「オラァァ!! どきやがれッ!! 此処はボスの席だッ!!」
「死にてぇのか!? ああぁ!!? ささ、ボス!! どうぞ!」
《どうも》
昨日、俺を襲ってきたクズの一人が服の袖で長椅子を拭く。
そうして、気持ちの悪い笑みを浮かべながら座るように言ってきた。
一応、礼は伝えておいてから席に座る。
囚人となり、最初の飯の時間だが。
出されたのは豆が沢山入ったカレーとご飯。
小さく野菜が刻まれたスープとミルクらしきものだった。
犯罪者に寄り添う気持ちなんて欠片も無かったが。
受刑者は受刑者でそれなりに栄養のあるものを食べているのが分かった。
周りを見れば、ほとんどの奴らが素手で食っていたが。
俺たちはスプーンを貰って食う事にした。
喋っている奴もいれば黙々と食う奴もいる。
周りの馬鹿共は俺の機嫌を取ろうとぺちゃくちゃと話しかけてくるが無視。
俺はカレーなどを頬張って……うめぇ。
汁物も掬って飲んでみる。
刑務所の飯は冷えているのかと思ったが、ちゃんと温かい。
カレーは本場さながらにスパイスが効いていて。
汁物は薄味ではあるが、まずくはない。
ミルクは濃厚であり、少し喉に詰まりそうだが……まぁいい。
「ぼ、ボス! 俺の分も――!」
クズが俺に飯を渡そうとして来た。
俺はそいつに殺気を飛ばしながら言ってやる。
《それは貴方の分でしょう? どんなに私が貴方たちをゴミのように扱ったとしても、他人の飯を奪うほど私は愚かではない》
「あ、す、すいやせん。てっきり、腹が減ってるのかと」
《腹は減りますよ。ですが、それは貴方もでしょう? 私に媚びを売る必要はありません。私は貴方方をどうこうしようとは思っていません。関わらないのであればそれでいい。罪の意識があるのなら、しっかりと食べて“自らの役目を果たしなさい”。国も貴方方を養うために食事を与えている訳ではありませんからね》
俺は言う事を伝えながら飯を食う。
すると、クズ共は顔を見合わせてから質問をしてくる……あぁ?
「……役目って、おいおい……アンタは、俺たちが社会復帰できると思ってんのか? いっちゃなんだが、俺は殺しをしたんだぜ? こいつだってドラッグを売ってたんだ。此処にいるほどんどの奴らが、此処にいて思う事は飯が美味ぇって事だけだ……ただそれだけなんだぜ? 他の奴らだって罪の意識なんざ更々ねぇだろうよ」
《だから、何ですか? 言っておきますが、私は貴方たちに何も期待していない。貴方たちが心から反省し、弱き人々を助けるなんて微塵も思っていません。私の前で悪事をしないから何もしないだけで、目の前で何かをしようとすれば喜んで殺してあげますよ》
「……ひでぇ言い方だな、おい……だったら何で、飯食って役目を果たせだなんて……第一、役目って何だよ……俺たちは出る気なんて」
《出る出ないじゃない。貴方たちは国によって生かされている。この刑務所で行われる労働は、貴方がたに与えられた“生きるという権利”への“義務”です。ただで飯を食わせる馬鹿はいない。貴重な労働資源として貴方たちは此処で使われている……言っている意味は分かりますか?》
「……えっと、どういう意味だ?」
馬鹿共は首を傾げる。
俺はため息を零しながらハッキリと言ってやった。
《救いようの無いクズである貴方方も――生きて働いている間は少しは役に立っているんですよ》
「「「……あぁ」」」
《出たくないのならそれでいい。罪の意識が無くたって構いません。誰も期待なんてしていませんから。ただ、飯を食べさせて貰って生かして貰っているのなら働きなさい。その対価として、食事が与えられて汚くてもベッドで眠る事が許されるのです……故に、貴方方が自らの対価を私に譲ることはあってはなりません。国が生かすと決めたんだ。勝手に飢え死にする事など彼らは許しませんよ》
「「「……」」」
こいつらの事なんて微塵も思ってはいない。
もしも、こいつらが俺の前でよからぬ事をすれば、俺は喜んでこいつらを消すだろう。
殺されたっていう人間の遺族だって犯罪者の死を心から望むだろう。
だが、仮にも裁判で判決を受けたのなら俺はどうする事も出来ない。
人が決めたルールであり、それを覆してしまえば秩序は崩壊してしまうからだ。
国は合理的だ。
人の心に寄り添うよりも、どうすればゴミ共を有効的に使えるかを考える。
悪行三昧で、人様に迷惑を掛けて来た奴らであろうとも。
此処にぶちこまれたと言う事は、犯した罪の重さが殺すまでではないと判断されたからだ。
償えないほどの罪であれば死に、少しでも償う事が出来るのであれば生かされる。
そうして、生かされた奴らは馬車馬のようにこき使われる事になる。
過酷な肉体労働に、認可が下りていない薬の治験。
昔よりも、世界では犯罪者の使い方がより合理的なものになっていた。
国が死ねというのなら死ぬしかない。
が、そう言っておらず飯を食わせてもらっているのであれば。
こいつらはに“死ぬ権利”は無いと言う事だ。
だったら、こいつらは飯を献上するのではなく食わなければならない。
俺は神様でもなければ、仏でもねぇからな。
大人しく捕まって、何かしら貢献をしているのであれば俺は手を出しはしない。
本当のクズであれば、裁判も受けずにどこかにとんざらするだろう。
こいつらはクズであっても、まだマシなクズだ。
……それに、真っ当に働いてるのなら誰だって飯を食う資格はある。
犯罪者だから、人を殺めたクズだから……考える必要なんてねぇ。
《誰であれ、等しく裁きは受けます。生きている間も、死んだ後も……生きたいのなら働くしかないでしょう。働けば腹は減る……罪に大きい小さいはあれど、罪を犯さなかった人間はいない。全ての罪を等しく扱えば、この世に人間なんてものは存在していませんよ……なればこそ、逆だってそうです。どんなにクズであろうとも、たった一度くらいは良い事をしているものですよ》
俺は当然の事を聞かせてやる。
すると、クズ共は難しそうな顔をしていた……んだよ?
「……本当に、そう思うのか……俺は、別に、何も」
《覚えていないだけか、そもそも、貴方がそれを善き事と認識していないか……なら、一つ聞きますが。この朝食を食べる事は、良い事ですか?》
「はぁ? 飯を食う事が何で良い事になるんだよ」
《考え方次第なんですよ。綺麗にご飯を食べれば、洗い物をする人間は楽になる。残す事無く食べたのなら、廃棄する分が減る……ほら、もう良い事をしましたよ》
「……じゃ、トイレでクソする事も善行って言うのか?」
《えぇ偶々入ったトイレが普段使われていなかったのなら、使ったお陰で水の流れが改善したかもしれない。その次に使う人間は助かるでしょう。それに、貴方がトイレを使った事で、水を使用し経費が発生し経済がほんの僅かに回ったのかもしれない……まぁへりくつですがね》
根っからの悪党であろうとも。
その行いが誰かにとっての良い事に繋がる。
大多数がそれが悪い事だと言えば、それは悪行になるのが常だが。
百人いれば、百人全員がそれは悪い事だって言わない限りは……はぁ、ダメだな。
飯時だってのに話し過ぎだ。
俺は冷めない内に飯を食べていく。
そうして、視線でお前らもさっさと食えと伝える。
すると、奴らはおずおずとスプーンを持って食べ始めた。
「……思った事も無かったな……俺も、良い事してた事があったのか」
「……何か、今日の飯は……何時もよりも、うめぇ気がするな」
「……食った分だけ働けって事だな……なら、食うしかねぇな」
奴らは腫れ物が落ちたような顔で飯を食う……それでいい。
過ちを正せる人間なんてそうはいねぇ。
一度受けた罪ってのは、どう頑張ったって取る事は出来ねぇんだ。
悩む奴が偉いとは言わねぇ。何も考えていない奴だってそうだ。
――だけど、どんな奴であれ腹は減る。
働いて働いて、稼いだ金で飯を食うんだ。
他人様が毎日毎日飯を運んできてくれる事はねぇ。
そんなのは王族であったり、特定の奴らだけだ。
真っ当な人間は働く事でしか飯を食ってはいけねぇんだ。
それが人間であり、それが社会だ。
俺は極悪人共がクソほど嫌いだ。
あんな奴らは生かしておく価値は無いと思っている。
俺が国のリーダーであれば、即殺しているだろうさ。
だが、俺は国のリーダーでも無ければ偉そうな人間でもねぇ。
ゴミ野郎どもは嫌いだが……最低限のルールに従うのなら、俺は人としての生き方を奪う事はしねぇ。
罪は罪であり、そいつはてめぇ自身でどうにかすればいい。
こいつらの未来何て誰も期待はしてねぇんだ。
死んだ後も地獄行きだろうが、今はまだ五体満足で生きてんだ。
だったら、腹の減りを満たす為だけでもいいから死ぬ気で働けって事だ。
欲望に従った行動でも……考えようによっては“小さな善行”だ。
「……」
飯を食い終わる。
米粒の一つも残しはしねぇ。
頂いたものに心から感謝して俺は席を立ちあがる。
すると、刑務官が俺の前に立つ。
「756番、食器を片付けて速やかについてこい」
《……尋問ですか?》
「黙れ……早く片付けてこい」
俺は小さくため息を吐く。
そうして、言われるがままに食器を片付けていった。
「入れ」
「……」
扉を開けて中に入るように促される。
俺は渋々従って中に入る……面会室か。
強化ガラスの間仕切り。
会話をする為の装置もあるな。
中へと入れば、ガチャリと鍵が閉められた。
視線を横に向ければそこにはいる筈の人間がいなかった。
「……?」
会話を記録する人間がいないだと……どういう事だ?
俺は何か妙な感じだと思った。
それもその筈であり、面会を希望したであろう人間もいないのだ。
俺は不気味に思いつつも、置かれている椅子に座る。
そうして、暫く前を見つめて――あぁ“いたのか”。
魔力を使えないからこそ気づくのが遅れたが。
そこには確かに人が立っている。
微かに見えているそいつは認識阻害の魔術を使っていると分かる。
俺は気づかないふりをしながら黙っていた。
『――ランベルト・ヘルダー様ですね。このような形でお会いする事は非常に残念に思いますが、無事で何よりです』
『……お前は誰だ? 祓魔師だろうとは思うが』
『はい、その通りでございます。私はニンドゥの支部でトゥルムの地位につく者……仮にKとしましょうか』
『……楽しんでんじゃねぇか?』
『いえいえ! 滅相も無いです……カメラへの細工と姿を眩ませる事。そして、念波での会話であれば機密は守られますが……それでも、用心に越したことはありませんからね。私はヘルダー様ほど強くはないので、はは!』
『……用件を言ってくれ』
会話の主は非常事態であっても能天気そうだった。
時間も限られているからと用件を聞き出そうとする。
すると、奴もハッとしたようで真面目に用件を話し始めた。
『我々と共に、今起きている“悪魔災害”の解決に着手しては頂けないでしょうか』
『……まぁそんな事だろうとは思ったよ……今の状況について少しでも情報をくれ』
俺は周囲を警戒しながら尋ねる。
すると、Kは少し早い思考で語ってくれた。
『長くは語れませんが。現在、この国では祓魔師の活動が制限されている状態でして……その原因は他でもない、貴方方にあると王を始めとして国民たちも思っているようです』
『大量虐殺の嫌疑って聞いたが、どういう事だ?』
『……実は、ニンドゥ領地内にある村々で大規模な殺しが発生しまして。記録映像や生き残りの証言などによってランベルト・ヘルダー様を始めとしたケーニヒ様方がこれを行ったという事になっています……考えている事は分かります。我々もこの件は悪魔が関わっていると考えています……ですが、王は愛する国民たちの死に深く心を痛めておりまして。此方の言葉にも耳を貸してくれない状態です。本部の職員もニンドゥへの入国を拒否されている状態でして……外部との連絡も簡単には出来ず。貴方方が此処へ来てくれたのは恐らく、上層部からの指示だと思ったのですが』
『……俺たちは何も聞いてねぇよ……で、その悪魔をぶっ殺せばいいのは分かったが……どうやって出りゃいいんだ? 荒っぽくてもいいなら考えはあるが』
『いえ、それには及びません……今日の午後12時。皆が寝静まった時に、我々の協力者が刑務所内の全ての電力を遮断します。時間にして“三分”ではありますが。皆様にはそれを合図に、つけられた腕輪を外して脱出してもらいます……ほとんど貴方様方の腕頼りではありますが、どうかご容赦を』
『……いや、問題ねぇよ。その間だけなら腕輪の警報機能も作動しねぇんだろ。十分だ』
三分もありゃ、どうって事は無い。
その間に、腕輪を外しそのまま牢屋から脱獄するだけだ……ま、何とかするさ。
『……気づかれそうですね……因みに、ヘルダー様のお連れした見習いの方々は修道院にて保護しています。可能であれば、脱出した後に、そこで合流しましょう。分かっているとは思いますが』
『あぁヘマはしねぇよ。それじゃあな――K』
『……あぁいいですね。何かこう……良いですね!』
「……」
俺は無言で席から立つ。
すると、面会室の扉が開かれた。
「……あぁ? お前は……誰が連れて来た?」
《開いていたので勝手に入りましたよ? 結構、狭いんですね。ははは》
「――ッ!」
刑務官は怒りの形相で警棒を出す。
そうして、それで俺の頭を殴って来た。
鈍い音が鳴り、俺はゆらりと体を揺らす。
奴は無線で何処かに連絡をし、俺を懲罰房に入れるように指示を出していた。
「どうやって入ったかは後で分かる事だ……貴様には色々と聞かねばならんからなぁ。今日はとことん可愛がってやろう。くくく」
《お手柔らかにお願いします》
「――このッ!!」
奴は警棒を振るう。
そうして、力任せに俺を殴打していった。
俺は抵抗せずにされるがままに奴の仕置きを受けた……あぁ、クソ。
どうして、俺は何時もこんな目に遭うのか。
散々な目に遭ってばっかりだ。
クソほど痛くて、クソほど辛くて、クソほど悲しくて…………あぁ、鬱だ。