フロンティアスピリットウォーズ〜浪漫と脳筋男がゼロから始める傭兵プレイ〜 作:マスターBT
「なぁぁぁ!!勝てなかったぁぁぁ!!くやしぃぃぃ!!!」
「リュウ。うるさい」
「だってぇ……」
「だっても何もないよ。ここ、ファミレスだからね?僕達に向けられてる視線が痛い事に気がついてくれると嬉しいな」
見事な敗北を決めた次の日、俺のアドレスに動画のURLを送り付けてくるのと同時にファミレスに来る様に言ってきたのお前なんだからこれぐらいは許してくれってトラ。
必死に凌いで漸く勝ちの目を拾えたと思ったら、全然そんな事はなくてあっさりと地面に叩きつけられた挙句、よく頑張りましたねって感じの見逃しを食らったんだぞこちとら。
「悔して仕方がないんだよぉぉ」
「リュウは知らないと思うけど君が戦った相手、FSW最強の傭兵だからね。始めたばかりの君があれだけ食いついていける時点で十分なんだって」
「それ、トラから見せて貰ったスレ?にも書いてあったよな。具体的にどう強いんだ?」
実際に戦ったから強いのは分かるが、比較する基準が無さ過ぎて凄い凄い言われてもどう凄いのか全然しっくりきてないんだよな。
なんて事を思いながらズズッと下品だが、音を立てながら飲み放題のジュースを飲み干すと呆れ返りながらも、黒縁の眼鏡を直して解説する姿勢を作ってくれるトラ。
「何処から説明するべきかな……フルダイブ型のゲームが流行って色んなタイトルが現れては流氷の様に消えていく所謂、黎明期ってやつ。その終わり頃にFSWが出たのは知ってるよね」
「あぁうん。確か今から二、三年ぐらい前だっけ?」
「そう。その時期にFSWは一つの大規模イベントを開催したんだけど、まぁ色々と雑だったんだよね」
「雑?」
「あぁ。何せ参加者全員を一つの戦場に送り込んで最後まで立っていた者が勝ちってやつ。当時は今ほど流行っていないとは言え、イベントの参加者は一万を超える規模のイベントだった……あの最強と言われる傭兵が身につけてる純白の翼の様なバックパックはその一位になった証だよ」
「は?」
自分でも笑える程の間抜けな声が出た。
基準が欲しいとは思った……思ったけど、まさか提示された具体的な数値が大き過ぎて理解が追いつかない事態になるとは全く思ってなかったぞ!?
「勿論、今より機体のアセン研究とかは進んでないしやり込んでるプレイヤーも少ないから今、同じ事をして最強の傭兵が勝ち残れるかは分からないよ。でも、あの機体は傭兵という立場を選んでいるからこそ数々の戦場に出ているけど討ち取ったという報告は今もされていない」
帝国、連合、土着の三陣営に加えて俺がやられた様に傭兵同士が騙し討ちを狙うなんて展開もあっただろうにあの純白のFSは負けてないって事かよ……ヤバいな。
「そして
「……ヤバいな」
「そうだよ。リュウが戦った相手は──「ワクワクが止まらねぇなオイ!!トラ!!」──え?」
ん?何を呆けた顔をしてるんだよトラ。
俺の考えてる事が分からないお前じゃない筈だろう?──けど、仕方ねぇな!!俺の口から説明してやるか!!
「ワクワクするって言ったんだよ!!だってよ、そんなすげー奴に俺は一撃を与える事に成功したんだろ?なら、もっともっと強くなればアイツを超えるのも夢じゃねぇって訳だ!!くぅぅ……同じ傭兵を選んでる奴にそんなスゲェのがいるなんてやっぱ神ゲーだなFSWは!!」
思い出そうとすればいつでも鮮明に思い出す事ができるあのFSの綺麗な挙動。
想像する事しか出来ないが、アイツが白い翼を空に羽ばたかせ無数のFSを返り討ちにしている光景を考えれば胸の奥が熱くなってどんどん興奮してくる。
「うしっ!!こうしてる場合じゃねぇな!!早速、帰ってFSWで合流だトラ。もっと俺に色々と教えてくれ!!」
「……たくっ、もしかしたら心が折れちゃったかと一抹の不安があったけど杞憂だったな。じゃあ授業料として此処の会計はよろしく」
「金欠だぞ俺!?ぐぅぅぅ……だが、背に腹は変えられん!!分かった!!」
そうと決まれば伝票を掴み取り席を勢いよく立ち上がり、レジへと向かう。
もう俺の頭の中にはFSWにログインして戦う事しか無かったし、最強の傭兵の話を聞いてテンションが上がっていたから完全に注意力がなくなっていた。
「うおっと!?」
──だから曲がった先で車椅子に乗った女の子とぶつかりそうになった寸前で立ち止まれたのは結構奇跡だろう。
「ふふっ、危ないですよ。お怪我はありませんか?」
「あ、あぁ。大丈夫ですって、すみません!!本当は俺の方が真っ先に心配するべき場面で」
なんの因果だろうと思った。
俺がぶつかりそうになった車椅子の女の子はどこまでも白い印象を与える子で、車椅子の肘掛けに置かれた指先は病的なまでに白く細い。
「大丈夫ですよ。私の身が不自由なのは今に始まった事ではありませんし、本来ならこの場にいる事も無いはずでしたから」
「へ?それはどういう──」
「スズメ様!!」
彼女の奥、恐らくトイレへと続いている通路から背の大きな黒いスーツが似合う女性が走ってきて俺との間に入り込んでくると、キッと鋭い目付きで睨みつけてくる……えっと、俺は何もしてませんよ?
「冥さん。駄目ですよそんなに怖い顔をしてしまっては」
「……申し訳ありません。スズメ様を無理やり外へ連れ出した挙句、我慢出来なかったトイレに行っている間にこの様な事態に巻き込んでしまうとは……くっ、一生の不覚です」
「冥さん。貴女が考えている様な事は何も起きていませんから。少しお話をしていただけです。ね?」
明らかに一般の家庭では起きないというか、ファミレスで目撃して良い光景に脳みそが考える事を辞めつつあったところに彼女のフワリとした黒い瞳で見つめられ、話を合わせろと指令が出させるのが分かった。
「は、はい。そうなんですよ」
「……スズメ様と一体、どの様なお話を?」
「あ、いやそれはそのぅ」
不味いよ不味いよ!?この人、めっちゃ疑ってるじゃん!?どうしよう、取り敢えず話を合わせたけど具体的になんて言われるとなんて答えれば……下手な事を言えばサクッと殺されちゃいそうな雰囲気を発してるし!!
「
そう話す彼女の膝の上に置かれたポーチには『翼を模したキーホルダーにFSW』と書かれた文字があった。
「そ、そうなんですよ!!俺もFSWをやってるのでつい、嬉しくて!!」
こんな儚げな子がFSWをやるのかと思いつつ、全力で話を合わせ笑っていると冥さんと呼ばれた女性の目つきは以前として鋭いままだけど、雰囲気から少しだけ刺々しさが消えていくのが分かった。
「ふふっ」
その様子に安堵の息を溢すと車椅子の子──確かスズメと呼ばれていた子がそんな俺を見て微笑んでいたのが目に入り、恥ずかしさからか顔が熱くなってしまう。
「……そうでしたか。分かりました、失礼な態度を取ってしまい申し訳ありませんでした」
「いえ!!大丈夫です!!その、心配になる気持ちも分かりますから!!」
「ありがとうございます。それでは私達はこれで……帰りましょうスズメ様」
「はい。それでは
既に会計は済ませていたのだろう、二人は淀みのない動きでこの場を離れて行った。
「……またってどういう事だろう?」
「よし。面倒そうな時間は終わったね。帰ろうかリュウ」
「……トラさんや少しくらい助けてくれる優しさを見せてくれても良かったのでは?」
「ハハッ」
「こいつぅ」
絶対に俺に追いついていたのに一切、会話に参加せずにことの成り行きを見守っていたトラの脇腹を拳を叩き込みながら会計を済ませて俺達もファミレスを後にする。
この後のFSWの講義を絶対に有意義なものにしてやると意気込みながら、夏特有の雲一つない青空を見上げながらふと思った。
「……なんか既視感あるんだよなぁ」
感想などなどくれると嬉しいです!!