フロンティアスピリットウォーズ〜浪漫と脳筋男がゼロから始める傭兵プレイ〜 作:マスターBT
「チッ、折角転移場所を監視してたってのに外しちまった。まっ、動きからして
ガラの悪い人相に加え、キラキラの金色に塗装された実弾ライフルを構えているのはこのエリアに転移して来たばかりのRyuを狙った犯人で、今も舌舐めずりをしながらスコープの先で慌てて走り回る彼を収め続けている。
赤茶けた革のスーツを羽織り、肩には特徴的なハイエナをモチーフとした印を刻んでいる彼は所謂、新人狩りを行うプレイヤーでRyuの様に無警戒でやって来た新人プレイヤーを殺し、その装備を売り払う事で生計を立てているのだ。
「PvPが当たり前のゲームでしかもリアルマネーを賭けてるんだ。無警戒なお前が悪いよなぁ」
頭上に表示されるプレイヤーネーム『Tategami』から連想される雄々しさとは真逆の弱者を徹底して狙うスタイルの彼の脳内は既に、ニュービーの頭を柘榴に変えた後に手に入るアイテムを換金し焼肉を食べる理想の展開に支配されるのであった。
「……いや、いくら動いてるとは言え当たらなすぎだろ」
装弾数十発であるライフルをあと二発で、弾切れとなるほどに撃ち込んだにも関わらずスコープの先で元気に走り回っているRyuに対して、焼肉に支配されていた彼の脳みそは現実に帰ってきた事で異常を認識した。
このゲーム
「ニュービーがまさかな……」
そんな馬鹿なとは思いつつも、浮かれきった頭から一点、スコープの先に見えるRyuへと意識を集中させる『Tategami』であった。
なんだ?さっきからずっと飛んできていた攻撃が止んだぞ……諦めたのか?いや、それにしてはこうなんだか嫌な予感が首筋をゾワゾワと走ってるな。
「にしてもまさかゲームでこの感覚に助けられるとはなぁ」
多分、第六感って呼ばれるものなんだろうけど昔からこうヤバいとなる前に首筋の辺りがゾワゾワとする不思議な感覚があって、これがまぁ臆病な小動物レベルで敏感なんだよな。
体育の授業でドッジボールをすれば、狙われた瞬間にゾワっとするし交通事故に巻き込まれかけた時もこのゾワっとする感覚に助けられた。
だから従ってみたものの、この感覚ってゾワっとするだけで方向とかそういうのは分かんないんだよなぁ……だからこうして走り回るしかないんだけど。
「そろそろスタミナがやべぇ……!!」
走り始めてから少しして気がついたんだが、俺の視界の右上にある赤いバーと緑色のバーがあって走ってるとどんどん緑色のバーが短くなっていくのはスタミナって事だよな。
もう既に親指と人差し指を少し広げた程度の長さしかないしどうする!?スタミナ切れで立ち止まったら最後、頭パァン!されて終わりだよなこれ……
「不味い不味い……また首筋がゾワゾワし始めたし銃弾が飛んでくる!!」
なんだかんだ走り回ったお陰で最初の岩場地帯は抜けて、廃工場みたいなのが薄ら見えて来たしこのまま目指すのが正解か?
道中には破棄されたっぽい車とかもあるし、なんなら壊れたっぽいFSもある。
「残りはミリだな……あの車裏に間に合えば!!」
スタミナ切れが近いせいか足がガクガクと震えて来た足で、精一杯力強く地面を蹴り上げて車の裏目掛けて飛び込む。
「やっ──ッッ!!」
上半身が車の影に入って喜びの声を上げた瞬間、パァン!!っと銃声が鳴り響きガクンっと右足から力が失われて飛び込んだ勢いを殺す事が出来ずにゴロゴロと転がりながら車の裏に入り込むことになった。
右上を見れば赤いバーが二割ほど削られ、出血を示す様な血のマークが出ていた。
「……右足が撃ち抜かれて動きづらくなった挙句、これ出血デバフって言うのか。体力が少しずつ減っていくスリップダメージ」
ロボゲーだよねこれ?って言いたくなる作り込みだなぁおい!!
つか、不味くない?出血を治す手段とか知らないんだけど!?
『出血デバフは初期装備の中にある絆創膏や包帯と言った治療アイテムで回復出来るよ。但し、使う道具によって回復量が異なるから注意してね』
「おおう……なんとタイミングの良いチュートリアル。えーと……俺は持ってるのか?あ、あるな『期限切れの絆創膏』……使えるの?」
『期限切れの絆創膏』──衛生面に問題はあるものの、最低限の傷を塞ぐ分には問題のない品で出血デバフのみを解消する事が出来る。
但し、血を止めただけなのでちゃんとした医療行為を受けるまでの一時凌ぎに過ぎない。
「……まぁ、使えるな」
ポチッと使用してみれば撃ち抜かれた場所に四角い大きな絆創膏が貼られ、体力バーの下にあった血のマークが消えた。
足は依然、動きづらいが取り敢えずこれで出血死は避けられたみたいだな……あ、もう既に端の方とか剥がれかけてるけど大丈夫かなこの絆創膏。
「さて、とどうしたもんかな……」
スタミナはじわじわ回復してるけど、ここまで来たみたいに全力の走りをするには足もスタミナも足りないから廃工場まで逃げるのは無理だろうね。
なら、この場でどうにか頑張りたいところだけど俺が持ってる『ブラスター』は威力高いし、射程もそこそこあるとは言え狙撃してくる様な距離に対応出来るスコープは載せてないしなぁ。
「おい、ニュービー!!そこに居るんだろう!!さっさと出てこいよ!!」
「……大声を出して脅して来たのか。さっきよりは近づいて来てくれたんだろうけど……車から覗ける範囲には居ないな」
ずっと遠距離をしていれば有利な筈なのにわざわざ捨てて来たとなると、向こうも誰かに狙われてるのか?
いや、だったら大声を出すわけないか……となると、俺を倒して手に入る金より弾薬代の方が高くなりそうで嫌ったか?うん、これはなんかしっくりくるな。
「よし。賭けるか」
「何をするつもりか知らないけどよぉ!!さっさと出て来た方が身の為だぜ!!」
「俺の独り言が聞こえるぐらいには近くにいるんだなお前!!」
「……チッ、やっぱり単なるニュービーじゃねぇなテメェ」
首筋がゾワっとする。
片足で地面を蹴り上げ、その場から逃れれば隠れていた車の窓が派手に割れ銃弾が飛んできたと思われる方向には赤茶けた革のスーツを羽織り、トップを金色にしたソフトモヒカンの如何にも悪人ですと言うツラをしたプレイヤーネーム『Tategami』が、悪趣味な金色の狙撃銃を舌打ちと共にコッキングしているのが見えた。
「やっぱり避けやがったか!!」
「クソッ!!」
片足を引き摺った状態で今出せる全力で走ったところで逃げきれないのは分かっているが、ワンチャンスをモノにする為に壊れたFSの近くまで走る。
「ッッ!!」
「テメェ、後ろに目でもついてるのかよ!!クソが!!」
危ねぇ!!しゃがんだ瞬間、頭があった場所に銃弾が飛んでいきやがった。
だが、これでアイツは弾切れを起こしたな!!ナイフを取り出して向かってくる。
「その足じゃあ、逃げられねぇよ!!大人しく弾代になりやがれ!!」
片足を負傷して、引きずりながら逃げているせいで速度の出ていない俺と怒りに身を任せてはいるが元気一杯な『Tategami』──当然、俺が逃げ切れる訳もなく、壊れたFSのほど近くで俺はその場に座り込む。
「あん?漸く諦めやがったか」
「──悪いが諦めるのは性に合わないんだよ」
「テメェ、何を……おいおい!?正気か!?」
正気?正気に決まってるだろ。
これはゲーム、浪漫を形にするのには運も重要な要素なんでな……此処で俺の運を試させてもらうぜ。
『その槍みたいな銃は『ブラスター』シリーズの最新作で結構癖があるよ。先ず、トリガーを引いてもすぐには弾が出ずに中央の球体へとエネルギーが集まり、クルクルと回転が激しくなる。そうして二秒後ぐらいにやっと光線が出るんだけどその威力はFSの弱点に当てる事が出来れば耐久力を少しだけ削る事が出来るほど強力だよ』
「──お前の言葉信じるぜトラ」
俺から背を向けて逃げ出そうとしている『Tategami』を見ながら、ブラスターの引き金を引き続け溜め込まれた光線が壊れたFSの『ジェネレーター』部分を撃ち抜く──瞬間、轟音と閃光が俺を襲った。