【完結】祓魔師《エクソシスト》は休みたい   作:オタリオン

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025:祓魔師は呪いを解いてやる(side:ランベルト→ヤン)

 朝になり、支度を済ませてヤンに連絡をした。

 奴を呼ぶ方法は幾らでもあったが。

 母親の事で話しておくべきことがあると伝えれば。

 ヤンは無駄な会話を省いて駆けつけて来た。

 そんな奴を俺は……ふむふむ。

 

「んん!! んんー!!!」

「……」

 

 カチャカチャと並べた器具を確認する。

 その間にも、椅子に拘束されたヤンは必死に逃げようと暴れていた。

 口には舌を噛まないように布を噛ませていた。

 ヤンを呼び寄せて、奴に説明する間もなく気絶させて。

 そのまま椅子に縛り付けてから……よし。

 

 これ見よがしにゴム手袋を奴の前で嵌める。

 ヤンは大量の汗を掻きながら、呼吸を荒くしている。

 俺はそんな奴ににこりと微笑み、安心させる言葉を吐く。

 

《大丈夫です。死ぬほど痛いだけですよ》

「んんーー!!!」

 

 俺は器具を持ってヤンに近づく。

 そうして、ゆっくりと細長い針状のそれをヤンの心臓部に当てて――強い閃光が迸る。

 

「んんんーーッ!!!?」

《暴れないでください》

 

 ヤンは激痛によって悲鳴を上げていた。

 俺は特殊なゴーグルを通してヤンの心臓を見ていた。

 このゴーグルは物体を透過する事が出来る。

 ヤンの体が透けて中の心臓がハッキリと見えていた。

 そうして、目に意識を集中すれば……やっぱりな。

 

 ヤンの心臓には黒い糸のようなものが纏わりついていた。

 これは悪魔によるものであり、何かしらのトリガーによって心臓を潰すものだと分かる。

 俺は針状のものを一気にヤンの胸に刺す。

 すると、じわりと血があふれ出て来た。

 ヤンは痛みで体を揺らしているが、椅子はがっちりと床に固定しているので倒れる心配はない。

 

 俺はそのまま針に魔力を流し。

 それを糸のように形成し、ゆっくりとヤンの体内に伸ばしていった。

 他人の魔力を内部に流せば、大抵は拒絶反応が起こる。

 最悪の場合、死ぬこともあるが。

 今、俺は流している魔力をヤンのものに限りなく近づけていた。

 だからこそ、多少は痛みも抑えられている。

 ならば、何故、ここまで痛みを発しているかといえば……こいつのせいだ。

 

 俺が作った魔力の糸に反応し。

 悪魔が生み出した黒い魔力の糸が動き出す。

 ギリギリと縮まっていき、今にもヤンの心臓を破壊しようとしていた。

 俺はそれを察知して、刻印を発動し、ヤンの心臓だけを石化させた。

 瞬間、ヤンは大きく目を見開いて固まり――俺は一秒にも満たない時間で魔力の糸を操作した。

 

 糸を操作して、黒い糸に重ねるように合わせる。

 そうして、反発しそうな魔力に合わせて魔力の性質をそれに寄せる。

 瞬間、俺の糸を悪魔のものと認識したそれは抵抗をゼロにして――速やかに巻き取っていく。

 

 針を体から抜き、パスタでも食べるように絡めとる。

 そうして、回収した魔力の糸を素手で握り――燃やし尽くした。

 

 俺はヤンの心臓の石化を解除する。

 瞬間、ヤンは呼吸を再開していた……ひでぇ顔だな。

 

 前だけをはだけさせた状態のヤン。

 全身が汗まみれであり、頭から水をぶっかけたようだ。

 今にも死にそうであり、胸からはだらだらと血が流れている。

 俺は針を置いてから、奴の胸に手をおいて傷を治す。

 傷は一瞬で塞がり、俺は奴に乱暴に布を投げ渡してから指を鳴らして拘束を解いた。

 

 ヤンは口の布を取り、震える手で俺が渡した布を握り――投げ返してくる。

 

「てめぇ――俺に何をしたッ!!?」

《逆ですよ。何かされていたのを、治してあげたんです。感謝しなさい》

「は、はぁ!? 何意味わんねぇ事――うぶぅ!?」

 

 タオルを一瞬で投げる。

 奴は顔面にそれを受けてわなわなと震えていた……はぁ、面倒だな。

 

 俺は冷蔵庫まで近寄って戸を開けてビールを掴む。

 そうして、プルタブを開けてからそれをぐびぐびと飲んだ。

 椅子にどかりと座ってから、奴にも座るように促す。

 すると、ヤンは垂れている血を拭いながら渋々俺の言う事に従っていた。

 

《貴方の体には悪魔の……そうですね。“呪い”が刻まれていました》

「悪魔の呪いだって……そんなの何時……いや、どうせテメェのホラだろ!」

《違います……恐らく、これは貴方の母親が関係しているのでしょう》

 

 俺はヤンに対して母親の正体について聞かせてやった。

 殺し屋である事も、母親が家を出て行った理由も。

 すると、ヤンは大きく目を見開きながら信じられないといった様子だった。

 

「嘘だ……そんなの、出鱈目だ……アイツが、そんな……っ」

《信じなくてもいいです。私にとってはどうでもいい。ただ、貴方のその呪いは確実に母親が悪魔と結んだ契約によるものでしょう。恐らくは、殺し屋として従順に働いて貰う為の保険か何かか……ま、貴方にとってもどうでもいい事ですね》

 

 俺は説明を終えてビールを飲む……あぁうめぇぇ。

 

 ヤンは拳を握って震えている。

 今の話で信じたかどうかは怪しいが。

 恐らく、こいつが今からする行動は――奴は走り出す。

 

 扉を開け放ち、外へと出て行った。

 俺はそんな馬鹿をすぐに追いかける事はしない。

 ビールを堪能してから、空き缶を素手で握り潰す。

 そうして、ゆっくりと立ち上がり……お?

 

 開け放たれた扉を潜り、何か細い箱を持つ配達員が立っていた。

 キョロキョロと外と中にいる俺を見ながら苦笑していた。

 

「あ、あのぉ……お、お届け物ですぅ」

《待っていましたよ!》

 

 俺はすぐに玄関へと行き、流れるようにサインをする。

 そうして、品を受け取ってから扉を勢いよく閉める。

 床に箱を置き封を素手で強引に剥がし、中に詰められた衝撃吸収用のクッション材を外す。

 ゆっくりと綺麗な箱を取り出し、その中に入っているお宝を慎重に取る……おぉ!

 

 高級感のある金字のラベル。

 中には魅惑の液体がたぷたぷに入っている。

 これは俺のコレクションの一つとなる“年代物のワイン”だった。

 

 自分で思う事だが、酒の味なんてそこまで分からねぇだろうが。

 どうしても、こういう高いもんにも興味はあった。

 貧乏性で中々、飲む機会はなかったものの。

 何時かは飲もうと考えている。

 まだその時では無いがな……くくく。

 

 ずっと欲しかった一品で。

 オークションで出品されているのを見て思わず落札しちまった。

 高い買い物であり、五千ユーロはしたが……まぁいいさ。

 

 俺は魔術で机を浮かして退けて床板の一部を外して、その下にある棚を上に持ち上げる。

 ショーケースのようになったそれの中には、俺がこれまで集めた色々な酒が入れられていた。

 これら全て俺がこつこつと集めたもので。

 記念すべき日などがあれば飲もうと思っているものたちだ。

 

 フィギュアなどは倉庫を借りて保管しているが。

 流石に、酒だけは倉庫に預けておくのは心配だからな。

 こうやって、家を改造し安全に俺が管理していた。

 

「……♪」

 

 俺は慎重にほのかに冷たい棚の中に新たなコレクションを加える。

 顔はニヨニヨとしていて、俺を知る人間が見ればドン引きする事は間違いないだろう。

 まぁどうでもいい事だ……さて。

 

 棚を下へと戻してから、床板を嵌め直す。

 そうして、手を叩いてからヤンを追い掛けに行った。

 

 〇

 

 嘘だ……嘘だ嘘だ嘘だ……そんなの、あり得ねぇ。

 

 あの女が俺の事を思っていた筈が無い。

 あの女は俺を捨てたんだ。

 顔を見せる事もせずに、自分勝手に生きて……っ。

 

『ヤン……ごめんなさい。でも、事情があったの……まだ、貴方に会う資格なんて本当は私にはない……でも、せめてお母さんの話を』

「……ッ!!」

 

 俺はスマホを出す。

 そうして、アイツに掛けた。

 

 ワンコール、ツーコールと鳴り――繋がった。

 

「かあ」

《――はぁい。ママですよぉ。可愛い可愛いヤン坊やぁ》

「……ッ!? てめぇ誰だ!! かあ……っ……あの女は何処だッ!?」

《ははは、此方から連絡をしようとしたいたが――まさに、グッドタイミングだぁ! 知りたいかい? 知りたいよねぇ? だったら、今すぐにイーベル製鉄の廃工場に来な? 場所は当然、知ってるよなぁ?》

「――はぁ!? 何言って……っ!」

 

 電話は一方的に切られた。

 俺は苛立ちと共に強い危機感を抱く。

 が、それらを無視して俺は走っていった……確かめてやる!

 

 

 

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……何処だッ!」

 

 廃棄された製鉄所の中に入る。

 敷地内には誰もおらず。

 錆びだらけの機械が放置されているくらいだった。

 車一つ無く、俺は周りを見ながら……っ!?

 

 物陰から何かが勢いよく飛び出す。

 俺はすぐにそいつらに拘束されて、身動きを封じられた。

 視線を向ければ、如何にもな人相に屈強な体をしていた。

 必死に暴れるが、こいつらは相当鍛えているのか中々拘束から逃れられない。

 俺は悔しさを滲ませる。

 すると、ゆっくりと俺の前に男が立ち――その傍に立つあの女を見た。

 

「……っ! どうして!」

「ははは、そんな顔するなよぉ。折角、ママがお前に会いに来てくれたってのによぉ……なぁ、デボラぁ?」

「……ヤン、ごめんなさい」

 

 奴は申し訳なさそうな顔で謝る……ふざけんな。

 

 少し、ほんの少し……信じかけていた。

 

 だが、こいつは結局そっち側の人間だった。

 すぐそこに息子がいるっていうのに、こいつは何もしない。

 ただ黙って見ているだけで――俺は更に暴れる。

 

 すると、へらへらと笑っていた金髪の男は――俺の腹を殴る。

 

「うぐぅ!?」

「ははは、元気がいいねぇ……けど、ちっとばかし活きが良すぎるなぁ?」

「――ッ! やめて!! 息子に手を出さないで!!」

 

 あの女が叫ぶ。

 そうして、俺を庇う様に立ちふさがる。

 俺は目を見開きながら奴を見つめて――男がにやりと笑う。

 

「デボラぁ。そいつはいけねぇなぁ。契約で言っただろうぉ? “家族”を傷つけねぇ代わりによぉ。テメェは俺たちに従うってなぁ」

「……っ! だから、家族だから――うぅ!!」

 

 クズはアイツの髪を乱暴に掴む。

 そうして、気持ちの悪い顔で笑っていた。

 

「家族じゃねぇよなぁ。何せ――テメェの意志で“捨てた”んだからなぁ!! ははは!」

「……っ! ま、さか。てんめぇぇ!!」

 

 俺は拳を握って立ち上がる。

 そうして、奴に向かって攻撃をする。

 が、奴は俺の攻撃をあっさりと回避し――腹に膝蹴りをしてきた。

 

 俺は大きくせき込みながらその場に跪く。

 奴は乱暴に母さんの髪から手を離す。

 そうして、ハンカチで手を吹きながら奴は手下たちに指示をする。

 

「ちっとばかし躾てやれ」

「「「はい」」」

「く、そぉ……くそ、がぁぁ」

 

 俺は揺れる視界の中で迫り来る奴らを見る。

 このまま良いようにされていいのか。

 折角、母さんの事が分かったって言うのに、俺は――奴らが吹き飛ぶ。

 

 俺はハッとして後ろを振り返る。

 すると、悠然と歩いて来る――ベッカーがそこにいた。

 

「あぁ、“家にはいなかった”のか……まぁいいさ。やぁやぁ! 慈愛の教師様ぁ……良いね良いねぇ。麗しの師弟愛かなぁ? 愛する生徒の為に、先生自らが救いの手を。うぅん、これは金の匂いがするなぁ」

《黙りなさい……ヤン君。帰りますよ》

「帰る、だと……ふざけんな! このまま、母さんを――ッ」

 

 俺は足を震わせながら立ち上がる。

 その間にも奴はスマホを取り出して何処かに連絡をしていた。

 

「あぁそっちにはいないだろう……あぁそうか。何かあったか? ……あぁそんなものが! まぁいい、それもついでにやっておけ……あぁ良いねぇ。それでいこうか……あぁ、あぁ。それじゃあな……ふぅ、すみませんね。私たちは多忙の身で……で、貴方はこれから何を? まさか、まさか……我々に危害を加えるつもりではないですよねぇ? 幼気な一般人を! 他でもないあなた自身が!? ねぇ!?」

 

 奴はヒステリックのような演技をする。

 すると、ベッカーの野郎は静かに首を左右に振る。

 

《貴方の事は個人的に嫌いですが。仕事ではないので何もしません。ヤン君が無事ならそれでいいです》

「おぉおぉ! そうかそうか! なるほど! それは良い判断だぁ……が、口の利き方だけは覚えておいた方が良いよ?」

 

 奴は笑みから一変し、無表情でベッカーを威圧する。

 ドスの利いた声で、その殺気は完全にその筋の人間のものだが。

 ベッカーはまるで動じずにどうでもいいと言いたげに俺の首根っこを掴み――ッ!?

 

「放せ! 放しやがれ!! 俺は、まだッ!!」

「アディオス! もう二度と会う事は無いだろう――“良い休日”を!」

「くそぉぉぉ!!!」

 

 俺は叫ぶ。

 必死に母さんに手を伸ばした。

 が、俺の手は母さんに届く事は無い。

 

 奴らは母さんを連れて去っていく。

 俺はただただ自分の無力さに――“絶望していた”。

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