【本編完結済】女先生に愛を伝えて結婚するだけの話 作:秋月 ヒカリ
シャーレのオフィス。昼は多くの生徒が訪れ、多くの喧騒に包まれる場所。
しかし夜である今は、室内の電気は落とされ静けさだけがオフィスを支配……していなかった。
「今日も、また眠れないか…」
いつからだろう?だんだん眠れなくなってきたのは…。
「…なんてね、分かってるくせに」
そう、今のようになったのはあの日からだ。
「プレナパテス……」
別世界の滅んでしまったキヴォトスで存在した、もう一人の自分。対峙し、倒し、別世界のシロコを、生徒を託された日。
あの日から私は、もう一人の自分の夢を視るようになった。
「いや、正確には記憶なのかな…。まったく、とんだ置き土産をしてくれたもんだよ……私」
大切な生徒達が傷付き、倒れ、苦しんでキヴォトスと共に消えていく…。そんな世界で取り残され、人一倍苦しむ事になったシロコ(テラー)。
そんな痛みを伴う記憶を視るのだ。眠る度に。それはまだ良い。なら何が我慢できないか?それは……
「いつも大切だと口にしていた生徒達を、誰一人救えずに、自分だけはのうのうと死んでることが……堪らなく、腹立たしい…!」
大人の責任だ何だと口にしながら、真っ先に倒れる?……ふざけるな。自分がキヴォトスでは、誰よりも身体的に劣っていると知っていたことだろう?対策は?何も取ってなかったのか?それとも、生徒達が守ってくれると慢心していたのか?
「何れにしたって、私は私を許せない…!」
…結局のところ、分かってはいるのだ。プレナパテスは自分だ。相応の覚悟と対策はしていただろう。でも、そうなってしまった。なら、この記憶は何か?
プレナパテスの遺した、自身の後悔と己の様にはなるなという警告を含めたアーカイブなのだろう…。
まあ、結局なにが言いたいかと言われれば、こう答えるしかない。
「もう、限界だよ…。…誰か、助けて」
私は私が思っていた以上に、強くはなかったのだ。
~城戸タクミとの出会い~
「くぁ…あふ…。結局、昨日もまともに寝付けなかったな…。はぁ……」
私は、最近では日課になった(なってしまった)目の下の濃い隈を隠すためのメイクを施し、あくびを噛み殺しつつシャーレへと向かう。
「…薄めのナチュナルメイクだけで済んでたのが、密かな自慢だったんだけどな…。当番の子達には驚かれるし…。今のところは、イメチェンで通せてるけど…何時かはバレるよねぇ~…」
記憶の事とは別に、生徒達を騙している事にまで頭を悩ませていると、シャーレに着く。
「…?誰か倒れてる…?た、大変だ!ちょっと君!」
私はシャーレの入り口で倒れている人物に、急いで駆け寄る。
「え…男の子?キヴォトスにこんな子、居たの?って、違う!今はこの子を助けなきゃ…!」
幸いにも目立った外傷は無く、呼吸も安定している。どうやら気を失っているだけの様だ。
「この子は一体、誰なんだろう…?」
運び込んだ仮眠室で、目の前の男の子の事を考えていると、小さな呻き声をあげた後に男の子は目を覚ます。
「知らない天井だ…」
いきなりネタをぶっ込んできたことに笑いそうになったが、目を覚ました彼に倒れていた時の状況などを説明する。
また、彼からも話を聞いていくと驚く事に彼は、別の世界からの来訪者ということらしい。
しかも、一番驚かされたのが……
「結婚を前提に、お付き合いして下さい!」
いやいやいや!そうはならんだろう、と。一目惚れって……正直、嬉しかったよ?うん。けど、先ずはお互いの事を確りと知ってから、仲を深めていかないと……って、違う!
いくら自分にそういった経験が無いからって、何を心乱されてるんだ私は…!!
……それに、私は先生だ。生徒と恋仲になるつもりはないし、ましてや結婚なんて…。そもそも、私みたいな奴が、当たり前に幸せになる権利は無いだろう……。
そう考えながら彼と話をしていくと、不安そうな表情で時折こちらを見てくる。
少しだけ、そう、少しだけその姿に胸がきゅぅ…と締め付けられ、気付けば私は彼にこう提案していた。
「……なら、さ。君、シャーレで働かない?住み込みで、お給料も出すし、私のお仕事を手伝ってくれると助かるんだけど」
(ん?私今、何て言った?)
「え!?それは有難いですけど…いいんですか?」
「うん!基本的にシャーレに常駐してるのは私だけだし、当番の生徒が来てくれるけど、仕事の量がハンパなくて…。君さえ良ければ、仕事を手伝ってほしいなって」
(待って、いやホントに待って!?え、何で!?何で私、彼を側に置こうとしてるの…!?)
「やりますっ!!」
「おおう…元気がいいね!じゃあ、これからは仕事仲間として宜しく!えっと……」
(そうだよ!まだお互いの名前すら知らないんだよっ!?)
「あ、自己紹介がまだでしたね。俺は城戸タクミ、元の世界では高校2年生でした!宜しくお願いします!」
「タクミくんね。私はシャーレの先生をしてる、春野スミレです。年齢は…秘密で♪じゃあ、早速だけど仕事の内容を教えるね?先ずは……」
(いや、「秘密で♪」じゃないが?は?マジで私、どうなって……)
「うっす!えーと、メモメモ……」
こうして、彼と私のキヴォトスでの生活が始まった。
…正直、私は自分の変化に不安しかない。
だけど、私は先生だから。
彼もこれからは私の生徒になるのだから。だから私はいつも通りに、生徒のために頑張ろうと思う。
それが私の役目なのだから…。
(結婚とか、お付き合いとか言われたから絆された…?分かんないけど……うん。私は私の役目をこなすだけ。彼にとっても頼れる大人であり、先生でいないと!)
これは突然現れた少年が、責任と役目に雁字搦めにされた先生の心を、救うお話である。
要は、先生サイドでのファーストコンタクトを振り返った回ってこと。
タクミは「一目惚れ」だけど、先生は何故彼と歩む事にしたのか……を書きたかった…!