ゆきて帰れぬ騎士かたり   作:水風浪漫

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前半と後半で寒暖差が激しいです。
誤字報告くださった方々、本当にありがとうございます。


サバ読みのノーチラス(ノーチラス視点 02)

 

 折れた鉄槍〈ナイトスクウィード〉を杖代わりにして、どうにか自力で歩くことが出来たガノンだったが、エルメリアがその小さい体で歩行補助に入ってもなお、移動には時間を要した。

 そのエルメリアも肋骨以外に右側鎖骨を骨折していた為、重量のある〈鎧竜〉の素材の入った袋はノーチラスが担いでいた。エルメリア達が死に物狂いで手に入れた数少ない戦果だ。いささか動き難くなるが、置いていくという選択肢はなかった。それに、袋の中には亡くなった二人の遺品も入っている。

 亀の如く遅々とした歩み。エルメリア達のベースキャンプへ向かう道中で小型モンスターが道を塞ぐ度に、それらを排除してからでないと安全に進めないというのも、余計に時間が掛かる理由の一つだ。

 

 それでも、数時間にも及ぶ道中においてガノンとエルメリアは、ほんの僅かにも弱音を漏らすことはなかった。

 日が落ちる前にベースキャンプに帰還できたのは、ひとえに彼らの頑張りによるものだろう。

 

 ガノンの鎧を脱がせ、キャンプに残されていた予備の回復薬と薬草を傷口に塗り、包帯でぐるぐる巻きにする。携帯食料と水をとらせて休ませる頃には、辺りはすっかり暗くなっていた。

 肉焼き用の携帯囲炉裏(いろり)はこういう時に便利だった。広げてから火打ち石で何度か火花を飛ばせば簡単に火がつくし、長時間燃やし続けても早々消えることはない。

 

「何か簡単に食べられる物を作りますから、エルメリアさんは休んでいてください」

 

 ノーチラスがベースキャンプの(そば)にある泉から水を汲んできて火にかけると、エルメリアがおもむろに口を開いた。

 

「ねぇ、ノーチラス。……あんた、あれだけグラビモスとやり合える力があるのに、なんでそんなにハンターランクが低いの」

 

 エルメリアの声は小さく、囲炉裏の火に照らされた顔は疲れ切っていた。折れた鎖骨を押さえ、息を浅くしながら言葉を絞り出す。視線はノーチラスではなく、揺れる炎に向けられている。

 ノーチラスは火を調整する手を止めてから、しばらく沈黙し、それから言葉を選ぶようにゆっくりと喋り始めた。

 

「……経験が足りていないんですよ。モンスターと戦う度に、あの強さに身が竦むんです」

「それで小物ばっかり狩ってるってわけ?」

「ドスランポスだって、十分大きいでしょう」

「話を逸らさないでよ」

「えっ、別に逸らしたつもりはないんですけど……」

 

 水が沸騰するまでは、まだしばらく時間がかかりそうだった。

 ノーチラスはエルメリア達が持ち込んでいる食材を確認するため、ボックスを漁りながら話を続ける。

 

「……誰だって、ランポスを初めて見たときは恐ろしいでしょう? それでも少しずつ腕を上げて、少しずつ狩る対象はより強く、大きくなっていく。

 エルメリアさんは、イャンガルルガというモンスターを知っていますか?」

 

 聞き覚えのない名前にエルメリアは首を振った。ノーチラスは静かに頷きながら、干し肉を千切ると、それを鍋に沈めていく。

 

「まだ、ギルドの本にも載っていませんからね。見た目はイャンクックによく似ているんですが、体が赤色ではなく暗い紫色をしているんです」

「それって、最近増えてきてるって言うイャンクックの亜種のこと?」

「いえ、亜種とはまた別のモンスターなんです。イャンクックよりも獰猛で好戦的、しかも尻尾には毒があります。

 まだ目撃例も少ないモンスターで、ギルドでもしっかりとした情報は掴めていないようなんですが……初めてイャンクックの討伐依頼を受けたとき、色々とアクシデントが重なって、そいつに殺されかけたんです」

 

 それ以来、ノーチラスの足は大型モンスターから遠ざかっていた。それでもドスランポス程度であれば戦えないことは無かったのだが、飛竜に対する根本的な恐怖心が、強く胸の奥に根付いてしまっていた。

 このままではいけないということは、ノーチラス本人も分かっていた。家に帰るためには、ミラボレアスに出会う必要がある。ミナガルデには架空のお伽噺として伝わっているようだが、伝説の黒龍が実在していることをノーチラスは知っていた。

 この世界で生きてきた土台もなければ、培われた人脈もない。身一つのノーチラスが黒龍の情報を得るためには、ハンターとして名を上げて、いつか現れる黒龍の予兆をギルドが掴んだときに、それを知ることが出来る地位を得るのが一番確実だと考えたのだ。

 それなのに、たった一度の敗北で怖気づいて、生き残ったにもかかわらず前に進めず、むしろ後退した。

 

「……殺されかけた? あんたが?」

「私を買ってくれるのは嬉しいんですが、実際の私はそんなに強くはありませんよ」

 

 事実、乱入してくるや否やあっという間にイャンクックを蹴散らし、イャンクックとは比べ物にならない素早さで襲いかかってきたイャンガルルガにノーチラスは圧倒された。

 無防備だったところに受けた初撃で吹き飛ばされた際、盾を手放してしまい、そこからは一方的な蹂躙だった。

 毒を浴び、火球に焼かれ、鋭い尾による宙返り攻撃(サマーソルト)をもろに食らい、散々に嬲られたノーチラスが生き延びたのは、その身を包む防具の性能と、いつまでも逃げ続けるノーチラスの姿に戦いを求めるイャンガルルガが興味を失うという、奇跡的な幸運が重なっただけだった。

 

 今回、ノーチラスが〈エピタフプレート〉を探し求めて火山に来たのは、プレートに刻まれた碑文を解読した人物が失踪したという、ゲームでの設定を思い出したからだ。

 かつて遊んだモンスターハンター(MONSTER_HUNTER)において、古代文明と関わりがある超常存在と言えば、ミラボレアス以外にノーチラスは知らなかった。それ故にどうにかして碑文を解読すれば、家に帰ることが出来るかもしれないと、そう期待したのだ。ミラボレアスに所縁(ゆかり)のある何かが自分を消しに来るのなら、そこから黒龍に繋がるかもしれないと。

 穴だらけの計画であることは理解していた。だが、これだけがノーチラスに残されたかすかな希望だった。

 

「まぁ、そんな理由(わけ)で、大型モンスターとの戦いは避けるようになりまして。ギルドの評価も正当なものなんですよ」

「だけど」

 

 エルメリアは手の中で木椀(もくわん)を遊ばせながら、じっとノーチラスを見つめた。囲炉裏の火がエルメリアの瞳に映り込み、疲労だけではない、細められた目には苛立ちが入り混じった光が浮かんでいる。ノーチラスは視線を逸らし、鍋の中で煮え始めた干し肉を木のスプーンでかき混ぜることに逃げた。

 

「だけど、今日、あんたはグラビモスと戦ったじゃない。それに私が見た限りだと、あんたはその……かなり強いと思う。私達がいなければ、あのままグラビモスを倒してたんじゃないかって思うくらいに」

「それこそ、運が良かっただけですよ」

 

 ノーチラスがそう呟くと、エルメリアの眉がピクリと動いた。彼女は痛む肋骨を押さえながら体を少し起こし、ノーチラスに向き直る。揺らぐ炎がエルメリアの顔に影を落とし、その表情は一瞬、怒りに染まったように見えた。

 

「……っんなこと、あるわけないでしょうが!!」

 

 エルメリアの声が鋭く響き、ノーチラスは思わず鍋をかき混ぜる手を止めた。エルメリアは息を荒げ、拳を膝に叩きつけるようにして言葉を続けた。手に持っているお椀からは、木が軋んで今にも壊れそうな音が鳴っていた。

 一方、ノーチラスは目を丸くしてエルメリアを見つめる。急なエルメリアの感情の爆発に、戸惑いを隠せなかった。

 

「じゃあ何? 私たちは運が悪かったから仲間を失って、運が悪かったからガノンは死にかけてるとでも言うの!?」

「い、いえっ。決してそんなつもりで言った訳では……」

「同じことよ! あんたは強かったから、グラビモスを返り討ちにして私たちを助けてくれた! 私たちは、弱かったからグラビモスを倒せなかった! ……そうじゃなきゃ、道理が通らないじゃないの」

「……本当に、その通りですね。すみませんでした」

 

 エルメリアの最後の一言は、誰にでもなく呟くようなか細い声だった。

 ノーチラスは静かに頭を下げ、エルメリアの言葉を噛み締めるように目を閉じた。エルメリアはその謝罪を聞いて一瞬言葉に詰まり、唇を噛んで視線を再び火の方へと戻した。握り締めた手はまだ震えていて、幾度か何かを口にしようとして閉じるのを繰り返す。怒りと悔しさが入り混じった感情が収まりきっていないようだった。

 

「なら、少しは自信を持ちなさいよ。あんたがそんなんじゃ、私たちの立つ瀬がないでしょ」

 

 ノーチラスは鍋を見つめたまま、ゆっくりと息を吐いた。

 エルメリアの言葉は、説教とも八つ当たりとも取れるような熱っぽさを伴っていたが、その奥に隠れた何かがノーチラスの胸に刺さっていた。

 確かに、今日のグラビモスとの戦いで、ノーチラスはエルメリア達を救うために強大な飛竜に立ち向かい、助け出し、そして生き延びた。イャンガルルガに敗れた時とは違う。地道に地力を鍛えることを意識してきた甲斐はあったということだろうか。少しずつでも、自分が強くなっている証なのかもしれない。

 

 エルメリアは苛立たしげに鼻を鳴らし、痛む肩を押さえながら毛布に(もた)れかかった。隠そうともしない不満げな表情から、エルメリアがノーチラスの弱気な態度に納得していないことは明らかだった。

 それでも、エルメリアがそれ以上追及してこなかったのは、それらを横に置いても助けられた恩があるからか、それともノーチラスの言葉や態度から何かを感じ取ったのかもしれない。

 

「まぁ、いいわ。今回はそれで我慢してあげる。でも次に会うときは、その気弱な態度、何とかしておきなさいよね」

「……善処します」

「何よそれ、まったく」

 

 エルメリアの声にはまだ棘があったが、どこか諦めたような響きも混じっていた。

 ノーチラスは小さく苦笑して、鍋をかき混ぜる手を動かし続けた。湯気と共に干し肉の香ばしい匂いが立ち(のぼ)り、キャンプに漂う重い空気を少しだけ和らげてくれるようだった。

 迎えの竜車が来るまであと二日。この仕事が終わる頃には、自分の中で何かが変わっているかもしれない――そんな予感が、ノーチラスの胸に静かに揺れていた。

 

 しかし、それはさて置き。ひとまずはエルメリアの機嫌をとるために、ノーチラスは使うつもりのなかった秘蔵の特産キノコを鍋に投入するのだった。

 

◆※◇※◆※◇※◆

 

 普通自動車免許を取得しているからと言って、ぽんとスーパーカーを渡されて初めから万全に乗り回せる人はいないだろう。

 それと同じで、ノーチラスが願い星の神さまから贈られた〝猛き炎〟の肉体は、運動不足に悩んでいた一般人が使うには余りに高性能な代物だった。

 

 まともな人間が扱う物とは思えない大きすぎる武器を片手で持ち上げて、金属の全身鎧を着たまま、普段の自分以上に軽やかに走り回ることが出来た。

 身長以上の高さの壁を腕の力だけで(のぼ)れたし、ただの(つた)を握って、断崖絶壁を何十メートルも這い上がることだって出来た。

 鎧を脱いだ体はまるで羽のように軽く、試しに力を込めてみれば軽々とリンゴを握り潰せてしまう。

 

 極限まで磨かれ、引き締まった肉体に当時は興奮したものだ。モンスターとは言え、自分の手で生き物の命を奪って解体するのに慣れるまでは少々時間もかかったが、生活の糧を得るために必死に繰り返していれば、次第に日常の一部に変わっていった。

 そして何よりも、モンスターの脅威からノーチラスを守ってくれる最高峰の武具。新米ハンターとして狩場に出て、モンスターを狩れば狩るほどに、神の恩寵の凄まじさを実感し、それが自分のものであるという事実に、どこか酔いしれていた。

 数少ない命の危機を感じたのは、初めて狩りに出かけたときに相対(あいたい)した、子供の為に身を挺して襲い掛かって来たアプトノス。そして肉食竜であるランポスと初めて戦ったときだけだった。その極僅かな経験でさえ、初めての実戦でパニックに陥っていただけで、落ち着いて自分を見れば強固な防具に守られたノーチラスの体は、傷の一つさえ負うことはなかったのだ。

 

 順風満帆のハンター生活。思っていたよりもあっさり帰れてしまうんじゃないかと、当時のノーチラスは――言葉を選ばずに言うなら、酷く思い上がっていた。

 

 その思い上がりが叩き潰されたのが、先に語ったイャンガルルガとの一戦である。

 

 〈黒狼鳥〉イャンガルルガ。

 ギルドが正式にその異名を与えるのはもう少し先のことだったが、ノーチラスはその鳥竜種をよく知っていた。仮想のポッケ村(MH_P2G)のハンターをしていた頃、その見た目の格好良さに魅了されて、必要な素材もないのに幾度となく戦いを挑んでいたのだ。

 イャンクックとの戦いの最中(さなか)、突如として空から降って来たその姿を確認した時、一瞬だが()()()()()()と聞けば、当時のノーチラスの目も当てられない不出来を理解してもらえるだろうか。

 その先は、わざわざ語る必要もないだろう。散々に弄ばれて、鎧の回復能力すら追いつかないまでに延々と嬲られ続け、イャンガルルガの気まぐれで命を拾った。そして、それ以来、ノーチラスは飛竜に挑もうとはしなくなった。

 

 しかし、今回の一件を振り返ってみれば、思い出したくもないひたすらに苦いだけだと思っていた経験も、確かに自分の糧になっていたのではないかと、ノーチラスは考えを改め始めていた。

 

 訓練場の教官に教えを請い、施設の片隅で体が覚えるまで基本の型を繰り返した素振(すぶ)りの日々。

 始めはブルファンゴ、慣れてくると()()()ランポス、それも慣れたなら群れのランポスを相手に訓練を重ねた、基礎的だが実用的な防御と反撃のコンビネーション。

 どれだけ練習を重ねても取り戻せない自信に、どうせ意味なんてないのだと半ば惰性で続けていた訓練だったが、自分では気が付かなかっただけで、ちゃんと己の血肉になっていたのかもしれない。そう考えながら、ノーチラスは自分の手のひらを見つめていた。

 

 神さまから授かったこの体も、鍛えることを怠れば少しずつ衰えていく。そのことに気が付いてからは、雑に元の自分の頭だけが移植されたようだった体も、違和感なく自分の体だと思えるようになっていた。

 

「俺は強い……のかもしれない」

 

 少なくとも、自分が思っているよりは。

 あの日、暗がりのキャンプでエルメリアから叩きつけられた言葉を思い返しながら、自分に言い聞かせるようにノーチラスは時々、その言葉を呟いている。

 

 ラティオ火山から帰還して(はや)数日。エルメリア達の帰路の護衛を終えたノーチラスは、取って返す刀で火山へ戻り、自分のベースキャンプの撤収を終えていた。

 負傷しているエルメリアとガノンの世話は村のギルドに引き継がれ、ここ数日のノーチラスは何をするでもなく、疲れを癒すためにのんびりと過ごす日々を送っている。

 しかし、一日二日は村を見て回っているだけで暇を潰せたのだが、特に娯楽になる物も持ってきていない今は、本当にやることがない。

 

 時間を潰すためだけに態々(わざわざ)、療養中のエルメリア達を訪ねるのも気が進まず、そうして気が付くと、ミナガルデで過ごしていた頃と同じように、特に理由もなく武具工房に足を運んでいた。

 

「おぉおお……あっちのとは全然違う」

 

 工房のカウンターに置かれていた目録(カタログ)を手に取ると、ノーチラスは思わず目を輝かせた。

 ミナガルデで慣れ親しんだ――市場に流れていた型落ちの処分品をノーチラスも所持している――茶色い革張りの分厚い目録とは違い、手元のそれはイーオスの赤と黒の革を表紙に使い、紙を纏める紐が(あら)わになっている簡素で実用的な作りだった。

 装丁(そうてい)に凝るよりも中身に力を入れたような作りには、鍛冶が盛んなン・ガンカらしい無骨さが感じられる。ページをめくると、そこにはミナガルデの目録には載っていない武具の数々が並んでいた。

 

 ラングロトラの頑丈さと弾力を併せ持つしなやかな甲殻を使った防具。ヴォルガノスの溶岩のような色の厚い鱗を利用した耐熱性に優れた鎧。アグナコトルの硬い背びれを加工して研磨した、火属性の太刀。そして〈爆鎚竜(ばくついりゅう)〉ウラガンキンの最大の武器である顎から削り出した、見るからに重そうなハンマー。

 防具も武器も、どれも火属性に特化したものが目立つ。火山の麓に根付くン・ガンカの鍛冶技術が、これでもかと詰め込まれているのが素人目にも分かった。

 

 ノーチラスはページを繰る手を止められず、まるで子供の頃に初めて動物図鑑を手にした時のような興奮を覚えていた。

 いつの頃からか、モンスターの素材から作られる武具を調べたり、武器と防具の組み合わせを考えるのがノーチラスの趣味になっているのだ。

 

 イャンガルルガに敗れて飛竜への恐怖に囚われたあの日から、自分の装備を見直す中で始めたことだ。どう考えても現状より優れた装備なんてある訳がないので、最初はただの現実逃避だったのかもしれない。けれど、素材の特性や武具の性能を頭の中で組み合わせているうちに、それはノーチラスにとって一種の心の拠り所になっていた。

 ……ノーチラス基準では碌な娯楽がないこの世界で、かつてと変わらない楽しみ方ができる数少ない娯楽である、と言ってもいいかもしれない。

 

 ふと、工房の奥に置かれた〈爆鎚竜(ばくついりゅう)〉のハンマー〈ブラスナックル〉が目に入り、ノーチラスの脳裏にエルメリアの顔が浮かんだ。

 

 あの囲炉裏の前で、疲れ切った顔に苛立ちを滲ませながら、ノーチラスに「自信を持て」と言い放った少女。その姿を思い出すと、ノーチラスはあてもなく装備の組み合わせを想像するよりも、エルメリアが装備する武具を考える方が面白そうだと思った。

 

 エルメリアは機動力と視界を確保するために、胴と頭部には防具を装備していない。ノーチラスとしては理解しがたい思想なのだが、エルメリアに言わせてみれば、武器と防具はその目的に応じて適切に運用するのが最善なのだとか。

 そんなエルメリアの事情を考慮しながら、ノーチラスは目録に目を滑らせる。

 

 例えば、ドスイーオスの皮を用いた〈イーオスーツ〉はどうだろう。

 全属性に耐性があるが、中でも火耐性に優れており、胴装備は頑丈な服のような見た目の通り、重量も鎧に比べると軽量だ。しかし、腕を覆う分厚い袖にはそれなりに重さがありそうだし、だぶついた袖はハンマーを振り回すときに邪魔になるかもしれない。

 いや、それならば近いデザインの〈ガブラスーツ〉の方が適しているだろうか。

 こちらも全属性に耐性があり、特に龍属性耐性に秀でている。加えて〈毒耐性〉があるイーオスーツとは違い、より汎用性が高い〈アイテム使用強化〉のスキルが付いてくる。

 

 ノーチラスは目録を手に持ったまま、工房の片隅で思案にふけっていた。

 自分の装備を変えるつもりはない。けれど、エルメリア達が傷を癒して、再び立ち上がる日を想像すると、不思議と胸の奥が熱くなった。

 次に会うときは――と一方的に結ばれた約束が耳に蘇り、ノーチラスは小さく笑みをこぼす。

 

 折角だ。ここでいくら考えていても、決定を下すのはエルメリアである。いくつか候補を抜粋して、実際に本人から意見を聞いてみることにしよう。

 ノーチラスはハンターノートの白紙(ページ)に目ぼしい装備の性能、イラストを書き写すと、気分も新たにギルドの診療所に向かって歩き始めたのだった。

 

 なお、火属性耐性が突出していたので、これから多くの飛竜と戦う上での一押(いちお)しとして〈コトルメイル〉*1を提案したノーチラスは、元々厳つい顔つきのガノンから、鬼神が憑依したかの如きすさまじい形相で睨みつけられる羽目になった。

 

*1
(*非常に露出度が高い装備。胸元くらいしか隠していない。)

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