【完結】祓魔師《エクソシスト》は休みたい   作:オタリオン

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079:祓魔師は恐怖を呼び覚ます

「……」

 

 雲一つない快晴。

 何処までも続く水平線の彼方を見つめる。

 カリブの海を進む船団。

 

 第十二部隊までを編成し。

 祓魔師たちと船乗りたちを乗せて船は進む。

 

 ライツで建造された“新型フリゲート艦”十二隻。

 全長160m、幅21m、排水量11800トン。

 対魔兵装式127mm砲に加えて、Mk.41VLS搭載で64セル。

 4連装ランチャー2基に防御結界用の特殊ランチャーが2基。

 ヘリも収容しており、部隊の即時展開も可能としている。

 

 本来は国防を担う為のものではあるが。

 俺からの要請で本部も事の重大さに気づいてくれたようだった。

 三日後には対悪魔戦闘に特化したこれら十二隻は港に集結していて、俺たちはすぐに乗り込んだ。

 

 フリゲートに分類されるものではあるが。

 コストはそれなりに掛かっている上に、兵装も最新のものだ。

 対悪魔兵装式127mm砲は弾丸一発一発に聖刃と同じ効果がある。

 ミサイル類もそうであり、高位な悪魔であろうともその身に受ければ一溜りは無いだろう。

 結界展開用は敵の攻撃を防ぎ、此方の攻撃だけを通すように術式が調整されている。

 装備だけでも準備をするだけでかなりの時間が必要であり。

 国家予算が無ければ賄えないほどに金も掛かっている。

 

 ……これで結果を出せなきゃ、また色々と言われちまうんだろうが……構いやしねぇよ。

 

 俺は俺の出来る仕事をするだけだ。

 そう考えていれば無線機が鳴る。

 俺はそれを取り通信を繋いだ。

 

《ベッカー、そろそろ目的の地点に着くぞ……説明はしているが、念の為にもう一度言っておくぞ。この海域では海難事故が多発している。突如として船を飲み込むほどの大渦が発生しては船が海の藻屑にされちまっている。恐らくは、お前さんの言った通り、此処には何かがあるんだろう》

 

 マルコの言葉を聞きながら、俺は海を見つめる。

 目的の場所には近づいているが……妙だな。

 

 マルコの言う大渦が発生する気配は無い。

 いや、それどころか悪魔たちの気配も感じ取れない。

 

 恐らくは、俺の気配を察知して奴らは隠れているのだろう。

 考えた通りの慎重さであり……それならそれで、此方も策がある。

 

《目的地点に到着後。すぐに――ゲリラライブを始めます》

《……本当に有名人さんの歌声で大物が釣れるのか?》

《それはやってみないと分かりませんが……私であれば、無視は出来ないでしょうね》

 

 俺は小さく笑う。

 そうして、連絡を終えて無線機を戻す。

 

 大渦の発生ポイントは通過。

 そのまま船は何事も無く進んでいき……ゆっくりと停止する。

 

 甲板の上を歩き、周りを見る。

 が、やはり悪魔たちの気配はしない。

 

 俺はゆっくりと艦の中心に目を向ける。

 すると、そこには――シンイチ・ダテが立っていた。

 

「良い風ですねぇ……絶好のライブ日和ですよ。これは」

「……」

 

 奴は笑う。

 その装いは完全にカリブの海賊であり。

 何故か、胸元のシャツははだけて胸板が丸見えだった。

 化粧もばっちりであり、奴はニカりと笑ってマイクを握る。

 すると、他の停止した艦から即席で導入した360度対応超広域スピーカーが展開されて行く。

 

 準備が整った。

 奴が指を天に掲げる。

 

 

「さぁ――ショォォォォタァァァイムゥゥぅ!!」

「――!」

 

 

 バチリと指を鳴らした。

 瞬間、奴が組み込んだ演奏が大音量で鳴り響いた。

 至近距離で聞けば耳が破壊されるほどの大音量。

 祓魔師たちには専用のイヤーカバーを支給し耳を保護している。

 俺は自前でどうとでもなるので問題は無い。

 

 ダテは曲に合わせて歌い始める……やる気だな。

 

「――!!」

 

 最初から激しい曲調の歌だ。

 ハイスピードなそれをダテは心を込めて歌う。

 すると、海に変化が現れた。

 

 魚たちがバシャバシャと飛び跳ねている。

 それだけではなく、イルカなども見えていた。

 多くの生き物たちがダテの歌によって活発になっている。

 魚たちが跳ねれば少しずつ波が発生していた。

 

 波は少しずつ大きくなっていき……来るッ!

 

 悪魔の気配。そして、魔物の群れだ。

 海の底から這いあがっており、俺はすぐに無線で合図を送る。

 それを受け取った船員はすぐに防護結界を展開する。

 空中に放たれたそれが勢いよく爆ぜて、球体状に展開されて船を覆う。

 完全展開が成されたその数分後に――船が大きく揺れた。

 

「――!!」

 

 船が飛ぶほどの衝撃。

 船体に向かって何かが当たった。

 俺はすぐに魔術を使って船体を安定させる。

 波しぶきを上げながら、船体が海面に着水し。

 視線を海に向ければ、魔物たちが蠢いていた。

 

 大きな魚の姿をした魔物たち。

 海の生物として適応した姿だ。

 空にも悪魔たちが飛んでおり、すぐに船に対して攻撃を開始して来た。

 

 結界に阻まれる奴らの攻撃。

 奴ら程度の攻撃であれば穴は開かないが――片付けておいた方がいいだろう!

 

 俺は手を広げる。

 そうして、そのまま勢いよく両手を打ち鳴らした。

 瞬間、空中で飛んでいた悪魔たちが強制的に一か所に集まり――潰れる。

 

 雑魚を一気に片付けた。

 が、まだまだ安心は出来ない。

 

 次々と海から悪魔が飛び出している。

 他の艦も攻撃されているが。

 船の装備が展開されて攻撃を行っている。

 奴らは人類の科学に翻弄されて手も足も出ていない。

 数はどんどん減っており、これならまだまだ十分――ッ!!

 

 嫌な気配を感じた。

 俺は考えるよりも早く、魔術を使って船たちを一気に動かす。

 警報が鳴り響く中で、船を一気に後ろへと下がらせた。

 瞬間、俺たちがいた場所を何かが勢いよく突き出していく。

 

 それは触手のようなものだった。

 うねうねと蠢き、白に近い肌色のような色味のそれは長く太い。

 無数の吸盤がついており、触手だけでも海面から計算して優に五十メートル以上はありそうだった。

 

 うねうねと蠢くそれが船を攻撃してくる。

 すると、待機していたケーニヒたちも動き出す。

 ゾーヤは空を蹴りつけて駆けながら、蠢くそれらを斬っていった。

 空間ごと斬り取られて、触手はずるりとズレて海に落ちていく。

 クラーラも弾幕を張り、触手を攻撃して。

 弾丸が触れたそこから勢いよく爆発が発生し、触手は力なく倒れていった。

 ボブも力を解放して触手は素手で掴み。

 そのまま力任せに引きちぎっていた。

 

 瞬く間に海面に姿を晒したそれらを排除し――いや、違う!

 

 触手はすぐに“再生している”。

 ずるりと断面から新たな触手が現れた。

 そうして、何事も無かったように攻撃を再開する。

 ケーニヒたちは驚きながらも、すぐに攻撃の速度を高めて対処する。

 が、千切っても千切っても再生している。

 

《だったらッ!》

 

 俺はサーチを掛ける。

 そうして、本体と思わしきものを発見した。

 俺は両手を広げて魔術を発動する。

 四肢に力を込めて、バカでかいそれを――持ち上げる。

 

 大きな波が発生する。

 結界でも防ぎきれないそれを並列して処理。

 そのまま持ち上がった“巨大なイカの魔物”を見つめながら。

 俺は両手を動かしてそいつを――捻り潰す。

 

「――――!!!!!!!!」

 

 化け物が絶叫する。

 それらを聞いた魔物たちが殺気立ち。

 捨て身の攻撃を仕掛けて来た。

 結界へと体当たりをする魔物たち。

 体内の魔力を激しく活性化させて――爆発する。

 

 無数の爆発が発生し、結界から嫌な音が聞こえて来た。

 命削りの行動であり、俺は化け物への攻撃を中断する。

 奴を解放し、そのまま魔物たちを殲滅していく。

 力任せに重力を操り魔物たちを海から上げて、そのまま炎を発生させてそれで焼き尽くす。

 炎は渦を巻くように流れて、瞬く間に船の周辺を囲んでいたそれらを滅した。

 

 が、その一瞬――大物から注意が削がれた。

 

「――――!!!!!!」

「……っ!」

 

 奴は再び絶叫する。

 すると、空には陣が作られた。

 それは大規模な魔術を発動する為の陣であり――魔物が魔術だと?

 

 以前、遭遇した特殊個体と同じだ。

 俺はそう感じながら、すぐに奴へと攻撃を行う。

 重力での圧死は止めて、炎による攻撃に切り替えた。

 炎の渦は奴へと殺到し、そのまま奴を焼き尽くさんとする。

 

 化け物は炎に焼かれて絶叫する。

 そうして、奴が展開した陣は――まだ存在していた。

 

 何故、そう考える前に――術が発動する。

 

 陣からぬるりと現れた何か。

 黒くドロドロになった何かであり。

 それが海に触れた瞬間に、蒸気のようなものを発生させていた。

 コールタールのような何かには無数の目がついていた。

 血走っておりぎょろぎょろと動くそれは――俺を見つめる。

 

 それが俺を発見した瞬間――大きく広がる。

 

 船を覆い隠すほどに広がったそれ。

 俺は危険を察知して、結界の内側から更に結界を展開する。

 すると、外側に展開された結界は破壊されて――俺の結界も破られる。

 

 俺はすぐに理解した。

 だからこそ、形振り構わず分身を生み出す。

 一気に十体を生み出し、四方へと展開。

 そのまま俺は枷を一時的に解き、白い炎を生成して攻撃を行った。

 白い炎をその何かに触れた瞬間、化け物から不快な音が鳴り響く。

 そうして、広がっていたそれが一気に燃えて消えていく。

 

 俺はすぐに分身を解除した。

 何事も無かったかのように船に戻り。

 海に広がっていく黒い何かを警戒した。

 

 アレは屋敷のギミックと似ていた。

 魔力を流されたもの、それらを無効化する能力があった。

 故に、結界は一瞬で破壊されていた。

 魔力とは全く別の白い炎であれば、問題なく対処できると考えたが当たりだったようだ。

 

 黒いドロドロは既に海全体に広がっている。

 そうして、無数の目がジッと俺の乗る船に向けられていた。

 

 

 

《――あぁ、そうか――そういう事だったのか。えぇ、“死”よ》

「……」

 

 

 

 奴の声が聞こえた。

 その言葉の意味は嫌でも理解できる。

 今の攻撃は俺を殺すこと以外にも目的があった。

 それは俺という存在の力を見極める事だ。

 回避不能、防御不可能の攻撃であれば――“嫌でも切り札を使う”、と。

 

 くつくつと笑う海のクズ。

 舌を鳴らしながら、俺は海に向かって攻撃を行う。

 一時的にまた枷を解き、今度は生成した白い炎を海へと放つ。

 

 種火程度のそれ。

 俺の手元から放たれたそれは静かに海に落ち――広がっていった。

 

 瞬く間に、ケガレを察知して広がっていく浄化の炎。

 余裕があった奴の笑い声は止み。

 化け物の不快な悲鳴だけが響いていた。

 

 枷をすぐにつけ直す。

 そうして、奴の声が聞こえたなら――すぐそこに来ていると理解した。

 

 何処にいる。

 何処から来る。

 ダテはそれでも歌を歌い続けていた。

 

 結界が破られて、待機していた祓魔師たちも甲板に出ていた。

 ダテの歌によって能力が強化されている。

 彼らは船に上がって来る魔物たちを殲滅し。

 頭上を飛ぶ悪魔共に対して魔術で攻撃を行っていた。

 

 火薬が爆ぜる音が連続して響き。

 弾丸が空にばらまかれて悪魔共の残骸が振って来る。

 戦いは既に始まっており、誰しもが命を懸けていた。

 

 ケーニヒたちも、船を守る為に戦っている。

 俺は俺のすべき事をするまでだ。

 

 クラーラが俺の近くに降り立つ。

 真っすぐに俺を見つめて来た。

 俺は静かに頷き、此処を任せるように伝えた。

 

「行ってらっしゃい!」

「……」

 

 俺はクラーラの声を聞きながら、甲板を掛けて――飛ぶ。

 

 勢いよく宙を翔けていく。

 そうして、海面を見つめて――あそこだな。

 

 戦場から離れた場所。

 そこに大きな影を発見した。

 俺は愛銃を取り出して、間髪入れずに銃弾を放つ。

 

 何発も何発も放ち。

 空になればマガジンを変える。

 そうして、打ち続けて――術式を起動する。

 

 弾丸に込められた術式。

 それが起動した瞬間に、隠れ潜んでいた場所は――大爆発を起こす。

 

 凄まじい爆発であり、衝撃は離れた戦場まで届いていた。

 俺はゆっくりと海面に降りて、海面ギリギリで浮遊して爆発の発生源を見つめる。

 すると、水蒸気の中から何かが膨れ上がる。

 海面が勢いよく上がっていき、海が割れるように広がって――それは姿を現す。

 

 朽ち果てた巨大なタンカー戦のような外観の船。

 船体には魔物と思わしきヒトデや貝のようなものが無数についている。

 何よりも目を引くのは、船体にびっしりとつけられた――髑髏だ。

 

 人骨であり、何万何十万という人間の骨がついていた。

 船が揺れればそれらがカラカラと音を立てて震える。

 タンカー戦には青い炎が灯ったランタンが無数にあり。

 その先端には目当ての人物が不気味な笑みを浮かべていた。

 

 2メートルを優に超える巨体に、ボロボロの人の皮で作ったロングコートに悪趣味な服装。

 見える範囲では体中に鱗が広がっており、目は真っ白であり口は大きく歯は異様に鋭く長い。

 深海魚のような顔であり、理解できない不気味さを孕んでいる。

 体色は赤黒く、手足はたこの足のようなものが伸びており、無理矢理先端が引き裂かれて指のようなものを形成していた。

 体の中心には風穴がぽっかりと空いており骨が見えていた。

 フジツボなどに覆われて、穴の中からは寄生虫のようなものが這い出していた。

 奴はそれを掴んで、バリバリと食べる。

 

 

 

「久しぶりだなぁ――“人間もどき”」

《――会いたくはありませんでしたよ。魚野郎》

 

 

 

 俺たちは互いににらみ合う。

 狂気的な笑みを浮かべながら、得物を構えた。

 姿を晒した時点で、此方の作戦は確実に進んだ……が、此方の切り札はバレた。

 

 奴がアレを見て、何も警戒しない筈はない。

 が、奴は俺の前に姿を晒した。

 それはどういう事なのか――いや、関係ねぇ。

 

 計画は進める。

 例え、罠であったとしても変更する事は出来ない。

 チャンスは一度きりであり、此処で奴らの計画を――潰してやる。

 

 分身に指示を出し、奴の魔力の残滓を辿って海底にある牢屋を目指させる。

 俺はその間、奴の注意を引く事に専念する。

 

 奴は手にサーベルを持ちながら、くいっと手を動かす。

 

「来いよ。持て成してやる」

 

 奴は俺を挑発する。

 そっちがその気であるのなら――乗ってやる。

 

 俺は海面を蹴る。

 そうして、そのまま宙を舞い奴に対して弾丸を放つ。

 奇妙な軌道で飛ぶそれら――が、奴はサーベルの一閃で全てを切り払う。

 

 俺はそんな奴を見ながら一気に接近。

 奴の前に躍り出て――背後に回る。

 

 一瞬であり、常人であれば目では追えない。

 そのまま俺はゼロ距離で奴の頭を――撃ち抜く。

 

 連続して撃ち抜けば煙が発生し。

 俺はそのまま奴から距離を離そうと――腹に衝撃を感じた。

 

「――!」

 

 殺気を感じなかった。

 そのまま勢いよく後方へと飛ばされる。

 タンカーの甲板を滑りながら止まり、腹を確認する。

 すると、服を突き破り腹には血が浮かんでいた。

 

「あぁ、まいったまいったぁ……血の気が多いこったなぁ」

「……」

 

 奴は振り返る。

 頭は無傷であり、ボロボロと弾丸が床に転がる。

 奴の体から伸びた触手。

 俺の血がついたそれを奴は舌で舐めとり――笑みを消す。

 

「やっぱり……ダメだな」

「……!」

 

 奴が魔力を解放する。

 空間が激しく振動し、海が大きくざわついていた。

 奴は光の無い目を俺に向けながら。

 満たされないと何度も呟いていた。

 

「魔王様は、こんな俺を……あぁ、不幸だなぁ。おい……でも、役目だからなぁ」

 

 奴はサーベルで肩を叩き――消える。

 

 瞬間、横から強い衝撃を感じた。

 全身の骨がバキバキと鳴り、そのままタンカーの柵を突き破って海に投げ出される。

 体勢を整えようとすれば、すぐ目の前に奴がいる。

 奴はそのまま俺の顔を片手で掴み――海に叩きつけた。

 

「――!!」

「聞こえねぇなぁ!!」

 

 凄まじい勢いで沈んでいく。

 奴はケタケタと笑っていて――奴の頭に短剣を刺す。

 

 そのまま驚く奴の腹を力の限り蹴りつける。

 瞬間、奴の拘束が緩んだ。

 俺は海の中を魔術によって進みながら。

 愛銃から短剣に切り替えて、奴を睨む。

 

 奴はケタケタと笑いながら俺を追って来る。

 まだだ、こんなものじゃない――こいつの“真の恐ろしさ”は。

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