関わる人全てを曇らせるホシノの同級生   作:フタバ ハクシ

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空いた穴

レイヤからの通信が途絶えた。

通信が途切れる寸前、レイヤは何かに気づき、慌てた様子だった。

一体何に気づいたの?

先輩に何があったの?

レイヤは無事なの?

通信を聞いてからの私はすぐさまレイヤの元へと走り出した。

走って。

走って。

走って。

がむしゃらに走り続けた。

 

「お願いだから....2人とも無事でいて.....!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ.....はぁ....」

 

気づけばレイヤが最後に通信を残したポイント、セクター42まで着いていた。

ここの周辺はもともと市街地だったのか、大きなビルの残骸や、建造物の断片が多くて視認性が悪い。急がないといけないのに、焦燥感が抑えきれない。

 

「レイヤ!!どこですか!?レイヤ!!!!」

 

私はひたすらに叫び続けた。でも、この声は砂にかき消されるだけ。自分の無力さの前に、ただ打ちひしがれることしかできなかった。

 

「急がないと.....!」

 

その刹那、携帯の通知音が鳴り響いた。

 

「こんな時に....誰!?」

 

イライラしながら私は携帯を手に取る。

誰だ。一刻を争うのに私の邪魔をするのは誰だ。

 

「....レイヤ!?」

 

送り主の名前は、燐葉レイヤだった。

急いでメッセージの内容を確認する。そこにあったのはメッセ―ジではなく、マップのピンだった。

アビドス砂漠の中心街だった場所。その中央にピンは刺さっている。

1つだけ、心当たりがある。レイヤはここアビドス砂漠に向かう前、発信機を持っていたはず。

それの信号だとしたら。

 

「レイヤは...ここにいる...?」

 

レイヤがいるということは、ここにユメ先輩も....

 

「っ....!」

 

私はまた足を踏み出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここの....はず...」

 

息も絶え絶えになりながら、レイヤが残したピンの周辺まで着いた。

このあたりに、レイヤとユメ先輩が.....

 

「レイヤ!!!聞こえますか!!!レイヤ!!!」

 

 

私はまた叫ぶ。

この声が届いているなら、返事をして。

お願い。

おねがい。

 

 

 

 

バンッ!!!

 

空間を切り裂くような轟音が私の耳に響き渡る。

この音、聞いたことがある。

私が現場に駆け付けると、いつも滅茶苦茶な方向に向かって放っていた音。

これは、レイヤの銃の音だ。

つまり。

レイヤは、そこにいる。

足が動くのは早かった。

 

 

 

 

 

 

「なに...これ....」

 

銃声のもとへ近づけば近づくほどに、瓦礫は多くなっていった。その全てが、まだ砂をかぶっていない。まるでついさっき破壊されたように。

それに、さっきから空薬莢が地面に落ちている。レイヤのハンドガンの薬莢とは違う。これはライフルの薬莢だ。

 

まさか、

 

 

レイヤはここで、襲われた?

 

 

ビルの残骸を掻き分け、前へと進む。無事だ。2人ともきっと無事だ。自分にそう言い聞かせた。

 

「レイヤ!!先輩!!無事で....す...か.....」

 

そこにあったのは、瓦礫の傍で動かなくなっているユメ先輩。さらに、

 

 

 

 

 

 

 

 

赤い染みの中心で横たわるレイヤが、いた。

 

「......ぇ...」

 

美しい白銀の髪は血に濡れて所々赤く、左腕らしきものは一部が大きく欠けていた。

脇腹には鉄筋のようなものが刺さっている。ヘイローこそ消えていないものの、呼吸は今にも途絶えてしまいそうだった。

脳が理解を拒んだ。

そんな、うそだ。

 

「いゃ......そ....んな....」

 

くぐもった声しか出なかった。ヘイローはある。死んではない。でも、目の前の光景を現実だと認めたくない。悪い夢なら早く覚めて。お願い。早く覚めて。

 

「...けほっ......ひゅ.....こほっ......」

 

「.....!?」

 

微かに聞こえたそれは、間違いなくレイヤの声だった。

 

「レイヤ!レイヤ!!しっかりしてください!!」

 

「....めん........な........い......」

 

正気に戻った私はレイヤを抱き抱える。嫌なくらい軽い。顔色も、まるで人形のように白くなってしまっていた。

 

「何があったんですか!?ここに来る前にあったライフルの薬莢は一体誰のですか!?」

 

「もっと......ぼ......くが......」

 

「つ....よく..........な.....るか...ら...」

 

「レイヤ.......?」

 

虚な目をしている彼女は、枯れた声でそう呟いた。

 

「い....かな..........い.....で....」

 

 

「ゆ.....め.....せんぱ....い....」

 

その言葉を聞いた瞬間、私はユメ先輩の方を見る。ヘイローが消えている。

まさか。

私は恐る恐るユメ先輩の首元を触る。

 

「....ぁっ......」

 

脈が、止まってる。

 

 

 

嘘だ。

 

 

 

うそだ。

 

 

 

うそだ

 

 

 

 

 

 

うそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだ

 

 

 

「ああああああああああああああああっっっ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そこから先はよく覚えていない。

気づけば私は病院にいて、レイヤとユメ先輩は運ばれていた。

私が2人をここへ連れてきたのか、誰か他の人が運んでくれたのかすら、私にはわからなかった。

待合室のベンチでうなだれている私は、何も考えることができなかった。

なぜレイヤがあんな状態になっていたのか。

ユメ先輩を見つけた後、通信が途絶えた後に何があったのか。

なぜレイヤとユメ先輩があんな目に遭わないといけなかったのか。

どうして?

 

 

 

 

 

 

 

しばらくして医者が手術室から出てきた。

医者は私に2人のことについて詳しく話してくれた。

レイヤの身体について。

なんとか一命を取り留めたものの、左腕の約半分が欠損して、満足に動くことはもうないということ。

脇腹の傷も、内臓を深く傷つけてしまっていて、今後の生活に何か支障が出るかもしれないということ。

他にも右足の骨折や、全身の打撲など数えきれない程の怪我を負ってしまったこと。

そして、

 

 

 

ユメ先輩が、亡くなったこと。

 

 

 

原因は砂漠の暑さによる脱水症状からの衰弱死。ここに運ばれた時点で意識がなくなってからしばらく経っていたらしく、助かる確率はほぼ0に等しかったらしい。

医者曰く、ユメ先輩の遺体はとても綺麗な状態で、擦り傷こそあったものの、レイヤのように致命的な外傷はなかったらしい。

 

「....あなたが、ユメ先輩を守ってくれたのですか?」

 

病室のベッドで眠っているレイヤのもとで、私は呟く。

彼女の側には大量の機械が並んでおり、それらは全て彼女の身体に繋がっている。

美しい白銀の髪に身を包む少女は、微動だにすることなく目を瞑っている。その姿はまるで人形のようだった。

今は規則的に鳴るピッ、ピッという音だけが、レイヤが生きている唯一の証明だ。

ビルが突然崩れたのか、はたまた何者かの襲撃を受けたのか、どちらにしてもレイヤだけこの有様で、ユメ先輩だけ無傷というのは不自然だ。

 

「...私が、もっと早く駆けつけていれば」

 

「あなたと一緒に向かっていれば、こうはならなかったのでしょうか」

 

問いかけても、返事はない。

怒号でも、叱責でもいい。私のことをなんて言ってくれても構わない。

だから、声を聴かせて。

1人は、嫌だよ。

 

「...また来ます」

 

そう言い残し、私は病室を後にした。

 

 

 

独りで、生徒会室に戻る。

あんなに騒がしくて、楽しかったのに、今は此処に似合わない静寂に包まれている。

 

「....」

 

ユメ先輩がよく座っていた椅子と机を見る。そこには、この前私が破ったアビドス砂祭りのポスターがあった。破られた所はテープで補修されていて、なんとか元の形を保っている。

 

「....っ...」

 

視界が滲む。私は無力だ。ユメ先輩も、レイヤも助けることができなかった。

なにが「暁のホルス」だ。みんなを守れないならこの力なんてないのと同じだ。

ふざけるな。

自分が、憎くてたまらなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

レイヤが目を覚ましたのは、運ばれてから1週間後のことだった。

連絡があった私はすぐさま自宅を飛び出し、病院へ向かった。

 

「っレイヤ!!!」

 

病室のドアを叫びながらこじ開ける。そこには、上体を起こしベッドから病室の窓を眺めるレイヤの姿があった。

 

「ホ、シノ」

 

久しぶりに聞いた同級生の声は、ひどく掠れていた。 

 

「起きていて大丈夫なんですか!?どこか痛むところは!?」

 

「....とりあえずは、大丈夫」

 

大丈夫なわけがない。左の上膊には大量の包帯が巻かれており、血が滲んで赤く染まっている。他にも怪我はたくさんあるのに、痛くないわけがない。我慢してるに決まってる。

 

「それより、ユメ先輩は、どうなったの」

 

詰まりながらもレイヤは私に尋ねる。

 

「先輩は.......亡くなりました」

 

「そ、っか」

 

レイヤはその言葉だけ答えた。彼女も覚悟はしていたのだろう。表情を変えることはなかった。

 

「ぼくの、せいだ」

 

暫しの静寂の後、レイヤはそう口にした。

 

「ぼくが、よわかったから」

 

「ぼくに、もっと力があったら」

 

「....何があったか、聴かせてください」

 

「...うん」

 

 

 

 

 

 

 

「ホシノとの通信の途中、あのビルに何かがぶつかった。たぶん、戦車砲とかそこらへんの類だと思う」

 

私はただ驚くことしか出来なかった。

 

「目が覚めたら、ビルは全部崩れてた」

 

「足が折れて、うまく動けなかった。そこに、人型の機械が来て襲われた」

 

「先輩を守ろうとしてなんとか追い払うことには成功したけど、その代わり腕とお腹をやられた」

 

「失血がひどくて意識がぼんやりしちゃって、気づいたらここに」

 

レイヤの体験した出来事は私の想像を遥かに超えていた。

 

「...どうして、あなたと先輩が狙われたのですか?」

 

「...わからない」

 

「...そうですか」

 

「僕が、もっと強かったら」

 

「僕に、ホシノみたいな力があったら」

 

レイヤの声が次第に震える。

 

「せんぱいをっ.....まもれたのかな....?」

 

「ほしの.....ごめん.....せんぱいを.....」

 

泣きじゃくる彼女を見て、私は胸にナイフを突き立てられたような感覚に襲われた。ただひたすらに彼女を抱きしめることしか、私には出来なかった。

 

「あなたはできる限りのことをしてくれました。ユメ先輩をその機械から守ってくれたのはあなたですよね」

 

「でも.....まもれなかった.....もう....せんぱいは....」

 

レイヤは私の肩に顔をうずめて涙を流しながらそう言った。

 

「....そうですね。でも、レイヤがいます」

 

「レイヤが眠っているとき、あなたの心臓が何度も止まりかけました」

 

「その度に、私は怖かった。先輩も、レイヤも失うんじゃないかって」

 

「だから、私はあなたが生きてくれていただけでも十分....うれしいです」

 

喋っているうちに喉がうまく言葉を発せなくなる。次第に瞼が熱くなる。

嘘だ。

先輩がもういないことは、私の心を壊すのには十分だった。

レイヤが生きているのが嬉しくないわけじゃない。でも、馬鹿な私は邪推せざるを得なかった。

先輩が生きていれば。

私が代わりに先輩を見つけていれば。

でも、それは今レイヤに伝える言葉じゃない。

レイヤだって辛いはずだ。ユメ先輩を目の前で失って、自分の身体にも色々な障害を負って。

 

「レイヤっ.....いきてて.....よかった....」

 

自然とその言葉が漏れた。この言葉は嘘じゃない。

独りになるんじゃないかって、ずっと怖かった。

 

「ありがとう....レイヤ....」

 

無意識のうちに抱きしめる力が強くなる。それに呼応するようにレイヤが私を抱きしめる力も強くなっていく。

 

「...っ....うっ.....」

 

声にならない声が聞こえる。顔は見えないが、きっとくしゃくしゃの酷い顔をしているだろう。いつもなら「何ですかその顔、変顔ですか?」とか言って茶化しただろうが、今のレイヤに必要なのはそれじゃない。

傷ついてる人の心に寄り添い、優しい言葉を投げかけて癒す。

きっと、"ユメ先輩ならこうする"だろうから。

 

「大丈夫です....私がついてますから....」

 

喉に言葉がひっかかりながらも私はそう言った。2人なら、きっと何とかできる。今はまだ立ち直らなくても、いつか必ず、前を向ける日が来る。私は独りじゃない。レイヤがいる。レイヤとなら、何だって乗り越えられる。

 

「...うんっ...あり...がと...」

 

さっきよりも声を詰まらせながら、彼女はそう答えた。

嫌なくらい質素で、真っ白な病室の中は、規則的な機械音と2人の少女の嗚咽が響いていた。

 

 

 

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