鳥たちが鳴いている。
がさがさと茂みが揺れる音も聞こえていた。
朝の陽ざしは届かないものの、昼間であるから明るさはそれなりだ。
森の中を進みながら、俺は無言を貫いていた。
「……あの、先生……僕たちは何処を目指して……あの」
「……」
エゴンが質問してくるが、無言で足を進めていく。
森に入ってから一言も喋らない俺に生徒たちは不信感を抱いている。
中でも、カブラギは周囲の様子を頻りに確認していた……流石だな。
俺はカブラギに気づかれないように細心の注意を払う。
一定のペースで歩いていき……足を止める。
「先生?」
「「「……?」」」
生徒たちは首を傾げている。
開けた場所に出て来た事もそうだが、何よりも俺が急に止まった事に戸惑っている。
が、カブラギだけは何かに気づいた様子で動き出す。
俺はにやりと笑い――術を発動させる。
瞬間、地面が一気に崩れ落ちる。
足場が無くなった事によって生徒たちは悲鳴を上げる。
ほとんどの生徒は何も出来ずにそのまま落下していった。
唯一、カブラギだけが驚異的な反応速度で逃れようとしていた――させねぇよ。
「――!?」
《貴方も落ちるんですよ》
俺はカブラギの手を払う。
そうして、そのまま加減した踵落としを喰らわせた。
ガードをしたものの、カブラギはそのまま穴の中に落ちていく。
俺は空中に浮きながら、落ちて行った生徒たちを見つめる……さて。
本来であれば、こんなものまで使う必要は無かった。
いや、精確に言うのであればもっと慎重に使う予定だったが。
計画を変更し、前倒しでこれを使う事を決めた。
穴自体は数日前に掘ってあったが、仕掛けに関してはやっつけも良い所だ。
肝心の“敵役”に関してはほとんど用意できていないが……まぁそこは俺の腕次第だ。
俺は別の刻印を起動し、術を発動させる。
認識阻害であり、その上に俺の周囲の光を曲げる。
これにより俺の姿は透明人間のようになる。
俺はゆっくりと穴の中へと降りていく。
体から発せられる魔力を限界まで落としておく。
指輪の効果と合わさり、これにより大体の人間からは感知されなくなる。
穴の中へと降りて行けば、生徒たちの慌てる声が聞こえる。
ゆっくりと地面に降りてから、そんな生徒たちの様子を眺める。
「何だよこれ!? 何で落とし穴なんか……また、俺たちに何かさせる気かよ!?」
「……まぁそうだろうな。先生だし」
「あぁ先生ならやりかねない」
「お前ら何でそんな冷静なんだよ!? まだ初日だって言うのにさ!?」
「「「……?」」」
記憶を失ったレンが騒いでいる。
事情を知る二人は渋い顔をしながら首を左右に振っていた。
すると、周りの状況を確かめていたカブラギが声をあげる。
「こっちに来いよ……これ、道だろ?」
「……本当だ。なんか風も感じるし……もしかして、出口?」
「かもしれない。でも、罠の可能性もある」
「わ、罠って、ふひ、何で、先生が罠を……否定、できない。きひ」
「ま、まぁ! どの道、穴から這い出すのは無理そうですし。このまま皆で行った方が……どうかな?」
「いや、私に聞かれてもさ……うーん、どうする?」
生徒たちは悩み出す。
まぁあからさまな道があれば警戒するだろうさ。
それは想定の範囲内であり、進もうが進まなかろうがどうでもいい。
何名かは諦めが悪く。
必死になって俺の名を叫んでいた。
が、全く返事が返ってこない事でようやく諦めたようだった。
「……カブラギ。お前に聞きたいんだけどさ……お前なら、どうするよ」
「……何で僕に聞くんだよ」
ヤンの言葉にカブラギは怪訝な顔をする。
すると、ヤンは難しそうな顔をしながらも説明していた。
「いや、だってさ……ハッキリ言ってお前は俺たちよりもつえぇだろ? だったら、ボスみたいなもんだしよ……此処は、お前の意見に従った方が良い気がするんだ。お前らもそう思うだろ?」
「……まぁ、そうなんじゃないの? カブラギ君くらいだよね。先生と真面に戦えてたのは。それも一人で」
「リーダーとして不足なし。何なら学級委員長になった方が良い」
「……あぁ、そういえばまだ決めてませんでしたよね。学業とかよりも、訓練第一だったし……まぁ先生の言っている事は正しいけど」
「……お前ら……面倒事を僕に押し付けたいだけだろ?」
「あ、バレたか? ははは、悪いな……けど、リーダーに相応しいのはお前だと俺はマジで思ってるぜ」
ヤンは真っすぐな瞳でカブラギを見つめる。
カブラギは暫くヤンを見つめてから、ため息を吐いていた。
そうして、ゆっくりと穴の中にある洞穴に近づいていく。
「……風に混じって嫌な臭いがする……獣。いや、魔物だ……この先には確実に魔物がいる」
「「「……!」」」
「落とし穴の広さは大体が直径十五メートルほどか……僕でも違和感があるって思えたのなら、割と急ごしらえの気がする……まぁそれでも数日で作れるもんじゃないけど」
カブラギは穴の中を動きながら淡々と説明する。
恐らく、目に見えるところに作った道は罠だと。
アレが間違えであるのなら、確実にこの穴の中に正解が用意されている筈だと。
カブラギは地面を触ったり、壁を突いたりしていて。
周りの奴らもそれを真似するように動いていた。
「あ、見て見て! 此処、何か崩れそうだよ!」
「本当か!?」
アデリナが俺の用意したもう一つの道を見つけた。
ヤンが近づいてそこに手で触れる。
すると、ぽろぽろと壁が崩れる。
カブラギは全員にどくように言う。
奴は拳に魔力を溜めて――放つ。
瞬間、壁は一気に砕け散る。
全員が感嘆の息を漏らす中で、カブラギはゆっくり鼻を鳴らす。
「……こっちは臭いがあまりしない」
「じゃ、こっちが正解か?」
「……いや、そうでもないかも……臭いがしないだけで、何かがいる場合もある……悪魔の中でも、擬態の上手い奴らは臭いだって消せるし」
「そ、そうなんですか? 詳しいんですね」
「……まぁな」
カブラギは素っ気なく返す。
そうして、全員にこの道を進んでもいいか尋ねていた。
「多分、もう他の道は用意されていないと思う……あからさまな方よりも、こっちの方がまだマシだと思うけど……どうする?」
「……俺はカブラギについていくぜ」
「……じゃ私も」
「私も同行する」
生徒たちは次々とカブラギに提案に賛成する。
カブラギは「そうか」とだけ呟いて進んでいく。
「お、おい。もう行くのか?」
「時間を掛けない方が良いと思うし……まぁ遅れてついて来なよ。その方が安全だ」
「ま、マジかよ……すげぇ自信だなぁおい」
「……ま、そんだけ経験積んでるって事だろ? 本当にアイツは何者なんだろうな……出来たら、お顔の方ももうちっと見せて欲しいなぁなんてぇ」
「……そういえば、温泉に入っていた時もタオルをぐるぐるに巻いてたよね?」
「妖怪かと思った。コルネリアが吐きそうだった」
「ひぐぅ!? そ、それは言わない、約束で……うぅ!!」
「……エチケット袋は……僕は持ってません」
生徒たちには緊張感は欠片も無い。
先行するカブラギが強いから安心しているんだろう……何時までそうしていられるかなぁ。
俺はそんな事を思いながら、最後尾から生徒たちを見守っていた。
◇
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ…………アイツ、死ぬほど、性格が悪い!」
「か、カブラギさん。大丈夫ですか?」
あれから洞窟内を探索しているカブラギ一行。
が、その道中で幾つもの罠に引っかかっていた。
カブラギはすぐに発見し、対処はしていたが。
俺が敢えて、そんな罠を起動してやった。
すると、生徒たちは悲鳴をあげているだけで。
カブラギは舌を鳴らしながらも、生徒たちの救出に奔走していた。
ある時は落とし穴で落ちそうになった生徒を助け出し。
ある時は壁から発射される矢を寸でのところで受け止めて。
ある時は、ある時は――あぁ良いねぇ。
疲労困憊であり、イライラが溜まりに溜まっている。
奴について行っている奴らも申し訳なさそうな顔をしていた。
互いに重苦しい感じであり、今にも秩序が乱れそうになっている。
魔物の方に行けば戦闘はかなりのものだっただろうが、まだアッチの方が和やかでいられたかもしれねぇ。
力を持ったものが負担を受けて、力なき者たちは寄りかかるだけ……苦しいこったな。
「「「……っ」」」
互いに無言だった。
当然だろう。何もしてやる事も出来ていなければ、上手く進めてもいないのだから。
俺が狙った通りの展開であり、互いに強く信頼できるほどでも無ければこういう事は頻繁に起きる。
祓魔師にとっての敵は何も悪魔や魔物だけではない。
仲間との連携が上手く行かず、作戦を進められる事が出来ないストレスが奴らの心を蝕む。
ハッキリと言えば、そういった積み重ねの方がよっぽど危険だ。
悪魔はそういった心の隙を目ざとく見つけてつけいろうとしてくる。
祓魔師にとって必要なものは知識と力だけではなく。
鋼のような強靭な心も必要なんだ。
今回の林間学校では、魔物などでも食べられるようになり。
更には、今後、祓魔師として必要になるメンタルの育成もしていく。
先ずはその第一歩のようなものであり、此処でギスギスしているようではダメだ。
「……」
俺は生徒たちを見つめる。
もどかしい感じであるが何もしない。
暫く、無言のまま時間が流れて――アデリナが声を出す。
「ごめん! “私が”足を引っ張って……本当に、ごめんなさい」
アデリナは深々とカブラギに対して頭を下げる。
誰のせいでもなく、勿論、アデリナが罠を起動した事はあり得ない。
が、奴は自らが起動した事にして謝罪を口にした。
こういう事で誰の責任かを追及するのは水掛け論でしかない。
議論をすればするほど、互いへの不信感は積もっていく。
アデリナの何気ない行動は俺としては高く評価したい。
その証拠に、他の奴らは頭を下げて謝罪を口にし始めた……それでいい。
「わ、私も……ごめんね?」
「ごめんなさい……後で、お菓子を捧げる」
「ご、ごめん、な、さぃ」
女子たちは謝る。
男子たちも気まずそうにしながらも、ヤンが謝った事でぽつぽつと謝罪を口にした。
すると、カブラギは暫く考えてからぼそりと呟く。
「……お前らのせいじゃない……全部、アイツがやってるだけだ」
「え、アイツって……先生がって事?」
「……三回目から、よく見ていたら。お前たちは罠をちゃんと避けていたと分かった……アイツが、態と罠を起動させていたんだよ。多分」
「えっと、それって……何処かで先生が見ているって事ですか?」
エゴンが気づいて周りを見る。
他の生徒たちも周りを確認していた……やるじゃねぇか。
疑心暗鬼に陥った場合のシナリオも用意はしていたが。
此処ではそうはならなかったようだ。
カブラギは思っていた以上に周りを見ていたようで。
部下となる仲間たちの事も考えられているようだった。
ヤン達はカメラを探していたが、カブラギはカメラじゃないと言う。
「……分からないけど。認識阻害とかの応用かもしれない……父さんが、そういう事も出来る奴を知っているから」
「認識阻害……透明人間にみたいになれるってことか……いいなぁ」
「透明人間になれば、俺も……ぐふ、ぐふふふ」
「……だから、やめろって……こりねぇな。本当に」
馬鹿共の言葉で場は和む。
俺はそろそろ頃合いだと判断し――刻印を起動する。
「……!」
今の一瞬で、カブラギが此方に視線を向ける。
奴は生徒たちを押しのけて駆けだして、手を伸ばしてきて――俺は音も無く躱す。
そのまま術を発動させれば、カブラギがいた場所から炎が噴き上がる。
それは人型となり、生徒たちに襲い掛かった。
「「きゃああああ!!!」」
「……! クソッ!!」
此方に気を取られたカブラギ。
遅れて俺が作り出した敵を排除に向かうが。
一歩遅く、女子生徒数名に攻撃が被弾した。
奴らは炎によって足を焼かれた。
カブラギは魔力を流した拳で俺の炎を掻き消す。
そうして、すぐに負傷した生徒の状態を確認した。
「うぅぅぅ! い、痛い!! 痛いよぉぉ!」
「熱い。熱い熱い熱い――うあぁ!!?」
「……ひどい火傷。これじゃ真面に歩けない」
女子生徒たちの足はひどい火傷を負っていた。
エルナはすぐに状態を分析し、持っていた水筒の水を掛ける。
「ひぐぅぅぅ!!?」
「大丈夫。これはこういう時のもの……これを飲んで」
「こ、これはぁ?」
「痛み止め。私が調合した……バーデン先生にこっそり教えてもらった」
エルナが渡した痛み止めを飲む女子生徒たち。
それによって、痛みを訴えていた二人は段々と呼吸を安定させていった……よしよし。
事前にクルトに奴らに対して役立つ事を教えるようには言い聞かせていた。
どうやら、簡単な調薬の仕方を教え込んでいたようで。
エルナは攻撃役以外でも己が活躍できる事を見つけられらたようだ。
死ぬまでの火傷は負わせない。
普段の訓練であれば死すらも盛り込むが、今回はそれをしてしまえば成長を妨げる恐れがある。
そもそも、こいつらが一時間以内に全ての問題を解決できるとは思えないしな。
あくまでも、カブラギの動きを制限する為の足かせだ。
あの程度の火傷であれば、傷も残す事無く治療は出来る。
カブラギはすぐに指示を出し、力のある男子生徒たちに担ぐように伝える。
奴らはその指示に従い、すぐに負傷した生徒たちを担いだ。
「……」
カブラギは何かを考えている。
俺の狙いを突き止めようとしている様子で――させねぇよ。
俺はまた刻印を起動する。
すると、またしてもカブラギは察知してきた。
だが、考えていた奴はすぐには動けない。
俺は一瞬で魔術を起動する。
すると、揺れが発生し奴らが通って来た道がどんどん崩落していった。
「――!! 走れ!!」
「「「うわぁぁぁ!!?」」」
生徒たちはカブラギの言葉と同時に走り出す。
洞窟内の崩落は俺が操作しているもので。
生徒たちの速度に合わせてギリギリに調整している。
奴らは必死になって走っていく。
走って、走って、走って――飛んだ。
全員が転がり、女子生徒を背負っていた男子生徒たちは女子に踏み潰される。
奴らはぜぇぜぇと息を荒くしていた。
奴らの通っていた道は完全に崩落する。
全員が安堵しているようだが――これからだ。
少しだけ開けた場所、そこは地面がぬかるんでいた。
俺の魔力を受けてずぶずぶと泥によってつくられた人形共が這い出す。
それらは生徒たちに向かって抱き着くような攻撃を始めた。
混乱状態の中で、カブラギは生徒たちを救い出し、すぐに指示を送る。
「こいつらに攻撃は無駄だッ! 真っすぐに出口を目指せッ!」
「「「りょ、了解!!」」」
全員がまた勢いよく走り出す。
だが、女子生徒を背負っている男子生徒は動きが遅い。
そういう奴らを優先的に潰すように俺は操作をする。
すると、狙いを理解したカブラギは舌を鳴らしながら魔力を使って敵を蹴散らしていく。
シナリオ通りであり、カブラギはどんどん体力と魔力を消耗していっている。
俺はそれを観察しながら、生徒たちが次のステージへと進んでいくのを見ていた――
◇
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……まだ、か」
「どんだけ、長いの……此処」
「熱いし、じめってるし……最悪だぜ」
生徒たちは全身汗だくだ。
あれからずっと動き続けている。
何度も何度も亀裂が生まれそうになっていたが。
アデリナやエルナ以外にも、エゴンやヤンが動いて回避していた。
奴らに掛かるストレスが、冷静な判断力を奪おうとしているが。
今までの地獄のような訓練によって奴らの順応力も上がっている。
中でも、ニンドゥでの経験を積んだ八人がチームの柱となっている……くくく。
良いものが見られた。
絆や友情なんて陳腐な言葉はあまり使いたくは無いが。
奴らのそれは本物であり、これならば林間学校での全てにも耐えられるだろう……だからこそ、俺からの試練だ。
刻印を起動、またしてもカブラギは気づくが疲労によってすぐには動けない。
その隙に俺は奴らにとっておきの障害を作り上げる。
「――立て!!」
「「「……え?」」」
カブラギはすぐに場の空気を感じ取る。
瞬間、もぞもぞと地面が動き――巨人が現れる。
大地の巨人であり、人間のような見た目だが。
手足が異様に長く、顔は不気味なものになっている。
それが合計で十体であり、カブラギはすぐに攻撃を開始した。
魔力を込めたナックルの聖刃を振りかざし――巨人の顔にめり込む。
「――な!?」
が、完全には破壊できていない――巨人はカブラギを掴む。
そのまま力任せに地面に叩きつけようとした。
カブラギはその前に、
巨人の手を破壊し何とか逃れる。
ごろごろと地面を転がっていき――悲鳴が響く。
「きゃああああ!!」
「た、助けてくれぇぇ!!!」
「――クソッ!!」
カブラギはすぐに駆けだす。
見れば、女子生徒を背負っている男子生徒が追われていた。
武器である剣も振るえず逃げる事しか出来ない。
巨人に回り込まれてこれまでのところでカブラギが助けに入る。
「邪魔だッ!!!」
魔力による衝撃波。
それによって巨人たちは体勢を崩される。
その隙を見て、カブラギは全員に逃げるように指示を出した。
全員がそれを一瞬で受け入れて逃走を図る――でも、それは出来ねぇだろうよ。
俺の操作によって、出口に繋がる唯一の道は崩落する。
退路を断たれて、絶望している時――天井の一部が崩れた。
「……っ! 光! 出口だよ!!」
「やった! これでようやく!!」
全員が喜び出す――“それ、隙だぜ?”
「うわぁぁ!!!?」
「……っ!」
男子生徒の悲鳴が響き渡る。
見れば、女子生徒を背負っていた別の生徒が拘束されていた。
ゆっくりと、二人の生徒を自らの体に入れる。
生徒二人は必死に叫ぶが――声は途切れた。
カブラギはすぐに動き出す。
二人を助けようとして――が、阻まれる。
「どけェェェ!!!」
魔力を込めた一撃が巨人の胴体に入る――が、倒れない。
俺の魔力を流し込んで強化された巨人だ。
生徒たちを拘束した事によって込められた術式が起動している。
カブラギ一人では勝てないレベルであり……さぁどうするよ?
「……っ!!」
カブラギは巨人から距離を取る。
その呼吸は乱れており、これまでの道中の事もあり魔力はかなり消耗したように見える。
今こいつらのリーダーはカブラギだ。
奴が逃げろと指示したから逃げようとした奴らも。
奴が戦っているのを見て逃走をやめた。
拘束された生徒は二名。
逃げようとしても、穴を登っている間に敵は群がるだろう。
もしも、逃走を選択するのであれば確実に――“囮がいる”。
奴らを動かせるのはこいつだけだ。
二人の仲間を見捨てた上に、囮となる生徒を選んで他の仲間を助けるか。
二人の仲間を救出する為に、他の仲間たちを危険に晒すか――さぁ、どうするよ。
カブラギは速さを増した巨人の攻撃を躱していく。
他の奴らも攻撃を仕掛けているが。
まるで歯が立っておらず。そもそもが、統率もクソも無くバラバラだ。
この状況をどうにか出来るのは司令塔のみ。
今この瞬間に、お前という存在の資質が試されている。
お前がキーであり、この先でこいつらが成長できるかは――全て、お前次第なんだ。
「……」
「――ッ!!」
必死の形相で敵の攻撃を躱している。
が、視線は常に動いていて……お前なら、出来るだろうよ。
誰よりも能力が高く。
誰よりも戦いを知ってるんだ。
それが例え、メッキのようなものだろうと。
此処ではお前がリーダーだ。
俺はお前を低く見ていない。
今までの事を見ても、お前を一番高く買っている。
だからこそ、今この瞬間だけは――全面的にお前を信じる。
カブラギが敵の攻撃を避けながら。
静かに呼吸を整えていた。
そうして、静かに目を閉じて――カッと見開く。
カブラギは指示を送ろうとしていた。
俺はそんな奴をただ黙ってジッと見つめていた。