関わる人全てを曇らせるホシノの同級生   作:フタバ ハクシ

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お待たせしました。そして今回長くなりすぎたので途中で切っております。続きは明日投稿いたしますのでお許しください。


狂い始めた秒針

「教えて、カイザーのこと」

 

薄暗い地下の部屋で、僕は銃を構えていた。

とあるブラックマーケットの一角。そこに闇企業に詳しい情報屋がいるというので、会いに来たのだが。

結局武力行使になってしまった。

その情報屋は今、僕の足元に転がっている。意識はあるが、どうせこれからなくなるだろう。

 

「はっ!まだケツの青いガキに教えることなんてねぇよ!!教えて欲しければ」

 

言葉を最後まで聞くことなく、僕は腹部に銃弾を打ち込む。

 

「がああああああ!?こっ...こいつ.....!!」

 

「次は指。いいから、教えて」

 

左手の指に照準を合わせ、僕は淡々と質問する。

 

「カイザーのことは知らない!!あいつらは情報を暗号化しているんだ!!」

 

「ここのやつで知ってる奴なんていない!!俺だって知らないんだ!!」

 

こいつは、僕の知っている大人と一緒だ。

助かろうとするために必死で、自己の命のためなら他人を陥れることも厭わない。

これが、大人。下劣で汚い生き物。

改めて、先生が異常なんだなと思う。

 

「他には?」

 

「これ以上は何も知らない!!知ってる情報は全て吐いた!!だから命だけは助けてくれ!!!」

 

「じゃあもう一つ。”シャーレ”の先生について、何か知っていることはある?」

 

僕は自分で、シャーレの先生について様々な方法で調べた。

でも、何一つ先生についての情報は見当たらなかった。唯一分かったのは、連邦生徒会長が失踪したとほぼ同時にキヴォトスに現れたということ。

名前も、年齢も、過去もすべてが不明。

情報源はどこでもいい。あの人について知っていることがあるのなら、それは先生を信用するかどうかの重要な判断材料になりうる。

 

「シャーレって...あの連邦生徒会について知ってることなんて、せいぜい生徒会長が行方不明になったことぐらいしか知らねえよ!!」

 

「....そう、分かった」

 

ブラックマーケットの情報屋ですら何も知らないようだ。ますます先生の経歴が気になる。

おそらく本人に聞けば簡単に答えてくれそうな気もするが、直接聞くのは憚られる。

 

「なあもういいだろ!!頼むから助けてくれ!!」

 

僕は情報屋の右肘に銃口を向ける。

 

「いいよ。ただ、もう2度と元の生活はできないけど」

 

「...おい、やめろ!!よせ!!」

 

引き金を3回ほど引く。情報屋の腕は音を立てて引きちぎれた。

 

「ぐあああああああ!!!!」

 

「....」

 

泣き叫ぶそいつを無視して、僕は奥へと進んでいく。

最下層と思われる部屋には、大量のモニターが並んでいた。

しかし、僕はそれに見向きもせずに反対の檻へと進む。

眼を使わないと見えないような暗闇に、誰かがいる。

檻の蝶番を銃で撃ち、無理やりこじ開ける。

 

「....こんばんは」

 

そこにいたのは、僕と同じくらいの背丈をした女の子だった。ヘイローはついているが、身体中に酷い怪我を負っている。特に腹部の出血がひどく、僕が近づいても怯える素振りすら見せなかった。おそらく、もうそんな力すら残っていないのだろう。

 

「おね.....ちゃ.....」

 

ひどく掠れた声が聞こえる。もう目も上手く見えていないのか、僕を誰かと見間違えている。

僕は静かにその子を抱き寄せ、楽な姿勢に直す。

 

「...僕でよければ、そばにいるよ」

 

「おねぇ....ちゃ....どこに....いたの....?」

 

目が虚で、焦点があっていない。あと数分と持たないだろう。息も絶え絶えで、浅く早い。

 

「....ごめんね。時間かかっちゃった」

 

....せめて、逝く直前くらいは、幸せな夢を見させてあげたい。

この瞬間だけは、僕はこの子の理想を演じる。それが、今僕がこの子にしてあげられることだと思うから。

 

「ずっと....こわ...かった......いたくて....くらくて.....」

 

これが、学園都市キヴォトスの実情。

身寄りのない子や、経済的に厳しい子は、親に売られるか人攫いに遭うかして、ここに行きつく。そうやってここに来た子のほとんどは、頑丈な体なのをいいことに劣悪な環境下で無理やり働かせられるか、ストレス発散用の人形として壊れるまで好き放題されるかだ。今回のは後者だろう。

頬がひどく痩せこけている。ろくな食事も与えられていないようだ。

 

「うん。よく頑張ったね」

 

「おねえちゃんに...もういっかいだけ....あい...たくて....」

 

健気な子だ。ここに来ても、希望を見失うことなく待ち続けたのだろう。

どれだけ酷い目に遭っても、ただひたすらに耐え続けた。

その結果がこれだ。あまりにも残酷で、虚しい。

僕は左手の手袋を取り、素肌でこの子の手を握る。

ひどく冷たい。でも、僕のとは違い白く透き通った美しい手だ。

 

「ずっと待っててくれたんだね。ありがとう」

 

「えへへ......きょうの...おねえちゃん....ちょっとへん....」

 

苦しいはずなのに、その子は僕の方を見て笑いかけている。

刹那、パキッという音を立ててヘイローにヒビが入る。

もう、時間かな。

 

「.....眠れそうなら、眠っていいんだよ。大丈夫、ずっとここにいるよ」

 

演じるために、嘘をつく。

これ以上、この子に苦しい思いをさせたくない。

 

「うん... おね...ちゃ....あり.....がと.....」

 

「...おや.....す....」

 

その言葉を最後に、彼女のヘイローはバラバラに砕け散った。それと同時に僕の手からその子の手が零れ落ちる。

...もう、息はしていなかった。

 

「うん。おやすみ」

 

この子は幸せだっただろうか。僕にはよくわからない。だけど、僕の方を見て笑ってくれた。

きっと向こうで、家族や大切な人と再会しているだろう。

どうか、幸せであって欲しい。

 

「...ごめんね。僕はまだ、そっちにはいけない」

 

僕にはまだやることがある。

ユメ先輩を襲った奴らを見つけ出し、僕の手で裁く。

ホシノが笑顔で過ごせるような世界にする。

僕はまだ死なない。

でも、この二つを両方満たして、自由になれたとしたら。全ての罪を償ったとしたら。

 

「...僕も、そっちにいくからさ」

 

ユメ先輩、待っててね。

僕はその子の亡骸をそっと地面に置き、手袋を再びつける。

もっと早く来ていれば、この子も守れたかもしれない。

僕は無力だ。

この手じゃ、誰も守れない。

 

「もっと、強くならないと」

 

そう言い残し僕は再び暗闇の中へと歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「レイヤ先輩って、いつも左腕に手袋とインナーつけてるよね」

 

セリカの言葉に、僕は肩を震わせる。

僕の腕について、ホシノを除く委員会のみんなには伝えていない。もちろん先生にもだ。

焦りからか、身体が急に熱くなる。

 

「あー....まあ、そうだね」

 

「暑くないの?日光とかですごく蒸れそうだけど」

 

「いやー...別に平気かな」

 

どうしても歯切れが悪い回答をしてしまう。

適当な相槌を打って何とかやり過ごそうとしているが、少女の探究心はとどまるところを知らない。

 

「何で左腕だけなの?右腕は半袖なのに」

 

「...かっこつけたいから、かな」

 

本当に適当な嘘をついて誤魔化す。

これで引き下がってくれるといいのだが。

これ以上深堀りされるともう後がない。

 

「あははっ!レイヤ先輩も可愛いところあるじゃない!」

 

「レイヤ先輩、笑うことが少ないのでそういう人間らしいところが見れて安心しました!」

 

セリカとアヤネが僕のことを見て笑っている。何とか切り抜けられたようだ。

変に体温が上昇して、顔が熱い。耳から湯気が出ているような感覚に陥る。

 

「...恥ずかしい....」

 

「まあまあ。レイヤ先輩で遊ぶのはこれくらいにしておきましょう?」

 

ノノミが仲裁に入ってくれた。

荒ぶる心臓を落ち着かそうと、深呼吸をする。

よし、大丈夫。

きっと、隠し通せる。

 

「レイヤ、ホシノ先輩はどこ?」

 

シロコが僕に尋ねる。

確かに集合の時間はとっくに過ぎている。委員会の教室にいないのはホシノだけだった。

 

「知らない。昼寝でもしてるんじゃないかな」

 

「あとで電話して呼んでみますね」

 

「ありがとう、アヤネ」

 

その時だった。

突如、けたたましい音が学校中に鳴り響く。

 

「前方、半径10㎞内にて爆発を検知!近いです!」

 

アヤネがタブレットを見ながらそう言う。

 

「10㎞ってことは......市街地?まさか爆撃!?」

 

シロコがそう言いながら銃を手に取る。

 

「衝撃波の形状からするとC4爆弾の連鎖反応と思われます。砲撃や爆撃ではないですね....もう少し確認してみます!」

 

アヤネが忙しなくタブレットを操作している。

 

「爆発地点確認。市街地です!正確な位置は....」

 

「柴関ラーメン....!?」

 

「柴関ラーメンが跡形もなく消えてしまいました!!」

 

その言葉を聞いた途端、全員がアヤネの方を見た。時にセリカは激しく動揺している。

 

「はあ!?どういうこと!?なんであの店が狙われるのよ!」

 

「戦略拠点でもなく、重要な交通網でもないのに。いったい誰が....」

 

シロコが冷静に分析をしている。

 

「ま、まさか私を狙って...?」

 

「憶測はあとでも遅くない。まずは何か手を打たないと!」

 

「そうですね!今はそれどころじゃありません!!向かいましょう!」

 

ノノミも銃を手に取り、現場に向かう準備を始めている。僕も後を追うように銃を肩から提げ、予備のマガジンをポーチに入れる。

 

「ホシノ先輩には私から連絡します、出動を!!」

 

「ど、どうなっちゃたのよ!!大将......無事でいて....!」

 

心配そうなセリカの声を聴きながら、僕は出撃の準備をこなしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ.....ゲヘナの風紀委員が、アビドスに何の用?」

 

あの後、現場に到着し原因を探っていくと、この騒動の主犯は便利屋だということが分かった。それを知ったセリカが激昂し、一戦交えることになったのだが。

戦闘の最中、迫撃砲が便利屋へと放たれて、戦闘は中断された。

幸い柴関ラーメンの大将は軽傷で命に別状はなかったらしい。

 

「アヤネ、ホシノは?」

 

「ダメです、普段ここまで連絡取れないことはないのに...」

 

「やあアビドス高校の諸君」

 

15メートルほど先に、僕より少し暗い銀色の髪を2つに結った少女が、銃を片手に話しかけてくる。

 

「僕たちに交渉しに来たわけじゃないでしょ。目的は何?」

 

「ああ、ここに逃げ込んだ校則違反者たちにお灸を据えようと思ってな」

 

「便利屋のこと?」

 

「その通り。というわけで別にお前たちに用はない。だから見逃してやるよ、さっさっと撤退するならな」

 

「....もし、断ったら?」

 

その少女は不敵な笑みを浮かべる。このまま言う通りにしなければ武力衝突は避けられない。

 

「レイヤ先輩、相手はゲヘナの風紀委員会です。下手に戦うと大怪我の可能性があります...」

 

「それに、政治的な紛争の火種になることも...」

 

ノノミがこの状況を分析して、合理的な答えを導き出す。

要は「ここで戦うのはゲヘナとの全面戦争を意味する」と言いたいのだろう。

 

「こんなことをされて悔しいですが...あまりにも戦力差がありすぎます。ここは、撤退するしかないかと....」

 

アヤネもノノミの意見に肯定的なようだ。

確かに、眼で視る限り数は200以上。迫撃砲の軌道からして、外に応援がいるのは確定。

この数を僕たちだけで相手にするのは正直絶望的。

それに、今はホシノがいない。

僕が半分を相手にして、先生の指揮で応戦したとしても、シロコやノノミ、セリカの負担が大きすぎる。

 

「それはできない」

 

今まで沈黙を貫いていたシロコが口を開く。

 

「そうよ、便利屋の奴らにはちゃんと償わせないと!」

 

セリカも便乗するように自分の心情を吐露する。

 

「何も関係のない大将をあんな目に遭わせて...!」

 

セリカの覚悟が言葉からひしひしと伝わる。

尊敬する人間の居場所を奪われて、セリカは相当憤りを感じているのだろう。

 

「...そうだね。何よりアビドスを無茶苦茶にするのは僕が許さない」

 

「うん、レイヤの言う通り。私たちは撤退しない!」

 

シロコが声高らかに宣言する。それは、目の前にいる風紀委員会の提案を断るということ。

即ち、宣戦布告だ。

ツインテールの子は僕たちに銃を向ける。

 

「...それが答えってことでいいんだな?」

 

「ここまでされて黙ってるのも、僕ららしくないしね」

 

「はぁ...せっかく説明したってのに....後悔するなよ!!」

 

銀髪の子の銃から銃弾が放たれる。僕は後出しで銃を撃ち、弾どうしをぶつけさせ軌道を変える。

すかさず2発目が放たれる。僕はしゃがみながら躱し銃を2発撃つ。しかし後転跳びで難なく避けられてしまう。

 

「...」

 

着地をしたと同時にまた銃弾が放たれる。僕は地面にあった車のドアを蹴り上げ盾代わりにする。銃弾を防ぎ用済みになったドアを銀髪の子に向けて思いっきり蹴り、相手の出方を伺う。しかし相手も銃のストックを使い上手く弾き飛ばす。

 

こいつ、なかなか動ける。

 

僕はギアを上げる。大きく距離を取り自分の得意な展開へと持ち込む。ざっと60メートルといったところか。

相手は車の裏に隠れているようで、こちらの位置を把握しきれていないのか、出てくる気配がない。

僕は的確に相手がいる場所に銃弾を5発打ち込む。3発は無駄になったが、貫通した2発は命中したようで、少し怯んでいる。

僕は位置を変え、再び銃弾を放つ。相手はさっきまでの積極的な戦いからから一変、かなり受け身な戦い方をしている。

 

「くそっ...!」

 

このままじゃ埒が開かないと思ったのか、言葉を吐き捨て銀髪の子は遮蔽物から身を出しこちらに迫ってくる。

だが、おかしい。その子が向かっている所は僕の方とは違う。

この向きは....まずい!

 

「シロコ!!」

 

僕は大きな声でシロコを呼ぶ、間一髪でシロコはその子の蹴りを躱す。

しかし、体勢が悪い。

その隙を逃す事なく銀髪の子は銃をシロコに向ける。

 

突如、あの日の光景が脳裏をよぎる。

動かない先輩。血だらけでついているかわからない手足。刻一刻と命の危機は迫ってきているのに、何もできない。その無力感が僕を支配する。

やめてくれ。

もうあんな気持ちは味わいたくない。

これ以上、僕の大切なものを奪わないでくれ。

お願いだ。

やめろ

やめろ

やめろ!!

 

「やめろおおおおお!!!」

 

現実は非情だ。

そんな僕の叫びが届くことはなく、あたりに銃声が響き渡る。

 

 

 

「.....ぁっ.....」

 

 

次に僕が目の当たりにしたのは、肩に銃弾を受けて倒れ込むシロコの姿だった。

 

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