【完結】祓魔師《エクソシスト》は休みたい   作:オタリオン

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068:祓魔師に降りかかる災い(side:ランベルト→???)

 煙草を手に持ち、魔術で火を灯す。

 たっぷりと煙を吸い込んで、時間を掛けて吐いていく。

 それを暫く繰り返していれば、背後に気配を感じた。

 ゆっくりと振り返れば、祓魔師たちが敬礼をしていた。

 楽にするように手で伝えれば、代表して一人の老兵が前に立つ。

 

「ヘルダー様、引継ぎに参りました。ダーメが一人ジェイコブ・クロフォード。そして、以下六名のシュプリンガーにございます……宿を手配しておりますので。後の事は我々に任せて、どうぞごゆるりと」

「……」

 

 ジョイコブと名乗ったダーメ。

 彼はゆっくりと紙を渡してきた。

 それを受け取り開けば、宿の場所と名前が書かれていた。

 

「……」 

 

 俺はこくりと頷く。

 先頭にて立つダーメの祓魔師の老人。

 彼は部下を引き連れて、“元々は山があった荒れ地”に向かって歩き出す。

 

 悪魔が群れを成し、この山に潜伏していると報告を受けて。

 すぐに俺が派遣されてやって来てみれば。

 既に俺が来る事を分かっていたのか。

 悪魔たちは間髪入れずに俺に対して全力での魔術による攻撃を行った。

 俺はそれらの攻撃を全て反射し、倍にして奴らへと返してやった。

 その結果、山は完全に消し飛び、後に残ったものは何も無い……いや、理由はあるからな?

 

 不穏な気配を感じた。

 何とも形容しがたいが、俺の勘が危険を告げていたのだ。

 だからこそ、時間を掛ける事は断念し。

 そのまま全力で奴らを消し飛ばす選択をした……まぁその結果、何も残らなかったけども。

 

 引継ぎと言っていたが。

 支援部隊でも手に余る惨状であるからこそ。

 態々、ダーメまでやって来たのだろう。

 彼にとっては良い迷惑であり、支援部隊の指揮やこの土地の管理者への連絡などで今から大変だとは思う。

 何よりも、悪魔の群れが潜伏していたのだから。

 まだ何か残っている場合もあるが……まぁそちらに関しては安心して欲しい。

 

 念には念を入れてサーチした。

 その結果、悪魔の気配は勿論、魔物もいないと分かった。

 せめてもの罪滅ぼしであり、安全に作業をしてくれと願う。

 

 ダーメの爺さんは文句を言ってくるかとも思ったが。

 ニコニコと笑うだけで何も言わない。

 あまり話した事の無い人間であるが、俺に対する敬愛の情を感じる。

 何処かで見た気もするが、確実に話していないとは思う。

 

 ……後で菓子でも酒でも買って送っておこう。カーラなら彼らの所属も分かるだろうしな。

 

 そんな事を考えつつ。

 俺は小さくため息を吐き、そのまま帰路についていった。

 

 

 ◇

 

 川のせせらぎが耳心地が良く。

 窓から見える景色は自然と空の月が美しく……正に絶景だ。

 

 ひのきの香りに包まれて。

 体をほかほかさせながら、先ほどまで静かに酒を飲み直していた。

 今はせっせと動いて寝る準備をしている。

 

「……♪」

 

 天然温泉に浸かってきた。

 天然石を積み上げた自然との調和をイメージした温泉で。

 肩こり腰痛に効果抜群らしく、疲労も一気に吹き飛んだ気がした。

 風呂上りには腕のいいマッサージ師が待機していて。

 その手さばきに癒されれば、食事の席へと向かった。

 そこには、豪華でありながらも洗練された美しさを放つ料理が並べられていた。

 伊勢海老にウニに、タイを一匹丸ごと使った炊き込みご飯も絶品で。

 日之国の上等な米を使った酒も透き通るような味わいで……最高だったなぁ。

 

 此処は秘境の地に立つ旅館だ。

 それも、日之国の人間が経営している旅館であり。

 ライツでは見かけないような建物の作りをしていた。

 街からは離れているものの、連休のシーズンに入れば予約を取る事は困難らしい。

 それほどまでに歴史と人気のある旅館であり、俺も癒されまくっていた。

 

 何でも、今日は俺の貸し切りらしい。

 恐らくは、俺に気を遣って無理矢理に貸し切りにしたんだろう。

 もしも、今日他にも客が来る予定だったとしたらそれはすげぇ嫌だ。

 何かの記念日であったり、そいつにとっての大切な一日になる予定だったかもしれねぇ。

 そう考えるだけで胃がムカムカするからこそ。

 普段から気を遣うなとあれほど言い聞かせてやったんだ……ノイズ塗れの声でな。

 

「……」

 

 まぁ今更考えても仕方ねぇ。

 俺はちゃんと忠告していたからな。

 やったのは奴らであり、クレームが入っても俺は関係ねぇ……まぁいいさ。

 

 やってしまったのなら仕方ない。

 俺は今日というを存分に満喫するだけだ。

 腹は満たされて、疲れも癒された。

 後はふかふかの布団の中で眠るだけだ。

 

 俺はニコニコと笑いながら、日之国の寝る用の衣装に身を包み。

 そのまま電気を消して、布団の中に潜った……あぁ、良いなぁ。

 

 とてもふかふかだ。

 そして、川沿いに経っているからか空気も澄んでいた。

 気温も心地が良いくらいで、川の音も微かに聞こえるのがまた風情がある。

 

 これなら、俺も安心して熟睡できるというもので。

 きっと幸せな夢が見られると考えながら、俺は意識を沈めていく。

 とても心地が良く、意識はまるで水の中に溶けていくようだ。

 そうして、そのまま、俺は、眠りに――――…………

 

 

 

 …………――――“微かに、殺気を感じた”。

 

 一瞬であり、気配は完全に断たれていた。

 気づくのに三秒ほど要した。

 

 戦闘装束に一瞬で着替える。

 意識を覚醒した瞬間に、周囲一帯をサーチ。

 そうして、範囲内にいる人間を認識し結界を展開――“その間、0.5秒ほど”。

 

 瞼を一気に開く。

 が、既に視界が白い光に包まれて――――…………

 

 

 〇

 

 

「――星砕き」

 

 “裂核”――アバンドゥスの能力が発動する。

 

 瞬間、奴が眠る場所を中心に凄まじい爆発が発生する。

 夜であるにも関わらず、視界が全て光で覆われていた。

 凄まじい光量と、常人であれば骨も残さず消滅するほどの熱量。

 大地が溶けて、存在するものが消えていく。

 それでも爆発は収まる事無く、その場で永遠に繰り返される。

 

 星砕き。

 奴の意志が無ければ、止まる事の無い無限の爆発。

 回避は不能であり、捕らえられれば最期。

 力尽きるまで苦しみから逃れる事は出来ない。

 その威力は一発ごとに増加し、最大まで高めれば星をも砕くほどにまで至る。

 

 故に――“星砕き”。

 

 アバンドゥスは指を動かし。

 その範囲を縮小し、爆発の威力を更に底上げした。

 爆発により発生する白き輝きが強さを増し、その内部で蠢く存在たちを終わらせようとする。

 

 我々はそんな奴のサポートとして奴の爆発を結界で覆う。

 それにより、爆発の衝撃はあの場所で留まり。

 何倍にも膨れ上がり、爆発の速度も跳ね上がっていた。

 

 奴の能力は強い。単純な破壊力で言えば、間違いなくトップであろう。

 我々であっても喰らえば無事では済まないと知っている。

 他ならぬこいつ自身も己の能力に対して誇りと自信を持っている――“故に、気を抜いていない”。

 

「……っ」

 

 端正な顔には、眉間に皺が寄り。

 顔には汗が浮かび上がっていた。

 血のように真っ赤な瞳はジッと爆心地を見つめている。

 逆立った赤い髪は汗に濡れていた。

 

 “生きている”――それも一つでは無く。“何十人も”が。

 

 奴の力だ。

 眠りについた筈だった。

 その隙をついての攻撃だ。

 それでも奴はすぐに対応し、自分よりも遥かに劣る存在たちを結界で守った。

 その行動故に、奴が回避できなかたっとも捉えられる。

 

 常軌を逸している。

 真面な人間の思考ではない。

 絶対的な強さを持ちながら、捨てるべき存在を拾いながら、己すらも生かしていた。

 

「……」

 

 私はたらりと汗を流す。

 そうして、誰しもが待った。

 終わりを――いや、“始まり”を。

 

 

 

 星砕きの内部で変化が起き――“それが、終わらされた”。

 

 

 

「「「――ッ!!!!」」」

「……」

 

 

 

 突如、爆発は掻き消された。

 荒れ狂う風が吹き荒れて、我々の結界を力だけで破壊した。

 砕けた結界の内部、爆発の残り火がはらはらと舞う中で。

 悠然とコートをたなびかせながら――奴は存在した。

 

 能力が強制的に解除された。

 辺りに広がったすぐに光は消えてなくなる。

 そうして、“それ”が静かに宙を舞いながら――此方を捉えた。

 

 

 

 黒衣に身を包む人間。

 黒き髪に、凍てつくような黒い瞳。

 白い光の中から現れし――“黒衣の天使”だ。

 

 

 

「――クゥ!!」

「「「――ッ!!!」」」

 

 奴が我々を敵だと視認した瞬間――中心にて立つ化け物は我々が底冷えするほどの殺気を放つ。

 

 空気が激しく振動し、大地が大きく揺れていた。

 地は裂け、山は割れ、鳥たちは一斉に羽ばたく。

 耳元で死神の叫びが聞こえているような錯覚を覚える。

 黒翼に至りし、我々は一瞬でこの身に――恐怖を感じさせられた。

 

 奴の怒りが、世界を動かす。

 世界は泣き叫び、天が雄叫びをあげていた。

 まるで、奴が世界の中心であるといわんばかりだ。

 

 我々は化け物を視界に入れながら。

 誰に指図される訳でも無く一斉に動き出す。

 

 全ての魔力を解放し、術を発動させる。

 奴の手には銃が二つ握られている。

 そんな奴に対して、空を覆うほどの火炎を放つ。

 炎の空が舞い降りて、瞬く間に奴の体を包み込む。

 私は更にその炎の威力を底上げし、蒼き炎へと変貌させた。

 

「まだだァ――ッ!!!!」

 

 炎を指で動かす。

 それらは魔術の風を浴びて、激しくその場で回転する。

 蒼き炎は色味を増して、魔力のそれに近づき。

 炎と魔力の性質を極限まで高める事によって、奴の魂そのものに干渉する。

 その熱は周囲に広がり、川は一気に蒸発し大地はカラカラに乾燥して砂へと変貌する。

 太陽の如き熱量であり、その中心に囚われる奴を決して逃さない。

 

 他の悪魔は大地を操る。

 カラカラに乾いた大地の砂が大きく巻き上がる。

 それは一気に炎へと飲み込まれて、砂は液体状に溶けていく。

 それらが中心にて藻掻くヘルダーへと纏わりつき。

 私は一気に炎を解除した。

 

 瞬間、控えていた別の悪魔が術を発動した。

 それは都市をも飲み込む水流を上空に発生させた。

 奴は叫びながらそれを操り、ヘルダーへと勢いよく流していった。

 水は一気に蒸発し、辺りに水蒸気が広がっていく。

 液体化した砂が急速に冷やされて、ヘルダーに纏わりついていたそれらは固体化し――魔力によって強化された強固な塊のガラスを形成する。

 

「畳みかけるぞッ!!!」

 

 我々はそのまま更に術を発動する。

 四方八方に散り、掌を奴へと向けた。

 そうして、そこから放たれたのは凄まじい熱線だった。

 全てを焼き尽くす光の線であり、炎の魔術による高度な応用技だ。

 我々の無尽蔵にも思える魔力を吸い上げて、強化されたそれが一気に奴へと迫り――吸収される。

 

 光をガラスは吸収し。

 内部にてその光が溜まっていく。

 逃げ場はない、放出もさせない。

 我らの魔力によってそれを食い止め、内部にて無限に増幅させる。

 今、奴は太陽の中に放り込まれたようなものだ。

 無限に等しい光であり、目を潰すほどのそれが内部で暴れ狂う。

 

 常人どころか、力のある悪魔であろうとも生きてはいられない。

 確実に死ぬ攻撃であり、奴でなければ過剰ともいえる――が、奴は死んでいない。

 

 奴の結界によって守られている人間ども。

 その結界が未だに解けていない。

 それはつまり、奴が生きているということで――それならばッ!!!

 

 

「――“移ろうモノ(ゾーン)”――“収めるモノ(カット)”」

 

 

 私は能力を発動する。

 指を向けて焦点を定めて――“奴の空間だけを切り取る”。

 

 写真のように奴を中心とした空間が変化する。

 巨大な紙に書かれた絵であり、それを指で操り丸めていく。

 そうして、限界まで圧縮していった。

 その切り取られた空間を私は指を上に向けて投げる。

 すると、魔物を使役する――“天秤”のレンダァトが動く。

 

 奴が袋から一つのマメのようなものを出す。

 それを指で弾き、地面に植え付けて――

 

 

「――仕事の時間だ(ハリー・ハリー)ッ!」

 

 

 奴がベルを鳴らせば、それは殻を破り姿を現す。

 

 地面を大きく突き破り巨大な魔物が出現した。

 山を越えるほどの巨体に成長し、紫色の皮膚をして体中に赤いいぼを持つ巨大なガマだ。

 目には飼い主への忠誠心を表す紋章が刻まれている。

 それは大きく口を開けて、私が切り取った空間を飲み込む。

 そうして、そのまま胃の中に入れれば。

 ガマは口からげっぷのようなものを吐く。

 それが空気に触れただけで、遥か遠くを飛ぶ鳥でさえも死に絶えて落下する。

 

 “消失の大穴(ランダブゥスゥト)”――そう、呼ばれる地獄でも使役する事が難しい個体だ。

 

 全てを喰らい、全てを一瞬で消し去るもの。

 大穴とはよく言ったものであり、アレに喰われれば生存は不可能だ。

 

「……っ……」

「……っ」

 

 我々は呼吸を整える。

 気が付けば、かなり体に力を入れていたようだった。

 全員が静かに息を吐く。

 

 これで、どうだ。

 これで流石の奴も、生き返るまでには――――瞬間、“視界が大きくズレた”。

 

「――ッ!!」

「化け物めッ!!!」

 

 空間を引き裂くほどの斬撃。

 殺気を消してから放たれた必殺の一撃。

 一瞬にして体を両断された我々は血を断面から噴き出しながら。

 舌を鳴らし、何とか体を再生させる。

 

「――ッ――…………」

 

 恐らくは、奴の魔術による攻撃だ。

 ガマの腹は大きく裂かれて、胃液などが広がり腐臭が立ち込める。

 ガマは地に倒れ、痙攣した後、絶命した。

 大地はずくずくに溶けていき、生き物たちは死に絶えて。

 死体は自らの胃液で空いた大穴の中に吸い込まれて行く。

 そんな状況で、ガマの腹から影が勢いよく飛び出し――“奴が、薄く笑っていた”。

 

 奴の姿が見えたのは一瞬だ。

 次の瞬間には消えて――横から強い衝撃を感じた。

 

「ぐぁ!!?」

 

 腕をへし折るほどの蹴り。

 今の一瞬で間合いを詰めて叩きこんできた。

 私はそのまま弾き飛ばされて宙を舞う。

 

 他の悪魔たちを見れば、奴の重力を操る魔術によってその体を強制的に圧縮されかけていた。

 まるでボールのように丸められて、奴らは魔力を全力で発し奴の術をかき消した。

 私はそのまま吹き飛ばされながらも、何とか体勢を戻す。

 そうして、奴が放ってきた弾丸を空中を飛びながら避けた。

 

 無数の弾丸が私を追う。

 永遠に追尾してくるそれら。

 蛇のように動くそれに指を向ける。

 そうして、全ての弾丸を視界に入れて空間を切り取る。

 

 そのまま切り取ったそれを魔術で消滅させた。

 私は羽を動かし、速度を上げて空を飛んだ。

 

 奴は私を追って来る。

 互いに高速での飛行だ。

 すると、傷を再生させた悪魔たちが奴へと襲い掛かる。

 アバンドゥスが拳による連続攻撃を仕掛けた。

 ヘルダーはそれら全てを片手で弾き――アバンドゥスが能力を発動させた。

 

「――爆ぜろッ!!」

「……!」

 

 アバンドゥスの攻撃が触れた個所。

 ヘルダーの腕が大きく爆ぜた。

 そうして、連続して爆発が発生し、奴がその度に方向を変えて飛ばされて行く。

 何度も何度も爆発を繰り返し、奴の血肉が宙を舞う。

 

 レンダァトが動く。

 奴は魔物を上空で生み出す。

 それは黒い羽をした鳥型の魔物だ。

 レンダァトのベルの音を聞き、魔物たちは動く。

 

 速い。目で捉えられないほど――凄まじい速さでそれは空を翔けた。

 

 次の瞬間には、それが爆ぜていた奴を翼で打ち。

 そのまま遥か上空へと連れて行く。

 そのまま一気に大気圏外まで――が、鳥は遥か上空で木っ端みじんになる。

 

 

 私はそれを確認し――“全身の毛が逆立つ”。

 

 

「――」

「――な!?」

 

 

 奴の殺気を背後から感じた。

 振り返ろうとした瞬間――横腹に鋭く重い一撃が入る。

 

 バキバキと骨が砕けていく音。

 奴の拳が横腹を貫通し、肉を深く抉っていく。

 そんな不快な音を聞きながら私は体を曲げた。

 そうして、そのまま弾き飛ばされれば、奴は銃口を此方へと向けて――悪寒が走る。

 

 危険だ。確実に殺される。

 奴が弾を放つ瞬間――私は一か八か空間を切り取る。

 

 すると、目の前に迫った弾丸は空間事切り取られる。

 それを私は上空へと投げて、そのまま術によって燃やす。

 燃やされた空間が強い光を発し――白い炎を噴き上がらせる。

 

 私はハッとした。

 が、奴はそんな事などお構いなしに空を翔ける。

 

 速い――速過ぎるッ!!

 

 移動速度が桁違いであり、瞬間移動に近いほどだ。

 奴の姿を追うのがやっとであり。

 奴に対して決定打を与える事が出来ていない。

 我々よりも体の再生スピードは速く。

 ダメージを与えたとしても、まるで手応えが無い。

 

 大空に向かって攻撃をしているようなものだ。

 明らかに格が違う。

 こいつだけは次元が違い過ぎる。

 

「――ならばッ!!」

 

 私は翼を魔力で強化する。

 そうして、一瞬にして奴の移動先に先回りし間合いを詰める。

 そのまま奴に対して攻撃を行う。

 

 拳を硬く握りしめて、そのまま全力で振るった。

 音が遅れて聞こえる。

 衝撃波は発生し、空気が激しく振動していた。

 一発一発が大地が裂けるほどの威力。

 喰らえば人間であれば一溜りも無いものだ。

 しかし、奴は薄く笑うだけで私の強化された拳ですらも銃を持つ手で簡単に往なしていく。

 

 何度も何度も打ちこむ。

 万を超えるほどの打撃を数秒の内に繰り返す。 

 接近戦を仕掛ければ、奴は光の如き速度で宙を翔けていった。

 

 加速、加速、加速加速加速加速加速加速加速――奴が消えた。

 

 視線を動かそうとして――背中に強い衝撃を感じた。

 

「が、あぁぁ!!?」

「……」

 

 バキバキと再び骨が折れる音が響く。

 そのまま私は空から一気に地上へと強制的に落下させられた。

 勢いを殺す事も出来ずに大地を大きく抉りながら滑る。

 私は何とか大地を叩きつけて空を飛ぶ。

 

 

 距離を離された――またしても、“悪寒が走る”。

 

 

 奴は他の悪魔たちを魔力で弾く。

 そうして、魔術によってその体を強制的に動かして――全員を叩きつけた。

 

 肉団子でも作るように。

 上空で悪魔たちが無理矢理に合体させられた。

 どろどろと血が滴り落ちる。

 奴はそのまま攻撃をしようとし――俺は奴へと向かっていく。

 

 奴らに気を取られている今ならば――奴の銃口が此方を向いた。

 

 瞬間、連続して火薬の爆ぜる音が響く。

 放たれた無数の銃弾が光となり、一瞬にして眼前に躍り出る。。

 反射的に拳で弾こうとし――触れた瞬間に“手が灰となる”。

 

「――やはり、かッ!!」

 

 汗が噴き出す。

 拳を再生させようとする。

 が、明らかにスピードが落ちていた。

 

 焦りを抱きながらも、空を翔け奴の姿を視界で追った。

 すると、その体から白い炎が僅かに噴き出していた――まずいッ!

 

 奴の枷を解かせてはいけない。

 奴が全ての力を解放すれば、我々では太刀打ちできない。

 恐らく、此方の何かを感じ取ったのだろう。

 星への危険も顧みずに解き放ち。

 奴はそのまま全力で私たちを屠ろうと――レナァクヤッ!!

 

《――準備は整っています。が、動きが速すぎます。これでは捉えられない》

「……っ!!」

 

 レナァクヤの思念を受け取る。

 その瞬間に、私は一気に動き出す。

 危険も顧みずに奴へと接近する。

 すると、奴はその間に合計で十発の弾丸を放っていた。

 全てを避ける事は出来ず、四発が体を貫通し。

 想像を絶する痛みが体を襲い、魔力がごっそりと消失した。

 

 私は血を吐きながらも。

 奴の前に立ち、その体を抱きしめる。

 そうして、そのまま己事、空間を切り取った。

 瞬間、奴は白い炎を噴き上がらせた。

 

「ガアアアアァァァァ――――ッ!!!!」

「……」

 

 熱い、熱い、熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱熱熱熱熱熱熱熱熱――痛みだけだ。

 

 激しい熱が痛みを強くする。

 燃えるようにどころではない。

 魂そのものが浄化されて行くようだ。

 悪魔としての己の存在が――消されて行く。

 

 奴は至近距離で目を輝かせて笑う。

 その狂気的な笑みが私の心を恐怖に染める。

 

 私の体が失われて行く。

 再生もできずに消えてい行く。

 ボロボロと崩れて、この世から消え去ろうとしていた。

 それを感じながらも、奴をその場に固定する事数秒――能力を解除する。

 

 私は残りの魔力を使う。

 奴の体を弾き飛ばした。

 私はそのまま全身を灰と化し、はらはらと地上へと落下していく。

 奴は私を見つめて――“私は、微笑む”。

 

 

 

「――おおきに」

「……ッ!」

 

 

 

 瞬間、奴の背後にレナァクヤが立つ。

 奴は妖艶に微笑みながら、ヘルダーの肩にそっと触れる。

 瞬間、ヘルダーの体が一瞬にして硬直する。

 レナァクヤは完全に気配を断ち、奴の意識の外から接近した。

 声を掛けたのはレナァクヤの能力が関係している。

 

 奴は口を大きく開いて、ヘルダーの首元に――牙を突き立てる。

 

 ぶしゅりと勢いよく血が噴き出す。

 そうして、ヘルダーの肩から全身に掛けて毒々しい色の文様が広がっていった。

 

「――ッ!!」

「きゃあぁ――――ッ!!!!??」

 

 奴が白き炎を体から勢いよく噴き出す。

 瞬間、レナァクヤは悲鳴を上げながら弾き飛ばされた。

 私はゆっくりと落下していく。

 朦朧とする意識の中で、持ってきていた秘薬を異空間から取り出す。

 それを崩れかけの指で弾いて飛ばし――飲み込む。

 

「――ッ!」

 

 瞬間、意識が強制的に覚醒する。

 体が消失しかけていた私は生気を取り戻し。

 体を一気に再生させていった。

 

 半分の体がまだ再生していない状態で空を駆け抜ける。

 そうして、落ちて行ったレナァクヤを回収し纏っていた炎を消し飛ばす。

 奴に視線を向けて瞬時に空間を切り取る。

 奴を見れば、レナァクヤの能力を受けて動きが止まっていた。

 そのまま奴の体は切り取られた空間に囚われる。

 

 私は仲間たちに指示をし、すぐに撤退を始めた。

 全員が全員、満身創痍に近い表情を浮かべていた……時間稼ぎ、ただそれだけで……この様だ。

 

 恐ろしい。

 やはり、あの化け物と正面で渡り合う事は無謀だ。

 力のある者であれば、それは容易に想像がつく。

 驕り高ぶり、自らの力を過信すれば、それだけで死期は早まる……っ!!

 

 切り取られた空間が破壊された。

 瞬間、殺気を放ちながら奴が迫っているのが分かった。

 その間も星はダメージを負い。

 大地は揺れて、至るところで傷が出来ていた。

 奴は少しでも戦闘を終わらせる為に、全力で私たちを追って来る。

 

 我々は更に速度を上げる。

 全員が全ての魔力を翼へと回し。

 限界を超えて空を翔けていく。

 

 一瞬だ。一瞬で風景は切り替わり。

 そのまま大陸を超えて――島が見えた。

 

 既にゲートは開かれていた。

 が、すぐそこまで奴が迫ってきている。

 

 

 ダメだ。追いつかれる――“画牢”のマヌトゥスが能力を使う。

 

 

「黒に染まり――光は浮かぶ――」

 

 

 奴が指を筆に見立てて振るう。

 すると、辺り一面が黒で染まっていった。

 そうして、五つの光の玉が浮かび上がる。

 それは見当違いの方向へと進んでいった。

 奴は我々を無視してそれを追いかけていく。

 

 マヌトゥスはこの世界をキャンバスとし。

 己の才で描きたい物を描き、それを世界に反映させる。

 限界はあるが、今のように我々の魂を模したものを作れば。

 それが本物となり、奴は追っていく。

 

 認識阻害ではない。

 それが正しいものになるのだ。。

 錯覚でも洗脳でも無く、それが正しい事なのだ。

 それこそが、マヌトゥスの能力の恐ろしい所だ。

 

 

 我々はそのままゲートを通過し――奴が此方に迫ってきた。

 

 

「――そんなッ!? 見破ったのかッ!?」

「……っ。奴だからだ……だが、何とかなった」

 

 

 一瞬でも騙せたのだ――十分すぎるだろう。

 

 

 ゲートは閉じていく。

 黒が消え、奴の姿が一瞬だけ見えた。

 その目は大きく見開かれていて、血走った目で我々を見ていた。

 そうして、完全にゲートが閉じられる前に奴は口を動かしていた。

 

 

 

 ――“殺す”、と。

 

 

 

 そのままゲートを抜けて、地獄へと戻る。

 私はそのまま大地に膝をつき。

 荒い呼吸を整えながら、ぼたぼたと汗を流し続けた。

 

「う、ぐぅ――あぁぁ」

 

 失った半身を再生させる。

 そうして、拳の感触を確かめた……問題ないな。

 

 何とかして体を再生させた。

 死にかけたが目的は達せられて……手に、負えんな。

 

 肝が冷えっぱなしだ。

 相対しただけで死を覚悟するのも納得する。

 それほどの存在だ。

 もしも、奴が気づかずに力を抑えた状態であれば。

 こうも苦労をする事は無かったが……本当に、恐ろしい奴だ。

 

「……あの男、何故、気づいたんだ?」

「……知りません……ただ、ランベルト・ヘルダーであれば……そうでしょう? “ザンダルク”」

「……ふっ、違いない……グッ!」

 

 私は立ち上がろうとする。

 が、足から力が抜けた。

 仲間たちは冷めた目で私を見ていた……“虚影の王”と呼ばれ恐れられたこのザンダルクも……奴の前では、か。

 

 アレを浴び過ぎたようだ。

 如何に秘薬があろうとも、あれ以上を喰らっていれば確実に――“滅せられていた”。

 

 私は顔を片手で覆う。

 そうして、あふれ出る喜びを笑みで表す……遂に、だ。

 

「……レナァクヤ……問題、ないな?」

「……えぇ勿論……ふふ、今頃は自分の身に起きた事に戸惑い恐怖し――絶望している事でしょう」

「……はは、流石の化け物も……これで……」

 

 全員が今回の成果を喜ぶ。

 命を懸けて挑んだのだ。

 失敗など許されず、成功しか我々は認めない。

 

 レナァクヤの能力は我々のものとはまるで違う。

 誰よりも凶悪であり、一度、それを受けてしまえば。

 如何なる存在であろうとも――“死ぬ事しか出来ない”。

 

 苦しめ、苛立て。

 お前が苦痛を感じれば感じるほどに。

 我々の勝機は高まっていく。

 

 確実に殺せるようになるまでだ。

 そこまでお前を落とせれば――我々はお前を殺せる。

 

「……我々は待った……お前を殺せる、その日が来るまで……耐えて来た……が、それも後少しだ」

「「「……」」」

 

 人類の希望を奪い、我ら悪魔が支配者に戻る日が来る。

 奴によって壊された理を戻す。

 家畜は家畜らしく、悪魔は悪魔らしく。

 弱き存在を支配し管理し、我ら強者は欲望のままに生きる。

 

 我慢などは――必要ない。

 

 我慢をするのは弱者だけだ。

 真の強者は我慢などはしない。

 

 屈辱だ。

 力ある我々が我慢などと……終わらせてやろう。

 

 負の連鎖を断ち切り。

 奴という生涯を我々が排除する。

 

 私はゆっくりと立ち上がる。

 そうして、故郷を見つめながら静かに宣言する。

 

 

 

「夜が来る――魔が生きる夜の世界が」

「「「……」」」

 

 

 

 共に作ろう。

 我らが生きるべき――“真なる闇の世界”を。

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