ゆきて帰れぬ騎士かたり   作:水風浪漫

9 / 9
原作みたいに狩りの流れを丁寧に書いていたら、とても長くなりました。文量的には二話分くらい。



何も知らないノーチラス(フリーダ視点 01)

 

 走り出して数時間。ミナガルデ周辺の乾燥地帯を抜け、緑豊かなアルコリス地方を通過している頃、竜車の荷台は湿った木の匂いと、どこか遠くから聞こえてくる鳥の鳴き声、そして時折響く雷の音に包まれていた。

 

 フリーダは手狭な荷台の一画(いっかく)に腰を下ろし、膝に乗せた片手剣を意味もなく撫でながら、雨音に耳を澄ましていた。目の前に座るノーチラスは足元に置いた槍をじっと見つめ、時折眉を寄せて何かを考え込んでいるようだ。

 その沈黙には、どこか重いものが潜んでいるようにフリーダには感じられた。到着後の仕事について思案しているのか、それとも何か気がかりなことでもあるのか。もしかすると全く別のことかもしれないが、フリーダには分からなかった。

 

 右隣に座るナディアは、膝を抱えて小さくなっている。ナディアの白いランポス装備は荷台の薄暗い中でも不自然なほど輝いていたが、その持ち主である彼女は、まるで迷い込んだ子猫のように体を縮こまらせていた。

 

 視線を泳がせ、指先で髪を(いじく)るのは癖なのだろうか。無言で息を(ひそ)めながら、時折、ちらちらとノーチラスやフリーダのことを窺っている。視線には気が付いていたが、わざわざ(とが)めたりはしなかった。ナディアの異常に落ち着かない仕草は、単純に緊張に()るものなのか、あるいは何か他の理由があるのか。それも、やはりフリーダには分からない。

 酒場でナディアが声をかけて来たときは「緊張しいな(ひと)なんだな」という程度の印象だったが、どうやら受付嬢の人が言っていたような単純(シンプル)な人物ではないらしい。……だけど、出発してから時間が経つにつれて、どんどんと体を丸めて小さくなっていくのを見ているのは、ちょっと面白かった。

 

 隣から、ぐぅ~……、と(ほろ)を打つ雨音にも負けない大きな音が聞こえたのは、そんな時だった。

 フリーダの片目が、思わず彼女に注がれる。音の(ぬし)であるナディアは、顔を真っ赤にして更に縮こまっていた。

 

「す、すみません……っ」

 

 消え入るような小さな声だったが、視界の端でナディアの言葉にノーチラスが口元を緩めるのが見えた。

 

「そう言えば、急いで荷物をまとめての出発だったので、昼食を取っていませんでしたね」

「……お昼どころか、朝ご飯もあんまり食べてないです」

「……もしかして、酒場で(かじ)っていた干し肉しか食べてないんですか?」

「ご、ご飯を頼むための、お金も無くて……へへへ。で、でも、大丈夫です。慣れてますから、あんまり気にしないで下さい」

 

 ……見たところ、自分より四、五歳ほど年上に見えるのだが、どれだけギリギリの生活を送っているのだろうか。

 フリーダは商人の家の生まれだ。それもあって、金銭の取り扱いと管理については殊更(ことさら)に気を配っている。その為、食事に事欠くまでに手を打たなかったナディアの感覚は、フリーダには理解し難いものだった。

 

 それはさておき。

 日が落ちてくれば夜営の準備に取り掛かるので、全ハンターの野宿のお供こと〈こんがり肉〉も用意できるのだが、流石に今は難しい。ギルドの支給品を漁れば人数分の携帯食料も用意されているだろうが、狩りが長引くかどうかも分からない内から手を出すのは避けたかった。

 そのうち、膝に顔をうずめてしまったナディアのお腹から再び、きゅうぅぅ……とひもじそうな音が聞こえてきて、フリーダは仕方なく傍らに置いてある自分の鞄を漁り始めた。

 

「これ、良かったら食べて」

「い、いいんですか!?」

「えぇ、空腹は辛いものね」

 

 取り出したのは、フリーダが緊急時に備えて携帯している乾パン、干し肉と干し果物(ドライフルーツ)、ナッツのセットだ。身動きが取れない等の、思わぬ事態に遭遇した場合に備えた緊急用だが、貴重品というわけでもない。今回の狩りの間は少し多めに携帯食料を持ち歩くことにすれば、それで代用品には事足りる。

 満腹にはなれないだろうが、あと数時間もしない内に日が落ちるので、それまでを(しの)げれば十分だろう。

 

 ナディアは慌てて受け取ると「あ、ありがとう。えっと……フリーダ……さん」と呟いて、もぞもぞと干し果物から食べ始めた。

 

「呼び(にく)いなら、呼び捨てで良いわ」

「へぇっ!? あっ……でも、うん。ありがとう、フリーダ、ちゃん」

「どういたしまして」

 

 ナディアを相手していると、どうしてか立ち寄った村で出会う子供達のことを思い出してしまう。年上だし、元気いっぱいの彼らとは似ても似つかないのに、どうしてだろうか。小さな乾パンを両手で持って口へ運ぶ姿が、どこか小動物を連想させるからだろうか。

 そんな他愛もないことを考えている内に、竜車の軋みに揺れる荷台には再び静けさが戻っていた。特に会話もなく、徐々に強さを増す雨音とナディアがパンを咀嚼する音だけが聞こえている。

 

 フリーダは、荷台後部に下ろされた雨避けの隙間から吹き込む湿った風を感じながら、ふと自分の過去を思い出していた。

 

 ……あの砂漠を進む竜車の中で、まだ次の町に着かないのかと文句を言っていた自分に、母が最期に分けてくれた干しレーズンの味。護衛のハンターたちの怒声と悲鳴。商隊の前に立ちふさがった、黒ずんだ鱗の巨大な〈砂竜〉。

 そして、半(げつ)型の頭部からこちらを見据える白濁した小さな目……砂漠の熱波と左目の激痛に(さいな)まれながら、生きる希望を失いかけたあの時──。

 

「すみません。ちょっと、お二人に相談したいことがあるのですが」

 

 雨音を子守歌に夢想の中へ沈んでいたフリーダを、ノーチラスの声が現実へ引き戻した。夢と(うつつ)の境にある、浅い眠りから帰って来たフリーダだが、眠ってしまっていたことは気付かれてはいないだろう。

 ノーチラスは「特に隠していたわけではないんですが」と前置きをしてから言葉を続ける。

 

「実は私、パーティを組んで狩りをした経験がないんですよ。私が依頼書を取ったので書類上(しょるいじょう)はリーダーになっているんですが、お二人にパーティでの狩りの経験があるなら、現場でのリーダーはお任せした方が良いのではと思いまして」

「私は……」

 

 フリーダは少し記憶を振り返ってから口を開いた。

 

「数える程度だけど、複数人(ふくすうにん)での仕事をしたことはある。だけど大きな商隊の護衛でのことだから、普通の狩りとは勝手が違うことが多いし、指揮を執ったこともない。どうしても、と言うなら断らないけど、あまり自信はないわ」

「そうですか……ナディアさんはどうです?」

 

 ノーチラスの問いかけに、ナディアは身を震わせた。ぽりぽりとナッツを(つま)んでいた手を止めて、サァっと、回復してきていた顔色が悪くなる。

 

「わっ、私ですか? む、無理ですよ……! 他の人との狩りをしたことは何度か、ありますけど、いつも誰かの募集に参加して着いて行ってただけなので……」

「でも、パーティでドスガレオスを相手にしたこともあるのでしょう? 私よりは相応しいのでは」

「い、イャンクックを一人で倒せるようになったのだって、最近のことなんですよ……? 単独(ソロ)でリオレイアを狩れるノーチラスさんの方が、私なんかよりずっと良いに決まってるじゃないですか!」

 

 リオレイアを単独で、という発言にフリーダの視線がノーチラスへと転じる。そうなんですかね、と少し気まずそうに首を捻っている表情からは、とてもそんな人物には見えなかった。

 ノーチラスのHR(ハンターランク)はフリーダよりたった二つ上なだけだ。確かにHR.7-卵刈り(エッグシーフ)とHR.9-骨被り(ボーンダスター)では受注出来る依頼が変わってくるのは事実だが……。

 フリーダはギルドに所属してはいるものの、その仕事の大部分は辺境の村々を回る護衛依頼が占めている。各村の村長を経由して受ける仕事はギルドの記録に残らないのでHRの昇格には影響せず、当然、フリーダのHRは活動期間に対しては低い方である。

 

 それ故、フリーダはHRが近いノーチラスの実力がそれ程のもの──飛竜を一人で狩れる程だとは、思ってもいなかったのだ。

 

 〈雌火竜〉リオレイア。対峙したことはないが、その対となる〈火竜〉リオレウスを一人で狩れるだけの実力を付けることが、ある意味フリーダの師とも呼べる人物から課された試練であり、今のフリーダの目標の一つだった。

 

「……まずは、戦うときの配置について決めてからの方が良いと思う」

「あぁ、確かに。立ち位置が分からないと、決めるに決められませんでしたね」

 

 「ちょっと気が急いていました」と軽く頭を下げるノーチラスに、気にしないで、と返してフリーダは話を続ける。

 

「私の知る定石なら、一番身軽な片手剣使いの私が攻撃と離脱を繰り返して、モンスターへの攻撃と攪乱(かくらん)を担う遊撃役。ボウガン使いのナディアさんが遠距離から私の援護を行い、機動力は低いけれど防御に秀でるランス使いのノーチラスさんは、いざと言う時のナディアさんの護衛役ね」

 

 「この場合、私に全体を俯瞰する余裕はないから、二人のどちらかが指揮をとることになる」と続けると、腕組みをするノーチラスが眉を寄せながら、頭を捻る。

 一方のナディアは、フリーダの言葉が終わるよりも早く「無理無理無理!」とでも言いたげに、無言で激しく首を振り始めていた。

 

「私としては、防御が堅いからこそ私が前線で戦うべきだと思うんですがね」

「何故?」

「ナディアさんのライトボウガンは、重量のあるヘビィボウガンとは違って素早く動きながらの射撃が基本です。であれば、同じ速さで追従できるフリーダさんが、ナディアさんの護衛に当たるべきではありませんか? 小型ですけど盾もお持ちですし」

「それは……あなたは、大丈夫なの?」

 

 確かに、ノーチラスの案には理屈が通っている。

 ライトボウガンはヘビィボウガンよりも一発の威力は劣るが、戦況に合わせて柔軟に立ち位置を変えられる対応力の高さに(ひい)でた武器だ。それをランス使いのノーチラスとセットで運用すれば、長所を殺すことになりかねない。

 

 前線に出るノーチラスの機動力の低さにしても、彼が持ち込んでいる角笛を使えば補うことは可能だろう。しかし、そうすると必然的にモンスターの攻撃はノーチラスに集中することになる。フリーダであれば適宜、距離を取ることで包囲されないように立ち回ることが出来るが、ノーチラスはどうだろうか?

 何かしら対応する術を有しているのかもしれないが、フリーダがノーチラスの実力を知らない以上、その懸念は解消されない。

 

「その程度であれば、問題ありませんよ。私もずっと一人でやって来ていますからね、多対一の状況には慣れていますので。それに実を言うと、ガードにはそれなりに自信があるんです」

 

 フリーダの疑念を明らかにすると、軽く笑いながらノーチラスはそう言ってのけた。余裕のある態度からして、嘘ではないのだろう。信じても良さそうだ。

 

 繰り返すが、単独で飛竜を狩れるのであれば、ノーチラスの実力は現時点のフリーダからは遥か高みにある。一年後であれば、自分もその域に到達していてみせる、と言うだけの気概と自信がフリーダにはあったが、それはあくまでも未来の話。

 実力のある者が戦いを牽引するか否かは、(すべか)らく人よりも強靭なモンスター達との戦いに()いて、戦況を左右する重要な要素の一つである。もし無理にフリーダ達の動きに合わせることになれば、逆にノーチラスという戦力を抑えつける結果にもなりかねない。

 

 それに依頼人の状況を思えば、今回の依頼に失敗は許されない。

 これは無辜(むこ)の人々の為に、両親の願いを振り切ってまでハンターの道を選んだフリーダの信念にも関わることである。依頼人の為に全身全霊を尽くし、助けを求める人に決して背を向けないことは、何を置いても譲れない彼女にとっての聖域と呼んでも良い。

 

「分かった。私もあなたの案の方が筋が通っていると思う」

「では、指示役は……」

「それは私がやるわ。ナディアさんには、出来るだけ前線の援護に集中してもらいたい」

「助かります」

 

 ちらり、と視線だけを横へ向けると、あからさまに安堵した様子でナディアが口元を緩ませていた。

 

「よ、良かったぁ……」

「でも、私達はお互いの戦い方も何も知らないから、危険と判断した際の撤退指示や、罠や閃光玉を使う判断に限らせてもらいたい。不用意な指示であなた達を混乱させたくないわ」

「それで構いません」

「わ、私も、それで大丈夫です」

 

 二人の同意を得られると、フリーダはほっと息をついた。

 護衛の仕事に臨む際は、いざと言う時に助けが必要な人を見落とすことが無いようにと、平時から全体の状況を把握するように心がけている。しかし、複雑な指示を出す必要はなさそうだが、全体の指揮を執ることになるのは初めてのことだ。

 胸の奥から溢れる不安が消えることはない。それでも、一段上のハンターに成長する為の重要な(かて)になるだろうという予感が、どこからかフリーダの胸に居来(きょらい)していた。

 

 偶然、そこに居合わせただけの縁もゆかりも無い狩人三人組。たった一つの依頼を共にする為だけの繋がりだったが、この出会いがフリーダにとって忘れ難い一狩りとなることを、今の彼女には知る由もない。

 

 収まる気配のない風雨の中を進む竜車が、山肌に空いた洞穴へと身を隠す。あまり深くはないが、火を起こして体を温めるにはむしろ丁度良い広さかもしれない。

 今夜はここを野営地として、一晩を明かすことになる。到着までの道のりは未だ長い。

 

(明日には雨が()むと良いのだけど)

 

 荷台から下りて体を伸ばしていたフリーダは、荒れる空の先、山にかかる重く沈んだ雲を静かに見つめていた。

 


 

 幾度目かの夜が明け、雨は一向に止む気配を見せなかった。

 それどころか、夜半過ぎに到着した宿営地(ベースキャンプ)で朝の光が差し込む頃には、まるで空の裂け目から注ぎ込まれるかのように、激しい大雨が降り始める始末。

 アルコリス地方の丘陵(きょうりゅう)地帯を抜け、竜車はさらに東へと進んだ。湿度の高い沼地帯に足を踏み入れると空気は一変し、地表から昇り立つ腐った木の根と湿った土が織りなす重い香りが鼻を突き、息をする度に肺にまとわりつくようだった。

 

 フリーダは防具の上から被った雨避けの外套のフードを深く被り直し、足元の泥濘(でいねい)に気をつけながら進んでいた。

 先頭を歩くノーチラスは、ランスを杖代わりに時々地面を突きながら、慎重に足を運んでいる。外套の(すそ)から覗くノーチラスの装備は泥で汚れ、雨水が(したた)り落ちる度、ランスの先端がぬかるみを掻き分ける音が響いていた。

 

 沼地は、火山地帯ほどではないが危険性の高いモンスターの巣窟として知られる場所だ。今回の狩猟対象であるゲネポス以外にも、強力な毒を扱うイーオスやリオレイア等、種族を問わず数多くのモンスターが確認されている。

 

 その狩猟区の表面を覆うのは、泥に濁った水溜まりと、腐りかけた落ち葉が堆積した柔らかい土壌。所々に生える背の高い(あし)や、(つた)のように絡みつく毒々しいキノコの群生が、フリーダ達の行く手を遮る。

 空は低く垂れ込めた灰色の雲に覆われ、雨粒が葉を叩く音が絶え間なく続き、遠くには霧が立ち込める洞窟の入り口がぼんやりと見えるだけだった。

 

 黙々と進むノーチラスの後ろを、ナディアが必死の面持ちでついて行っていた。ナディアのライトボウガンは外套の上に固定され、時折手を伸ばして水を払ってはグリップの握り具合を確かめる仕草が、彼女の緊張を物語っていた。

 大雨に見舞われた湿地帯の地面は特に厄介で、浅い水溜まりが底なしの泥に繋がり、一歩踏み外せば膝まで沈み込んでしまう。ナディアの足がそんなぬかるみに捕らわれ、ずぶりと音を立てて引き抜かれる度に、小さな呻き声が雨音に混じる。

 

 「ううっ……泥の中に何かいる……?」と独り言のように呟く声が、フリーダの耳にまで届いていた。

 

 沼地という環境に雨天が合わさった空気は、酷い湿気を帯びていた。汗と雨が混じり合ってインナーが肌に張り付き、時間の経過に伴って息苦しさを増していく。

 遠くで、毒々しい紫色の毒テングダケが雨に打たれて胞子を撒き散らしているのがフリーダの目に入った。大雨の中でも(かす)かに漂っている腐った卵のような匂いは、硫黄によるものだろうか? 降りしきる雨の数少ない利点として、平時であれば地表に顔を出している毒沼が洗い流されているが、近くに別の毒素溜まりでも生じているのかもしれない。

 

「……外ではこれ以上の成果は期待できなさそうですね! やはり、洞窟を調べる他ないようです!」

 

 後方へ振り返りながらノーチラスは声を上げると、左手のランスで遠方に見える洞窟を指し示した。

 

 多少の雨であれば元気に空の下を闊歩しているモンスター達も、これだけの大雨に見舞われては避難を余儀なくされるのだろう。事実、探索を始めて三時間ほどが経過しているが、未だにゲネポスの一匹も見つけられないでいた。

 フリーダ達にしてもホットドリンクが無ければ、既に体温を奪い取られ、まともに動くことも出来なくなっていた筈だ。

 

 最後尾を務めるフリーダは、腰に()げた片手剣の柄に手を添え、後方を警戒しながら進んでいた。

 洞窟へ足を踏み入れると、雨空の下とは違う底冷えするような冷気が足元を抜けていく。フリーダ達は外套を脱いで各々のポーチへと仕舞うと、足鎧を脱いで内側に溜まっていた水を流し出す。

 

「多くのモンスターが洞窟に逃げ込んでいる筈です。警戒を怠らないで下さい」

「は、はいっ」

「……」

 

 フリーダが無言で頷き返すのを認めると、ノーチラスは再び歩き始めた。足元を探る必要がなくなったからだろうか、獲物である大槍は背中に背負ってしまったが、右腕には赤の大楯を備えたままだ。

 

 遠のいた雨音と、ぽつぽつと天井から落ちる水滴の音を除き、不自然な程の静寂に包まれた洞窟内部は、しかし壁面にあいた大穴から差し込む日差しによって、ある程度の明るさは確保されている。

 後方への警戒を続けながら、フリーダは先を行くナディアとノーチラスの背中へ視線を投げかける。岩床を踏む硬質な足音にあわせて、ノーチラスの兜から後方へと垂れる白色の兜飾りが揺れていた。

 

 フリーダは歩みを進めるノーチラスの背中を眺めながら、ふと、出発前から気になっていた彼の装備に想像を巡らせていた。

 

 ノーチラスの装備は、西シュレイド地方の町々を渡り歩いて来たフリーダでも一度も目にしたことがない代物だ。

 鳥竜種の素材を多分に用いた防具を使用するフリーダやナディアと比べて、明らかに重い足音を響かせながら進む姿は、まるで幼い頃に買ってもらった絵本に登場していた、古い時代の騎士のようだ。

 雨に濡れた黒銀の鎧は鈍い光を放ち、左肩は厚い黒鉄の肩鎧に護られており、胸元に留められた深紅の(ふち)と煤黒色のサーコートが右肩を隠すようにして、膝裏までを覆っている。兜、足先、膝、腕間接を始めとする要所では、黒い錆止めの下に黄土色の装飾が顔を覗かせていた。……酷く()せているが、まさか元は黄金だろうか。

 

 フリーダの知る限りではあるが、少なくとも西シュレイド王国における騎士鎧の意匠には、ある程度の共通性がある。しかし、ノーチラスの装いは彼らとは似ても似つかないのだ。

 かつて両親を(うしな)う前、行商の旅以外を領都で暮らしていたフリーダは、何度となく本物の騎士を間近で見た経験がある。それは王家の直轄軍に属する騎士ではなく、ウィンバリー辺境伯に仕える騎士だったが、ノーチラスの騎士鎧は根本からして彼らとは異なっているようにフリーダには感じられた。

 それは、ノーチラスが持つ武器にしても同様だ。()じれた円錐形の巨大なランスに、全身を隠せる程に大きな赤いアーモンド型の楯(カイトシールド)。特に大楯の表面には鎧と同じように、黄金の輝きを隠すように黒く染められた紋章が描かれていた。

 

(仕える主君を失った騎士は、武具から主家を示す紋章を消すのよね……)

 

 どこかで聞き齧った知識を思い出しながら、フリーダは再度、ノーチラスへと視線を飛ばす。意識して見ると、背に揺れるサーコートにも(うっす)らと何らかの(がら)が浮き上がる。赤黒く染められているが、基調である煤黒色の中央には確かに紋章の痕跡があった。

 

(どこか、シュレイド王国とは別の国に仕えていた騎士なのかもしれない。だとすると、貴族だった可能性もある? でも、そうだとして、どうしてミナガルデでハンターをやっているのかしら)

 

 そんなフリーダの疑問に答えてくれる者はいない。

 必要以上に個人の過去を探らないことは、ギルドに属するハンターにとっての不文律だ。本人に聞いたとて、もしフリーダの想像通りだったとしても、正直に教えてくれるとも思えなかった。

 

「──ッ! 止まって下さい……!」

 

 背後を警戒しながら、前方へ後ずさるように進んでいたフリーダの意識が、ノーチラスの声で一気に前方へと引き戻された。

 

「あれって、ドスゲネポスですか……?」

 

 その視線の先にあるものを見て、ナディアが声を漏らす。言葉だけを聞けば、まるで初心者のそれだが、困惑の滲む彼女の疑問を一笑に付すことは出来なかった。

 

「遠目からですが、あの二又の鶏冠(とさか)を見るに恐らくは」

「動きがない……たぶん、死んでいるわ」

「な、何でもう死んでるんですか……? 私達、まだ何もしてませんよ……!?」

 

 角を曲がった先。水溜まりの中に、黄と緑の縞模様を持つ大型の鳥竜が横たわっていたのだ。

 

 

 

 洞窟の空気が一層冷たく感じられた。湿気と僅かな腐臭、強い鉄臭さが混じり合い、フリーダの鼻をつく。

 慎重に近づいて行くと、その遺骸の細かな状態が確認できた。ドスゲネポスの遺体は水溜まりに半ば沈んでおり、黄と緑の縞模様の鱗には無数の細かい裂傷が刻まれていた。喉元の傷が致命傷となったのだろうか。喉から胸にかけてを鋭く引き裂かれた傷跡から零れる黄色(脂肪)の粒と赤黒い血が、水と混じって薄く広がっている。

 

 フリーダは抜き放った剣を握りしめたまま、遺体をつぶさに観察していた。全身の傷口は鋭いがどれも浅く、そして数が多い。まるで何者かが執拗に切りつけたかのようにも見える。

 丁度、フリーダがハンターになり立ての頃に、這々(ほうほう)の体で仕留めたランポスの姿によく似ていた。一撃では大した負傷に成り得ない攻撃を、数えきれないほど繰り返すことで無理矢理その命にまで届かせたような、そんな傷跡である。

 

 フリーダは周囲の岩床や壁面に素早く視線を走らせる。そしてもう一つ、奇妙なことに気が付いた。

 

「変だわ、ゲネポスの死体が一つもない」

 

 ゲネポスは群れで狩りを行うモンスターだ。リーダーのドスゲネポスがこの有様であれば、取り巻きのゲネポスも応戦した筈。なのに、ここには倒れ伏すドスゲネポス以外に、ゲネポスの痕跡――血痕、骨、鱗――が一切見当たらない。

 

 モンスターの遺体は腐食が早い。何も手を加えないのであれば、死後、数時間もすれば腐敗が始まり、翌日には殆ど跡形もなく分解される程である。無論、甲殻や骨のように分解され難い部位もあるので、全てがそうであると一概に言うことはできないのだが……。

 実際、このドスゲネポスも既に一部で腐敗が始まっていた。ゲネポスがドスゲネポスよりも先に殺され、その分早く腐敗し、分解されていたとしても、一切の痕跡……骨や血痕の一つも見当たらないのは、あまりにも不自然が過ぎる。

 

「どこかで飛竜に捕まって、ここで殺されたんでしょうか……?」

「……その可能性もあると思う」

「だとすると、何の仕業でしょう? リオレイアやリオレウスにしては、一つ一つの傷が小さい。イャンクックがこの辺りに出ると言う話は聞きませんし……まさか、イャンガルルガ? いや、ガルルガなら、運ぶなんてまどろっこしい真似はしない筈……。ナルガクルガ……はシュレイドにはいないし」

 

 傷の様子から他のドスイーオスやドスランポスと縄張り争いの可能性がフリーダの脳裏を過ぎったが、であれば、やはり配下のモンスターの痕跡が無いのが気がかりだ。

 イーオスとの争いによって一方的にドスゲネポスが倒された後、毒を負ったが死んではいなかったゲネポス達は逃走した……というシナリオを想像したが、それは流石に都合が良すぎる。それに、ドスゲネポスには毒を浴びた痕跡は見当たらない。

 

「た、たぶんなんですけど、やったのは飛竜じゃないと思います」

 

 膝をついて検分を続けていたノーチラスの後ろで、ナディアが小さな声を張り上げてそう言った。自然とフリーダとノーチラスの視線が向けられ、ナディアは緊張した面持ちで喋り始めた。

 

「私、危ないモンスターに出会わないように、飛竜については結構、勉強してるんです」

「うん」

「リオレイアやリオレウスなら、もっと効率的に仕留めると思います。こんな、まるで弄んだような傷はつけません。ただ、幼竜に狩りを覚えさせるための練習台にしたなら、話は違うのかもしれないですけど、この辺りに巣は無いですし……」

「それなら、誰がやったのかしら」

「そ、それは……分からないです。ごめんなさい……」

 

 ナディアは身を縮こめて、視線をドスゲネポスの遺体から慌てて逸らした。その声には「知識をひけらかしてしまった」と勘違いしているのか、見当違いな羞恥心とフリーダの問いに答えられない悔しさが入り混じっているようだった。

 フリーダはそんなナディアの様子を眺めながら、彼女がこれ以上、必要以上に縮こまらないようにと胸の内で祈っていた。

 

「ですが、筋は通っています。〈火竜〉の仕業ならブレス痕が一つも無いのは奇妙ですし、バサルモスやグラビモスによるものなら、もっと酷く損傷している筈。ゲリョスではこんな細かい傷は負わせられませんし、フルフルであれば電気ブレスによる火傷痕が残っている筈です」

「……でん、き? それは、どういった物なの?」

 

 眉をひそめ、フリーダはノーチラスの言葉を反芻する。

 ノーチラスの発した単語は、フリーダにとってまるで聞き覚えのないものだった。どこかの酒場で、ハンター達が口にする噂話や、行商の道中で耳にした学者風の旅人の話の中で、ちらりと耳にしたことはあったかもしれないが、少なくとも彼女の記憶には残っていない。

 

「電気とはかみな──」

「で、電気っていうのは、ほら、たまに鎧に触った時にバチンって鳴ることあるじゃないですか? ……ありますよね?」

 

 何かを言おうとしていたノーチラスに先んじて、ナディアが説明を始めた。

 

「えぇ、砂岩地帯でよく起きるやつよね?」

「あれが、電気です」

 

 フリーダは記憶を辿り、砂漠の乾燥した空気の中で、金属の鎧や剣の柄に触れた瞬間に感じるあの小さな衝撃を思い出した。チリッと音を立て、指先に軽い痛みが走るあの感覚。だが、あれがモンスターの力とどう結びつくというのか。

 フリーダの視線が、ナディアからドスゲネポスの遺体へと移る。あの小さな〝バチン〟が、モンスターを仕留める程の力を持つとは、にわかには信じ難かった。

 

「それが、電気なの? あんな弱い力で、フルフルは狩りが出来るの?」

 

 ナディアは少し慌てたように手を振って、言葉を繋いだ。

 

「えっと、フルフルの使う電気はもっと強いらしくて……見た目は白い光みたいで、フルフルはその光を全身から放ったり、口からブレスにして飛ばせるらしいです。な、生身で浴びたら、即死するくらいの威力だとか……生き残っても、しばらく体が動かなくなるそうですよ」

「それは……危険ね」

「『死の光』って、呼ばれているらしいです。動けなくなったところを、生きたまま飲み込まれた人が何人もいるとか……」

 

 フルフル。聞けば聞くほど、恐ろしいモンスターだ。フリーダの脳内で巨大な口を広げる(おぞ)ましい飛竜のイメージが浮かび、思わず顔をしかめてしまった。

 そんな話の終わりに合わせたように、ノーチラスが検分を止めて立ち上がる。

 

「……今はフルフルのことはいいでしょう。とにかく、これからどうするかです」

 

 剥ぎ取ったドスランポスの証明である特徴的な鶏冠(とさか)を一つ、素材袋へと仕舞い込みながら言葉が続く。

 

「ドスゲネポスの討伐は、変則的ですが達成されたとして良いでしょう。残るはゲネポスの掃討だけですが……私は、この沼地に潜むモンスターについて、調査を行うべきではないかと思います」

「えぇっ……危ないですし、一旦撤退しませんか……?」

「ドスゲネポスの死因が不明なままでは、どんな不測の事態に遭遇するか分かりません。それに、この雨です。一度撤退するだけで、かなりの時間を浪費することになります」

「で、でも。私たちは調査の専門家ではないですし、ギルドの調査を改めて待った方が……」

 

 フリーダは二人の考えを受けて、自分なりに頭を巡らせていた。

 今回の依頼はゲネポスとドスゲネポスの討伐だが、依頼人の真の望みは薬を運び、届けることだ。状況は不安定だが、このまま探索を切り上げて薬を持っている商人に合流し、ミナガルデに帰還することも可能ではある。しかし、その場合は依頼は失敗扱いで報酬金は支払われないし、湿地帯を抜けるまでに正体不明のモンスターに襲われる危険(リスク)を残したままになってしまう。

 

 不幸中の幸いと言って良いのか、そのモンスターは飛竜ではない可能性が高い。であれば、探索を続行して遭遇したとしても、移動中に強襲されるよりもずっと危険性は低いだろう。

 それに、依頼を切り上げるにしても、想定外の事象に関しての情報を持ち帰れば、情報料としてギルドから報酬金の一部が支払われるかもしれない。お金が目当てで依頼に参加しているナディアにとっても、探索を続けるのは悪い判断ではないはずだ。

 

 フリーダがその考えを一つ一つ述べていくと、ナディアは眉を寄せ、膝を抱えて唸り始めた。そして数十秒の沈黙の後、顔を上げた。

 

「……続けましょう」

 

 ナディアは苦み走った口元に、瞳には決意と不安が同居しているような、何とも言えない表情を浮かべていた。

 

 探索は再開され、フリーダ達は更に洞窟の奥へ進んで行った。

 更に遠のいて行く雨音、(ひら)けた空間に岩床を踏む足音が響き、滴る水滴が静寂を乱す。隊列は変わらずにノーチラスが先陣を切り、フリーダが後方からの不意打ちを警戒し、そんな二人にナディアが挟まれる形だ。唯一の違いと言えば、各々が己の武器を抜き放っていることだろう。

 

 やがて、さして時間を置かない内に、洞窟の奥から(かす)かな唸り声が聞こえて来て、フリーダは剣の柄を握り締めた。

 曲がり角の先を覗き込むと視界の先に、洞窟の裂け目から差し込む薄暗い光を反射する黄緑の鱗を持つモンスターの群れが確認できた。

 

 ──ドスゲネポスだ。

 

 一般的な個体よりも一回り大きく、頭には二又の鶏冠(とさか)が誇示するように揺れている。その背後には、二十匹近いゲネポスが(うごめ)いており、雨を避けて洞窟へ逃げ込んでいたのだろうアプトノスの群れが、物言わぬ姿となってゲネポス達に食い漁られていた。

 

 フリーダは先ほどの遺体を思い出す。全身に刻まれた無数の傷、一方的な戦いを示唆する痕跡。

 

「ドスゲネポス同士のリーダー争いだったようですね……」

 

 ノーチラスの呟きにフリーダは頷き返す。

 

「数が多すぎる、群れの奪い合いもあったのかもしれないわ」

「げ、ゲネポスの死体がなかったのも、同種での争いだったからなんですね。なんて単純な答え……」

 

 「どうして思いつかなかったんだろう……」と、しょげるナディアの声にフリーダは──恐らくはノーチラスも──同じく、その可能性に思い至らなかった自分の未熟さに、胸を刺されていた。

 

「こうなったのなら、当初の予定通りに動きましょう」

 

 自分に言い聞かせるように告げながら、フリーダは気を取り直して剣を構える。いくらか雨に濡れしまったものの、〈サーペントバイト〉の切れ味に問題はない。

 フリーダの隣ではナディアが〈ショットボウガン・白〉の側面レバーを引いて弾丸を装填しており、ノーチラスは大槍を構え直して、低く腰を落としていた。

 

「では、行きます……!」

 

 戦いは、ノーチラスの突進から始まった。

 激しい足音を響かせながら、大槍を構えて一人、敵陣に突貫すると、開戦を告げる一撃が一匹のゲネポスの胴体を刺し貫く。足を止める慣性を利用して思い切り大槍を振り抜くと、胴体に穴を空けたゲネポスが弾けるように飛んで行き、(したた)かに壁にぶつかって地面に落ちた。

 

 振り抜かれた大槍が戻るよりも早く跳び掛かって来た次のゲネポスに対して、ノーチラスは右腕の大楯を叩きつけることで反撃する。頭蓋が砕ける鈍い音と共に地面に叩きつけられたゲネポスは、ビクンッと一度大きく体を跳ねさせると、それっきり動かなくなった。

 

 更に、振り抜いた姿勢のままだった大槍を反対方向へ再度振り抜くことで、不用意にノーチラスの射程距離に踏み込んでいた三匹目と四匹目のゲネポスをまとめて叩き飛ばした。

 まるでボールが跳ねる様に水平に吹き飛んだゲネポス達は仲間を巻き込み、もんどり打って地面へと倒れ込んだ。巻き込まれたゲネポス達がふらつきながらも立ち上がった一方で、直接ノーチラスに殴り飛ばされた二匹は、地に伏したまま立ち上がる気配はない。

 

 戦闘が始まってから、僅か数秒の間に繰り広げられた暴風のような猛攻。初めて目にするノーチラスの狩りに、フリーダは思わず息を呑んでいた。

 同じランス使いでも、フリーダの知るそれとは戦闘行動()()()()の速度と威力が一、二段階は優に違う。

 同じようにナディアも衝撃を受けていたのだろう。数秒遅れてから、思い出したように引き金が引かれ、ノーチラスを囲むゲネポス達へ弾丸が連続して飛んでいく。弾丸が鱗を穿(ウガ)ち、悲鳴のような唸りが洞窟に響いた。間断(かんだん)なく放たれる通常弾(つうじょうだん)が、確実にゲネポス達の集中を散らしていく。

 

 援護が始まったのを確認すると、ノーチラスは連続でステップを踏んで一気にドスゲネポスへ肉薄し、腰溜めにした大槍を一気呵成に突き出した。ドスゲネポスは咄嗟に後方へ跳び退いていたが、その胸には浅いながらも確かな傷が刻まれていた。

 

 後退したドスゲネポスが鋭い爪で威嚇するが、ノーチラスは怯まない。その傍らで群れのゲネポスがノーチラスへ襲い掛かるも、大楯が攻撃を弾き、大槍の反撃が彼らの鱗を削り取る。本人の自信に違わず、盾の扱いは巧みであり、背後からの攻撃すら危なげなく受け止めて、それでいて体勢を崩す様子は欠片もない。

 それどころか、攻撃を仕掛けたゲネポスの方が逆に盾に跳ね返されて傷を負っている姿は、フリーダの知る〝狩り〟と比べると、あまりにも異様な光景だった。

 

『ガードにはそれなりに自信があるんです』

 

 フリーダは初日に竜車の中で聞いたノーチラスの言葉を思い出していた。確かに、言葉通りその護りは鉄壁だ。あらゆる攻撃を大楯で弾き、逆に敵を傷つけるその技は、ランス使いの個人戦術の極致とさえ呼べるのかもしれない。

 

 〈双角竜〉ディアブロス、〈一角竜〉モノブロスをあえて岩壁に激突させることで、彼らの最大の武器である角をへし折る、という戦術が存在することはフリーダも耳にしたことがある。ノーチラスのあの異様な(さま)は、それを個人レベルで再現しているとしか思えなかった。

 

 戦闘ではノーチラスが終始ゲネポス達を圧倒しており、五分もしない内にゲネポスの大部分を討ち取り、ドスゲネポスとの実質的な一騎討ちにまで持ち込んでいた。

 しかし、流石に群れのボスともなると、ことは簡単には進まない。警戒を強めて、中々襲い掛かってこないドスゲネポスを相手にノーチラスも攻めあぐね、膠着状態が続いていた。

 

 この間、フリーダとナディアの方へ狙いを変えたゲネポスは僅かに三匹。

 その三匹も接近される前に、流れるような手捌(てさば)きで弾丸を散弾に切り替えたナディアの銃撃によって排除されていた。つまる所、戦闘が始まって以来、フリーダは一度も剣を振るっていないのだ。それどころか、密かに気合を入れていた指示役の仕事も機会がなくて何一つ行えていない。

 

「もう、後はドスゲネポスを狩れば終わりですね」

「……まだ狩りは終わってない。油断してはダメよ」

「あっ。は、はい……ごめんなさい……」

 

 ……しかし、確かにこの様子であれば、もうナディアの護衛を続ける意味はほぼ無くなっている。

 ならば自分も前線に上がって、少しでもドスゲネポスとの戦いに貢献しようか、とフリーダが考え、再び剣を握り直した──その瞬間。

 

 背後から、酷く聞き覚えのある咆哮が響き、足音がフリーダの耳に飛び込んできた。

 鳥竜種特有の甲高い鳴き声が洞窟に反響し、重なり合う鳴き声が空間を裂く。

 フリーダとナディアが素早く振り返ると、入口へと続く道から新たなモンスターの群れが、洞窟へ踏み込んできていた。

 

 くすんだ黄緑の体色、二本の後ろ足で疾駆する鳥竜が、どんどんと距離を詰めて来る。その数は少なく見積もっても三十は下らない。こうして手をこまねいている間にも、続々と後続が姿を現している。

 あまりの数にナディアが喉を引きつらせ、小さく悲鳴を上げたが、それ以上にフリーダが目を見張ったのは、群れの先頭を駆ける鳥竜()の姿だった。

 

 ただのゲネポスよりも二回りは大きな体躯に、頭部にはゲネポスとの格の違いを証明する二又の鶏冠(とさか)。それが視界に確認できるだけで二対八組。

 八匹か、それ以上のドスゲネポスの群れが、大量のゲネポスを引き連れてフリーダ達に迫っていた。

 




ノーチラスの使う百竜装飾品は〈盾撃竜珠〉なのです。

数字の表記についてのアンケートは僅差(86票対80票)だったので、以降は試験的に「五〇〇〇(5,000)」のような表記にしてみようかと思います。アンケートへのご協力、ありがとうございました。

……エルメリアのときと違って、フリーダとは実務的な話ばっかしてますね。そしてドスゲネポスは群れる(公式)
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※評価値0,10は一言の入力が必須です。参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

【青学三次】青学スパイ達の徒然なる日々【短編集】(作者:VISP)(原作:ブルーアーカイブ)

キヴォトスの裏で蠢く青資秘密学園、そこでスパイとして働く生徒達のちょっとした日々の様子。▼キヴォトスの治安に怯え、住民に襲われ、それでも最終章へ向けて彼女達は動き続ける。▼笑いあり、涙あり、バイオレンスにエログロ!▼それでも彼女達は決して止まる事は出来ない。▼遍く奇跡の始発点に向け、駆け抜けろ青学!▼本作はどくいも様作「青資秘密学園奮闘ログ」https://…


総合評価:2430/評価:8.21/短編:17話/更新日時:2026年04月16日(木) 23:11 小説情報

【青学三次】(自称)モブの日常掲示板(作者:掲示板物好き)(原作:ブルーアーカイブ)

キヴォトス転生者たちが好きなことして、少しやらかす話集です。▼本作はどくいも様の『青資秘密学園奮闘ログ』の三次創作となります。▼https://syosetu.org/novel/322798/


総合評価:3305/評価:8.67/短編:24話/更新日時:2026年05月06日(水) 20:00 小説情報

憑依者しかいないゲマトリアがキヴォトスの破滅を回避しようとする話(作者:シャンタン)(原作:ブルーアーカイブ)

人の心を理解するがために、咄嗟に出る提案が原作より悪辣な黒服▼生徒を護りたい意志が強いが、製作できるのは怪物関連なマエストロ▼生徒を護るために崇高に至ろうとする、生徒第一なベアトリーチェ▼テクストが解釈ができず、原作兵器が作成できないゴルコンダ▼何事にもいち早く気付くが、そういうこった!!なデカルコマニー▼事態を把握しているが、ゴルコンダがいるため、表舞台に…


総合評価:4429/評価:8.61/連載:14話/更新日時:2026年05月04日(月) 17:31 小説情報

【完結】陸八魔アルに転生しました(作者:パチモンアウトロー)(原作:ブルーアーカイブ)

そして失敗して反転して嚮導者になりました▼2026年05月03日(日) 18:00 本編完結しました▼2026年05月07日(木) 18:00 嚮導者の後日談完結しました


総合評価:10442/評価:8.87/完結:8話/更新日時:2026年05月07日(木) 18:00 小説情報

ソシャゲみたいな世界で「ここは俺に任せて先に行け」をやったら生き残ってどうしよう(作者:アサリを潮干狩り)(オリジナル現代/冒険・バトル)

特異な力に目覚めた十代の少年少女が、国や家族を守るために怪物相手に命懸けで戦うゲームのような世界。▼そんな終わった世界に転生して、仲間を守る為に敵を引き付けて死のうと思ったら生き残っちゃった。別れる前に色々言っちゃったしクソ気まずい。これどうすんの。▼※一発ネタです。そこまで長く続きません。


総合評価:15778/評価:8.58/完結:8話/更新日時:2026年04月05日(日) 00:52 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>