【完結】祓魔師《エクソシスト》は休みたい   作:オタリオン

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029:祓魔師は死を運ぶ(side:ファウスト・ボス→ランベルト)

 地獄の始まりから――三日が経過した。

 

 私はオフィスから離れて。

 私が知る限りの中で最も安全な場所に来ていた。

 ライツ北部のカーンシュタット州。

 そこから北東の海に浮かぶ島――“ジュール島”。

 

 私が買い取った島の一つであり。

 此処には武装した兵士たちを島中に配置していた。

 兵士一人一人の練度も高く、元特殊部隊員や傭兵として名を上げた者も多くいる。

 何かしらの理由で兵士としての仕事を追われた奴らを私は雇い。

 この島に眠る“秘密”を守る任務を与えていた……が、その仕事はもうどうでもいい。

 

 何れは奴が此処に来る……“血濡れの天使と呼ばれた生きる伝説”がな。

 

「……ダメです。繋がりません……恐らくは、もう」

「……そうか……もう、いい……兵士たちに指示を送れ。この島に近づく者は誰であろうとも――殺すようにな」

「……了解しました。では」

「あぁ…………ふぅ」

 

 私の側近であるニルスが部屋を出て行く。

 鋼鉄の扉は堅く閉ざされて。

 無数のロックが掛かっていく音が聞こえていた。

 この部屋に繋がる唯一の扉。

 それは地獄に存在する鉱石を使って作られたものだ。

 この部屋の壁もそうであり、如何に優れた祓魔師であろうとも突破する事は出来ない……ただ一人を除いてな。

 

 奴はこの三日間で、暴れに暴れていた。

 悪魔たちとの取引にて使っていた食肉加工場は木っ端みじんに破壊されて。

 孤児院を隠れ蓑にして隠していたファウストの資金は全て燃やし尽くされた。

 幹部たちも次々と消息を絶ち、奴を殺しに行った殺し屋たちや手練れは一人残らず消された。

 

 手は尽くした。

 奴の正体を私は知っているからだ。

 

 今回の事は大きく報道されている。

 大量殺人犯、テロリスト。

 様々な言い方で犯人である奴は警察から追われていた。

 

 私の良き友人である警察官を頼り。

 この事件を引き起こしているのはフーゴ・ベッカーであると密告した。

 その結果、警察はすぐに動きフーゴ・ベッカーを尋ねて――“奴は何もしていなかった”。

 

 これを聞かされた時、私は自らの耳を疑った。

 いや、そもそも言葉の意味を理解できなかった。

 詳しく話を聞けば、フーゴ・ベッカーは修道院にて普通に教鞭を振るっていたらしい。

 襲撃の時刻もそうでない時間も奴には完璧なアリバイがあった。

 

 教員並びに、生徒たちも見ていたと証言し。

 家を失い仮宿としてチェックインしているホテルの従業員たちも彼のアリバイを証明した。

 その結果、どうしようもないほどに身の潔白が証明されて。

 友人はどうする事も出来ないと私に諦めるように言った。

 

 

 

 悪い夢だ。ジョークでも笑えない……私は“何を相手に”しているんだ?

 

 

 

 フーゴ・ベッカーとランベルト・ヘルダーは同一人物ではなかったのか。

 いや、それならば何故、ヘルダーは我々の組織を潰そうとするのだ。

 正義感から来るものか。それとも、単純に我々が気に喰わないからか――そうではない。

 

 奴は明確な復讐心があって、我々の組織を攻撃している。

 それも、重要な施設から始まり、組織の中核を担う幹部たちを皆殺しにし。

 そして、今はこの隠れ家を目指して侵攻しているのだろう。

 

 分かっていた。

 最初からこうなる事は理解していた。

 奴を怒らせて、五体満足て生きられる筈が無い。

 もしも、生き残れる可能性があるとすれば。

 奴が望むもの全てを与えて、手足の一,二本を切り落とすくらいはしなければならない……が、それは出来ない。

 

 私は組織そのものを愛している訳ではない。

 私が愛するのは家族と金であり、それ以外はどうでもいい。

 私と息子が無事であるのならば、組織自体には未練はない。

 が、今の地位を捨てるという選択肢も簡単には取れない。

 

 

 故に――“私は、絶望へと進んでいる”のだ。

 

 

 息子を差し出す事はせず。

 アーロンを真っ先に国外へと逃がした。

 今頃は、誰もいない孤島で身を潜めている頃だろう。

 もう息子と会う事は出来ないが、それでも構わない。

 

 息子だけは守る。そして、私自身も最期まで抗う。

 例え勝算がゼロであろうとも、私は生きる事を諦めない。

 

 ゆっくりと葉巻を出す。

 そうして、震える手で先端と吸入口をカットする。

 机に置いてあった専用のターボライターを取り。

 何とかして火をつける……ふぅ。

 

 味わう様に吸う。

 そうして、疲れと共に煙を吐き出す。

 すると、外との連絡用の通信機から音が鳴る……巡視艇からか。

 

 私は眉を顰めながら、スイッチを押し応答をした。

 

《未確認の小舟を確認しました。即時、攻撃を開始し沈めました》

「そうか……良くやった」

《ハッ! それでは引き続き――ッ!? 何事――――…………》

「…………遂に、来たか」

 

 

 

 奴が来た。

 私に死を届けに――“死を告げる天使が舞い降りて来た”。

 

 

 

 私は手を震わせながら葉巻を吸う。

 吸って吸って、肺が痛くなるほどに吸う。

 やり残した事が無いように、最期の一秒も無駄にしないように。

 私はただただ黙って、毒を体に吸引し続けた。

 

 

 〇

 

 

 月が浮かぶ夜の世界。

 暗闇の中で、兵士たちが持つライフルが無数の閃光を発していた。

 火薬の爆ぜる音と共に無数の弾丸が風を切り裂き飛んでいく。

 その中を影となり、動く存在がいた。

 それが兵士の脇を通り抜ける瞬間、兵士たちは体から力を抜けさせて倒れていく。

 一人、また一人と兵士たちは血に伏せて……最後の一人は強く叫んだ。

 

「オオオォォォ――!!! ――ッ――…………」

「……」

 

 恐慌状態となり、マシンガンを乱射する兵士。

 全ての弾丸を短剣で弾き、奴の背後に回って首を後ろから強く叩く。

 瞬間、男は白目を剥いて気絶した……これで、全部か。

 

 一番攻め辛そうだと感じた船着き場。

 監視台が設置されて、サーチライトが何台も配備されていた。

 陸には強固な防壁が築かれていて、その上には機関銃や砲塔が設置されている。

 島の周辺にも武装した巡視艇が何台もあって、普通であれば侵入するだけでも不可能に近い……関係ないがな。

 

 此処にいる兵士たちは、紛れもなく実戦を経験している奴らだろう。

 犯罪歴がある者は少なく、あったとしてもちょっとした喧嘩程度だ。

 殺すほどのクズでは無いと判断し、ほとんどを気絶させた。

 

 小舟を買って、その下からそれを操作して陽動し。

 海面から飛び出してから一気に制圧した。

 船着き場に配置された敵の数は多く、防衛装置も豊富ではあったが。

 単身で攻めて来るような奴はいないから、その隙を上手くつけた。

 

 反対側や施設内の兵士たちには既に俺の存在は知れているだろう。

 奴らは実戦を経験しているからこそ、馬鹿では無いと分かる。

 すぐに体勢を立て直して、此方を迎撃するか防衛の布陣を築くだろう。

 時間を掛ければ掛けるほどに手間が増える。

 速攻で奴らを始末するのが望ましい。

 

 俺はそう判断し、此処からでも見える島の中に位置するドーム状の建物を見つめた。

 奴はそこにいる。この落とし前をつけさせるまでは、俺は絶対に止まらない。

 決意にも似た感情を抱きながら、俺は足を進めて――その場から後ろに飛ぶ。

 

 俺が立っていた場所に何かが当たる。

 それは棒状の金属で、紐で筒のようなものが括られていて――それが強い光を発した。

 

 目を潰すほどの光量。

 それと同時に、ぬるりと何かが背後に立つ。

 そうして、それが俺の首を斬ろうとして――俺は片手でそいつの攻撃を止める。

 

「――ッ!」

 

 そのまま奴の腕を掴み、力任せに投げ飛ばす。

 そいつは勢いよく木に向かって、くるりと身を翻し木を足場にして跳躍した。

 黒衣の何かは手から長細い刃物を出し、それを突き出してきた。

 俺はそれを難なく回避し、そのまま奴の腕を掴もうとして――逆に奴が俺の腕を掴む。

 

 奴はそのまま体を空中で捩じり。

 俺の体を這うように回転していった。

 そうして、俺の体勢を崩させて地面に叩きつける。

 奴は俺の腕を拘束し、そのまま腕の刃物で俺を突き刺してきた。

 が、俺は一瞬で腕の関節を外し、そのまま不可能に近い動きで腕を強引に曲げる。

 

「――ッ!?」

 

 奴が驚いている中で。

 俺はそのまま奴の首に手刀を叩きこもうとした。

 が、奴は一瞬で俺の腕の拘束を解き。

 そのまま俺の手刀の動きに合わせるように避けて見せた。

 まるで、空気を相手にしているような柔軟な動きで。

 奴はそのまま地面に手をつき縦に回転し距離を取る。

 

 互いににらみ合う。

 俺は外れた腕の関節を戻しておいた。

 そんな中で、俺は奴に言葉を送った。

 

《デボラ・バールさんですね》

「……っ! 何故」

《分かりますよ。一度会ってますから……戦うな、と言っても無理なのは知っています。全力で構いません。後の事は任せてください》

「……っ。分かりました……ごめんなさい」

 

 デボラは覆面の下で涙を流す。

 そうして、彼女の体が一瞬で消えた。

 気配を感じながら、俺は右に向かって手刀を振り――いない。

 

 攻撃が空を切る。

 そうして、背後から甲高い音が鳴る。

 振り返れば、デボラが刃物を俺の背中に突き刺していた。

 薄く皮が抉られた様だ。

 彼女は一気に距離を離し、またしてもその姿を消した……まぐれじゃないな。

 

 俺は気配を探る。

 すると、次は背後から感じて俺はそのまま手刀を振るって――やはり、いない。

 

 次は首に感触を感じた。

 見れば、デボラが俺の首に刃物を当てていた。

 ギャリギャリと音を立てながら、俺の首の魔力が弾けていた……あぁ、なるほどな。

 

 デボラはまたしても距離を取る。

 そうして、地面に手をつき獣のような姿勢をした。

 体内から魔力を放出し、それが彼女の足を肥大化させる。

 筋肉を活性化させて身体能力を爆発的に向上させている。

 今までの攻撃が通じないと判断し、魔力で己の体を強化したようだ。

 

 彼女は一瞬で姿を消す。

 そうして、彼女の気配を――“無数に感じた”。

 

 四方八方から彼女の気配を感じる。

 殺気に怒りに、憎悪に侮蔑――これは“魔術”だ。

 

 何処で刻印を手に入れたのかは分からないが。

 彼女はその身に刻印を移植している。

 これは相手に自らの気配を誤認させるものだろう。

 もしくは、認知能力を狂わせるものか。

 中々に面倒なもので――まぁ、関係ねぇよ。

 

 無数の気配を感じる中で。

 俺は両手を広げる。

 鋭い風切り音と木々がざわめく音を聞きながら――俺はその場に仰向けで寝転がる。

 

 気配は消えない。

 風切り音はずっと聞こえていた。

 仰向けで寝ていれば、嫌でも視界に映る。

 姿を晒さないで近づく事は出来ない。

 だからこそ――攻めの方法は一つしかない。

 

 俺は徐に手を上げて――勢いよく叩きつけた。

 

 瞬間、俺の体は上へと飛ぶ。

 地面を見れば刃物を突き出した状態でデボラが出てきていた。

 

「――ッ!!」

 

 これみよがしの気配。

 四方八方にはあるが、地面からは――“何も感じなかった”。

 

 もしも、俺が奴であれば地面にも気配を感じさせる。

 悪魔であれば地面を突き破って来る事だってざらだからだ。

 しかし、奴は地面からは気配を感じさせなかった。

 それは今まで相手にしていたのが人間だからで――経験の差だな。

 

 俺はそのまま空を蹴る。

 そうして、一瞬で奴に近寄り、空中で首を腕で絞める

 奴は暴れようとしていたが、足で動けないように固定する。

 俺たちはそのまま下へと落下していき――激突する。

 

 砂埃が待っていた。

 俺が地面に当たり、デボラは俺の上だ……今回は勘弁してやるよ。

 

 デボラは口から泡を吹く。

 が、奴からは何故か喜びを感じる。

 

「あ、り……が、とう」

《お礼はいりません。お疲れさまでした》

 

 俺はたんぱくな返事を返す。

 すると、デボラは安心して四肢をだらりと垂らす。

 俺は暫く首を絞めておいて……もういいか。

 

 首から腕を離す。

 そうして、デボラから離れた。

 魔術で彼女の体を浮かせて、近くの木にもたれ掛からせる。

 魔術で異空間から頑丈なロープを取り出して、あっという間に彼女の体を拘束する。

 俺は手を叩いて埃を払い……さてさて。

 

 面倒そうだった相手は無力化した。

 次はいよいよ、悪の親玉であり……まぁそれが“最後”ではないけどなぁ。

 

 俺は笑みを深める。

 心の中には未だ消えない復讐の炎が燃え盛っている。

 

 俺の宝を奪ったクズ共だ。

 遠慮も配慮も必要は無い。

 人から散々奪って来たんだ……“奪われる”くらい、何ともねぇよなぁ?

 

 俺はゆっくりと歩いていく。

 血濡れの天使らしく、人間らしく――“悪をぶっ殺しに行く”。

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