…ある日の事。
エリーの元に一通の手紙が届いた。
「拝啓、エリーへ。
突然だけど、来週の今日うちに来れるかな?
過去最高の小説が書けたんだ!キミに挿し絵を頼みたくてね。
キミは美大生だろ?だから、キミにしか頼めないんだ。
来てくれたら原本を渡すから、それを元に挿し絵を描いてくれ。
もちろん、課題優先でして構わない。キミは忙しいからね。
それじゃあ、元気でね! レンより。」
ところどころぷっくりとインクだまりができた素早い字は、レンの心の底からの喜びを伺える。
エリーは手紙を便箋に戻し、適当な場所へ放り投げた。
エリーはささっと目の前の課題に取り掛かり始めようとした。
素早いタッチでキャンバスの中に線を引いてゆく。
やがて線は重なり、消された。
エリーは何度も、何度も、線を書いては消し、書いては消した。
何度も何度も何度も。
気づけば机の上は荒野のように消しカスが広がっていた。
手で消しカスを手繰り寄せ、ためらいもなくゴミ箱の中へと捨てた。
キャンバスはひどく黒ずんでしまった。
エリーは嫌気がさして、どっとため息をついた。
ふと思い出して、放り投げた手紙をまた読んだ。
「来週、何も無かったよね?」
カレンダーを確認して、エリーはペンを取り出し、約束の日に丸をつけた。
「明日も早いし寝よう。」
エリーはベッドの上で横になった。
- 一週間後 -
「エリー!来てくれたんだね!」
遠目から見ても分かるほどの茶髪の男がエリーを出迎える。
ゆるいくせっ毛、そばかすがチャームポイントのその男こそがレンである。
「ちょうど空いてたからね。暇よりは良いかなって。」
ふんわりとしたボブ、赤い眼鏡からレンを覗く女。
大げさな荷物を背負っているのがエリーである。
2人は家の中に入り、そのまま地下室へと続く階段を下っていった。
少し下っていった先に、すすけているものの立派な書斎が出迎えてくれた。
「エリー、書斎にくるのは久しぶりだっけ?」
レンは書斎机に置かれた小説の原本をまとめながらエリーに聞いた。
「そうだね…中学を卒業して以来かな?」
エリーはそう言い、まとめられた原本をレンから受け取った。
「それにしても…分厚いね。何枚書いたの?」
一冊のノートほどの厚みの原本を手に、気になってエリーは聞いた。
「そこまではわからない。自分で数えなよ。」
まるで他人事のようにレンは返した。
エリーは原本を受け取ると、そそくさと書斎から出ていった。
後に続いて、レンも書斎の明かりを消して書斎から出た。
「それじゃあ帰るね。」
レンの家の前でエリーは告げる。
「まだ30分しか経ってないよ!もう少しゆっくりしていきなよ。」
レンは寂しそうにエリーに言う。
するとエリーはこう聞いた。
「じゃあ、この小説は何のペンで書いたの?」
レンは少し考えて、エリーの問いに答えた。
「何のペン…かはわからないけど、おじいちゃんから貰ったペンで書いたんだ。」
続けて、レンは興奮したように話を続けた。
「すごいんだよ!自分の思った物語がすらすら書けるんだ!本当、このペンに全部を預けられるって感じがして!
不思議で不思議で…って、ごめん、興奮しすぎちゃったみたい。」
エリーはレンの様子を見て、クスッと笑った。
「…それじゃあ!元気でね。」
レンは立ち去るエリーを見送った。
エリーの方からは、両手を使って大きく腕を振るレンの姿が見えた。
絶対に挿し絵を描き切ろう。
エリーはそう心に決めたのだった。
- エリーの自宅にて -
エリーは荷物の中から、レンから貰った小説の原本を取り出した。
表紙には大きく無題と書かれている。
エリーは気になって、原本にクリップで留められていた、A4サイズ程度のメモ書きを取り出した。
小説に出てくる登場人物の名前、設定が書かれていた。
エリーはキャンバスを取り出して、まず登場人物を描くことにした。
『ヴィネッサ、女性』
可憐、冷酷、意地悪。
『バイオレット、女性』
慈愛、優愛、自己犠牲。
2人は双子である。
『ベルガス、男性』
従順、残酷。
『ルルイーゼ、男性』
従順、腹黒。
どちらもあの2人に仕えている。
『メリューサ、女性』
悪魔、魔女、迫害。
『ソリウス、男性』
勇者、英雄、優待。
2人は古くからの仲である。
それぞれの登場人物のイメージが浮かび、エリーはスケッチブックに描き殴った。
あくまで偏見でしかない。エリーはペンを走らせ続けた。
それでも、思いの外うまく描けたようだった。
エリーは満足して、ペンを置いた。
そしてそのまま原本を開いた。
しかし、原本の中はまっさらだった。
パラパラとページをめくっても、文字などひとつも書いていなかった。
レンにいたずらをされてしまった、とエリーは内心不満に思った。
すると突然、原本がひとりでに動き出した。
カサッ…と音を立てたと思えば、一気に空中に浮き出した。
「なっ、何!?」
エリーは怯えて、部屋の外に出ようとした。
ただドアノブをいくら動かしても、扉は開かない。
「何で開かないの!?」
エリーは何かに吸い込まれる感覚がし、気づくと原本が輝き出し、エリーを取り込もうとしていた。
必死にドアノブを掴むも、抵抗も虚しく、エリーはドアノブごと原本の中に吸い込まれてしまった。
少し変わった物語が描きたくなってイメージをそのまま書き出しました。
拙い点はわんさかあると思いますが目をつぶってください。