【完結】祓魔師《エクソシスト》は休みたい   作:オタリオン

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058:祓魔師は一人じゃない(side:カブラギ)

 弱い奴は嫌いだ――役に立たないから。

 

 守られるばかりで戦おうとしない。

 戦ったかと思えば、此方の負担を増やすだけだ。

 その癖、絆やら友情やらを説いてきて――反吐が出る。

 

《お前は完璧な存在なんだ。お前は誰よりも優れていて、誰よりも可能性に満ちている》

 

 父さんは何時も僕にそう言っていた。

 笑っていて、僕を見ている筈なのに――その瞳に僕は映っていなかった。

 

 毎日毎日、結果だけを求めて僕は生きてきた。

 優秀であれば、父さんは僕を褒めてくれる。

 完璧に近づければ、父さんは喜んでくれる。

 ミスをすれば――父さんは僕を見てくれない。

 

 失敗してはいけない。

 優秀じゃなければ、僕に存在価値は無い。

 だからこそ、弱い存在なんて必要ない。

 寧ろ、そんな存在たちといるだけで僕の質は下がっていくだけだ……本気でそう思っていた。

 

 気まぐれだった。

 ふと目にした本で知っただけだ。

 普通の人間は学校に行き、教師から色々な事を学ぶと。

 僕は生まれてから一度も学校に行ったことが無い。

 だからこそ、学校というものに興味があった。

 

 普通というものへの憧れ。

 学校へ行き、休日には家族で遊びに出かける事。

 映画を見たり、遊園地に行ったり。

 本で知る世界に、僕は知らず知らずのうちに憧れを抱いていた。

 

 本来であれば、父さんに対して我が儘なんて言いたくはない。

 だけど、ある実験にて僕は想定を上回る結果を残した。

 それによって、父さんは僕に対して何かを与えたいと言ってくれた。

 だから、僕は迷いながらも学校に行ってみたいと言った。

 

 父さんは少し考えていた。

 でも、何かメリットがあったからこそ父さんは僕の望みを叶えてくれた。

 普通の学校では無く、対魔修道院であったものの願いは叶った。

 

 最初は期待していた。

 どんな奴らが祓魔師になる為に集まったのかと……でも、期待外れだった。

 

 どいつもこいつも学ぶ意思が無い。

 それどころか、何故に祓魔師になりたいのかもあやふやだった。

 既に在籍している奴らも遥かに劣るレベルで。

 僕は学校に足を踏み入れた瞬間に、もうどうでも良くなった。

 だからこそ、退屈を埋める為に唯一の趣味であるゲームに没頭しようとして……でも、たった一人だけ違った。

 

 フーゴ・ベッカーという新任の教師。

 冴えない姿であるものの、一目見た瞬間に圧倒的な強者であると分かった。

 どんなに見た目を落ちぶれさせて気配を殺そうとも。

 そいつの立ち振る舞いだけで大体は分かる……でも、底だけはまるで見えなかった。

 

 奴は最初こそ、生徒たちの蛮行を許していた。

 が、次の日から人が変わったように生徒たちに激しい特訓を課していた。

 それでも、僕にとっては生ぬるいもので。

 欠伸が出そうなのを我慢しながら、ずっとゲームをしていた。

 

 今思えば、授業中にゲームをする事で。

 あの男の興味を引き付けたかったのかもしれない。

 アイツは誰よりも優秀で、誰よりも優れた力を持っていた。

 この僕でも底が見えない程であり、間違いなくあの修道院の中では最強だった……が、理解できなかった。

 

 アイツは悪態を吐くし、暴力だって平気で振るう。

 が、一度たりとも生徒たちに対して益にならない事をした事は無い。

 吐くほどの訓練も、奴が隠れて監視しているのも。

 全ては生徒たちにとっての益となっていた。

 

 理解できない。

 自分よりも遥かに劣る存在を、アイツは自らの意志で守っている。

 それだけでなく、自らの研鑽よりも優先して生徒たちに指導をしていた。

 何か狙いがあるのか。それとも、何か報酬を貰っているのか……どれも違う。

 

 アイツにとってのメリット何てこれっぽっちもない。

 こんな所で指導をするよりも、祓魔師として活動し悪魔を殺した方が得になる。

 そんな事は誰でも分かると言うのにだ……僕は苛立ちを覚えながらも、奴への興味を更に高めた。

 

 父さんへの定期連絡でそれとなく話せば、父さんも興味が沸いたようですぐに調べていた。

 後日、それについて尋ねれば――“何も分からなかった”。

 

 対魔局のデータベースに、フーゴ・ベッカーという存在は記録されていた。

 が、討伐記録を筆頭にあらゆる活動記録が何も無かった。

 ただロイファーであり、祓魔師である事だけであり。

 それ以外は一切が不明な存在だったらしい。

 

 奴への不信感はあった。

 が、それ以上に奴が一体何者なのかが気になった――が、すぐに答えは分かった。

 

 ニンドゥでの一件。

 精確には、ニンドゥに着くまでの道中。

 得体の知れない女たちがぞろぞろと集まっていた。

 僕はそんな女たちの事を知っていた。

 

 父さんから見せられた資料。

 対魔局でもトップシークレットのケーニヒたちの情報。

 それを知っていたからこそ、すぐについてきた女と乗り込んできた女も分かった。

 

 “夢幻躯動”と“音無”……そして、あのアフロは“暴風”だ。

 

 三人がケーニヒで、そんな存在たちがあの男を慕っている。

 もう答えを示しているようなものであり……間違いなく奴は――モナートであるランベルト・ヘルダーだった。

 

 嬉しかった。

 世界で最も優れた男。

 いや、世界で最も完璧な存在である男だ。

 それがすぐ近くにいたんだ。

 

 

 嬉しくて、嬉しくて――“とても腹が立った”。

 

 

 僕が唯一認めていた存在が。

 対魔修道院で教鞭を振るい。

 ガキにいいように扱われたり、雑務のようなものまでして――がっかりした。

 

 最強である存在が、替えの効く仕事をさせられている。

 あの男が活躍できる場は此処ではない。

 それを理解していない上層部に腹が立ち、それを受け入れている奴が憎々しかった。

 

 故に、僕はもう自らを偽るのを止めてアイツを分からせようとした。

 ただの生徒と油断している奴であれば、一発くらいであれば……が、僕は負けた。

 

 驕りがあった。

 慢心していた。

 それでも、一発くらいであれば……井の中の蛙だ。

 

 あの男へのいら立ちもあったが。

 何よりも、アイツらの成長が僕を焦らせたのかもしれない。

 

 最初はあんなにも不真面目だった奴らが。

 数か月の間に顔つきをかえていって。

 今では、あんな奴を慕い、必死になって学んでいる。

 僕だけが浮いていて、僕だけが何も変わっていなくて……でも、今は違う。

 

 あの男に載せられたというのであればそれまでだが。

 僕は確かに、クラスの奴らの事を何も知らなかった。

 弱くて役に立たない存在という認識で、今もそれは変わっていないかもしれない。

 が、話をすれば奴らの人となりは分かって来る。

 

 こいつはこういう事が得意で、こいつはこういう事が苦手で……これだったんだ。

 

 僕は何時も一人で、完璧な存在を演じていた。

 だからこそ、仲間という概念を知らなかった。

 一人で全てが出来るのならそれでいい。

 でも、一人で全てをする事には限界がある。

 

 二十四時間三百六十五日。

 永遠に動く事が出来る存在は、あのランベルト・ヘルダー以外に存在しないだろう。

 僕はヘルダーじゃない。だからこそ、休む必要もある。

 破綻していたんだ。一人で全てを熟すという事は――“誰も出来やしないんだ”。

 

 『俺が言いてぇのは、食わず嫌いで見ただけの事で全てを判断するのは良くねぇって事だ。全知全能の神じゃあるまいし、ちょっと見ただけで全部知った気で語るのは相当な間抜けか、ピュアなユニコーン君ちゃんくらいだろ……そのアホ共にだって、実際に話しかけた訳じゃねぇんだろ? 何が好きで何が嫌いかも知らねぇ。見ただけで判断するのは面食いの姉ちゃんと同じだろうよ。先ずは話す! そして、遊ぶ。そっからはぁ……まぁ考えろ!』

 

 全知全能の神じゃない。

 一度見ただけで全てが分かる筈が無い――考えろ、か。

 

 全てを知った気でした。

 父さんが話す事全てが正しいと思っていた。

 仲間はいらない、お前は完璧な存在だから――違う。

 

 僕は完璧なんかじゃない。

 僕だって伝説の男に比べれば足元にも及ばないほどに弱い。

 が、今この瞬間だけは僕が最強であり――“僕がこいつらの頭脳”だ。

 

 敵の攻撃を回避。

 そのまま、周りの状況を分析し――指示を送る。

 

「アデリナッ!! お前たち魔力を操れる奴らは距離を取って――僕の合図と同時に天井に集中攻撃をしろッ!!」

「……っ!! わ、分かった!! 皆、やるよ!!」

「「「は、はい!!」」」

 

 アデリナたちは一気に壁の方へと走っていく。

 天井への攻撃は崩落を招く恐れがある。

 それはアイツらも理解しているのに、僕の指示に従ってくれた。

 僕はそのまま土人形の攻撃を回避し、そのまま腕を伝って駆け上がり。

 そいつの頭にしがみつく。

 

「ヤンッ!! お前たちはアデリナたちを守れッ!! 天井が崩落したら――分かるな!?」

「……っ!! お、おぅ!! 任せろ!!」

 

 盾を持った奴らは敵の攻撃を受け流しつつ。

 急いでアデリナの部隊に加わる。

 土人形たちがアデリナたちの方に行こうとするが。

 僕がこれ見よがしに体から魔力を発すれば、奴らは僕の方に視線を向けて来た……やっぱりだ。

 

 魔力に反応して攻撃をしているようだ。

 強い魔力に引かれる性質であり。

 だからこそ、二人が纏まっていればそちらを優先して攻撃していた。

 人数以上の魔力を発すれば、おのずとヘイトの調整も出来る。

 後は近くのいる敵を狙う性質もあり、エゴンとエルナの周りの敵は此方には来ない。

 

 ――あまり長時間は魔力を出し続けられない。

 

「……っ!」

 

 土人形が激しく体を揺らして攻撃を仕掛けて来る。

 揺すって、揺すって。体を激しく揺らす。

 僕はそれに耐えて――今だッ!!

 

 手を此方に向けて来た。

 僕の体を掴もうとした。

 それを察知し、手から力を抜いて下に落ちる。

 そのまま僕は、着ていたパーカーを力任せに破り捨てる。

 

 瞬間、僕の服についていた汗が飛び散り。

 僕の拳を強く濡らした。

 僕はびしゃびしゃの布を拳に纏わせ――そのまま敵の足に攻撃を喰らわせた。

 

 連続しての殴打であり、拳が敵の足にめり込んでいく。

 何発も僕の攻撃を喰らった事で、敵の足は濡れていき――体勢が崩れる。

 

「……っ!」

「エルナ!! エゴン!! 服についた汗を使え!! こいつらは土で体を構成している!! 足を濡らしてやれば、体勢が崩れて動きが一時的に鈍くなる!!」

「そうか! その手が――エルナさうわぁぁ!!?」

「エゴン! さっさと脱げ!」

 

 エルナは敵の攻撃をバックステップで回避。

 そのまま上着を脱いで剣に纏わせていた。

 エゴンは思わず両手で顔を覆い、そのまま土人形の拳で弾き飛ばされる。

 何度もバウンドしていてごろごろと転がり壁に激突し――煙の中からエゴンが飛び出す。

 

 頭から出血しており、だらだらと顔に血が滴り落ちている。

 が、上着は脱がれており、ガントレッドに纏わせていた。

 エゴンは敵の攻撃をスライディングで回避。

 そのまま、背後に回ってから拳を足に向かって――叩きつけた。

 

「――効いた!」

 

 エゴンが拳を引き抜けば、汗が染み込んだ土人形の足は修復されず。

 そのまま片足を失って這いつくばった。

 僕たちは互いに視線を交わして頷き。

 そのまま残りの土人形たちの機動力を奪う為に足へと重点的に攻撃を始めた。

 

 時間との勝負であり。

 僕は全力で地面を滑るように移動する。

 奴らの近くに飛べば、奴らは力任せに拳を叩きつけて来る。

 僕はそれをギリギリで避けて、転がるように後ろに回り――拳を放つ。

 

 そのまま、土人形の足を破壊し。

 流れるように別の敵へと向かう。

 エルナとエゴンも攻撃し、次々と奴らの足を潰して――最後だッ!!

 

 最後の一体。

 そいつの中には二人の仲間がいる。

 奴らは腕を大きく鞭のように振るってくる。

 それを飛んで回避し、そのまま敵の頭を掴んでねじるように動く。

 ぐるりと頭部の部分が回転し、土人形は両手で僕への叩きつけを狙う。

 それを飛んで回避し、そのままふらふらと動く馬鹿の背後に回って――拳を叩きつける。

 

 最後の一体だけは両足を潰す。

 そうすれば、敵は体勢を崩して前のめりに倒れた。

 僕は一気に土人形の背中に乗り、そのまま手で胴体を貫く。

 

「……!」

 

 感触がした。

 僕はそれを掴んで一気に引っ張る。

 すると、とらわれていた仲間たちが出て来た。

 

「「げほ!! げほ!!」」

「行くぞ!」

「「え!?」」

 

 僕は奴らを掴んで背中に担ぐ。

 そうして、二人に指示を出し仲間たちの元へと急ぐ。

 見れば、アデリナたちは残りの魔力で練り上げて。

 空中に浮遊させていた。

 汗を滝のように流しており、そろそろ集中力も限界だろう。

 

「――撃てッ!!」

「「「――ッ!」」」

 

 僕の合図と共に、仲間たちは天井に向かって全力で攻撃を開始した。

 無数の魔力の弾が天井に当たり――崩落が始まる。

 

 僕たちは盾の内側に回る。

 なるべく身を寄せ合うようにし、僕はヤンたちの盾に触れる。

 

「今から僕の残りの魔力を盾に注ぐッ!! お前たちは天井から落ちる瓦礫に合わせて反射を使えッ!!」

「それは!?」

「やるしかねぇッ!! 死ぬ気で合わすぞッ!!」

「「お、おぅ!!」」

 

 盾に勢いよく魔力を流していく。

 すると、盾が青い光を発していた。

 眩暈を感じ、意識が飛びそうになる。

 僕はそれに必死に耐えながら魔力を流し続けて――大きな瓦礫が降って来る。

 

「まだだ、まだだ、まだだ――今だッ!!」

「「「オオオォォォォォ――ッ!!!!!」」」

 

 盾持ちたちが雄叫びを上げる。

 そうして、盾に瓦礫が触れた瞬間に――魔力を解き放つ。

 

 瞬間、青い光が強い激しくスパークした様に感じた。

 ヤン達は全力で歯を食いしばり、体全体に力を込めている。

 僕は魔力を注いで何も出来ない――が、仲間たちは動いた。

 

 全員がヤン達の盾に手をあてる。

 そうして、下から全力で支えていた。

 誰しもが僕の指示なしに動いていて――気づけば全員が叫んでいた。

 

 

 

「イケェェェェ――ッ!!!!!!」

「「「アアアアァァァァァ――ッ!!!!!!!」」」

 

 

 

 皆の魔力が強く放たれ――瓦礫が勢いよく吹き飛ぶ。

 

 

 

 それはまるで、打ち上げ花火のように飛んでいく。

 パラパラと砂が舞っていて、薄暗かった洞窟には――光が満ちていた。

 

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……い、生き、て、る?」

「はぁ、はぁ、はぁ、だ、だな。へへ」

 

 敵となっていたものも無くなって、天井は完全に消えて。

 周りには瓦礫の山が出来ている。

 僕たちは力を合わせて、瓦礫の山をよじ登っていく。

 そうして、誰しもが互いにかばい合いながら歩いていった。

 

 歩いて、歩いて、歩いて……その場にへたりこむ。

 

 森の中で、洞窟から抜け出しただけだ。

 魔物たちの鳴き声は聞こえていて、空には怪しげな鳥も飛んでいる。

 死に体の僕たちを狙っているんだろうが……死ぬほど疲れた。

 

 誰しもが背中を預け合い。

 ただただ、疲れを取る為だけに息を吐く。

 

 ゆっくり、ゆっくりと呼吸を繰り返し……笑い声が聞こえた。

 

 くすりと誰かが笑い。

 それにつられて他の奴らも笑いだす。

 気づけば僕も笑っていて……手を叩く音が響いた。

 

 見れば、先生が目の前に立っている。

 奴は笑みを浮かべる事も無く、機械的に手を叩いているだけだ……ムカつくな。

 

 近くで見ていたのはバレバレだ。

 その姿を捕まえる事は出来なかったけど。

 絶対に近くで見ていたんだろう。

 

 落とし穴のある場所に僕たちを誘い込み。

 まんまと罠に嵌めて、意地の悪い事をさせて。

 その上、最後はもしも間違っていれば死人が出ていただろう。

 確実に選択を迫られた場面であり……“全部、僕の為”だったって言うのかよ。

 

 

 

『ははは! 普通になれるように頑張れよー! きっかけくれぇなら作ってやるからさぁ!』

「……本当に……良い、性格、しているな……“先生”」

 

 

 

 僕は薄く笑う。

 すると、奴も小さく笑っていた。

 

《えぇ良く言われますよ……さて、今回の課題は――皆さん、合格です》

「「「……っ! はぁぁぁぁ」」」

 

 全員が安堵の息を吐く。

 先生はすぐに怪我をした生徒たちの治療を始めた。

 そうして、あっという間に全員の怪我を治し。

 すくりと立ち上がる。

 

《祓魔師として活動すれば、おのずとチームとして動く事になります。一人で行動する事が出来るようになるには、相当な経験と知識……後は才能もいるでしょう。貴方たちはその全てにおいて足りていません。カブラギ君、貴方も例外ではありません》

「……分かってるよ。そんな事……クソ」

《だったら良いでしょう……チームとは互いに信頼し背中を預けるものです。誰かの失敗が誰かにとっての足かせになる事は間違いありません。ですが、逆もそうです。誰かのアイデアや行動が、仲間の命を救う事もあります。チームとして活動するのであれば、互いを理解し、互いに得意な事で役立ちなさい。貴方にとって苦手な事を、貴方の仲間たちが補ってくれる……それが“チーム”であり“仲間”です》

 

 奴は教師としてまっとうな事を言う。

 他の奴らは感銘を受けたような顔で聞いているが。

 この男の正体に気づいている僕は……少しおかしく感じた。

 

 こいつは確実にあのランベルト・ヘルダーだ。

 世界最強の男であり、人類にとっての希望の象徴だ。

 そんな存在が、何故にこうも下の人間たちの事を理解しているのか。

 最強とは孤独なものであり、誰からも理解されないものだと父さんは言っていた。

 でも、こいつはとても人間らしく、こうして多くの人間に慕われている……知りたい。

 

 こいつの強さの秘訣を。

 こいつの最強である理由を。

 きっとこいつの下で学べば、その全てを知る事が出来る……でも、まぁ。

 

「それにしても、やっぱすげぇな! カブラギは!」

「だな! まさか、一瞬で俺たちがどうすべきかを思いつくなんて……よ! 学級院長!」

「カブラギさんなら安心だねぇ! それにしても……ふふ、可愛い顔だなぁ」

「……!?」

 

 僕はアデリナの言葉でハッとする。

 咄嗟にパーカーを破り捨てた事によって、今は素顔を晒している。

 すると、クラスメイト達が僕の顔をジッと見つめて来る。

 

「肩まで伸ばした黒髪はまるでカラスの羽のようにしっとりと。ぱっちりとしたお目目はエメラルドのように綺麗で、ぷっくりとした唇はいろっぽく……好きだ」

「――ッ!! 解説するなッ!! 死ねッ!!!」

 

 レンの馬鹿が真面目な顔で呟く。

 僕は顔に熱を感じながら、レンの顔面にパンチした。

 奴はそれを真面に受けて、鼻から血を流しながらも僕を見続ける……うぅ!!

 

「……お前のせいだ!」

《ははは、なにを言っているのやら。私には分かりませんねぇ……さ、皆さん。とっととキャンプ地に戻りますよぉ》

「ま、待て!! こ、このぉ!!」

 

 僕は立ち上がる。

 しかし、傷は治っても体力は戻っていない。

 ふらふらと動きながら奴を追えば、アデリナが手を貸してくれた。

 僕は恥ずかしさを覚えながらも礼だけは伝える。

 すると、アデリナはくすりと笑い。小声で話しかけて来た。

 

「あのね。ちょっと気になったんだけど……先生の事……どう思う?」

「あ? どうって……何がだよ」

「……ふーん。そっか……いや、何でもないよ! さ、行こう行こう!」

「お、おい。そんなに引っ張るなよ」

 

 僕はアデリナに手を引かれて歩く。

 奴は何故か機嫌が良さそうで。

 僕は首を傾げながら、クラスメイト達と並んで歩いて前を歩く先生を追い掛けた。

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