【完結】祓魔師《エクソシスト》は休みたい   作:オタリオン

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048:祓魔師は生徒を導く

 四方八方から感じる敵意――動く。

 

 地を蹴り襲い掛かる“生徒たち”。

 それぞれの得物を持ちながら、連携を取って攻撃を仕掛けて来る。

 速く鋭く、周りがよく見えていた。

 隙を互いにカバーし、長所を最大限に生かし――いいじゃねぇか。

 

「――!」

「――シィ!」

 

 生徒たちが散開――エルナとエゴンが両サイドから仕掛けてきた。

 

 その気配を感じながら、両手を動かして――逸らす。

 

 エルナの双剣による斬撃。

 大きな動きは無く、全てが無駄なく鋭かった。

 金属音が連続して響き、エルナは両手で双剣を巧みに操る。

 上から下から、右へ左へ。

 フェイントを織り交ぜて此方の隙を伺い。

 風を切り裂くように飛ぶ刃が僅かな角度によって――光を発した。

 

 目に当てるように光を当てて来た。

 それにより、一瞬動きが鈍る。

 それを察知して、すかさずエゴンが攻撃のスピードを高める。

 一撃必殺の威力を誇るエゴンの拳が飛ぶ。

 掌から感じる衝撃はまるで砲弾のように重く強い。

 スピード重視のエルナの斬撃を片手で往なし、破壊力のあるエゴンの拳打を片手で弾く。

 逃げようと足を動かせば、エルナが回り込んでくる。

 

 エルナの斬撃は完璧だ。

 一撃自体の威力は高くは無いが。

 その手数の多さは脅威であり、何よりも味方がいる状態では嫌でも意識をしなければならない。

 その上、エルナの得物には毒が塗ってあり。

 もしも、これが悪魔用のもので俺が悪魔であれ僅かに傷でもダメージは蓄積する。

 

 何よりも、エゴンの存在は大きい……“痺れ”か。

 

 魔力をほとんど纏っていないとはいえだ。

 奴の攻撃を弾いている手が痺れを発していた。

 並みの祓魔師であろうとも、俺の手を痺れさせられる奴はそうはいない。

 攻撃力そのものは、もう合格点……それでも、だがな!

 

 俺はそのまま腕を大きく振るう。

 そうして、奴らを衝撃波で吹き飛ばす。

 二人は空中をくるくると回転し、そのまま着地――俺は邪魔なエルナを排除しようとした。

 

「――っ!!」

 

 エルナは目を丸くする。

 俺はそんな奴に拳を振り下ろし――咄嗟に、俺たちの間に何かが入る。

 

 それは大きな盾であり――ヤンだった。

 

 奴は魔力を盾に纏わせていた。

 ギリギリと歯を食いしばりながら俺の攻撃を耐えて――

 

「オオオォォォォ――ッ!!!!」

「……!」

 

 俺の攻撃を――“反射した”。

 

 俺はほとんど魔力を纏わせていない。

 が、奴は自らの魔力と加わった衝撃を反発させて。

 倍にして俺の攻撃を跳ね返してきた。

 魔力での攻撃よりも難しい物理攻撃の反射だ。

 俺は確かにカウンターの仕方は教えたが……はは!

 

 俺はそのまま腕から血を噴出させながら後方に飛ぶ。

 すると、後方で控えていた生徒たちが一気に俺に向かって魔力弾を放ってきた。

 俺はそれを全て回避し、避けられないものは片手を使って弾いた。

 地面に当たり、砂埃が舞う。

 そうして、気が付けば地面は穴だらけになりとても不安定なものになる。

 それと、魔力弾に混じって何かの液体なども大量に散布されていた。

 毒では無く水であり、それらが芝生に染み込んで地面をぬかるませていた。

 

 尚も続く攻撃。

 それらを回避しながら、撥ねた泥だけは魔術で防ぐ。

 時折、風に乗って針のようなものも飛んでくる。

 それを指で摘まんでべきりとへし折り……毒か。

 

 体を痺れさせる毒であり、そこまで危険性のあるものじゃない。

 恐らくは、科学実験室から持ってきたのか。

 そんな事を考えていれば、煙の中でうっすうらと青い光の玉が見えていた。

 俺の周囲に魔力の塊が浮いていて――一気に襲い掛かる。

 

 全ての魔力の塊から光線のものが出た。

 俺はそれを紙一重で避ける。

 が、レーザーはどういう仕組みか地面に触れてようとして屈折する。

 それは空中でも曲がり、俺の周囲で何度も屈折して俺に襲い掛かって来た。

 

 まるで、鏡面の中で反射しているようだ。

 俺はそれらを片手で吹き飛ばしながら、周囲に目を凝らし……なるほどな。

 

 周囲を見れば、薄っすらと何かが舞っているのが見えた。

 煙の中に溶け込み風が吹けば、それらがさらさらと宙を舞う。

 それはある特殊な鉱石を粉末状に砕いたもので。

 その性質は魔力の方向を変化させるものだった。

 ヤンの盾にも使われているものであり、それは……ラフールの入れ知恵だな。

 

 アイツがアデリナに教えたのだろう。

 魔力を主体として戦うのなら、より良い道具を使うべきだと。

 それによってアデリナは独自に調べて、この答えに辿り着いた。

 俺は薄く笑みを浮かべて――頭上に大きな青い魔力の塊が出現する。

 

 

 アデリナが杖を振るえば、それが爆ぜて――無数の光線が出現した。

 

 それらは周囲の粉末に当たり、激しく屈折し――中心の俺へと飛ぶ。

 

 

 そうか、そうか――“粉末そのものも操っていたのか”!

 

 

 魔術によって煙を透過し、アデリナたちを見る。

 よく見れば、他の魔力主体の生徒たちが自らの魔力を使って衝撃波を生み出していた。

 アデリナは片手で指を立てたりしており、アレはハンドサインだと分かる。

 衝撃波の位置、衝撃波の強さ。

 そして、追加の粉末を撒いて量を調整し、俺の周囲に粉を対流させていた。

 あらゆる事を計算し、ある程度の指向性を持たせる――流石だな。

 

 よく考えられて、よく仕込みが聞いている。

 かなりの練習を積んだんだろう。

 ニンドゥから帰ってからずっと……面白れぇ。

 

 これはラフールは知らない事だろう。

 粉末にするというアイデアも、それを動かす事で屈折の角度を調整する事も。

 全て、アデリナが自ら考えて思いついた事だ。

 

 俺は笑う。

 そうして、向かってくるレーザーを――“結界で防ぐ”。

 

「「「――!!」」」

《中々に面白い――が、これまでですよ》

 

 俺はそんな事を言って、一気に大地を蹴る。

 そうして、流れるように地面を移動し。

 一瞬にしてアタッカーの生徒たちを無力化していく。

 エルナとエゴンがまた連携を取って来るが――関係ない。

 

「「――え!?」」

 

 二人は驚く。

 俺の体は――“分裂した”。

 

 エルナとエゴンに向かっていく。

 二人は足を止めて防御の姿勢を取る。

 すると、エゴンは大きく後方に吹き飛び。

 エルナの方の俺は――消えた。

 

「残像――ッ!!」

《正解です》

 

 俺はそのまま一気に地面を蹴り。

 エルナの間合いに入って――肘打ちをした。

 

 ぼごりと音がして深々とエルナの腹に攻撃が刺さる。

 エルナは咄嗟に魔力を腹に集中し防御したが。

 がふりと空気を吐き出しながら地面を転がっていった。

 

 俺はゆっくりと立ち上がり――殺気を感じた。

 

 後ろに振り返る。

 が、そこには誰もいない。

 腕を咄嗟にあげて――衝撃を感じた。

 

 強い衝撃であり、そのまま地面を滑っていく。

 腕から煙のようなものが見えた気がした。

 それほどの威力であり、視線を横に向ければ――いない。

 

 俺は今度は横に飛ぶ。

 すると、上空から何かが勢いよく落下してきた。

 それが砂埃を巻き上げて、周囲がまたしても見えなくなる。

 俺は気配を探ってみたが……へぇ、やるな。

 

 上手く気配を殺している。

 そして、魔力の探知にも引っかからないように極限まで魔力を落としていた。

 攻撃の一瞬だけ魔力を感じるのは、その瞬間だけ魔力を解放しているからだ。

 つまり、防御にはほとんど回していないという事で――“舐められたものだな”。

 

 俺はにやりと笑う。

 そうして、そのまま――大きくしゃがむ。

 

「――ッ!」

《やぁ》

 

 首を蹴り落とそうとした生徒。

 そいつは何時ものように何の特徴も無いパーカーを身に着けていた。

 顔も見えず、ぶかぶかで体格も判別できない。

 実力は他よりも圧倒的に高い謎の生徒であり――

 

《“カブラギ”さん――甘いんですよ》

「……!」

 

 俺は奴の腕を掴む。

 そうして、そのまま地面に叩きつけようとした。

 が、奴は一瞬にして自らの関節を外し――地面に着地した。

 

 不自然な動きでの着地。

 が、ダメージは受けなかった。

 奴はそのまま俺の腕に手刀を放つ。

 魔力で強化したそれは名刀の如き切れ味で――手を離す。

 

 奴から距離を離し、そのまま指で銃を作る。

 そうして、連続して魔力弾を撃ち込んだ。

 奴はそれを全て回避し、当たりそうなものは魔力で強化した手で弾いていた――やはりだな。

 

 こいつは他の生徒たちよりも一枚も二枚も上手だ。

 実力だけであれば、シュプリンガー……いや、トゥルムに匹敵するかもしれない。

 

 それほどまでに高い身体能力に、魔力量も多く。

 それらを扱う為の技術も並外れていた。

 明らかに、普通では無く――“何かを感じるな”。

 

 パーカー野郎――カブラギは攻める。

 

 目にも留まらぬ速さで駆けて。

 一瞬で間合いを詰めて連続攻撃を仕掛けて来る。

 いつの間にか腕の関節を戻しており。

 一発一発も殺意が籠っていた。

 耳元で風を切り裂く音が聞こえて、紙一重で避けた拳が――頬を切り裂く。

 

 血が垂れて、パーカーが薄っすらと笑ったような気がした。

 俺は奴の横腹を蹴って距離を取らせる。

 そうして、そのまま煙から抜け出し――っ!

 

「――へ?」

 

 後方にて転がる生徒。

 足をもつれさせたのか、意味不明な位置で転がっている。

 俺は足を止めて――目の前から強い魔力反応を感じた。

 

 視線を前に向ければ、奴が拳に魔力を纏わせている。

 それも一瞬の間で練り上げたとは思えない魔力の質で――まずい。

 

 俺は両腕を前に構える。

 すると、パーカーは更に魔力の質を高めて――放つ。

 

 目の前を覆い隠すほどの魔力の爆発。

 拳の形となり、砲弾のように飛んできた。

 それを魔力で許可した素手で触れれば、掌が燃えるように痛みを発した。

 それを受けながら、一気に後ろへと足が滑っていき――上方へ弾く。

 

 魔力吸収をすれば、最悪の場合、後方の生徒に被害が出ていた。

 完全に吸収できずに余波が出れば、巻き込まれていたからな。

 上を見れば、弾かれた魔力が花火のように飛び散った。

 俺はそれを見ながら、死角から飛んできた攻撃を受け止めた。

 そうして、そのまま流れるように攻撃しようとした奴よりも早くパーカーの頭を掴み――地面に叩きつける。

 

「――ぐぁ!」

《……そんな声、していたんですね》

 

 少し高かったな……“女”か。

 

 そんな事を考えながら、ゆっくりと手をのけて――奴が魔力弾を放つ。

 

 顔面に被弾したが、魔力の防御でダメージは皆無だった。

 俺はそのまま魔術によって奴の体を地面に押し付けた。

 強力な重力によってパーカーが地面にめり込む。

 それでも、少し体を動かせているのは流石としか言いようがない……が、“ゼロ点”だ。

 

 俺はゆっくりと立ち上がる。

 そうして、腕の傷を再生させて手を叩く。

 

《模擬戦は終了です……お疲れさまでした》

「「「…………はぁぁぁ」」」

 

 ピリピリとしていた生徒たち。

 殺気を放っていた奴らは俺の声を聞いてするすると気を緩める。

 本来であれば、模擬戦とはいえ敵役の俺の言葉を信じるなといいたいところだが……まぁいい。

 

 俺は生徒たちに今回、何処が良くて何処が悪かったかを伝えた。

 エルナとエゴンはずば抜けた身体操術によって誰よりも高い白兵戦の実力を有していた。

 だからこそ、二人での連携技はとても良く。

 他の生徒たちも周りから、好機を伺いながらも適度な距離を保っていたのは良かった。

 が、悪い点で言えば、まだまだ視力に頼っている面があり。

 魔力を使っての残像などに簡単に騙される点は良くは無い。

 あんなものは熟練の祓魔師であれば使えるもので。

 悪魔であればより簡単に出来てしまうだろう。

 残像だけなら良いが、魔術によってつくられた分身であれば更に厄介だ。

 故に、次からは視界での情報だけでなく、他のあらゆる情報も読み取る力を養って欲しい。

 

 ヤンも中々に良かった。

 自らの役割を理解しており。

 仲間に掛かる命の危機を察して、良いタイミングでカバーに入っていた。

 攻撃の反射技術も見事なものであり、この短期間でよくも磨いてくれたものだ。

 が、惜しい点で言えばあの一撃を防ぐ事でかなりの体力を消耗したように思える。

 恐らくは、常時俺の攻撃を警戒し、魔力を不必要に流し続けていたからだろう。

 ヤンは攻撃的なように見えるが、どこか慎重な面もある。

 それが間違いでは無いが、過度な緊張や怯えは命の危機を招く。

 ヤンにはこれから魔力の効率的な使い方と、精神面での強化を優先した方が良いな。

 

《それとアデリナさん……今回のMVPは貴方でしょうね》

「え!? ほ、本当に?」

《えぇ、よく考えられた戦闘方法。そして、味方を信頼して適切な指示を送る能力。何よりも、戦闘状況を分析し、私の片腕が負傷したタイミングで貴方は攻撃を行った……見事ですよ》

「え、えへへ、そ、そうかなぁ……ふ、ふふふ」

《……まぁ惜しい点で言えば、その後の事までは考えていなかった事でしょうかね。私は加減をしますが、勿論、魔術なども使いますからね》

「う、そ、そうだよね。普段は、使っていなかったから……はぁぁ」

 

 ……まぁ、それでも……俺に“魔術を使わせた”んだ――合格だろうよ。

 

 俺はくすりと笑う。

 そうして、他の生徒たちにも目を向けた。

 

《レン、ショーン……不良にしてはとても良い気配りでしたよ》

「う、何だよ。それ」

「褒めてんのかぁ?」

 

 レンとショーンは照れくさそうに笑う。

 目立った活躍は無かったように見えるが。

 二人は戦闘状況を分析し、適度に此方がやりにくい状況を作っていた。

 足場を不安定にするために、魔力弾によって穴だらけにし。

 水をばらまいて、地面を不安定にさせていた。

 二人だけでなく、他の生徒たちも協力していたが。

 指示をしていたのはこの二人だと分かっていた。

 

 後は……コルネリア・クンツだな。

 

《……貴方、忍者か何かですか? 気配の絶ち方だけなら……かなりのものですよ? 正直、何度か見失いそうになりましたから》

「で、でも……ば、バレて、いたんですね……ふ、ふひ、私の、存在感に……ふひひ」

 

 こいつはもうプロの暗殺者か何かだろう。

 目立った攻撃は無いものの、針などを定期的に飛ばしてきていた。

 魔力による攻撃では無く、科学的な攻撃の仕方で。

 祓魔師の中には毒などを使って戦闘する奴もいるので。

 恐らく、こいつもそっちの類の人間になるんだろう……侮れねぇな。

 

 俺は生徒たちの良い点と悪い点を伝える。

 奴らは一喜一憂しながら、はしゃいでいて……さて。

 

「……ッ!!」

 

 俺は無理矢理に立ち上がろうとするカブラギを見つめる。

 小さくため息を吐いてから、魔術を解いてやった。

 すると、奴はすぐに立ち上がって攻撃を仕掛けて来る。

 俺はその攻撃を受け止めてから、奴の体を抱きしめるように拘束する。

 奴はそれでも暴れて頭突きを見舞ってきた。

 俺の眼鏡は砕け散り、俺は冷めた目で奴を見つめた。

 

《私は終わりだと言いましたが……言葉が理解できませんか、カブラギさん?》

「……ッ!!」

 

 俺は殺気を放ちながら言う。

 すると、奴は体をびくりとさせていた。

 俺はゆっくりと奴を地面に下ろす。

 そうして、異空間から替えの眼鏡を出して一瞬で装着する。

 

《貴方は今回――不合格です》

「……」

《理由は分かりますね? 独りよがりで戦闘を行い、味方に危険を及ぼしたからです……もしも、私が悪魔であればあのまま攻撃を避けてあわよくば一人をあの世に送っていたでしょう》

 

 俺は簡潔に伝える。

 せめて、チームを組んでいる時だけは協力しろと。

 すると奴は舌を鳴らして去っていく。

 

「……弱い奴なんていらないだろ」

「「「……!」」」

「……」

 

 生徒たちはムッとした顔をする。

 俺はため息を吐く。

 すると、そのタイミングで鐘が鳴り響いた……何だかなぁ。

 

 

 ◇

 

 

 授業が終わり、今回の仕事も完了した……が、クラスの雰囲気はあまりよろしくない。

 

 折角、ニンドゥで経験を積んで。

 帰って来たアイツらが生徒たちに習った事を教えてだ。

 更に上を目指して頑張ろうって時にだ……あのパーカーめぇ。

 

 あんな捨て台詞を吐いたせいで。

 完全に奴はクラスで孤立していた。

 元々、誰とも話していなかった事も関係しているが。

 あの言葉がトドメとなり、誰も奴と関わろうとしなくなった。

 

 唯一、エルナとアデリナはどうにかしようとしていたが……ありゃ、ダメだな。

 

 本人が仲良くする意思が無い。

 エゴンもそれを察して話に行く事が出来なかったようだ。

 ヤンの奴らは完全に敵視しちまっているしなぁ……はぁぁぁくそ。

 

 まぁぁた面倒事だ。

 これからって時によぉ……あぁぁどうすっかなぁ?

 

 無理矢理に仲良しこよしさせるのは俺の趣味じゃねぇし。

 そもそも、話したくないって奴に話をさせるのは拷問でしかねぇ。

 インドア派にキャンプに行こうと誘うようなもんだ。

 それならそれで、インドア派らしいアプローチが良いように思えるが……まぁ共通の趣味はありそうだけどな。

 

 何時も何時も、アイツはゲームをしている。

 暇さえあればゲーム三昧であり、恐らくは大のゲーム好きなんだろう。

 こうなったら、同じようにゲームをやって奴から聞き出すしかねぇ。

 家庭内の問題とか宗教的な問題であれば俺にはどうする事も出来ないが。

 せめて、表面上は仲良くしてやるようには説得しなきゃならねぇ。

 

 誰だってそうだ。

 個性は大事であり、それが無くなればロボットのようなものだ。

 だが、個性だ個性だと言って暴れるのは違うんだ。

 個性というのはその人間の特徴であって、その人間が押し付けていいものではない。

 静かなところが好きならば、静かなところでいればいいし。

 祭りが好きなら好きなだけ祭りに行けばいい。

 が、仕事であったり学業であったりならば最低限、そこのルールに従う他ない。

 

 誰だって嫌なもんは嫌だが。

 我慢しなきゃならねぇことだってある。

 その見返りとして学生であれば、知識であったり経験。

 卒業すれば学歴が与えられるんだ。

 仕事であれば地位や名誉に金だ。

 皆が皆、好きな事だけをして与えられるだけってのはあり得ねぇんだ。

 

 ……俺だって引退できるならしてぇけど、出来ねぇからこうなってんだけどなぁ。

 

 好きで働いてねぇし、誰だって休みてぇ。

 それが出来ないからって暴れちまえば、それは犯罪者と変わらねぇからな。

 今はとにかく、教師であるのなら教師らしくアイツらが此処で最低限学んでいける環境を作らねぇといけねぇ。

 陰湿な事をするカスは俺が半殺しにし、仲間はずれをするクソ野郎は俺が吊るす。

 この修道院で俺が教えてやれる事は、祓魔師として必要な事と社会の理不尽さくらいだ。

 

 集団生活、グループワーク、協調性――“うざってぇが、重要な事”だ。

 

 人間、一人でデカくはなれねぇんだ。

 ガキの時に支えてもらったってんなら、何時かは自分が支える番になる。

 社会人になれば、絶対に一人で仕事をするなんざねぇんだ。

 

 報告、連絡、引継ぎ……何かしら人とは関わっちまうからなぁ。

 

 歯車なんざ替えはきくっていう奴もいるが。

 歯車が抜けた間は機械は動かねぇんだ。

 抜けた穴を埋めるのは一苦労であり。

 支える人間が欠けるってのは中々にしんどい。

 それは学校でもそうであり、生徒一人が辞めちまえば周りの人間にも影響が出ちまう。

 今の時代、SNSで何でもバレちまうからよぉ……だからこそ、“メンタルケア”ってのは重要だ。

 

「……」

 

 俺はカウンセラーじゃねぇし、そもそも常人の悩みなんざ理解してやれねぇけど。

 まぁ話くらいなら聞いてやれる。

 まぁ答えを言ってやれるかは正直自信はねぇけどさぁ。

 

 ……それが、教師ってもんなんだろう?

 

 何も勉強を教えてやる事だけが教師じゃねぇ。

 死ぬほど面倒で、嫌でしかねぇけど……これも仕事だ。

 

 仕事ならばやるだけだ。

 嫌だと言っても金を貰っているのならやる。

 好き嫌いで仕事なんざ選べねぇんだ。

 納得してやっているのなら拒否権はねぇだろうよ……さてと。

 

 俺はパソコンを開く。

 そうして、奴が好きそうなゲームを調べようとした。

 同じゲーム好きとはいえ、アイツと俺の趣味のジャンルは違うかもしれない。

 ラブコメ好きの奴に格闘ゲームを勧めたって興味はねぇだろうよ。

 俺は割と何でも好きではあるが……あぁ、なるほどな。

 

「……」 

 

 最近はオンラインゲームが流行っているのか。

 タイトルは――“ジャスティス・ソルジャー”か。

 

 正義の兵士ってのは中々にえげつない思想を感じるが……へぇ、面白そうだな。

 

 兵士となって悪魔と戦うゲームか。

 三つの国があり、兵士には階級があって上がれば上がるほどに強力な武器を使えると。

 家庭用のゲームも販売されていて、携帯ゲーム機でも遊べるのかぁ。

 時代は進歩しているようで、アプリゲーなるものもあるらしいしなぁ……あ、そういえば……。

 

 ちらっとアイツのゲーム画面を見た事があったが。

 アイツもこのゲームに出ていたような兵士の格好をしていた気がする。

 相手も悪魔っぽい外見をしていて……やってるな?

 

 アイツが嵌まっているのは、このジャスティス・ソルジャーで間違いない。

 その時にプレイヤーネームも見た気がする。

 確か、アレは、えっと…………“ロクマルイチ”だったか?

 

 同じ名前のプレイヤーは作れない仕様のようであり。

 トップランカーになれば名前もランキングに上がるらしい。

 俺は物は試しとロクマルイチという名前を検索し……おぉ?

 

 あった――“世界十三位”だ。

 

 中々に強いようであり、階級も鬼ほど高い。

 俺は流石はずっとしているだけはあると恐れおののく……決まりだな。

 

 取り敢えず、奴の事について知る為に。

 俺はこのジャスティス・ソルジャーをプレイする。

 自らの正体は隠しつつ、さりげなくこいつの悩みなどを聞き出して……いけるな。

 

「……」

 

 俺はパソコンを閉じる。

 そうして、早速、帰りにゲームショップに寄る事を決めた。

 荷物を纏めて鞄を持ち……ん?

 

 ガラガラと扉を開けて誰かが職員室に入って来る。

 見れば校長であり――視線が合う。

 

「あぁ良かった良かった……ベッカー先生、ちょっとよろしいですか?」

《何でしょうか?》

 

 俺は校長に用件を尋ねる。

 すると、校長も帰る俺を気遣って手短に話してくれた。

 

「実はニンドゥでの一件によって、修道院の校長たちと対魔局の方々を交えた話し合いの場が設けられまして……修道院での防犯教育の一環として各々で悪魔が修道院に侵入した場合を想定した訓練を行う様に指示があり……ライツではベッカー先生にお任せしたいと思っているんですよ」

《……私にですか? 何故です? そういう事は歴の長い方がした方が》

「いえ、私もそうは思ったのですが……対魔局の方々の一部から、ベッカー先生に任せるようにと推薦がありまして……はい」

「……」

 

 俺は何となく察した……鬼畜眼鏡か?

 

 アイツの事だから、ニンドゥにいて誰よりも現地での事を知っている人に任せた方がいいなどと言ったんだろう。

 何を企んでいるのかは分からないが、推薦をしたということは……拒否権はねぇってことだな。

 

 俺は小さくため息を零す。

 そうして、不安そうな顔をする校長に幾つか質問する。

 

《……用意するものがあるのですが、要望を出せば経費はおりますか?》

「え、えぇ! 必要ならば対魔局が負担してくれると言っていました! もしも、校舎の一部に損傷などが発生しても、直してくれるとも……でも、変ですよね。校舎の損傷って……はは」

《……私が指示をすれば、それに従ってくれますか? 絶対に、何の疑問も持つ事無く》

「え、そ、それは……あぁいえ! 従います! 他でもないベッカー先生がそうおっしゃるのであれば」

 

 校長は何度も頷く。

 確認すべきことを聞いて、俺は静かに頷く。

 そうして、この事は引き受けると承諾した。

 すると、校長はホッと胸を撫でおろす。

 

「色々と準備はあると思いますが……一月は先なので、安心して準備をしてください! あ、もしも人手が必要なら遠慮せず言ってくださいね?」

《ありがとうございます……それでは、私はこれで失礼します》

「あ、はい。長々と御引止めしてすみませんでした……お気をつけて!」

 

 校長に別れの挨拶をし廊下に出る……ふぅ。

 

 静かに息を吐く。

 そうして、無言で歩いていった。

 

 

 

 まさか、この俺に防犯教育を任せるとはなぁ……“どうなってもしらねぇぞ”?

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