Aに向ける。
そうして、それなりに抑えた魔術による火炎放射を放つ。
轟々と燃え盛る炎はドラゴンのブレスのようで。
とても綺麗だと思いながら、俺はボケっと見ていた。
不良Aは必死に手に持つ大盾を構えて耐えていた。
盾が炎の勢いで揺さぶられる中でも、不良Aの表情は鬼気迫るものだった。
もしも、盾を手放せばこんがり肉の出来上がりであり。
蘇生は出来ると分かっていても、自身の命は大事だろう。
そんな事を考えながら、周りに視線を向ける……よしよし。
他の生徒も俺が言った通りの練習メニューを熟していた。
アデリナは短い杖を持ちながら、目の前に向けて必死に青い光を放つ魔力の玉を生成していた。
その玉の形と大きさを魔力が底を尽きるまで維持させる。
嫌だと言っても魔力を放出させる為の腕輪を奴につけさせている。
魔力が切れそうになれば、俺が真心を込めて作った特製ドリンクを飲んでもらう。
その効果は現役の祓魔師からも評判があったほどで。
一口飲んだだけで魔力が回復し、二十四時間働けるが如く意識が冴えるらしい。
味はゲロみたいにクソ不味いが、効果があるのなら十分だ。
「はぁはぁはぁはぁ……うぷぅ!?」
《吐くならバケツにしてくださいね》
「……うぶぅ!!?」
アデリナは玉を生成しながら、器用にバケツにぶちまけていた。
中々に熟練度が高まっている事に手ごたえを感じる。
「――ッ!!」
「カカカカ――ッ!!」
エルナの奴も両手に短剣を持ちながらそれを木偶人形に向かって振っている。
木偶人形はエルナの斬撃を腕で受け止めて――弾く。
アレは俺が独自の技術で改造を施した自動戦闘用の人形だ。
腕が六本であり、その手には木刀を握っている。
エルナが死ぬまで追いかけてきては攻撃をし続ける仕様で。
動きに単調であるものの、その機動性と手数の多さは中々に厄介だ。
エルナは奴の足を奪うか、あれ自体を破壊する以外に生き残る方法は無い。
運動用の服は既にボロボロであり、呼吸も乱れてはいるが……まだいけるな。
「――しまッ!? がはぁ!!?」
「カカカ――ッ!」
《狙いがバレバレですよ。貴方の強みである俊敏さを活かしなさい》
エルナの攻撃が回避されて、そのまま木刀で腹を殴打された。
エルナは後方へと吹き飛ばされて、ゲロをぶちまけていた。
が、立ち上がる力があるようであり……いいじゃねぇか。
「ハァッ!!!」
エゴンの奴は手に手甲を嵌めている。
アイツの戦闘スタイルは格闘が向いていると判断した……まぁあの“大岩を破壊できた”からな。
エゴンの奴から聞いた時は流石の俺も驚いた。
まさか、マジであの大岩を魔術や魔力を使わずに素の拳だけで破壊するとはな。
奴の拳に巻かれていたバンテージは努力の証だったようだ。
実際に奴の拳を触って確かめたが、中々に俺好みの拳になっていた。
アイツは特別に、俺の人形三体と相手をさせている。
動きに洗練さは無く、良いようにボコボコにされてはいる。
が、傷だらけになりながらもその目に闘志は消えていない。
一発でも当てる事が出来れば、一撃必殺の攻撃にもなるだろうが。
奴の成長はこれからに期待といったところだろう。
アイツはまだ魔力の扱いには不慣れであるが、もしもモノに出来たのなら……ふふ。
「――うえ!?」
《拳を振るだけではただの獣です。相手の動きを分析し、自らの攻撃が当たるように仕向けなさい》
「そ、そんな簡単に――うわぁぁあ!!?」
エゴンが俺の言葉に反応し動きを止める。
瞬間、人形たちは一気に奴を取り囲み。
奴を木刀でボコボコにし始めた。
エゴンは体を丸めながら情けない悲鳴を上げている……ドアホがぁ。
他の奴らもそれぞれに合った武器を装備し。
それぞれに合った訓練を行っていた。
最初の腑抜けた体はもう既に無い。
多少は戦闘が出来るだけの肉体となり、俺の授業にも食らいつけるだけのガッツも出来ていた……まぁ、アイツだけは“例外”だな。
「……」
俺が差し向けた人形たちの“残骸の上で”ゲームをするパーカー野郎。
その残骸の数は合計で十体であり、奴は難なくそれらを破壊しやがった。
それも、俺が渡した武器は使わずに両手も使わずに足技だけで破壊して見せた……ふむ。
アイツは見どころは大いにある。
他の生徒よりは使える上に、戦闘に関しては天賦の才がありそうだ。
だが、俺に対して舐めた態度を取っているのは気に食わない。
一度、俺が奴の相手をしてその性根を叩き直してもいいが……まぁいい。
舐めた態度ではあるが。
これまでで俺が出した課題を断った事は無い。
授業でも文句ひとつ言わなかった。
仕事を熟しているのであればそれ以外は咎めはしない。
肝心なのは業務を熟す事であり、俺にとっての利益があるのならそれ以外はどうでもいい。
もしも、俺の授業が生ぬるいと感じているのであれば。
奴に対してだけは“特別メニュー”を考案すればいいだけだ。
出来る奴には出来るだけ多くの仕事を与える――それが“社会”だ。
「……?」
「……」
パーカーは俺の方を見て首を傾げていた……楽しみにしていろよぉ。
俺はくつくつと笑う。
そうして、一通りの生徒にアドバイスを送ってから視線を戻し……こいつはどうだぁ?
不良Aを見つめる。
必死の形相で今も俺の炎を凌いでいた。
限界が近そうであり、手足は生まれたての小鹿のように震えていやがる。
よく観察すれば盾が更に大きく揺れていて……まだまだだな。
安定性に欠けている。
それを指摘する為に、俺は火炎放射の軌道を変えた。
まるで蛇のように揺れれば、奴の盾は大きく振られて――弾き飛ばされた。
奴は無防備となる。
大きく目を見開きながら、両手を前に向けて――俺は火炎放射を放つ。
「ギャアアァァァ!!!」
《ははは、良く燃えますねぇ》
俺は機械音声でケラケラと笑う。
不良Aの体は燃えており、奴は悲鳴を上げながら悶え苦しんでいた。
ごろごろと地面を転がりながら、奴は痛みと苦しみで泣き叫んでいた。
俺はひとしきりその姿を堪能してから、魔術で水を生成し――奴に放つ。
奴は全身に水を浴びて、炎は鎮火された。
ジューという音共に奴からは白い煙が上がる。
近くに寄れば、肉の焦げた臭いがしてくる……くせぇな。
《起きなさい》
「……」
「……?」
不良に声を掛ける。
が、返事は無い……死んだか。
コゲコゲの不良の体に触れる。
そうして、治癒の魔術を使えば。
不良の体は見る見るうちに再生していった。
焼けただれた皮膚は綺麗に再生し、ボロボロになった髪も生え戻る。
眼球も元通りで、不良はカッと目を見開き――おっと。
奴が俺の顎目掛けて拳を振る。
俺はそれをあっさりと回避し、そのまま奴の顔に拳を振り下ろす。
奴は鼻血を巻きながら、顔面を抑えてもだえ苦しんでいた。
「く、そぉぉ……てめぇ、何で俺だけ盾なんだッ!!」
《貴方の適正が高いのが盾だからですよ。それ以外では貴方の力は十二分に発揮できません》
「ふざっけんじゃねぇぞッ!! 盾なんて何の役に立つってんだ!? こんなのがいたって悪魔は殺せねぇだろッ!!」
《――いえ、殺せますよ?》
「あぁ!!? どうやって……おい、何してんだ!?」
俺は不良の言葉も待たずに、足元に転がる盾を蹴る。
そうして、立ち上がったそれを掴みながら感触を確かめる……よし。
《アデリナさん。その魔力の玉を私に向かって飛ばしてください》
「え!? な、何!? 今それどころじゃ……わ、分かったよ! 分かったから殺気を向けないで!」
アデリナは悲鳴を上げながら杖を操る。
そうして、どうにでもなれと叫びながら魔力の玉を放ってきた。
それはお世辞にも実戦向きの速度では無いが……まぁいい。
俺は盾を構える。
すると、盾にはアデリナの魔力が触れて――盾に流した魔力を解放する。
瞬間、アデリナの放った魔力は大きさを増して――“はじき返される”。
それはアデリナの横を通り過ぎて、学校のフェンスに当たり――“吹き飛ぶ”。
「……へ?」
アデリナは冷汗を流しながら振り返る。
そこにはフェンスの残骸が転がっていて、砂埃が舞っていた。
俺は盾を勢いよく地面に突き刺し、不良Aにどや顔をした。
《殺せますよ?》
「は、はぁ!!? 何だよそれ!? そ、そんなの教わってねぇぞ!!」
《当然です。今の貴方には使えませんから……ですが、何れは習得してもらいます》
これは盾を持つ祓魔師にとっての必須の技だ。
盾に自らの魔力を流し、相手の攻撃が触れた瞬間に解放する。何度も出来る奴はそういないだろう。
まぁそれでもこいつには覚えさせる。
そして、嫌でもその身にタイミングを叩きこんでやる。
そうすれば、こいつは他の祓魔師を守る盾にも矛にもなれる。
別にこいつをボコボコにしたいから盾を任せる訳じゃねぇ。
こいつは私生活ではドラムをしていやがる。
音ゲーらしきものもやっているのを見た事がある。
盗聴によってミュージシャンを目指すのも良いなんてほざいてやがったからな。
タイミングを計る上で重要な感覚をこいつは最初から備えている。
おまけに、俺の授業でしごきの的になっているからか他の生徒よりも耐久力がある。
まさに、盾になるに相応しい人材であり……いじめがいがあるなぁ、くくく。
俺は邪悪な笑みを浮かべる。
すると、奴は表情を青ざめさせていた。
そんな奴の前に盾を放り投げてから、俺は指で銃を作る。
《さぁ、もう一度しますよ。すぐに立ちなさい。殺しますよ?》
「く、クソがぁ……いつか、絶対に……て、俺裸じゃねぇか!? 先ずは服を――待て待て待てぇぇぇあああぁぁぁ!!!?」
《ははは、頑張れ頑張れ。疲れたら手を離してください。すぐに燃やしますからねぇ》
「ちきしょぉぉぉぉぉ!!!」
俺は間髪入れずに指の銃で火炎放射を放つ。
奴は悲鳴を上げながら盾を掴んで構える。
俺は三日月のように口を歪めて笑う。
そうして、必死になって俺の攻撃を耐える不良A――ヤン・バールを見つめた。
◇
今日の業務は終了した。
今日も完璧に教師として振舞えていた事だろう……それにしてもだ。
ガラガラと扉を開けてゴリラが入って来る。
その手には箱を持っていて、奴は俺の近くにそれを下ろす。
「よっと……ふぅ、今日も凄いですねぇ。流石は“慈愛の教師”ですかね! はは!」
《やめてください。殺しますよ?》
「はは、そんなに照れなくていいんですから。あ、これは此処に置いておきますね! それじゃ!」
《どうも》
ゴリ先は箱を置いて去っていく。
俺はため息を零しながら、その箱を開ける。
すると、手紙であったり花であったり……色々入っていた。
悪魔災害によって街が襲撃されて。
今も尚、急ピッチで街の復興が進められているが。
祓魔師によって一般人が殺されたという記事やら報道が収束後には頻繁に出回っていた。
俺についても色々と言われていた。
最初はひどいものであり、孤児院にいる子供事、悪魔を殺した冷血漢だったか……まぁ間違ってはいねぇけどな。
そんなこんなで、俺はぼろくそに言われまくると思っていたが。
蓋を開けてみれば、知らねぇ奴から手紙やら花を送られていた。
何故なのかと言えば、あの日、俺がボロボロの姿で孤児院を出て来た姿が報道されて。
その手に灰を包んで持っていたのだが。
それを勘違いした一般人が子供たちの遺灰を集めていたと解釈しやがった。
その映像も角度によっては映っていた事と、生き残ったガキどもの証言で俺は優しい人間に仕立て上げられた。
その上に、俺が遠く離れた場所で一人で歩いて雨の中で大泣きしていた姿まで晒されてよぉ……はぁぁぁ。
『この人はこんなにも子供たちの為に涙を流しているのに……本当にマスゴミって最低!』
『この人知ってるよ! 孤児院の子供たちと一緒にミズギーランドにいて、子供たちの為に一万ユーロはする大量のお菓子を買っていたよ!』
『私、祓魔師だけど、この人は凄いよ。お菓子代なんて自分で払っていたらしいから』
『マジかぁ。滅茶苦茶良い奴じゃねぇかよ……こんな人を叩くって世の奴らはどんだけひねくれてんだぁ?』
……頭痛がひでぇ。どんだけ勘違いしてやがんだ。
まぁその後に、ハッピーライフ社のババアや警備員が記者にタレコミをしていたようで。
俺は景品を貰いに来て、貰えなくて泣いていただけの詐欺師だと言っていた。
俺はその通りであると、話を聞きに来ていたマスコミたちに真摯に答えてやったさ。
俺は自分の私利私欲為に戦う人間だと教えてやれば……アイツらはまたとんでもねぇ解釈をしやがった。
ババア共は俺をこきおろし。
俺は奴らの話を肯定する。
普通に考えればおかしい状況で。
一般人たちは俺がババア共が責められないように敢えて話に乗っかったと解釈しやがった。
『普通に考えて、命を懸けた戦いの後に景品を貰いに行く訳ねぇじゃん……金欲しさに何嘘ついてんだ?』
『どう考えても嘘じゃん。てか、交換って言ってもいいところ高級焼肉セットとかだろ? 買えるじゃん、この人』
『本当に最低だよ……それに引き換え、このベッカー先生はこんなカスすら庇うなんて……お便りとか受け取ってくれるかな?』
『それいいね! 私も花とか送りたいなぁ』
そんなこんなで、フーゴ・ベッカーという男は慈愛の教師としてもてはやされて……はぁぁ。
何で、誰も分かってくれないのか。
俺は何処からどう見てもクズであり、人の為に行動している訳じゃねぇんだよ。
そんな奴を担ぎ上げて何がしたいのか。
ババア共は世間から非難の対象となり。
ヒステリックに騒いでいたらしいが。
会社の金を横領していた事が発覚しお縄につき。
あの警備員たちも未成年との淫行かなんかで逮捕されたらしい……どうでもいいけどな。
俺は毎日毎日、送られて来る手紙の返事のせいで碌に余暇を楽しめない。
花だって花瓶を買ってきて、家の中に飾りまくっているせいで。
家の中がまるで花畑のようになっちまっていた……勘弁してくれよ。
俺はそんな事を考えながら、パソコンを閉じる。
そうして、今日の業務は終了したからと帰り支度を始める。
貰った手紙などは魔術で異空間に収納し……帰ろう。
俺は荷物を持つ。
そうして、周りの人間に挨拶をし去っていく。
「……?」
帰り道の途中で買った焼き鳥を食う。
焼き鳥では鉄板のねぎまであり、小腹には丁度いい。
タレが良い感じにしみていて、炭で焼かれて香りもたまらねぇ。
焼き鳥の美味さを堪能しながら、帰路について……足を止める。
我が家が見えて来た。
すると、家の前に誰かが立っていた……またかぁ?
記者だろうか。
それとも、花束を持ってきた奴か。
そんな事を考えながら近づけば、俺に気づいたそいつが近寄ってきて……手を握って来た。
「あぁ、お会いできて良かったです……フーゴ・ベッカー先生ですね? ヤンの担任の!」
「……?」
俺は首を傾げる。ヤンって……ヤン・バールの事か?
俺が不思議そうに見ていれば。
妙齢の女はハッとして俺の手を離す。
そうして、姿勢を正して会釈をしてきた。
見た目はそれなりに若そうだ。
恐らくは、三十代前半くらいか。
赤髪という点では同じであり、目なんかも似ている気がする。
背中まで伸ばした赤髪に、落ち着いた服装で。
男受けしそうな顔をした女からは妙に香水の匂いがする。
煙草を吸っているのか……いや、どうでもいいか。
俺がマジマジと見ていれば、目の前の女は自己紹介を始める。
「私はデボラ・バールと言います……ヤンの“母親”です」
《そうですか……で、何か?》
俺は自称母親を見つめる。
すると、奴は意を決した様に驚くべきことを言ってきた。
「お願いします……ヤンに――“修道院を辞める”ように説得してくださいッ!」
《……は?》
俺は大きく目を見開く。
何を言いだすのかと狼狽えながら、俺はたらりと冷汗を流す……どういうつもりだぁ?
いきなり押しかけてきて、ヤンを辞めさせろだと。
何を企んでいるのかまるで分からない。
俺は奴を警戒しながらも、此処ではまずいと家に入るように促す。
奴は静かに頷いてついてきた……さて。
本来なら得体の知れない奴は家にいれたくない。
が、事情が事情でありこのまま放置すればとんでもない事になりそうな気がした。
今は兎に角、この女から情報を得る他ない。
「……」
串を持ちながら、ポケットから鍵を出す。
そうして、ドアのロックを解除する。
チラリと後ろを見れば、女はにこりと笑う。
こいつが本当に母親なのか。
そして、母親であったとして何故息子を退学させようと仕向けるのか……見極めてやるよ。