砂に埋もれたもの
ピリリ.....ピリリ.....
機械的で不快な音が僕の意識を幸せな時間から引き剥がす。
「....はあぁ....もう朝かぁ.....」
起きたくない。布団が快適すぎる。このまま学校が来てくれたらいいのに。
...そんなことを考えていても、現実は変わらない。
仕方なく這いずりながらベッドを出る。眠気と争いながら僕は洗面台へと向かった。
起床からしばらく経ち、僕は制服に着替え、アビドス高等学校に行く準備を順を追って終わらせる。
「ネクタイよし、制服よし、はい、今日もかわいい!!」
姿見の前でいつもの言葉を口にし、玄関へと向かう。
家を出る前に必ずする、おまじないのようなものだ。
「っと、まずいまずい、忘れるところだった」
僕は一度部屋に戻り、2丁のM17をカバンの中へ詰めた。
「アビドス生徒会、書記の燐葉レイヤです!よろしく!」
初めてここに来た時の挨拶を思い出す。他人に与える第一印象は最初の3秒で決まる....とどこかで見たことがある。
無駄に元気な挨拶をかまし、よく見られようとしたのを覚えている。
だが、
「おいこのチビ!!やんのかあ!!?」
「いいでしょう!!2秒で終わらせてやりますよ!」
.....今となっては、こんな感じである。
言い争っているのは同じくアビドス生徒会、副会長の小鳥遊ホシノだ。
事の発端は些細な事だった。僕と生徒会長が仲良くJKトークに花を咲かせていたのだが、このアホ毛チビが「真面目に生徒会業務に取り組んでください。バカですか?」と言われたことだった。そのあとは、僕が売り言葉に買い言葉だった。
「おーいいぜやってやるよ!!!ユメ先輩が!!!」
僕は全責任を生徒会長である梔子ユメになすりつけ、先輩の大きな背中にそそくさと隠れた。
「えぇ~わたし~!?」
先輩ごめん、さすがにホシノに殴り合いじゃ勝てない。まじでごめん。
「はっ!!そうですよね!!私には勝てたことないですもんね!!」
かっちーん。
「やってやろうじゃねえかよこの野郎!!!」
僕は勢いよく先輩の背後から飛び出し、ホシノの前に立ちはだかった。
さすがにここまで言われて引き下がるわけにはいかない。僕にもプライドがある。あと個人的にこのガキいけ好かない。
「あとで後悔しても知りませんからね!!」
「それはこっちのセリフだ!!!」
そういってホシノと僕は拳を振り上げた。
「いたいぃ....」
2分後、僕の頬は真っ赤に腫れ、瞼の少し下からは血が流れている。
「もう~...レイヤちゃんは血の気が多いんだから...」
ユメ先輩はため息を吐きながら僕の顔に触れ、そっと絆創膏を貼ってくれた。
結果は惨敗。殴り合いは得意じゃないとはいえ、さすがに1発も入れられないとは思っていなかった。
渾身のグーパンチを躱され、その腕を引っ張られ床に叩きつけられた。その後は馬乗りでボコボコ。見かねた先輩が、ホシノの頭に一撃を食らわしたことで、この喧嘩は終結した。
これで通算0勝28敗。入学から一度も勝てずにもう数か月が経つ。
「あのチビが悪い。僕はユメ先輩と仲良くできればそれでいいもん」
「お互い仲良くしなさい。これは生徒会長命令です!」
むすっとした表情でユメ先輩は言う。
先輩の言っていることはわかる。このアビドス高等学校の生徒数は全て合わせて2桁程度。生徒会に至っては僕と先輩、そしてホシノの3人しかいない。その生徒会すらまともに機能しなくなったら終わりだ。
「...嫌です。先輩も、レイヤとも」
頭をそこそこ強い力で殴られたのか、涙を浮かべながら不服そうにホシノが言った。
「でも、私はホシノちゃんとレイヤちゃん、意外といいコンビだと思うけどなぁ~」
「「どこが!!」」
絶叫ともとれる大きな声が、生徒会室にこだました。
「はぁ...喧嘩なんてするんじゃなかった...」
僕は窓をぞうきんで拭きながらつぶやいた。あの後、先輩はかなり怒っていたようで、「仲直りの証として2人で空き教室の掃除をしてきなさい!」と言われてしまった。
...正直、かなり後悔している。冷静になれば勝てるわけがないことくらいわかるのに。
「本当、そうですよ...弱いのに好戦的なの、どうにかなりませんか?」
「うっせえ」
僕はヘイローがついているとは思えないくらい弱い。そりゃ、キヴォトスの外から来た人よりははるかに頑丈ではあるが、戦闘の方はからっきしだ。ユメ先輩も決して強いとは言えないが、僕はその下をいく弱さだ。
「てか、ホシノが異常なだけでしょ。何食ったらそんな強くなんのさ」
「普通の食事です。人を化け物みたいに言わないでください」
「実際化け物だよ。なんか別名ついてるんでしょ?さすが殴り合いエリートは違うなぁ」
「...褒めてるように見せかけて貶してますよね。もう一度殴りますよ」
「勘弁してくださーい」
...茶化してはいるが、ホシノの戦闘能力は常軌を逸している。僕が知っている生徒の中では間違いなく一番強い。20人ほどいた暴徒を数十秒で片づけた時はさすがに引いた。ユメ先輩が襲われた時も、一瞬で悪党を制圧したり、何か異常だ。
「僕もホシノくらい強かったらなぁ」
そう望まざるを得ない。僕はまだ一度も単独で不良を倒したことがないからだ。
原因はわかっている。
「人に銃を撃つのが怖いなんて、よく今まで生きてこれましたね」
「僕からすれば躊躇なく撃てるホシノの方がおかしいと思うけど?普通、怖いでしょ。さすがに僕らだって死ぬときは死ぬわけだし」
人に向けて銃を撃つことが怖い。昔、映画のようなもので人が撃たれて簡単に動かなくなったのがトラウマになっているのだと思う。僕はキヴォトスの人間だ。銃弾が当たったくらいで死ぬことがないのはわかっている。
しかし、子供時代のトラウマとは根強いものだ。数十年経った今でも僕の中では恐怖が勝ってしまう。
「撃たなければこちらがやられる。あなたもその状況に晒されれば、さすがに覚悟が決まるでしょう」
「覚悟、ねぇ...」
僕は窓に反射して映る自分の顔を眺めながらそう呟いた。
「...まぁ、レイヤの眼には感謝しています」
寸刻の沈黙を破ったのは、ホシノの言葉だった。
いつものホシノからは想像できないような言葉だったので、びっくりしてホシノの方を見る。ホシノは作業をしていて、こっちを見ることはなかった。
「ホシノが人のことを褒めるなんて、明日は砂漠に雨が降るね」
「...ほんとに殴りますよ...ユメ先輩も言っていました。「数と位置がわかるだけですごく楽になる」と」
「...僕にはそれくらいしかできないからね。ホシノはともかく、ユメ先輩にはいつもお世話になってるし、ちょっとでも役に立ちたいと思ってるだけだよ」
僕の眼はちょっと特別だ。少し眼に力を入れると、大体半径250メートルの建物や敵の位置、使用している武器などがわかる。壁越しだろうと暗闇だろうと相手を捕捉することができるという、かくれんぼ最強スキルなのだが....
正直弱い僕は持て余す能力だ。実際なくしたものを見つけることくらいにしか使ってなかったし。
それに、使いすぎるとめっちゃ眠たくなるから、数時間くらいしか使えない。
「それも十分異質だと思いますけど」
「いやー、暴力バカに言われるなんて恐れ多い」
その言葉を発した瞬間、僕の後頭部に何か固いものが直撃した。
「いったああぁ!!??」
反射で大きな声が出てしまう。飛んできたものを確認すると、500ページはあろうかという部厚い本だった。
「善意で言ったのにあなたって人は...!!」
「だからって本を投げる必要ないだろ!!そういうところが暴力バカだって言ってんの!!」
「原因はあなたでしょう!?」
「こんのチビが、今日という今日は絶対泣かす!」
...この後、騒ぎを聞きつけたユメ先輩にしこたま怒られたのは言うまでもない。
犬猿の仲なんてもんじゃない。多分、本当に相容れないと思う。
小鳥遊ホシノ。
生意気で好戦的、かつ正論モンスター。
触ったもの全て傷つけるナイフのような性格だが、根は悪いやつではない。アビドスをよくしたいという想い故の行動だということも理解できる。だからこそ、本気で嫌ったことは一度もない。
「楽しい」と、心のどこかでそう感じていたんだと思う。
この3人でバカ騒ぎして、悪党を倒して、たまに怒られて。
こんな、騒がしいけど、どこか心地いい。そんな日常がいつまでも続くと思っていた。
でも、
日常が崩れるのは、突然だった。
「もう!何やってるんですか!!」
いつものようにホシノがユメ先輩に怒号を飛ばす。
「ほ、ホシノちゃん、ごめんね。私のせいで...」
「ごめんじゃありません!なんで毎回毎回騙されるんですか!?」
どうやらまた何か良くないことに首を突っ込んでカモにされたらしい。それ自体は別に珍しいことではないのだが、きょうのホシノは特に怒っている。
ほかにも何か怒らせるようなことをしたのかな。
乱雑に積み上げられた書類を片付けながら僕はそう考えた。
「そ、それは...」
「こんな体たらくで「夢と希望に満ちたアビドス」なんて、よく言えたものですね...」
「はぁ、もう2人で勝手にやってください!」
「ほ、ホシノちゃん...?」
「もう付き合ってられません!生徒会は終わりです!」
そう言うとホシノは勢いよくドアを開き、部屋の中に向けて一言、
「先輩も、レイヤも!あなたたちなんて知りません!!」
と放ち轟音とともにドアが閉じた。
「....」
先輩の方を見ると、申し訳なさそうな顔で下を向いている。
「先輩....大丈夫?」
あまりにも気まずくて、僕は口を開いた。
「....うん。ごめんね。レイヤちゃんも」
「別に僕は...ホシノがキレるのなんて、いつものことだし」
実際、2日に一回は僕かユメ先輩がこうしてホシノを怒らせる。それ自体は特に珍しいことでもなかった。
ただ、今日のホシノはかなり怒っていたみたいだけど。
「先輩がポカしちゃうのもいつものことじゃん。僕はもう慣れたよ。いつまでも突っかかってくるのはホシノだけなり」
最初は僕も怒っていたけど、3,4回目あたりからはもう諦めることにした。ユメ先輩がそういう詐欺系統に引っ掛かりやすいのは先輩の「幾ら利用されようと人助けを止めるべきじゃない」「どんな理不尽を受けようと争いに慣れるべきじゃない」という考えからきているのだろう。
ユメ先輩は底抜けにやさしい人だと、つくづく思う。
「ひいん...レイヤちゃん...慰めになってないよぉ...」
「まあ気にすることでもないと思うよ、先輩は先輩でいいところいっぱいあるし」
あのチビよりはね。
「...ありがとう。レイヤちゃん」
「どういたしまして」
そう言って僕は書類仕事に戻る。
この時にホシノを連れ戻していれば。
この言い合いを仲裁していれば。
何度も、何度もそう思った。
「レイヤちゃん、私ちょっとお出かけしてくるね」
時計の時針が2つを超えた頃、突拍子もなくユメ先輩が言った。
「いいけど、どこに行くのさ」
「砂漠の方。すぐ帰ってくるから大丈夫だよ」
「なら僕も行きたいな、ちょうどひと段落ついたし」
僕はトントンと30枚ほどの紙の束をそろえ、椅子から立ち上がった。
「レイヤちゃんはここでホシノちゃんの帰りを待ってあげて欲しいな」
「あー....いいけど、僕がいてもそんな変わんないと思うよ?僕もユメ先輩と砂漠行きたいなぁ~」
僕は年下っぽく上目遣いで先輩に訴えてみる。
あはは、とユメ先輩は笑った。
「ありがとう。でも、私は大丈夫だから。ね?」
立ち上がった僕の肩をユメ先輩は両手でつかみ椅子に再度座らせる。
いつもなら快く了承してくれるのに、なんだか今日は強引だなぁ。
この時の僕はその程度のことしか考えていなかった。
「先輩がそこまで言うなら...」
僕は再び書類の山に手を付け始める。
「最近砂嵐が多いみたいだから気を付けてね、先輩ドジなんだから特に慎重に、ね?」
「はぁーい。じゃあ、いってきます」
いつものトーンでユメ先輩が言った。
「行ってらっしゃい」
僕は手を振り、そう告げた。
あの時、先輩の手を取っていれば。
「行くな」と言っていれば。
後悔しても、もう遅い。
過去は変えられない。
ユメ先輩からの消息が途絶え、3日が経過した。
おかしい。何かあったに違いない。
過去に何日かいなくなったことはあっても、だいたい連絡くらいはついた。
しかし今回は連絡しても繋がらない。聞こえるのは電波がつながらないか電源が入っていないかを知らせる電子音声だけ。肝心な時に使えないこの電子機器にイライラする。
「出ない...さすがにおかしい...」
「私からも電話をかけてますけど...出ません...」
このときのホシノの顔は僕が見た中で一番焦りを抱いていた。
僕も気が気じゃない。なんてったってあのユメ先輩だ。どんなことになっててもおかしくない。
今頃悪党に連れ去られて.......
笑えない。
「....行きましょう」
「行くってどこに?」
「決まっているでしょう、アビドス砂漠です」
ホシノはストック部分にアビドス高等学校の紋章が刻まれたショットガンを手に取る。
「砂漠って言ったって、流石にアビドス砂漠全域じゃ何日かかるかわかったもんじゃないよ...」
砂漠全域をくまなく捜索するとなると骨が折れる。いや本当に物理的な方で。広すぎるし砂嵐は多いし最悪な環境だ。
「担当する場所をブロック化して、手分けして探しましょう」
こんな時でもホシノは冷静に合理的な判断を下す。こういうところが天才と言われる所以なのだろうか。
「こういう時にバギーとか捜索用のドローンとかあればなぁ〜」
そう思わずにはいられない。だって本当にアビドス砂漠は広いんだもん。
「泣き言言わないでください。さっさと行きますよ」
「はいはい、そんなこと言われなくてもわかってるよ」
僕は外に出る準備を始めた。
スクールバッグの中に発煙筒、無線、GPS、そして愛銃を入れる。
「砂嵐にだけは十分注意してください。特にあなたは弱いんですから、敵対組織と相対したらすぐに逃げること」
「一言余計!言われなくても逃げるってば!」
「一応です。あなた喧嘩っ早いんですから。それと、定期的に通信を取りましょう、私たちまで遭難したら元も子もありません」
「りょーかい、それじゃ行こうか」
何か厄介ごとに巻き込まれてませんように。
この心配が、杞憂で終わりますように。
そう願って、僕は生徒会室を後にした。
ユメ先輩の捜索は難航した。
簡単に見つかることはないだろうとは思っていたが、やはり砂漠では痕跡もすぐに消えてしまって、一つも手がかりが見当たらなかった。僕の眼も、砂の上ではまるで意味がない。
「ここも違う....ここも...」
僕はスマホの地図と照らし合わせて確認する。気づけばもう捜索開始から30日が経過していた。
「早く見つけなきゃ...急げ僕....」
いくらキヴォトスの人間といえ、1ヶ月以上砂漠で彷徨うとなると命の危険が....
「だめだ...!次のところに急ごう....」
ネガティブな考えが頭をよぎる。大丈夫だ。先輩は抜けてるところがあるけど、いざとなったらちゃんとする人だ。僕みたいな致命的なヘマをすることもないだろう。
「レイヤ、聞こえますか?」
腰のポーチに入っている無線機からホシノの声が聞こえる。僕は無線機を取り出した。
「聞こえるよ。セクター34もはずれ。痕跡すら残ってない」
「....そうですか。わかりました」
ホシノは無線越しでも伝わるくらい残念そうな声で答えた。
「そっちはどう?何か見つかった?」
「...先輩から、ボイスメッセージが届きました」
「ほんとに!?!?」
「えぇ。あなたにもスマホで送りました。確認、してください」
僕は急いでスマホを取り出す。確かに、ホシノからボイスメッセージのコピーが届いていた。画面をタッチして、耳を澄ます。
「ごめんね、ホシノちゃん。電波がうまく@#$%」
「砂漠にいたら@#&%砂嵐に遭って&#@」
「ホシノちゃん.....ごめんね」
「またコンパスを忘れちゃった」
「メモも残したけど、ここでも送るね。私の手帳は、あそこにあるから」
「ホシノちゃんもよく知ってる@$^$%@#$」
「目立つ場所に置いたから、すぐわかると思う」
「ホシノちゃん、私は」
音声はここで途切れていた。
それは確かに先輩の声だった。
酷いノイズで所々聞き取れなかったが、明らかにいつものユメ先輩の声とは違うものだった。
まるで、自分の限界を悟ったみたいに。
「ホシノ.....急ごう」
「わかりました」
僕は砂に足を取られながら、一歩ずつ踏み出した。
「今日はここで最後、かな」
僕はビルの残骸が散乱している廃れた都市を前に、そう呟いた。
眼を使いながら、建物の間を縫うように歩く。空は既に光を失ってからしばらく経っていた。僕も眼の力を借りなければまっすぐ歩くことも叶わないだろう。
「いるならこういう雨風をしのげるところだと思うんだけどな...」
「レイヤ、聞こえたら返事して下さい」
無線機から聞きなれた声が聞こえる。
「聞こえるよ。ホシノ、どうかした?」
「...まだ、砂漠にいますか?」
「...うん、もう少しだけ、探していこうかなって、僕は暗闇も平気だから」
「...そうですか、わかりました。私は今日、学校で一晩を明かします。何かあったら、無線で連絡するか学校に来てください」
「わかった、お疲れ」
僕はそう言って無線の通信を切った。
ふぅ、と短く息を吐く。上空に目をやると、いくつもの星が燦々と輝いてた。
「まだそっちにはいないよね、先輩」
少し疲れているのか、縁起でもないことが口から出てしまう。こんな無駄口をたたいていては、ホシノに「その減らず口、早く閉じてくれませんか?」と言われかねない。
「がんばらな....い...と...」
僕は正面にある建物を前に立ち止まった。それはオフィスビルのようなものだった。骨組みが大きく傾いており、左に大きくゆがんでいる。その中に、何か影のようなものが見えたからだ。
この建物の中に誰かいる。僕は全神経を眼に集中させ、さらに詳しく視ようと試みた。
「...うそ」
僕はその中でありえないものを目にした。
「っ...!」
気づけば走り出していた。
それは僕たちがずっと探していたもの。
こんなところにあってはいけないもの。
こんな姿になってはいけないもの。
嘘だ。嘘だ。うそだ。
「ユメ先輩!!!」
嫌なことほど現実になりやすい。
建物の中で横たわっていたのは、僕たちの探し求めていたユメ先輩そのものだった。
「ユメ先輩!!聞こえる!?ユメ先輩!!!」
体を揺すっても返答がない。目を開けることもない。ヘイローは消えている。
頬は痩せこけ、身体のあちこちに擦り傷のようなものがある。
最後に見た先輩とは似ても似つかないほど衰弱していた。
これが、ほんとに先輩...?
恐る恐る耳を澄ます。するとかすかに壊れた笛のような呼吸音が聞こえた。
最悪の事態でないことに、ひとまず胸をなでおろす。
「...息が浅い...急がなきゃ」
息があるとはいえ、一刻を争う事態だということに変わりはない。とにかく、ここを脱出して、すぐに病院へ向かわないと。
「ホシノ!ホシノ!!聞こえる!?」
僕は無線機を取り出し、ひたすら呼びかけた。
「...レイヤ?どうかしましたか?」
無線の向こうから眠たげな声が聞こえる。
どうやらホシノは休息をとっていたようで、少し困惑しているようだった。
「ユメ先輩を見つけた!だけど....結構まずい状況かもしれない」
「本当ですか!?あなた今どこに!?」
「セクター42の廃ビルの中!!とりあえず担いで脱出する!」
「わかりました!私もすぐに向かいます!」
ホシノが来る前に、なるべく市街地の方に向かわなきゃ。
僕はユメ先輩を背中に担ぎ、ビルから出るために歩き始めた。
その瞬間、僕は違和感を感じ、足を止めてしまった。
「なんだ.....?」
外の方から音が聞こえる。空を切り裂くような轟音が。
その音はどんどんと大きくなっていく。まるでこちらに近づいているように。
刹那、僕は音の正体が何かを理解した。
まずい。避けられない。ここに当たる。
「....っっ!!まず」
言葉を言い切る前に、僕の視界はビルと共に崩れ落ちた。
燐葉 レイヤ
りんよう れいや
髪の毛 白、インナーカラーは赤 結構長め(ユメ先輩とホシノの中間くらい)
身長157センチ
アビドス高等学校
アビドス生徒会
誕生日4月6日
趣味 朝日を眺めること、人間観察