【完結】祓魔師《エクソシスト》は休みたい   作:オタリオン

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075:祓魔師に常識は通用しない(side:ランベルト→カブラギ)

 チェーンソーが強烈な駆動音を奏でて――サメの腸を切り裂く。

 

 サメが痛みによって激しく藻掻き。

 俺は腕に力を込めて無理矢理に抉り取っていった。

 眼前が赤い。汚水と血が混じり合って――最悪だぁゴラァッ!!

 

《ギャハハハハハ!!! 赤い赤い赤いぃぃぃ!!! でも何も見えねぇぇぇ!!》

「……ッ!」

 

 チェーンソーの中身――“ブッチャー”が叫ぶ。

 

 キンキンと頭の中で響く声に苛立ちながらも。

 俺は武器としては使えるそれを全力で振るう。

 襲い来るサメ共をかたっぱしに切り裂いていけば。

 汚水は赤く染まって不快度が跳ね上がる。

 

 俺はイライラをマックスにしながら。

 肩に噛みついてきたサメの顎から上に向かってチェーンソーをぶっ刺す。

 そうして、そのまま力任せに奴の頭を抉り取る。

 

 サメ共は恐れを知らない。

 何匹殺そうとも、ループしているように次から次へとサメが襲い掛かって来る。

 キリがないほどであり、うんざりしそうだった。

 が、それでも俺は襲ってくるそれらを殺していく。

 

 チェーンソーは敵の血を吸い。

 力を増して、そのフォルムを更に凶悪なものにしていく。

 そうして、いつの間にか俺の腕に自らの血管を伸ばして刺して来る。

 調子に乗っているようであり、そのまま俺の体を奪うつもりなのはバレバレだが――今は許してやるよッ!!

 

 俺は血で染まった汚水の中を泳ぐ。

 そうして、奴らの噛みつき攻撃や蔦による攻撃を回避。

 そのままチェーンソーで奴らの体を抉り取っていく。

 

 そのまま、俺は奴らの包囲網を突破し――刻印を起動する。

 

 俺は自らを起点とし。

 炎を生み出すのではなく、体から凄まじい熱を放出する。

 すると、俺と繋がっている状態のブッチャーは痛みで叫んでいた。

 が、俺はそれを無視して周囲の水が干上がるまで熱を高めた。

 

 ぐんぐんと一気に熱が高まり。

 ごぼごぼと気泡が発生し、水が蒸発していく。

 水が急激に干上がっていき、周りの水が一瞬で消えた。

 それでも熱は高まり、周囲に凄まじい勢いで影響を与えて――全てが蒸発する。

 

 静かに床に足をつく。

 服は辛うじて残っているが、ひどいものだ。

 

 俺の発する熱は魔術によるものだが。

 俺の体を媒体として発動している。

 だからこそ、敵もこの屋敷自体もこれを魔術とは見なせない。

 魔術そのものを喰らっているのは俺であるからだ。

 

 サメたちは干上がった床の上を跳ねる。

 地下空間では強烈な熱によって、周囲が溶けていくように歪んでいく。

 俺はそれに手応えを感じながら――床からトゲが突き出す。

 

 それらが俺の体を貫いてきた。

 瞬間、俺の体内で発動していた魔術が吸収される。

 俺はそれに対して――にやりと笑う。

 

 俺の魔術を吸収した敵。

 それを行えばどうなるか――屋敷全体が大きく揺れた。

 

 今のは攻撃の為のものじゃない。

 先ほど、サメたちを攻撃した魔術とは違う。

 己自身に対する自傷行為のような魔術であり。

 それを咄嗟に吸収してしまえばどうなるか。

 

 結果は――屋敷そのものが持続的にダメージを負う事になる。

 

 屋敷の維持が不安定になっている。

 それにより、仲間たちとの合流の道が見える。

 俺はすぐに動き出し――目の前を塞がれる。

 

 サメの形をしていた敵たち。

 それらが蔦を束ねた手足を生成し。

 唾をだらだらと垂らしながら強く叫んだ。

 どうやらマジのようであり――いいぜ。

 

『やってやろうじゃねぇか――皆殺しにしてやらァ!!!』

《ひやあああああ!!!! 皆殺し入りまぁぁああああすぅぅぅ!!!!》

 

 俺は床を蹴り駆けだす。

 サメもどき共は大きく口を開けて俺に噛みついて来る。

 鋭利な牙が体を貫き、体中に穴が開いて血が噴き出す。

 

 イテェイテェなぁ――クソッたれがァ!!!

 

 俺は笑みを深める。

 殺意に染まった体で、チャーンソーを強引に振り回す。

 

「「「――――ッ!!!!!??」」」

 

 俺を食おうとしたクソ共の肉にブッチャーの牙が刺さる。

 そうして、俺の魔力を吸い上げたこいつはハイになり――駆動音を高らかに奏でた。

 

 高速でチェーンが回転し。

 肉に刺さったそれが一気にそれを抉っていく。

 血が噴水のように噴き出して、化け物の痛みを叫びながら切り刻まれて行く。

 瞬く間に、五体のクズを肉塊に変えた。

 俺は返り血を全身に浴びながら、まだまだいやがるクズに怒りに染まった笑みを向けた。

 

 切れ味なんてものは無いに等しい。

 斬るのではなく抉るだけだ。

 だからこそ、奴らは苦痛を表すように叫んでいた。

 

 奴らの中に飛び込み。

 子供の遊びのようにチェーンソーを振り回す。

 俺はカス共の肉を抉り取りながら――振り抜く。

 

 全身に更に返り血を浴びる。

 臭くて臭くて溜まらねぇが、頭は冴えていく。

 そうして、そのまま他の敵へと襲い掛かる。

 

 攻撃をサイドステップで回避。

 敵の頭部を抉り取り、床に転がったそれを蹴って他の敵を転がす。

 体勢の崩れたそいつに飛び掛かり。

 上からチェーンソーを押し付けて肉をぐちゃぐちゃにした。

 そうして、そのまま後ろから俺の体に噛みついてきた敵に対して。

 俺はブッチャーにチェーンソーを動かせて――“俺事斬らせた”。

 

 体が真っ二つになる。

 鮮血が飛び散り、サメもどきは間抜けな顔のまま倒れる。

 

 痛くて痛くて、クソほど苦しくて堪らねぇ――殺意が漲る。

 

 俺はそのまま空中で体を再生させて、ブッチャーを握った。

 床を蹴りつけて出口に向かって走る。

 

 無数の敵が眼前で産み落とされて行く。

 出口に続く道にずらっと並んでいた。

 そんな邪魔だけの障害物にギラギラとした視線を向けて――笑った。

 

 全力でチェーンソーを振るう。

 視界は血で染まりきり、嗅覚はもはや臭いを正常に感じ取れない。

 強引に敵の群れを押し通れば少なからずダメージを負う。

 

 手足に噛みつかれて引きちぎられる――ブッチャーを口で操り敵を殺す。

 

 頭が噛み砕かれる――関係なしと得物を振るいぶち殺す。

 

 蔦をからませて手足や首を折って来て――魔術でブッチャーを操りぶっ殺す。

 

 無数の傷を負う。何度も体が欠損した。

 魔術が攻撃に使えず、魔力での防御も出来ない。

 傷を負うのは当然で、死ぬような目に遭うのは当たり前だ――だからこそ、激しくムカつく。

 

 一瞬にして体を再生させて、そのまま敵へと攻撃を仕掛ける。

 殺意や怒りを攻撃に込めれば、自然と攻撃の手段は乱雑になる。

 まるで獣だ。血に飢えた獰猛な獣――いや、ケダモノだ。

 

 良いね良いねぇ。最高に――今の俺にぴったりだァ!!

 

 最早、敵の血か自分の血なのかも分からない。

 殺す事が効率が良いのかも考えていない。

 ただムカついて殺し、前にいるから祓う――それだけだ。

 

 そんな中で、俺はただひたすらに走る。

 ただ一つの目的を胸に俺は足を動かした。

 走って、走って、蛆のように湧き出る敵たちを――殺していく。

 

 殺して、殺して、殺して、殺して、殺し殺し殺し殺し殺し殺し殺し殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺――あぁクソがァァ!!!!

 

「うざってぇ、なァァ!!!!」

《きぃやははははは!!! 声が出てるうぅぅぅぅ!!! 激おこぷんぷん丸ぅぅぅぅぅ!!!!?》

 

 ぶちりと頭の中で何かが切れる。

 俺は怒りの頂点に達し、チェーンソーを振るいながら。

 襲い来るそれらに牙を突き立てて強引に肉を噛みちぎる。

 

 腹が減った、腹が減った、減った減った減った減った減った――何でもいいから食わせろォ!!

 

 腹が減って仕方がねぇんだよ。

 空腹で死にそうで、イライラが溜まっていくんだ。

 だから、こんなマズそうな野郎でも――腹は満たせるだろうなァ!!?

 

 俺を喰おうとしているんだ。

 だったら、俺が喰っても文句はねぇだろうよッ!!

 

 俺はそのまま敵を殺していきながら。

 食欲を満たすように敵の肉に噛みつく。

 奴らは叫び声をあげて、初めて恐怖に似た感情を俺に対して抱いた。

 俺はそんな奴らの感情を敏感に感じ取った。

 

 怖いだろう。

 理解できねぇ奴ほど怖いものはねぇ。

 狂え。もっともっと狂え。

 常識に囚われていれば、狂った世界の住人達には勝てねぇ。

 狂気に身を落とし、己の殻を破ってこそ――悪魔をぶっ殺せるんだァ!!

 

 俺は笑みを深める。

 全身が血だらけで、口の周りも血でベトベトだ。

 

 最悪で、最低で、苦痛に塗れて――それでも笑ってやろう。

 

 俺は声を大にして笑う。

 狂気の中で化け物どもが巣食う空間で――俺は死を振りまいていった。

 

 〇

 

「はぁ、はぁ、はぁ……うぅ」

 

 腕を抑えながら走る……油断した。

 

 屋敷の罠にかかり。

 全員が別の場所に送られたんだろう。

 僕が送られた場所は調理場であり。

 何か先生の役に立てないかと調べようとして……それと出会った。

 

 冷蔵庫を調べれば、その中には腐った人間の頭部が詰め込まれていた。

 この僕でも少し吐き気を覚える光景で。

 そんな時に背後に気配を感じて咄嗟に避ければ。

 そこには身の丈はある奇妙な包丁を頭の無い化け物が立っていた。

 

 身長は三メートルほどで。

 体はお腹が出るほどに太り。

 身に纏っているのは料理人のような服だったが。

 服のところどころは穴が開いており、そこからは血ではな白濁とした謎の汁が噴き出していた。

 頭からもそれがドロドロと垂れていて。

 聖刃を装備しながら奴を警戒していれば――奴が叫んだ。

 

 空間が震えるほどの叫び。

 それによって体が一瞬硬直し。

 奴はその隙に僕に接近して攻撃を仕掛けて来た。

 僕はその攻撃をギリギリで避けた。

 そうして、デブのがら空きの体に目掛けて魔力を込めた打撃を繰り出し――“この様”だ。

 

「……くぅ」

 

 あのデブは悪魔でも魔物でもない。

 攻撃した瞬間に、それが何となく分かった。

 アイツには魔力の攻撃も、聖刃も効かない。

 その証拠に僕の攻撃は無効化されて、お返しとばかりに穴から噴き出したあの液体を浴びて。

 僕の片腕は溶かされて、ひどい損傷を受けて使い物にならなくなった。

 

 先生の言っていた通りだ。

 アイツは僕に戦闘するのではなく逃げるように言っていた。

 それは単純に僕の力が足りていない事と――“経験が浅い”からだ。

 

 先生であれば……いや、他の奴らでもこんなへまはしない。

 

 カッとなって見返してやろうと思ってしまったが最後だ。

 僕は命からがら奴から逃げ出し。

 そのまま屋敷の中を走っていった。

 背後からは奴の気配を常に感じる……追ってきている。

 

 確実に僕を殺しに来ている。

 殺気は本物であり、追いつかれれば最期だ。

 僕は呼吸を何とか整えながら、適当にあった扉を開けて中に入る。

 そうして、扉の前に部屋の中にクローゼットや引き出しなどの置かれていた家具を移動させる。

 

 バリケードなんてほとんど意味がないだろうが……この屋敷は奇妙だ。

 

 ずっと真っすぐ進んでいた筈だ。

 それなのに、一向に進めている気配がしなかった。

 それどころか戻っているような気さえした。

 だからこそ、廊下を進むのは止めて籠城を選択したが……これは、正しかったのか?

 

 僕は汗を拭う。

 そうして、どくどくと強く鼓動する心臓を片手で抑えたて……!!

 

 屋敷全体が激しく揺れた。

 何が起きているのか分からないけど……きっとアイツらが何かしたんだろう。

 

「……ふぅ」

 

 少し呼吸が安定した。

 冷静さを取り戻しつつある。

 

 ……こんな所で死ぬわけにはいかない……父さんもそんな事になるなんて考えていない筈だ。

 

 僕はまだ“父さんの夢”を叶えていない。

 それまでは死ぬ事なんて許されない。

 僕は拳を硬く握り、何とかして他の奴らと合流する方法を考える。

 

 部屋の中を見渡す。

 すると、子供部屋なのか。

 おもちゃなどが散乱しており、子供用のベッドもある。

 窓の方に近寄れば、外の景色が見えていた。

 開けられないか試してみて……ダメだな。

 

 僕は近くにあった椅子を手に取る。

 そうして、それを窓に向かって投げて――跳ね返って来た。

 

「……やっぱり、生きている……だったら」

 

 僕は窓から視線を逸らす。

 そうして、壁の前に立つ。

 呼吸を整えて拳を構えて――突きを放つ。

 

 魔力が籠っておらずとも。

 僕の拳は岩程度なら簡単に砕ける。

 これで何かしらの反応が……は?

 

 

 壁を見て固まる――“傷一つない”。

 

 嘘だ。あり得ない……でも、事実だ。

 

 

 あの剣を使う女は傷跡を残せていた。

 が、僕の打撃ではまるで意味がない。

 それはつまり、あの女と僕の間に大きな差があるということで……いや、それはいい。

 

 僕程度ではダメージにもならないのであれば。

 先生ほどの存在が全力を出せば……必ず突破できる。

 

 先生はあの時に抵抗を止めるように僕たちに言った。

 それはつまり、何か考えがあってのものだろう。

 もしくは、全力を出せば仲間たちにも影響があると考えたからか……後者だな。

 

 得体の知れない屋敷だ。

 全力で攻撃をしたらどうなるかは分からない。

 それなら、一度懐に入り分析してからの方が良い。

 此処には必ず、アイツらの追っている事件の手掛かりもある筈だから。

 

「……でも、僕はどうすれば……?」

 

 ベッドから音がした。

 すすり泣くような声であり。

 僕は警戒しながらベッドに近づく。

 すると、少しふくらみがあり――問答無用で拳を叩きつけた。

 

 ふくらみは潰れてベッドも破壊された。

 パラパラと木屑が舞う。

 僕は警戒心を持ちながら、ゆっくりとシーツに手を掛ける。

 そうして、そのままそれを剥がし…………何だ。

 

 そこにいたのは――人形だった。

 

 掠れた音声が流れるだけの人形だ。

 僕は静かに息を吐き――

 

《どうして?》

「……?」

 

 人形がハッキリと聞こえる音声を出す。

 僕はたらりと汗を流しながら人形を見つめて――人形がカタカタと震え始める。

 

 

 

《どうして? どうして? どうして? どうしてどうしてどうしてどうして――“皆、死んじゃうの”?》

「……ッ!」

 

 

 

 その音声を聞き――床が溶ける音が聞こえた。

 

 

 ゆっくりと、視線を下に向ける。

 

 すると、床には穴が開いていた。

 

 幾つも穴が開いて――また、空いた。

 

 

 ぽたぽたと、天井から液体が垂れる。

 僕は表情を強張らせながら天井を見て――“奴が、いた”。

 

 

 僕が視線を向けた瞬間――頭の無い料理人が襲い掛かって来た。

 

 

 僕は咄嗟に横に転がり避ける。

 すると、奴が力任せに振り下ろした包丁が人形諸共、ベッドの残骸を破壊する。

 奴は首の断面からごぽごぽと白濁した液体を噴き出していた。

 

 不気味だ。気色が悪い――強い嫌悪感。

 

「――?」

 

 奴はごきりと首を鳴らす。

 そうして、奴は包丁を肩に置き――魔力を迸らせる。

 

「……っ!?」

 

 怒り、悲しみ――奴から感情が伝わる。

 

 それを受けながら、奴が放つ凄まじい魔力に震えあがる。

 勝てない。いや、戦う事も出来ない。

 此方の攻撃は通じない上に、どんなに逃げても追いついて来る。

 奴らは楽しんでいるんだ。

 獲物が恐怖に顔を染め上げて逃げまどう姿を――悪魔だ。

 

 やはり、この屋敷に巣食っているのは悪魔だ。

 そう認識したからこそ――僕は覚悟を決めた。

 

 こんな所で死ぬ訳にはいかない。

 でも、何の代償も払わずに生き残る事は出来ない――理解した。

 

 僕は無事な方の拳を上げる。

 そうして、指を口につけて――皮を噛みきる。

 

 本来、こんなところで使うようなものじゃない。

 が、いくら考えてもこれ以外に方法は無い。

 誰にも見られていない事だけが救いであり――奴が襲い来る。

 

 一瞬にして距離を詰められた。

 大きく目を見開きながら奴を見て――奴の姿が消える。

 

 何処に――横腹に強い衝撃を感じた。

 

「あがぁ!!?」

「――?」

 

 バキバキと全身の骨が砕ける音が響く。

 そうして、そのまま扉を突き破り、廊下の壁にぶち当たる。

 全身から血が噴き出して、手足にはまるで感覚が無い。

 霞んでいく視界の中で化け物が部屋の中から出てくるのを感じた。

 

「……っ……」

 

 僕はゆっくりと残った力で指を動かす。

 ゆっくり、ゆっくりと動かし――血を一滴、口の中に垂らした。

 

 それを呑み込み。

 ゆっくりと――“祈りを捧げる”。

 

 

 

「祓え給い……清め給え……神ながら守り給い……幸え、給え――っ!」

 

 

 

 祈りを終え――“祝福を授かる”。

 

 

 

 ドクドクドクと心臓が強く鼓動する。

 全身が熱く、体の中から熱があふれ出て。

 目を大きく見開き、髪から色素が抜けていく。

 視界がクリアになり、目に見える事の無いものがこの目に映り――奴が包丁を掲げた。

 

 

 

 振り下ろされるそれを見つめながら、僕は――“命じる”。

 

 

 

「――“消え失せろ”」

 

 

 

 瞬間、化け物の姿が一瞬にして灰となる。

 影も形も残らず。

 ただ灰がはらはらと舞っていた。

 僕はその光景をジッと見つめながら、ゆっくりと立ち上がる。

 体の傷は瞬く間に癒えて、枷がすぐに元に戻り髪の色も元に戻ったのを感じた。

 

「――ぅぅ!」

 

 瞬間、ずきりと頭が痛みを発した。

 

 鋭い痛みであり、聞き覚えの無い言葉が薄っすらと聞こえている。

 女かも男かも分からない声であり、それが頭痛を発生させていて……徐々に収まっていく。

 

 呼吸を整える。

 そうして、仲間と合流する為に歩いていく……次、使う事は……したくない。

 

 自分が自分でなくなる。

 そう感じるこそ、この力は嫌いで――っ!?

 

 屋敷が大きく揺れる。

 それと同時に、下から凄まじい魔力を感じた。

 真っすぐに此方に向かってきており――床が割れた。

 

 

「オオオオォォォォ――ッ!!!!」

《フォオォォォォォォォ!!!!》

「あ、え、あ――はぁ!!?」

 

 

 下から出て来たのは――先生だ。

 

 

 その口にはサメのようで全く別の生き物の残骸を咥えている。

 手には禍々しい気配を放つチェーンソーらしきものが握られていた。

 先生はそのまま口を動かし、喰らっていたそれの肉を引きちぎる。

 ごろごろと残骸が床に転がり、ぴくぴくと痙攣していた。

 そうして、目の前にある邪魔な壁に対して――武器を突き刺した。

 

 ギャリギャリと激しく火花が飛び散り。

 壁なのに謎の液体も噴き出していた。

 そうして、そのまま力任せに縦に引き裂き――先生が僕に気づく。

 

「あ、いたの?」

「い、いたのって……うぅ! く、臭い!!」

 

 最初の衝撃が強すぎて気づかなかったが。

 ひどい臭いであり、鼻が曲がるほどだった。

 全身が返り血で染まっていて、服はボロボロだ。

 おまけに、汚水の中にいたように汚物の臭いもしてくる。

 

 近くにいるだけで吐き気がしてくる。

 いや、我慢できそうにないくらいに吐きそうだ。

 僕は必死に口と鼻を覆いながら、涙目で先生に離れるように首を振る。

 

 先生は自分の状態を確認し。

 ぱちりと指を鳴らして――自分を燃やした。

 

「えぇ!!?」

《ぎぃやぁぁぁぁああああああ!!!?》

 

 轟々と燃え盛る炎。

 それが十秒経てば消えた。

 すると、先生は生まれたままの姿で――瞬きの合間に、スーツに着替えていた。

 

「…………何でも出来るんだな」

「いや? そういう訳でもねぇよ……と、替えの装置をっと……よし!」

「いや、話せるならいらなくね? それ」

「いやいや、すぐに元に戻っちまうからよぉ……俺にも分かんねぇけど…………!」

 

 奴はそう言って自らの喉を指さす。

 どうやら話せなくなったようだ……変な体質だな。

 

 先生はチェーンソーを何処かに仕舞おうとした。

 すると、そいつはギャアギャア叫びながら文句を言っていた。

 やれ人権がどうとか、やれ虐待だとか。

 先生はそれらの言葉を無視して、強引に空間に出来た穴の中にそれを押し込んだ。

 

 汗を拭ってからスーツを着直し――歩いていく。

 

《行きますよ。もうこの屋敷の事は分かりました。すぐに合流します》

「……はいはい。もう驚いてやらねぇからな」

 

 僕はため息を零しながら先生の後を追う。

 口ではこうだけど……再会できた時、すげぇ安心した。

 

 先生は他の奴らとは違う。

 それは、“ランベルト・ヘルダー”だからそうなのか。

 それとも、“フーゴ・ベッカー”としての先生を僕がよく知っているからか。

 

 先生の背中をジッと見つめながらそんな事を考える。

 

「……」

 

 父さんからは、こいつを観察するように言われている。

 僕自身もこの男の事はもっと知りたかったので丁度いいけど……何で、こんなに安心するんだろうなぁ。

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