ゆきて帰れぬ騎士かたり   作:水風浪漫

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地名等の〈〉の有無は読みやすさを考えて、その時々で使い分けていきます。

今回はまだ主人公はチャージ中です。


サバ読みのノーチラス(エルメリア視点 01)

 

「あぁ、すみません。ギルドへの登録をお願いしたいのですが」

 

 初めて見たときから、どこか奇妙な雰囲気がある男だった。

 五年、いや四年前だっただろうか。周辺の村から街へ来たばかりの〝おのぼりさん〟が酒場のハンター達にからかわれながらギルドの登録証を作る通過儀礼を終えた後、酒場に入ってきたそいつは、ハンターが集う空間において明らかに浮いていた。

 言葉遣いが丁寧なハンターも珍しいが、いないわけではない。しかし、エルメリアを始めとするハンター達の目を惹きつけたのは男の装備だった。

 

 鈍い輝きを放つ黒鉄と対照的な白銀が組み合わされ、各所に金の装飾を施した全身鎧に、深紅で縁取った煤黒色のサーコート。

 頭部を覆う兜には立派な兜飾りまでついており、優美でありながら、遠くから全体を俯瞰して見ていると(ほの)かに飛竜由来の武具を彷彿とさせる無骨さも備えていた。

 武具工房の目録(カタログ)では見覚えのない装備であるし、これほど目立つ装備なら一度目にすれば忘れない。少なくとも、この街で活動するハンターでないことは明らかだった。

 

 その男はどちらかと言えばハンターというより、幾度か目にしたことがある西シュレイド王国の騎士に似ているように感じられた。

 鎧だけでなく言葉遣いもだが、それ以上にハンターならば誰しもが少なからず持っている〝匂い〟──日頃から命のやり取りを生業とする者が備えている、血の(かよ)った空気がまるで感じられないのだ。

 幼い頃からミナガルデで育ち、ハンターが身近な存在だったエルメリアは、いつの頃からか感覚的にハンターとそれ以外の人間を見分けられるようになっていた。

 

 知っての通り、ハンターズギルドと王国の関係はリスクと需要の絶妙なバランスの上に成り立っている。

 食物連鎖の頂点たる飛竜さえも狩猟対象とし、人類の生存圏の維持と拡大に必要不可欠なハンターは多くの富を生み出し、流通の(かなめ)である商人たちの護衛としても無くてはならない存在である。

 時に王族からの依頼さえあるという話だが、しかし同時にハンターを取りまとめるギルドはその存在を危険視されてもいた。

 

 故に本来であれば男が酒場に現われて早々に、なぜ騎士様がこんな所にと野次の一つでも飛んで然るべきなのだが、男のある一点がハンター達に言葉を飲み込ませていた。

 

「名前、年齢、性別、得意な武器を書け」

「……すみません。文字が分からないので代筆をお願いしてもよろしいでしょうか? 名前はノーチラス、二十五歳の男で、武器はランスを使います」

「名前だけか、姓は?」

「今はありません。ただのノーチラスです」

 

 騎士の武具には詳しくないハンター達にも、ノーチラスと名乗った騎士が右腕に装備している赤い大楯、その表面に施された黄金の紋章装飾からして、騎士の格が低いものでは無いこと程度は察せられただろう。

 この頃のエルメリアはハンマーを生涯の武器と定めたばかりの駆け出しハンターだったが、ガノンから施される教育のおかげで、ハンターをする上で普通は関わることのない貴族や騎士といった存在についても知識があった。

 

 育ての親であり、従者であり、ハンターとしての師であり、戦場で頼りとする相棒であり、誰より大切な家族。

 エルメリアとガノン、二人の関係を説明する上で語るべきことは多岐にわたるが今は置いておこう。

 細かい経緯(いきさつ)は何にせよ、エルメリアはガノンから幅広い知識を授けられているのである。

 

 その知識に曰く、この国の騎士が仮想敵としているのは同じ人間であって、モンスターと戦うことは想定していない。故に使用する武器も対人に適した形状、大きさの物が使用されているのだ。

 しかしノーチラスの背にあるのは、意匠からして騎士鎧と揃いの武器のようだが、間違いなく対モンスターを想定している巨大なランスだった。

 

 騎士とハンター、相反する二つの特徴を併せ持つ風変わりな男。

 それがエルメリアが感じたノーチラスという男の第一印象だった。

 

◆※◇※◆※◇※◆

 

「ねぇ、どう思う? あの男のこと」

 

 ハンマーを自在に操るための習熟訓練と、日課である礼儀作法などの勉強を終えた夕食(どき)

 長期で契約しているゲストハウスの〈ビショップ〉部屋(ルーム)にて、エルメリアはガノンの手料理に舌鼓を打ちながら、食後の紅茶の準備をしているガノンに問いかけた。

 

「男とは、昼間見たノーチラスという者のことでしょうか?」

「そうよ。あの騎士なのかハンターなのか、よく分からない奴。モンスターを狩る騎士なんて聞いたことないけど、ハンターにしては血の匂いがしなかった」

 

 騎士ならば戦場で命のやり取りは経験しているのではないかと、そう疑問に思われるかもしれない。

 しかし西シュレイド王国の仮想敵である東シュレイド共和国との間には、極めて広大な不可侵領域があるのだ。

 それ故、争いが起こるにしても小さな小競り合い程度であり、加えて両国の間に立ちはだかる大山脈によって、その小競り合いでさえ滅多に起こることはない。

 

 故に今の時代、エルメリアの感覚に引っかかる者は基本的にハンターと考えてよかった。

 

「私はお嬢様の仰る匂いを感じ取ることは出来ませんが、ほぼ間違いなく騎士であると思われます」

 

 今回のように確証がつかない物事について考えるとき、ガノンは様々な情報を提示しながら推測を深めていくのだが、そんな彼にしては珍しく断言するような返答にエルメリアは食事の手を止めた。

 

「どうして? もしあの男がハンターだったとしても私たちが知らないだけで、別地域のハンターズギルドではありふれた装備なのかもしれないじゃない」

 

 エルメリアは自分で言いながら、心の中でそれは無いだろうと否定する。

 大楯やサーコートに描かれていた紋章についての知識はなかったが、願掛けや盗難防止に何かしらの模様を自分の装備に刻むハンターはそれなりにいる。その場合は紋章のサイズが大きすぎることが気がかりだが、ノーチラスの防犯意識が人一倍強いだけという可能性もゼロではない。

 しかし紋章については説明がついたとしても、武具の随所に施された金色(こんじき)の装飾はハンターの装備としては些か似つかわしくないのだ。

 遠目に見た限りだが武具はモンスター素材を用いない鉱石系の造り。もしノーチラスがハンターならば、自然界で不必要に目立つ装飾を良しとするとは思えなかった。

 しかし騎士であるとすれば、その権威や格を示す為に武器防具に華美な装飾を施すことは決して珍しいことではない。

 

「……彼の装備に描かれていた紋様に覚えがあります。私の記憶が正しければ、あれは東方にある国の国章です。そして、()の国には王家に忠誠を捧げたハンターを騎士として扱う慣習があると聞いた覚えもあります。

 もし、あの男が()の国の()だとすればハンターであり、騎士でもあると言うのが正しいのでしょう。

 ……何らかの理由で主君の(もと)出奔(しゅっぽん)し、長らく狩りを行っていないのであれば、お嬢様の感じた匂いとの辻褄も合うかと」

 

 エルメリアは紅茶を準備する手を止めたガノンの背中を見ながら、感心したように軽く息を漏らした。

 

「なるほどねぇ。そうするとマスターに聞かれて姓がないって言ってたのも、それっぽく思えてきたわ。

 にしても、ガノンの予想が正しいとしたらアイツ〈ヒンメルン山脈〉を越えて来たのかしら」

 

 ヒンメルン山脈とはシュレイド地方を東西に分断する大山脈である。

 陸路で東方からシュレイド地方へ至るにはヒンメルン山脈は避けては通れない。数少ない旅人のために道はあるものの、酷く険しい道のりであると聞いていた。

 

「いえ、東と言っても()の国は大陸の東端──シュレイド地方からすればほぼ反対側に位置する国ですので、共和国(東シュレイド)を目指すならばともかく王国(西シュレイド)が目的地ならば、わざわざ危険な山脈越えをする必要はありません。

 少なくとも〈ジォ・ワンドレオ〉から〈メタペット〉までは海路で渡り、そこからアルコリス地方*1を通ってこの街に来たと考えるのが自然です」

 

 ガノンの説明を頭の中で反芻しながら、エルメリアは脳裏に地図を思い浮かべる。

 勉強の際にガノンが持ち出してくる物を覚えたそれは、ギルドでも貸し出されている一般的な地図よりもかなり精巧な代物だ。何度となく何処で手に入れたのかを尋ねたが、その度に答えをはぐらかされ未だに教えてもらえていない。

 

「ジォ……ってたしか〈ドンドルマ〉管轄の大陸東側とこっちを結ぶ交易拠点になってる街よね?」

「はい。様々な交易品が集まり、多様な文化が入り交じる何とも興味深い街です」

「ふーん、私はまだ()ったことないのよねぇ」

「……火山地帯へ赴く際には中継地として立ち寄ります。お嬢様のご成長から考えると、遠からず訪れる機会は来るでしょう。なので、どうか血気に逸ることのないよう」

「ちょっと! さすがに心配しすぎ。大丈夫、楽しみはその時まで取っておくから」

「……ありがとうございます」

「何のお礼よ、もう」

 

 それっきり口を閉じて紅茶の準備に戻ったガノンを横目に、エルメリアも食事を再開した。

 

 にしても、あの男が遥か東方から長旅を経て街にやって来た可能性があるとは思いもよらなかった。

 それに、一度は国に忠誠を誓った騎士が国を出たとなれば只事ではない。荒事とは縁遠そうな柔らかい物腰を見て、鎧の中はどんな優男かと想像していたが、蓋を開ければ生半可なハンターよりも屈強な奴が出てくるかもしれないわね──と。

 

 そうしてノーチラスについて考えることを終えたエルメリアの中で、その名は長らく記憶の隅に追いやられたままだった。

 

 その後、エルメリアが着々と経験を重ねて異例の速さでハンターランクの昇格を重ねる一方で、ノーチラスは常設の採集依頼や草食竜、小型・中型モンスターが対象の討伐依頼──言ってしまえば初心者向けの仕事をこなし続けていた。

 

 ギルドで一日の話題をさらったデビューから一年以上が経過しても、ノーチラスの位階は未だにHR.5-木こり(ウッドマン)。HR.4-ルーキーの一つ上であり、本当に最低限ハンターとしてやっていける技術があると認められただけのランクだ。

 周辺から腕に覚えがあるハンターが集うミナガルデでは最底辺と言っても過言ではない位階である。

 無関係の他人を気にする余裕などなく、ひた向きに上を目指していた当時のエルメリアには知る由もないことだが、彼よりも後に街に来たハンター達と比べても明らかに見劣りする彼のことを騎士くずれと(あざけ)る者も珍しくなかった。

 

 数多の依頼を達成してHR.12-狂戦士(バーサーカー)へ至り、上級ハンターを目前とするエルメリアと最下層で足踏みを続けるノーチラス。

 数ヶ月の差はあれどほぼ同時期にハンターズギルドに登録した二人だが、ハンターとしての評価という点では比較にもならない差が生まれていた。

 

 そんな二人の道が初めて交わったのは、エルメリアが沼地にて〈岩竜〉バサルモス討伐を成し遂げてから更に数ヶ月が経った頃のこと。 

 

 ミナガルデが管轄する狩猟区では最東にある〈ラティオ火山〉にて、初めて〈鎧竜〉グラビモスの討伐に挑んだ時の話だった。

 

◆※◇※◆※◇※◆

 

 〈鎧竜〉グラビモスは全長二〇メートル以上、全高は九メートルもあり、他の飛竜と比しても図抜けて巨大なモンスターである。

 全長はかの〈火竜〉リオレウスの一・五倍、全高に至っては二倍以上であり文字通り巨岩と見紛う姿と言えば、その威容が少しは伝わるだろうか。

 全身が灰褐色の重厚な甲殻で覆われており、相対した生存者が語るにはまるで「動く要塞」のようだったと言う。

 

 これまで数々の依頼をガノンと二人で達成してきたエルメリアだが、流石に「鎧の覇者」の異名を持ち、真の意味で食物連鎖の頂点に君臨するとさえ言われることがある〈鎧竜〉に二人だけで勝てるとは思っていなかった。

 故に今回の依頼を受注するに当たって、同じくグラビモスへ挑まんとする二人組のハンターと今回限りのパーティを結成したのだ。

 両者ともエルメリアと同格であり、彼女以上に経験を積んでいるベテランだった。

 

 手強い飛竜、とは聞いていたがハンマー以上に強大な一撃を放つ手練れの大剣使いが二人いれば狩れない相手ではないと、その時はそう判断したのだ。

 

 エルメリア達はグラビモスについての情報をかき集め、話し合いを重ねて計画を練り上げた。

 シビレ罠に閃光玉、これまでも狩りで使ったことのある大タル爆弾だけでなく更に上位の大タル爆弾Gも惜しみなく投入する。エルメリアにとっては間違いなく過去最大規模の大物狩りになる予定だった。

 

「さて、準備に抜けはないわね? ここから火山まではかなりの長旅になるけど、グラビモスを仕留めるためならそれくらい何てことない。気合い入れていくわよ!」

 

 エルメリアは普段よりも軽快な口調でそう言って、相棒のガノンに笑いかけた。ガノンは無言で頷き、二人の大剣使いもそれぞれ武器の手入れを終えて立ち上がる。

 計画は万全、後は実行あるのみだ。だが、その道のりは想像以上に過酷で、かつ予測不能な出来事に満ちていた。

 

 〈ミナガルデ〉から〈ラティオ火山〉までの旅路は、片道だけでも気の遠くなるような距離だった。

 まず〈ミナガルデ〉から竜車で八日かけて〈メタペット〉へ向かい、そこから〈ジォ・クルーク海〉を船で三日南下して〈ジォ・ワンドレオ〉に到着。さらに竜車に乗り換え、十五日前後でようやく火山の麓にある小さな村〈ン・ガンカ〉に辿り着く。およそ一ヶ月の旅路だ。

 こんな遠征はエルメリアにとっても初めてだったが、打ち倒した〈鎧竜〉の甲殻を剥ぎ取る未来を想像すれば、長い道のりも苦にはならなかった。

 

 遠方への狩猟となるため、近場の狩猟区へ行くときとは逆に、竜車に積む荷物は最小限に抑えた。特に大タル爆弾や大タル爆弾Gのようなかさばるものは、〈ジォ・ワンドレオ〉で調達する予定だ。ギルドからの支給品も〈ン・ガンカ〉の支部で受け取る手筈になっている。荷物を減らすことで移動の負担を軽くしつつ、現地調達で効率を上げる──これがエルメリア達の作戦だった。

 

 幸運なことに〈ジォ・ワンドレオ〉までの道中は驚くほど平穏だった。竜車や船がモンスターに襲われることもなく、他のトラブルも一切起きなかった。

 エルメリアは少し拍子抜けしながらも、「これならグラビモス戦に全力を注げる」と前向きに考えていた。しかし、長い旅路で戦いの機会が全くないのも、それはそれで問題だった。

 

「このままじゃ腕が錆びついちゃうわ。ジォ・ワンドレオから先、ただ竜車に揺られてるだけなんて我慢できない。ねぇ、キャラバンの護衛仕事でも請け負わない?」

「……()いお考えかと」

「俺たちもそれで構わねぇ。最終目標は〈鎧竜〉とは言えこの長旅だ。道中で稼げるなら稼いでおきたい」

 

 エルメリアの提案に、ガノンも他の二人のハンターも賛同した。

 ジォ・ワンドレオで休息を取った後、彼らはさっそくン・ガンカへ向かうキャラバンに接触し、護衛の仕事を引き受けることにした。

 そして、そのキャラバンには物資を運ぶ商人や旅人だけでなく、エルメリア一行以外にもう一人、ハンターらしき男が同乗していた。

 

 ハンターの装備としては異端の騎士甲冑に、揃いの赤い大楯と大槍。懐に余裕がないのだろうか、錆止めを兼ねて鎧は黒く塗られている。目にも鮮やかだった白銀の鎧や金装飾は見る影もなく、かつての美しさは失われていたがエルメリアはそのハンターに見覚えがあった。

 名前はたしか、ノーチラス。だが、彼は護衛の仕事には加わらず、正規の運賃を払って相乗りしているだけの客だという。

 

 何をするでもなく壁に寄りかかり、ぼうっと出発を待っていた様子のノーチラスだが、エルメリア達に気が付くと軽く手を掲げて歩み寄ってきた。

 

「もしや、ミナガルデのドノンさんではありませんか? 護衛のハンターが貴方のパーティだとは思いませんでした」

「……ノーチラス、だったか」

「えっ、私のことをご存知なんですか?」

「……うむ」

「おぉ……あの高名なガノン・ドノンさんに名前を知ってもらえてるとは光栄です」

「………………」

「……えっと、旅の間はよろしくお願いします」

 

 そう言って手を差し出したノーチラスに対して、ガノンは日頃から(いかめ)しい顔をさらに険しく歪ませて口を閉ざしてしまった。握手に応じる気配もない。

 そんな様子のおかしいガノンを見かねたエルメリアは、二人の間に漂う微妙な雰囲気を打ち払うように、彼の前にその身を割り込ませた。

 

「ちょっと、パーティのリーダーは私よ! 挨拶なら私にするのが筋でしょうが!」

「……あなたがリーダー、なんですか? ドノンさんではなく?」

 

 ノーチラスは兜の奥からじろりとエルメリアを眺め、その視線が彼女の頭のてっぺんから足元までゆっくりと這うように動いた。まるで「こんな小娘がリーダーだと?」とでも言いたげな、疑わしげな眼差しに、エルメリアの怒りが一気に沸騰した。

 

「ハァ!? 今あんた、私を舐めたでしょ! ふざけんじゃないわよ!」

 

 エルメリアの声が鋭く響き渡り、ノーチラスは一瞬たじろいだ。慌てて手を振って弁解を始める。

 

「あ、いえ、誤解です! ちょっと驚いただけで……その、悪気はなかったんです。申し訳ない!」

 

 しかし、エルメリアの怒りは収まらず、拳を握りしめてノーチラスに詰め寄ろうとしたその時、ガノンが重々しいため息をつき、二人の間に割って入った。

 

「……お嬢様、怒りをお鎮め下さい。彼も言うように悪気があったわけではありません。それに、これから同じ竜車に乗るのですから。騒ぎを大きくしない方がよろしいかと」

「同じ竜車!? こいつと!?」

 

 エルメリアが目を丸くして抗議するも、キャラバンに同行する人数の都合上、結局ガノン、エルメリア、ノーチラスの三人は一つの荷台に押し込まれることになった。車内には、気まずい空気が漂い、エルメリアは窓の外を睨みながらも、内心ではまだムカムカを抑えきれずにいた。

 

 しかし、いざ旅が再開すると普段の旅では味わえない竜車が砂の上を滑って進む感覚は新鮮で、エルメリアは童心が蘇ってきたように心を踊らせていた。

 上下に揺れることなく景色が高速で流れていく光景は、砂上用のソリ竜車ならではだ。荷台に取り付けられている窓から体を乗り出して風を感じていると、徐々に怒りは薄れていった。

 

 ずっとこの感覚を楽しんでいたかったが、本格的に砂漠地帯に差し掛かると、さすがにモンスターとの遭遇は避けられなかった。ゲネポスやガレオスの群れが竜車に近づいてきたとき、エルメリア達はすぐに応戦した。

 ゲネポスは麻痺毒を持つ牙で襲いかかり、ガレオスは砂中を泳ぐように移動して奇襲を仕掛けてくる。経験の浅いハンターであれば手を焼く相手だが、エルメリア達が長旅で鈍った体を慣らすにはちょうどいい相手だ。

 エルメリアのハンマーがゲネポスの鱗を叩き潰し、ガノンのランスがガレオスの背びれを刺し貫く。大剣使いの二人も息の合った連携で敵を次々と仕留めた。しかし、ノーチラスは竜車から降りてこず、ただ静かに様子を見ているだけだった。

 

「護衛じゃないとはいえ、ちょっとくらい手伝ってくれてもいいのにねぇ」

 

 何度かそういったことを繰り返し、ずっと無言で座っている誰かさんに聞こえるようにエルメリアがそう呟いた矢先、事態は急変した。

 砂漠の奥から地響きが近づき、竜車の周囲で砂が不自然に盛り上がった瞬間、見たことのない巨大なモンスターが大口を開けて姿を現したのだ。

 

 砂中に潜み、巨大な口で獲物を丸呑みにする恐ろしい海竜種だ。馴染みのない地域を通るのだからと集めた情報の中にこのモンスターについての情報もあったが、遭遇するのは初めてのことだった。

 

 キャラバン全員が息を呑む中、誰が武器を構えるより早く動いたのは、意外にもノーチラスだった。

 

「ハプルボッカです! 噛みつき攻撃と砂ブレスに気をつけて、もし砂に潜ったら足を止めずに動き続けて!」

 

 彼は竜車から飛び降りると同時に、大口を開けて竜車ごと呑み込まんとするハプルボッカの口に向かって大タル爆弾を投げつけたのだ。

 ハプルボッカが現れてから動いたのではない、それが砂中から飛び出した時には、既に大タル爆弾を投げ放っていた。

 

(素知らぬ顔してた癖に、気がついてたってわけ!?)

 

 大タル爆弾を投擲する筋力もさることながら、ハプルボッカが地中から忍び寄る微かな振動を見逃さず、誰よりも早くその位置を見極め、最適な行動を取ってみせた。

 爆音、衝撃と共に砂が吹き飛び、ハプルボッカが地上に引きずり出される。

 驚くべきことに、ノーチラスは的確な先制攻撃で敵を怯ませ、エルメリア達に反撃の隙を与えたのだ。

 

「やるじゃない……あんた、ただの物見遊山ってわけじゃないわね?」

 

 エルメリアが感嘆の声を上げるも、ノーチラスはこう言って肩をすくめただけだった。

 

「まさか、たまたまですよ。それに情報収集くらいはエルメリアさんもやっているでしょう?」

「まあね。ハプルボッカ対策にちゃんと釣り竿も用意してあるわ」

「それはよかった。では、後はお任せします」

()? ……まぁ、狩りは四人以下でやるものだしね。その代わり、私たちが戦ってる間の護衛は任せたわよ!」

「えっ」

 

 そう言い残してエルメリアはハンマーを構え、ハプルボッカへと駆けて行く。残されたノーチラスはその背に伸ばしかけた手を下ろすと、小さくため息をついて荷台に置きっぱなしの武器を取りに行ったのだった。

 

「……絶対に仕事料ふんだくってやる」

 

 ハプルボッカとの戦いは長く続いたが、最後までノーチラスがその戦いに加勢することはなく。ハプルボッカが暴れる隙を狙ってキャラバンに襲いかかる小型モンスターの対処に専念していたので、エルメリアがノーチラスの実力を見る機会はついぞ訪れなかった。

 

 しかし、ノーチラスの初動がなければキャラバンは壊滅的な被害を被っていたかもしれない。そうなれば護衛依頼を請け負っているエルメリアたちも、道半ばでの撤退を余儀なくされていただろう。

 この偶然の出会いが、グラビモス戦への道筋にどんな影響を与えるのか──エルメリアはまだ知る由もなかった。

 

*1
(*フィールド〈森丘〉がある自然豊かな地方)




原作のエルメリアに匂いでハンターを見分ける能力はありません。
原作ノベルでは一ヶ月の間に火山に行って採掘して帰って来てますが、これは作中でシュレイド地方内の火山と名言されているのでラティオ火山とは別の狩猟区になります。
世界観が広がった今だと、描写されないだけでハンター達の移動距離って凄いことになっているので今作ではこうなりました。
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