欺瞞
「うっ....!」
銃弾がシロコの右肩に命中する。
痛みで一瞬顔を歪めたものの、シロコは軽やかな身のこなしですぐさま立ち上がり、遮蔽物に隠れる。
クソ、しまった。目の前の標的に夢中でシロコやノノミたちの事を考えていなかった。これじゃ先輩失格だ。
僕はシロコのもとへ駆け寄る。
「シロコ.....シロコ.....!」
また、あの日みたいに守れなかったら。
また、あの日みたいに失ってしまったら。
引き金に触れている左手が小刻みに震え出す。
「大丈夫....私が油断しただけ。大した怪我はしてない」
見た感じ、それほど大きな怪我はしていないようだった。
そうだ、シロコはヘイローがついている。これくらいの銃撃じゃ死なない。大丈夫だ。僕はそう自分に言い聞かせた。
「良かった....」
「ん、レイヤは過保護すぎ」
「....そ、っか」
「レイヤ...大丈夫?」
シロコが少し不安そうに僕の顔を覗く。
逆に心配をかけさせてしまった。
「...ごめん、大丈夫だよ」
もう絶対、あんなことにはさせない。
必ず守る。
そのために強くなったんだ。
「あいつ.....許せない」
僕は歯を食いしばり敵意を露わにする。
シロコを、僕の大切な後輩を傷つけた。
絶対に許さない。
僕は遮蔽物から飛び出して、相手との一気に距離を縮める。
「なっ...!」
相手は驚きながら銃をこちらに発砲するが、僕は右足でそのライフルを蹴り上げる。
蹴った慣性を利用して左足で頭を狙って踵蹴りを出す。しかしそれは両腕で弾かれた。
かかった。
足を止めるのに腕を使って、身体の守りが疎かになった。
僕はそのチャンスを逃すことなく相手の肩に1発銃弾を撃ち込む。
「ぐっ....」
相手は怯みながら後ろに下がって距離を取る。
僕はそれを眺めながらマガジンを交換し、次の機会を狙う。
「逃さないよ。僕の大切な後輩に傷をつけたんだ。同等の痛みは味わってもらう」
僕は再び銃を構え、トリガーに指をかける。
「イオリ!!いい加減にしなさい!!」
奥からもう1人、赤い眼鏡をかけた子が接近してくる。左肩には風紀委員会の腕章がつけられている。
「久しぶりだね。チナツ」
物陰に隠れていた先生が姿を現す。
どうやら面識がある子のようで、眼鏡の子を「チナツ」と呼んでいる。
「先生、危ないから下がってて!」
僕は銃を2人に向けながら先生の元へ歩み寄る。
先生に銃弾が当たれば取り返しのつかないことになる。それだけは避けなければ。
「...先生、こんな形でお目にかかるとは...」
「先生がそちらにいることを知った瞬間、勝ち目はないと判断して交代するべきでした.....私たちの失策です」
どうやらもう1人の方に敵意はないようだった。僕は銃を下ろして相手に尋ねる。
「...アビドス対策委員会、燐葉レイヤ。あんまりアビドスで好き勝手されると困るな。君たちは何者?」
言葉ではそう言ったものの、僕は前の2人を睨みつけている。
先輩が遺したこのアビドスで暴れるのは僕が許さない。
「それは私から答えさせていただきます」
少し後ろから、ホログラム映像越しの声が聞こえる。
隊列を組んでいる生徒たちの少し前に、水色の髪をした生徒らしき子が立っている。
「アコちゃん....?」
「アコ行政官......?」
「こんにちは、アビドスの皆様。私はゲヘナ学園所属の行政官、アコと申します」
「今の状況について少し説明させていただきたいと思いますが、よろしいでしょうか?」
「アコちゃん....その...」
先ほどまで敵意をむき出しにしていた銀髪の子が、ばつが悪そうにホログラムの方を見つめている。
「イオリ、反省文のテンプレ―トは私の机の、左の引き出しにあります。ご存じですね?」
「そっちの話はあとにしてくれる?この状況は一体どういうこと」
テンポの悪い会話に少しイラつき、間を割って話しかける。
「あまり先を急ぎすぎるのもよくないですよ、燐葉レイヤさん?」
「アビドスの全校生徒は6人。生徒会の人数も6人と聞いていましたが、あと一人はどちらに?」
「今はおりません。そして私たちは生徒会でなく対策委員会です、行政官」
「奥空さん...でしたよね?生徒会の方はいらっしゃらないということでしょうか?私は、生徒会の方と話がしたいのですが」
「アビドスの生徒会はもうない。今は僕たちが生徒会の代理だ」
後ろのゲヘナ生たちに目を向ける。
「それに、この人数と武器で武装しておいて「お話」はちょっと無理があるよ」
言いたいことがあるならさっさと言え。僕たちの邪魔をするなら誰だろうと容赦はしない。
「失礼しました。全員、武器を下ろしてください」
その声で後ろの生徒は全員武装を解く。
どうやらこの中で一番力があるのはこの行政官のようだ。
「先ほどまでの愚行は、私の方から謝罪させていただきます」
「なっ、私は命令通りにやったんだけど!?アコちゃん!?」
「命令に「まずは無差別に発砲せよ」なんて言葉が含まれていましたか?」
「い、いや....状況を鑑みて必要な範囲で火力支援、その後に歩兵の投入.....戦術の基本通りにって...」
「ましてや他の学園自治区の付近なのだから、きちんとその辺りは注意するのが当然でしょう?」
「....?」
僕はある言葉に引っかかった。
他の学園自治区の....付近...?
確かにここはアビドスの自治区のはずだ。なぜこの子は今、「他の学園自治区の付近」と言ったのだろうか。
「失礼しました、対策委員会のみなさん」
「私たちゲヘナの風紀委員会はあくまで、私たちの学園の校則違反をした方々を逮捕するために来ました」
「あまり望ましくない出来事もありましたが、まだ違法行為とは言い切れないでしょうし...やむを得なかったということでご理解いただけますと幸いです」
「風紀委員会としての活動に、ご協力をお願いできませんか?」
この行政官の言ったことを要約するとすれば、「お前たちに危害を加えたことは仕方がない」「校則違反者を捕まえるのに協力しろ」ということだろう。
拒否すれば、武力衝突が待っている。
だとしても、僕たちの答えは1つだ。
「先ほども言いましたが....そうはいきません!」
僕が言うより先にアヤネが拒否の言葉を吐く。
「あらっ....?」
「他の学校が別の学校の敷地内で、堂々と勝手に戦闘行為をするなんて!」
「自治権の観点からして、明確な違反です!」
「便利屋の処遇は、私たちが決めます!」
「...そうだね。相手が誰であろうと、これだけは譲れない」
誰だろうと、ここで暴れるのは許さない。
「.......なるほど」
「そちらの方々も、同じ考えのようですね」
「これだけ自信に満ちているのは....やはり、信頼できる大人の方がいるでしょうか?ねえ、先生?」
アコと呼ばれているその子が先生の方を向く。
「シャーレの先生。あなたも、対策委員会と同じ意見ですか?」
「便利屋は困った子たちかもだけど、悪人じゃないから」
「いやいやいや!悪人に決まっているでしょ!ラーメン屋を爆発させたのよ!?」
「多分だけど.....あれは、間違って爆発させちゃって、そのまま言い出せずに見栄を張ったんだと思う」
シロコが感情的になるセリカを落ち着かせようと、自分の推測を展開する。
「はあ!?」
「私たちを狙ってたのなら、誰もいないタイミングで爆破する理由がない。一度やったら警戒されるあんな大掛かりな手段を、あの状況で使う意味もないはず」
「....た、確かに、それはそうね」
「罠を準備している最中に、間違えて爆発させたってこと...?どんだけバカなのよ、あいつらは....」
セリカは納得したようで、便利屋の頭の悪さを憂いていた。
「でも、結果的に柴関ラーメンを攻撃したのは事実。このまま大人しく引き渡すわけにはいかない」
シロコは覚悟を決めたのか、銃をアコ達に向ける。
「そうですね、彼女たちの背後にいる方の正体もまだ分かっていませんし。先にお話を聞かせてもらいませんと」
ノノミもシロコにつられ、銃を構える。
「そういうわけで、交渉は決裂です!ゲヘナの風紀委員会、あなた方に退去を要求します!」
堂々とアヤネが宣言する。
「....これは困りましたね....うーん...こうなったら仕方ありません。本当は穏便に済ませたかったのですが....」
「....ヤるしかなさそうですね?」
アコのその言葉で後ろのゲヘナ生たちが銃をこちらに構える。
始まる。
僕は銃を構え、一番前にいる2人に照準を合わせる。
ダダダダダダダッ!ダダダダダダダッ!
突如、銃声が辺り一帯に響き渡る。
僕たちじゃない。別の方向からの銃撃。
大きな轟音が増えるのに比例して、ゲヘナ生が倒れていく。
「嘘をつかないで、天雨アコ」
煙の中から現れた声の主は、便利屋の鬼方カヨコだった。
「偶然なんかじゃないでしょ、最初からあんたが狙ってたのはこの状況だった」
静かにカヨコがホログラムのアコに向かって歩く。
「....最初はどうして風紀委員会がここに現れたのか、理解できなかった。風紀委員会が他の自治区まで追ってくる理由、それも私たちを狙って?」
「こんな非効率的な運用、風紀委員長のいつものやり方じゃない。だからアコ、これはあんたの独断的な行動に違いない」
「それに、私たちを相手にするにはあまりにも多すぎるこの兵力。他の集団との戦闘を想定していたとすれば、説明がつく」
「とはいえ、このアビドスは全校生徒集めても6人しかいない.....なら結論は一つ」
「アコ、あんたの目的はシャーレ。最初から、先生を狙ってここまで来たんだ」
カヨコの口から話されたそれは、僕たち全員に大きな動揺を与えた。
「な、何ですって!?」
「先生を、ですか.....!?」
「私?」
先生は自分に指を指しながら、素っ頓狂な声を上げる。
自分の目論見を言い当てられたのか、アコは不敵な笑みを浮かべている。
「ふふっ、なるほど」
「.....ああ、便利屋にカヨコさんがいることをすっかり忘れてました。なんかに雑談なんてしている場合ではありませんでしたね....」
「まあ、構いません」
その言葉を皮切りに、四方八方から軍隊の後進のような音が聞こえる。
眼を使って確認すると、東西南北全ての方角からゲヘナの生徒が隊列を組んで行進してきている。
「12時の方向、それから9時の方向.....3時、9時.....風紀委員会のさらなる兵力が四方から集結しています....!」
アヤネのドローンも増員を捉えたようだった。
「2、3、4.....軽く4桁はあるね」
「まだいただなんて.....それに、こんなにも数が.....!」
「うーん....少々やりすぎかとも思いましたが....シャーレを相手にするのですから、これくらいあっても困らないでしょうし....」
「まあ、大は小を兼ねると言いますからね☆」
少しふざけたようにアコが言う。それぐらい、余裕を持っているのだろう。
「包囲は抜けたと思ったけど...二重だったか....」
ここまでかなり鋭い推理をしていたカヨコでさえ、これは想定していなかったようだ。
「はい、そうです。それにしても、さすがカヨコさんですね。先ほどのお話は正解です」
「....いえ、得点としては半分くらいでしょうか?確かに私は、シャーレと衝突するという最悪のシチュエーションも想定していました」
「しかし、この状況を意図的に作り出したわけではありません。それだけは信じていただきたいのですが....どうやら、難しそうですね」
「仕方ありませんね。事の次第をお話ししましょう....きっかけは、ティーパーティーでした」
アコが淡々とこの状況になった訳を話し始める。
「もちろんご存知ですよね、ゲヘナと長きにわたって敵対関係にある、トリニティ総合学園の生徒会のことです」
「そのティーパーティーが、シャーレに関する報告書を手にしている...と。そんな話が、うちの情報部から上がってきまして」
その話には心当たりがある。
つい最近、ブラックマーケットで出会ったトリニティの生徒。
「ヒフミか....」
「当時は私も「シャーレ」とは一体何なのか、全く知りませんでしたが....ティーパーティーが知っている情報となれば、私たちも知る必要があります」
「連邦生徒会長が残した正体不明の組織...大人の先生が担当している、超法規的な部活」
「どう考えても怪しい匂いがしませんか?」
「シャーレという組織は、とても危険な不安定要素に見えます。これからのトリニティとの条約にも、どんな影響を及ぼすのか分かったものではありません」
「ですからせめて条約が無事締結されるまでは、私たち風紀委員会の庇護下に先生をお迎えさせていただきたいのです」
「ついでに、居合わせた不良生徒たちも処理した上で.....といった形で」
「...つまりは、先生をそちらに引き渡して欲しいと」
「理解が早くて助かります。決して悪い提案ではないと思うのですが....どうでしょうか?」
確かに、先生は異質な存在だ。
何も情報が出てこないし、その存在が学園に影響を及ぼすという考えも理解できる。
だけど。
「断る。僕たちはこの人と共に解決しなきゃいけない問題がある」
それに、僕はこの人に聞きたいことが山ほどある。
なぜ先輩と似ているのか、僕は知りたい。
「....ふふ、やっぱりこういう展開になりますか。では仕方ありませんね、燐葉レイヤさん?」
「.....」
「ゲヘナの風紀委員会は、必要でしたら戦力を行使することもあります。私たちは一度その判断をすれば、一切の遠慮をしません」
交渉は決裂。
だけど、僕たちだけで戦うにはあまりにも多勢に無勢だ。数はゆうに4桁を超えている。いくら個々の戦闘能力が強くても、6人だけじゃ先生を守り切るのは厳しい。
僕たちだけでは、ね。
「便利屋、僕たちに力を貸して欲しい」
「ん、先生の盾になってもらう」
「先生をみんなで守ります、いいですね?」
シロコとノノミもこの同盟に乗り気なようだ。
「話が早いな....」
カヨコは少し困惑しながらも僕たちの提案を受け入れてくれたのか、周囲にいるゲヘナ生に向けて銃を構える。
「ふふっ.....あははははははっ!」
「当たり前よ!この私を誰だと思ってるの?心配は無用!」
便利屋の社長、アルが声高らかに宣言した。
「信頼には信頼で報いるわ!それが私たち、便利屋68のモットーだもの!」
「...背中は任せたよ、便利屋」
僕はそう言って再び銃を構える。
「うーん....まあ、これはこれで予想していた状況ではありましたが....」
「それにしても....ここまで意気投合が早いとは....その点は予想外でした」
アコはそれでも余裕のある素振りを崩すことはなく、冷静に判断を下す。
「...まあいいでしょう。それでは」
「風紀委員会、攻撃を開始します。対策委員会と便利屋を制圧して、先生を安全に確保してください」
「先生はキヴォトスの外部の人なので、怪我をさせないように十分注意を」
そこら中にいるゲヘナ生が銃を構え始める。
「...先生、指揮をお願い」
「もちろん、私に任せて!」
先生は威勢のいい声でそう答えてくれた。
「...まだ来る。前方からもう1部隊、右から2部隊、増援が来るよ」
空になったマガジンを交換しながら僕はみんなにそう伝える。
「はあ....はあ....まだいるの!?」
「ん...さすがにしぶとい...」
セリカもシロコも、限界が近い。
僕もこれ以上戦うとなると、多少の無理をしなきゃいけない。
状況的にはかなり厳しい。
「まだ分からないんですか?私たちの要求を飲むしかないということが。後方にはまだまだたくさんの兵士たちが控え」
「アコ」
自慢げに話すアコの言葉を遮ったのは、僕によく似た白髪の少女だった。
「ひ、ヒナ委員長!?!?」
身長こそないものの、他者を寄せ付けない圧倒的な風格は、昔のホシノのそれと同じだった。
こいつ、強い。おそらく僕以上に。
「この状況、きちんと説明してもらう」
「そ、その...これは、素行の悪い生徒たちを捕まえようと...」
「便利屋68のこと?どこにもいないけど」
「な、なにを言ってるんですか...?ここに...あれ?」
さっきまで僕たちの周辺にいた便利屋の生徒たちは、跡形もなかったかのように姿を消していた。
「そんなバカな!!ここにいたはず....い、委員長!全て説明いたします!!」
「いやもういい、大体把握した。アコ、私たちは風紀委員会であって生徒会じゃない」
「それは...その....」
「詳しい話は帰ってから。校舎で謹慎していなさい」
「.....はい...」
そう言葉を言い残し、アコのホログラムの姿は消えた。
「...君が、風紀委員長?君の部下が起こした状況は分かってる?」
僕は少し嫌味を含んだ言い方をする。
「事前通達なしでの、他校自治区における無断兵力運用、および他校生徒たちとの衝突」
「けれど、そちらが風紀委員会の公務を妨害したのも事実。違う?」
「先生、どうする?この子....強いよ。僕が戦っても多分負ける」
僕は判断を先生に委ねる。みんなが疲弊しているこの状況で、先生はどんな決断をするのか。
「...他の子たちも今は疲弊してる。任せて、私が交渉をー」
「ふぁ〜ぁ、こいつはまた、すごいことになってるねぇ」
先生の言葉を遮るように、道路の中心から聞き慣れた声が聞こえる。
「ホシノ....遅い」
その声の主はホシノだった。
「ホシノ先輩!今までどこに....」
「ごめんごめん、ちょっと昼寝しててねぇ」
「...昼寝?」
シロコがその言葉を繰り返す。怪しんでいるようだ。
「アビドスのホシノ....もしかして、小鳥遊ホシノ...」
ヒナと呼ばれているその子は小さな声でそう呟いた。
「事情はよく分からないけど、こんなに大勢連れてどうしたの?風紀委員長ちゃん?」
僕とヒナの間をホシノが割って入る。
「....1年生の時とはずいぶん変わった。人違いじゃないかと思うくらいに」
「およ、私のこと知ってるの?」
「情部にいた頃、各自治区の要注意生徒たちをある程度把握していたから。それに、燐葉レイヤ...あなたのことも」
ヒナが鋭い目つきで僕の方を見る。ホシノだけじゃなく僕についても何か知っているようだ。
「うへへ〜、レイヤとおじさんってもしかして有名人?」
「小鳥遊ホシノ、燐葉レイヤ。あなたたちを忘れるはずがない。あの事件の後、アビドスを去ったと思ってたけど....そうか、だから「シャーレ」が」
あの事件。おそらく先輩の件だ。ゲヘナの風紀委員長も知っているとは。
でも、それと「シャーレ」に何の関係が....?
「なぁに?ちゃんと自分の気持ちを言葉にしてくれないと、おじさん困っちゃうなぁ」
ヒナは少し俯いてから何かを考え、再び顔を上げた。
「撤収準備」
「い、いいのですか!?」
ゲヘナ生が困惑しながらもヒナに尋ねる。
その瞬間、ヒナは僕たちに向かって深々と頭を下げた。
周囲が大きくどよめいている。
「事前通達なしでの無断兵力運用、そして他校の自治区で騒ぎを起こしたこと、このことについては私、空崎ヒナより、アビドスの対策委員会に対し、公式に謝罪する」
「撤収、行くわよ」
その一声で全てのゲヘナ生が僕たちから遠ざかっていく。
しかし、ヒナだけは先生に向かってくる。
「ーーーー」
何かを話していたようだったが、内容まで聞き取ることはできなかった。
話し終えたヒナは、僕たちに背を向けて歩き出す。
「何とかなった....で、いいのかな」
ふぅ、と大きなため息をひとつ吐く。
「一時はどうなることかと思いました....」
「ん、アヤネ、お疲れ様」
気が抜けたのか、みんな疲れたような様子で雑談をしている。
「ねぇレイヤ、おじさんいまいち状況が分かってないんだけど、何があったの?」
「...話せば長くなる、それに、僕はホシノについて聞きたい」
「ん〜?なぁに、レイヤ」
「....本当に、昼寝してたの?」
ホシノは多分、嘘をついている。昼寝だとしても基本的に連絡はつく。だとしたら考えられることは一つ。
僕たちよりも優先すべき何かがあった、ということ。
「ほんとに昼寝だよ〜。今日はあったかくてぐっすりでさ〜」
「.....そっか」
...何かを隠してる。
きっと僕たちにも関係する大切なことを。
「なになに〜レイヤはおじさんが恋しかったのかな?」
「茶化すならいい。ほら、僕たちも帰ろう」
それが何かは分からないけど、恐らく、今後の僕たちを左右するような内容なのだろう。アビドスに関係する、ユメ先輩に関係する何か。
あまり人のことは言えないが、ホシノも大概1人で抱え込むタイプだ。
何度か生徒会室で泣いているのを見たことがある。
先輩として責任を感じすぎている。このままだといつか絶対、心に限界が来る。
そうなる前に、僕がホシノを守らないと。
同じ失敗は2度としない。絶対に守ってみせる。
みんなに笑顔を振り撒きながら歩くホシノを横目に、僕はそう心に誓った。