関わる人全てを曇らせるホシノの同級生   作:フタバ ハクシ

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お久しぶりです。すみませんでした。
大学受験だったり不眠気味になったり色々してしまい、全く手をつけられずにいました。
今後とも不定期ではありますが、よろしくお願いします。


それでも手放さなかったもの

 

「確認できました。先生からの情報とも合致しますし、やはり、この施設で間違いなさそうです」

 

晴天の砂漠に吹き荒れる風が僕の髪を乱雑に撫でる。

僕たちの視線の先にあるのは、数十キロを優に超える大きさの巨大な施設。

 

「あそこにホシノ先輩が....」

 

ノノミが施設を見ながら言う。

 

「....絶対、助ける。連れ戻して、一発ぶん殴ってやる」

 

僕は自分の思いを言葉にして、銃のチャージングハンドルを引く。

「「一人で抱えるな」って言ったのはどこのどいつだ」って、思いっきり殴ってやる。

そう考えると、銃を持つ手に力が入る。

 

「大丈夫、きっと助けられるよ。みんながついてるから」

 

先生が僕の肩を優しく叩き、笑いかけながらそう言った。

僕が眠っている間に、他の学園へ向かい救援を求めに行ったりしてくれていたようで、ゲヘナ、トリニティ、便利屋にまで声を掛けていたようだ。

...本当に、この人の行動力と裏がない性格にはいつも驚かされる。

 

「...みんなで、取り返すよ」

 

先生はみんなに向けてそう言葉にし、大きく息を吸った。

 

「ホシノ救出作戦、開始!!」

 

「「「「「了解!!!」」」」」

 

僕たちは決意を胸に、目の前にある施設へと歩き始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

基地に入ることができた僕らは、さまざまな人達の助けを借りながら奥へと向かっていく。

ヒフミを始めとしたトリニティの自警団。ヒナを筆頭に次々と敵を薙ぎ倒していく風紀委員会。アルを皮切りに好き放題に暴れる便利屋のメンバーたち。

 

「ホシノ先輩の位置、確認できました!」

 

「あそこです!!あのバンカーの地下に!」

 

「シロコ、カバーをお願い」

 

「ん、任せて」

 

僕たち対策委員会はその先頭を抜群のコミュニケーションで進んでいく。

相手も全力を尽くして立ちはだかって来ているのだろうが、それを物ともしない先生の指揮能力のおかげで被害を最小限に減らしながら相手の戦力を削ることができている。

 

「みんな、前方からゴリアテが来るよ!!」

 

大層な名前がついているが、あれは先日相対した大きな機械と同じものだった。

図体の大きい、思考停止であらゆる装備を盛り付けた小回りの効かないポンコツ。

それに乗っている人間さえ、稚拙で浅はかな人間だということを僕は知っていた。

 

「理事.....!」

 

「お前たちのせいで、私の計画が全て台無しだ!!!」

 

「ふざけるなよ!!!ちっぽけなガキの分際で!!!」

 

怒り狂っている理事とは対照的に、僕は冷静だった。

先生やみんながいる。助けてくれる仲間がいる。

 

「お前のような人間にホシノは渡さない」

 

「返してもらうよ」

 

僕は言い放つ。

 

「私がどれだけこの計画に力を入れてきたと思っている!!!お前たちなんぞ、全員消し炭にしてくれるわ!!」

 

直後、大きな砲身から禍々しい光線が放たれる。僕は余裕を持って回避し、機械との距離を縮める。

懐に入り、足の装甲に向けて銃弾を放つ。しかし戦車用の装甲なのか、僕の銃じゃビクともしない。

機械が僕の方を向き、両手に装着された機関銃から鉄の雨が降り注ぐ。

 

「...っ!」

 

間一髪で僕は避け、近くにあった瓦礫の元へと身を隠す。

 

「レイヤ!!」

 

「レイヤ先輩!!」

 

「....大丈夫、当たってないよ」

 

シロコとアヤネが無線越しに叫ぶ。被弾こそしていないものの、かなり危ない状況だった。

 

「でも....どうすれば...」

 

しかし、状況は良くない。

銃弾が効かないなら、こいつを倒す手段がない。

何か別の策を考えなければ。

そう考えていた刹那、シロコが機械の正面へ立つ。

 

「シロコ...!?」

 

シロコが機械に向かって走り出す。それと同時に砲身が光り始める。

自殺行為だ。

 

「シロコ!避けて!!!」

 

僕はそう叫ぶが、まるでシロコは聞いていない。

直後、シロコの頭上からドローンが現れる。

マフラーと同じ水色を基調としたドローンは、砲身に向けてミサイルを発射する。

 

「なにっ!?!?」

 

爆発音が鳴り響く。機械はよろめき、ショートしたかのように動かなくなる。

 

「レイヤ!!行って!!」

 

シロコが叫ぶ。

 

「でも、それじゃみんなが....!」

 

「レイヤの眼があれば、すぐにホシノ先輩を見つけられる!!」

 

「だから、ここは私たちに任せて!!」

 

僕は拳を強く握り締め、この作戦の目的を思い出す。

あくまで目的は、ホシノを取り返すこと。

こいつを倒す必要はない。

何よりも、みんなが作ってくれたこのチャンスを、絶対に無駄にしたくない。

僕はすぐさまバンカーに向かって走り出し、去り際にみんなに告げる。

 

「絶対、連れて帰ってくる!!」

 

そう言って僕は機械を通り過ぎ、奥のバンカーへ駆けていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ホシノが囚われているバンカーに入り、地下へと向かっていく。

道中で機械どもが邪魔をしてくるが、そんなもので僕は止まらない。

早く、早く行かないと。

間に合わなくなる前に、早く。

走りながら続々とくる敵を倒していく。眼を使うまでもない。

 

「邪魔だ!」

 

地下に繋がる道を塞いでいた機械に対して、僕は叫びながら銃弾を放った。

頭に3発、胴に2発命中し、機械はそのまま動かなくなった。

僕はそのまま地下へ繋がる階段を降りようとする。

 

ピッ、ピッ。

 

謎の音が倒れた機械から聞こえる。振り返るとそこには四角い箱のようなものが赤い光を点滅させている。

それが何か理解した瞬間、けたたましいアラーム音が響き渡り始める。

しくじった。避けられない。

 

「くそっ!!」

 

その叫び声を最後に、僕の視界は爆発音と共に崩れていった。

 

 

 

 

 

 

 

「.....っ」

 

目が覚めると暗闇の中だった。爆発の衝撃で下に叩き落とされたのだろう。激しく痛む全身がその推理を裏付けていた。

みんなと連絡を取ろうにもつけていたはずの無線がどこにも見当たらない。

それどころかあたりには瓦礫が散らばっていて僕の身体にもそれが重くのしかかる。

 

「...ごほっ..げほっげほっ....!」

 

内臓が軋んで激痛を生み出す。内側から血がせり上がり、床にこぼれ落ちる。

今はこの身体に構っている余裕はないというのに、限界を訴えるこの身体にうんざりする。

爆風で弾け飛んだのか、左腕を隠していた手袋とアームカバーがなくなっており、醜い左腕が露わになっている。

ふと、あの日の景色が浮かぶ。

誰も助けられず、全てを失ったあの日。

先輩を助けられず、殺してしまったあの日。

また、助けられない。

嫌だ。嫌だ。いやだ。

 

「ほ、しの」

 

自分の上にのしかかっていた瓦礫をどかし、立ち上がる。

ホシノを、助けないと。

僕は眼を使いながら痛む身体に鞭を打ち、再び走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ....はぁ....っ」

 

どれくらい走っただろうか。

いつもならなんてことはないのに、今は走るだけで息が切れる。

内臓が傷んでいるのに無理をしているからだ。でも、痛みはない。アドレナリンが出て痛覚が麻痺しているのだろう。

 

「はやく....しないと....」

 

さっきからあちこちで爆発音が聞こえる。おそらくカイザーの理事が自爆プログラムか何かを実行したのだろう。ここが跡形もなく潰れるのも時間の問題だと、僕は絶え間なく響く爆発音で理解していた。

 

電気もついていない暗闇の通路を、僕はひたすら走る。

お願いだから、間に合って。

もう、何も失いたくない。

一人は嫌だ。

ホシノ。

 

「はぁっ....はぁ........っ.....」

 

その時、分厚い壁の向こうで見慣れた桃色の髪が視えた。

 

「ほ....しの......?」

 

疲れているからなのか、眼がぼやけてうまく視えない。

だけど、きっとあれは。

 

「ホシノっ!!」

 

僕は壁の向こうに対して叫ぶ。

届いていないのかホシノはぴくりともしない。

壁の向こうに入るために、僕は入り口を探す。

お願い。生きてて。

お願い。

 

「ホシノっ!!!ホシノっ!!!」

 

非常用の出入り口を蹴破り僕は大きな広場のような部屋に入る。赤いレーザーが中心に向けて照射されている。その矛先に居たのは。

 

小鳥遊ホシノだった。

 

「ホシノ!!」

 

疲れなんて吹き飛び、僕は全速力でホシノの元へ駆け寄る。しかし、

 

ドカアアアアアアン!!!

 

すぐそばで轟音が鳴り響き、ホシノのいる床が崩れる。

バランスを崩した僕は、動くのが一歩遅れる。

ホシノが宙を舞う。

 

「っ......!!ホシノ!!!」

 

僕はすかさずホシノに飛びつき、剥き出しになっていた鉄筋に手を伸ばす。

僕たちがさっきまで立っていた床が跡形もなく崩れていく。僕はそれを鉄筋に掴まりながら見ていた。

間一髪。ギリギリで間に合った。

だけど。

 

「.....っ!!!あ゛あ゛っ.....!!」

 

ホシノの手を掴んでいる左腕が何かを刺されたように痛む。銃すら持てないのに、無理矢理人の体重を支えているからだ。

痛い。痛い。

でも、持ち上げられない。掴まっている右手もいっぱいいっぱいだ。

 

「ぐぁ....っ.....あ゛あ゛っ.....!!!」

 

離さない。離すものか。

その想いだけで僕は耐えていた。

それでも、右手が少しずつ滑っていく。

指から少しずつ力が抜けていく。

そして、完全に指が離れ、僕は重力に引っ張られていった。

 

 

 

 

はずだった。

 

 

右手に、暖かい感触。

誰かに手を握られている。

 

「ん......ギリギリ、間に合った」

 

僕は声のする方を見上げる。そこにいたのはシロコだった。

ドローンに掴まりながら、僕とホシノを掴んで離さない。

 

「シ...ロコ....」

 

僕はかろうじて声を出す。

 

「私だけじゃない。みんなもいる」

 

そう言いながらドローンは通路の方に向かい、僕とホシノを床に降ろす。

そこには先生とノノミたちが心配そうに立っていた。

 

「レイヤ先輩!!大丈夫ですか!?」

 

ノノミが僕の元へ寄り、怪我の具合を確認する。

 

「....!!レイヤ先輩、それ....」

 

ノノミが左腕を見ながらそう言う。

見つかってしまった。

反射的に右腕で傷跡を隠す。

ずっと見られないように細心の注意を払ってたのに。

失望されないように、嫌われないように隠してきたのに。

 

「こ....れは....その....」

 

痛み、疲労もありうまく言葉が出てこない。

何を言えば、誤魔化せる?

何をすれば、許される?

どうすれば。

 

「.....っ」

 

そんなことを考えていると、次第に意識がぼんやりとしてくる。

身体が限界を訴えている。左腕の感覚もほとんどなく、目に映る景色も次第に解けていく。

 

「ホシノ先輩は私が運ぶ。レイヤ、自分で歩ける?」

 

見かねたシロコが僕に尋ねる。

無理に無理を重ねた僕の身体は、緊張状態から解かれ全身が鉛のように重く、あらゆるところがズキズキと痛んでいる。

 

「......きつい....かも...」

 

僕は詰まりながらも自分の状態をシロコに伝える。壁にもたれながら、心配するみんなを横目に全身の力が抜けていくのを感じる。

 

「レイヤは私が運ぶ、とりあえず脱出しよう!!」

 

先生が僕の身体を優しく抱き抱え、そのまま立ち上がる。

 

「大丈夫、よく頑張ったね。あとは私に任せて」

 

意識が途切れる寸前、最後に聞こえたのは先生の暖かい言葉だった。

 

 

 

 

 

 

 

「.....ん....」

 

眩しい日差しで僕は微睡みの中から目を覚ました。

ぼんやりとしている視線の先には、紺色の髪の毛の女性が顔を覗かせていた。

 

「せん....せい......?」

 

少し掠れ気味の声でそう呼ぶ。

少しずつ視界がはっきりして、僕の頭上にいるのが先生だとわかった。

後頭部にあるのは硬い地面の感触ではなく、暖かく柔らかい人の温もり。それが先生の膝の上であることを理解するのにそう時間はかからなかった。

 

「起きた?」

 

「どこか痛むところはない?」

 

先生はそう尋ねながら少しだけ首を傾げる。

 

「ホシノは.....?」

 

僕は上体を起こそうと力を入れようとする。しかし、僕の身体は動かなかった。

正確には動いたものの起き上がるほどの力が入らず、わずかに身体が震えるだけ。

 

「動かなくていいよ、レイヤ」

 

視界の端から桃色の髪が見え、青と橙色の瞳が僕を見つめる。

僕がずっと探していた人。

失いたくなくて、必死で探していた人。

 

「ホシノ.....」

 

「うん、私だよ」

 

「ホシノのバカ....」

 

目覚めたばかりで意識がはっきりしておらず、レベルの低い悪口しか出てこない。

 

「心配かけたよね、ごめん」

 

そう言いながらホシノは僕の右手を両手で優しく包み込む。

 

「無事でよかった....ほんとに....」

 

僕は自分に言い聞かせるようにそう呟く。

生きてる、失ってない。

それだけで僕は心の底から安心できた。

 

「みんな心配してるよ。レイヤのこと」

 

先生の言葉を聞き僕は少しだけ首を傾ける。そこには病人を見るような目で見ているシロコたちの姿があった。

 

「....ごめん、心配かけた」

 

僕はその圧に耐えられなくなり謝罪の言葉を口にする。

しかし全員納得していない様子で、痺れを切らしたシロコが僕に問いかける。

 

「レイヤ、その腕について聞きたい」

 

視線の先にあるのは僕の醜い左腕。生々しい縫い痕や傷痕が残っている。

 

「.....もう、逃してくれないよね」

 

僕は悟った。

 

「言いたくないなら無理には言わせない。でも、レイヤのことをもっと知りたい」

 

「一人で抱えて欲しくない」

 

シロコが自身の気持ちを打ち明ける。僕についての気持ちをちゃんと聞くのは初めてだ。

 

「私からもお願い。レイヤの過去、聞かせて欲しいな」

 

先生まで僕の過去に興味があるらしい。

今までホシノ以外には誰にも伝えていなかった。

拒絶されたくないから。

「弱い」と失望されたくないから。

でも、この人たちなら。

僕のことを、認めてくれるかもしれない。

 

「....えっと、ね...」

 

言葉を紡ごうとするものの、うまく喉から音が出ない。

無理に次ぐ無理で身体が限界を訴えているのは明らかだった。

 

「今日はもう休もう、みんなも疲れてるでしょ」

 

見かねた先生が空気を読み、僕の頭に手を置く。

それが心地よくて、瞼が重力に逆らえなくなっていく。

 

「えぇ〜!?!?私、もう聞く気になってたのに!」

 

「まあまあ、いいじゃないですか、楽しみはとっておくものですよ☆」

 

誰かの声が聞こえる。セリカとノノミだろうか。

もう意識がほとんどなくて、身近にいる人の声すら誰かわからなくなっていく。

 

「大丈夫、あとは任せて」

 

蒼玉のような美しい瞳が僕に向いたのを最後に僕の視界は暗闇に包まれた。

 

「失ったものも、守るべきものも」

 

「取り返したし、守り抜いた」

 

「レイヤはすごい子だよ」

 

ああ、それはよかった。

 

その声が先生なのかホシノなのかは分からなかった。

けれど、その言葉が僕に向けられたものという事実だけで、僕は何も考えられなくなるくらい嬉しかった。

 

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