【完結】祓魔師《エクソシスト》は休みたい   作:オタリオン

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084:魔王の復活は近い(side:ジョーンズ)

 地獄へと帰還し、魔王様へと謁見を取り次ぐ。

 暫く待てば、準備が整い。

 俺はあのお方が座す部屋へと入場を果たした。

 

 黒き世界、ケガレが満ちた空間。

 闇よりも暗き漆黒の中で、あのお方が静かに目を開ける。

 見るもの全てを委縮させて、格の違いを見せつけるほどの威圧感。

 否、威圧感何て生易しいものじゃない。

 人間であれば即死し、悪魔であっても寿命を削られているような感覚を覚える。

 

 この地獄の頂点であり、誰も逆らう事が許されな存在。

 我らが父では偉大なる存在だった。

 俺は静かにその場に跪く。

 

「……魔王様。ただいま任務を果たし帰還」

《――寄越せ》

「……はっ」

 

 俺は命じられるがまま、ゆっくりと己が頭に手を翳し――指を突き刺す。

 

 ぐちゅぐちゅと中を弄りながら。

 俺はあるものを頭の中から取り出した。

 それはどくどくと脈打った赤黒い玉だ。

 

 これは魔王様の力が具現化したもの。

 かつて、カミにより奪われてこの世界に散り散りになったものの一つ。

 儀式により、俺の体を器としてそれを復元させた。

 これを取り除けば、俺の力も僅かに下がるが……関係ない。

 

 力はすぐに得られる。

 魔王様の力を取り戻す事を急げば。

 己ずと俺の力も高まっていく。

 そうすれば、また、ランベルト・ヘルダーと……あの存在と戦えるだろう。

 

「……」

 

 それを静かに差し出せば、魔王様のところから黒い靄が伸びて来た。

 瞬く間に玉を包み込み、一気に吸収した。

 すると、魔王様は歓喜の声を僅かに漏らす。

 

《……あぁ、良い。良いぞ……傷が癒える。力が戻っていく……が、まだ足りん。もっと、もっとだ……探せ》

「……仰せのままに」

 

 魔王様の力が増した。

 黒い靄が勢いよく噴き出して。

 それを浴びた俺の体には亀裂が走る。

 進化したこの体であっても、魔王様の力に耐えるだけの器には成り得ない。

 それを感じながら、俺はすぐに踵を返して去っていく。

 

 部屋を出れば、大きな扉は静かに閉まっていき――完全に閉じられた。

 

 俺は静かに息を吐く。

 そうして、城の廊下を歩いていき……止まる。

 

 城にて雑務を行う悪魔。

 女の姿をしたそれらは、気品ある佇まいであるが。

 その心は他の悪魔と同じで、食に重きを置いている。

 上等な餌を前にすれば、待てができない犬の如く馳走を喰らうだろう。

 

「……」

 

 そんな悪魔たちを見つめる。

 そうして、徐に指を向けて――額を撃ち抜く。

 

「「「……!?」」」

 

 悪魔共が狼狽える。

 が、俺は倒れる死体をジッと見つめて――ぎょろりと目が動く。

 

「何だよぉバレてたのぉ? 自信あったんだけどなぁ」

「……弱者を演じてもな……その臭いは消せねぇよ」

 

 俺はそう言って笑う。

 すると、死体がゴキゴキと蠢き姿を変えていき――少年の姿をした悪魔が姿を現す。

 

「――ばぁ!」

 

 無造作に伸ばされた黒髪を後ろで結んで、血のように赤い瞳をしている。

 歯が肉食獣のように鋭くなっており、体は華奢であり声も高めである。

 だぼだぼの灰色のローブを身に纏っていて、裸足だった。

 

 

 “十手・四掌”――“鏡双(キョウソウ)のノートス”。

 

 

 あらゆる存在の姿になり。

 魂の形でさえも、奴は完璧に模倣してしまう。

 いや、それは最早、模倣ではない。

 完全なる写しであり、全く同じ存在だと言える。

 

 ノートスの能力は貴重であり。

 魔王様もこの男の事は高く評価している。

 それをこの男は純粋に喜んでいるのだろうが……知らない方が良い。

 

 魔王様の計画、この先で行う事。

 大体の予想は出来ていて、自分がどうなるかも分かっている。

 が、それで俺が魔王様を裏切る事は無い。

 そして、この事を他の奴らに言う事も決してない。

 

 ノートスは笑っていた。

 そうして、今回の戦いについて聞いて来る。

 俺はその前にと、ある事を奴に質問する。

 

「テメェ――刺客、送ったろ?」

「……へぇ、何でそう思うの?」

「勘だ。ただのな……ま、別にどうでもいいけどよ……くれぐれも、俺の楽しみだけは奪わないでくれよ? じゃなきゃ俺は――テメェを殺しちまうかもしれねぇ」

「――!!」

 

 俺は殺気を放つ。

 瞬間、他の悪魔共は泡を噴いて倒れる。

 城が大きく揺れて罅が入る。

 奴は少し目を見開いて俺を見つめて――ニカっと笑う。

 

「分かった! もうしないよぉ……あ、ついでで悪いんだけどさ。僕も質問いい?」

「……あぁ、構わねぇよ」

 

 俺は殺気を鎮める。

 そうして、手をひらひらとさせながら好きな事を聞けと伝えた。

 すると、奴は指を顎に添えながら質問をする。

 

「あの女。確か、元ケーニヒだったよね……ねぇ、アイツなんか囲ってさ。何がしたい訳? 食べないの? 殺さないの? ねぇねぇ」

「……今はまだな……用が無くなりゃ喰うさ。それまでは、俺の駒として使う」

「だぁかぁらぁ! その用って何だよぉ。教えてくれたっていいじゃんかぁ。ねぇねぇ、爺さんさあぁぁぁ」

「あぁうるせぇうるせぇ。これだからガキの相手は嫌なんだぁ……ほら、これやるよ。適当に取って来た上等な飯だ。うまいぞぉ」

 

 俺は異空間からぼとぼとと人間の肉を出す。

 儀式を行う上で、適当に用意していた人間たち。

 セカンドプランとして用意していた人間たちだったが。

 用が無くなったからと殺して、こうやって餌として持って帰って来た。

 本当なら、血肉の泉にでも放り投げてガキどもの飯の足しにするつもりだったが……まぁいいさ。

 

 奴は目を輝かせて大喜びでそれを食っていく。

 バリバリと骨も噛み砕きながら、嬉しそうに飯を食う奴から離れていく。

 そうして、奴の気配が遠ざかったところで俺は連絡用の貝を出す。

 

 地獄からであろうとも、今の俺であれば容易に連絡が取れる。

 魔力を注いで暫く待てば――繋がった。

 

《……》

「俺だ……刺客の件は良くやった……が、お前にやってもらいたい仕事は他にもある」

《……何だ》

 

 奴は感情を出す事無く聞いて来る。

 俺はにやりと笑い、次なる任務を与えてやった。

 

「魔王様の力の欠片を探せ――恐らくは、“日之国”の何処かにある」

《……情報が足りない》

「はは、そりゃそうだな……が、こいつは俺よりも祓魔師だったお前が一番良く知ってると思うぜ? 言ってる意味、分かるよな」

《…………分かった》

 

 奴はそれだけ言って通信を切る。

 俺はくつくつと笑いながら、通信機を異空間に戻す。

 

 魔王様の力はどんどん戻っている。

 恐らくは、後、二つで……それまでは、あの女にも利用価値はある。

 

 奴にとっての希望。

 それは人間と悪魔の共生だ。

 互いに殺し合うのではなく、折り合いをつけて生きていく事。

 夢物語であり、敵う筈のない願いだが……“俺なら叶えられる”。

 

 嘘は言っていないさ。

 騙すつもりも毛頭ない。

 その証拠に、俺は奴に見せてやった。

 

 数少ない悪魔の中に存在する“穏健派”。

 我々にとっては異端とされて、ゴミ以下の存在であると嫌悪すらしている者がほとんどで。

 悪魔の面汚しである奴らは、あの女にとっての光であった。

 

 俺たちにとっては不要な存在であり、嫌悪すべき対象ではあったが。

 あの女の心を解きほぐし、此方側につかせる事が出来たのなら――“まだ、利用価値はある”。

 

 どんな手を使っても構わない。

 悪魔の存在意義に反しようとも関係ねぇ。

 俺は俺としての役目を果たし、俺が生まれた意味を証明する。

 その最期が惨めで空虚なものになろうとも。

 

 それが俺であると示せるように――俺は生きてやるよ。

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