関わる人全てを曇らせるホシノの同級生   作:フタバ ハクシ

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書きだめがなくなりました。ここから投稿頻度がかなり落ちると思います。どうか気長にお待ちください。


変わっていくもの

「いった....」

 

全身に響く激しい鈍痛で僕は目覚めた。

さっきまで室内にいた僕たちは外に投げ出されていて、壁の代わりに大量の瓦礫があたりを埋め尽くしていた。

何か、ミサイルのようなものがビルに当たったのだろうか。さっきまでビルだったものは跡形もなく崩れていた。

 

「ユメ先輩は...!?」

 

慌ててあたりを見渡すと、僕のすぐそばで水色の髪の少女がうつ伏せで眠っているのが見えた。

よかった。ユメ先輩はそこにいる。2人とも瓦礫に潰されてなかったのは奇跡だと思った。

 

「とりあえず....ホシノに連絡しなきゃ...」

 

砂の上に横たわりながら僕はさっきまで右手に持っていた無線機を探す。崩れた衝撃でどこかに手放してしまったのか、見つかることはなかった。

 

「いっっ.....!?」

 

直後、僕は右足に走った痛みに顔を歪ませた。

びっくりして反射的に足の方を見る。右足が信じられないほど腫れている。

これ、折れてるな....

僕は足からくる感覚でなんとなく理解した。

これじゃ、ユメ先輩を運んで動くことはできない。となると僕に残された方法は一つ。

ホシノにここまで来てもらうことだ。

 

「スマホ....は生きてる...」

 

ポケットから取り出したスマホは、画面が割れてしまっていたが電源は切れていなかった。さらに幸運なことにぎりぎり電波が届いていた。

 

「ホシノに...電話..しなきゃ...」

 

眼を使いすぎたのかすごく眠い。スマホを握る右手ですらおぼつかない。

僕は何とかモモトークを開き、ホシノのアカウントを開く。通話のボタンを押すために親指を画面に近づける。

 

 

バァン!!!!

 

 

 

空間を切り裂く轟音とともに、僕のスマホは貫かれた。

 

「なっ....!」

 

敵襲だ。銃弾が飛んできたんだ。僕は眼を使いながら銃弾が飛んできた方向を見る。300メートルほど先に全身を黒に包んだ人型の機械のようなものが3体。もれなく銃を携えている。御大層に、ナイトビジョンもつけている。

 

「なんで....今なのさ...!!」

 

一刻を争う状況なのに、足止めとしか考えられない登場に憤りを覚える。悪態をつきながらホルスターにしまっていた2丁のM17を両手に構える。

事態は絶望的だ。僕は足がやられてて、ユメ先輩を守りながらどうにかしないといけない。相手はゴーグル付きで、僕の眼のアドバンテージもない。

 

「くっそ...」

 

近くにあった瓦礫の後ろに這いずりながら移動し、銃の安全装置を外す。

何とかしないといけない。あいつらの目的はわからないけど、早くどうにかしなきゃユメ先輩の命が危ない。

 

「追い払うしか...!」

 

通信手段は残っていない。無線機も、スマホもない。無線機は起動してからホシノに気付いてもらうまでに時間がかかる。

やるしかない。

 

僕は身体の半分だけを出し、敵の方向とは全く違う方向に銃弾を放つ。

やつらは気づいて僕に向けて銃弾を撃ち返す。銃弾は瓦礫にぶつかり、瓦礫をえぐる。

この状況でも敵に銃を向けられない自分が嫌になる。

 

「くそ...どうすれば....」

 

このままじゃジリ貧だ。僕の銃の弾も無限じゃない。

だめだ。僕1人じゃ勝てない。逃げるしか....

僕は隙を見て遮蔽物から身を出し、ユメ先輩のもとへ駆け寄ろうとした。

 

「がっ....」

 

しかし、遮蔽物から出た瞬間に、僕の体に向けて銃弾が何発も撃ち込まれる。身体に走る激痛に、意識が遠のいていく。

 

(これ.....やば....)

 

霞む視界の端から人型の機械が顔をのぞかせる。抵抗しようにも、身体がいうことを聞かない。

 

「ターゲットを確認。応答願う」

 

何か聞こえる。意識がぼんやりしてて所々聞こえない。

 

「1名は意識不明。1名はまだ意識があります」

 

1人の機械が私とユメ先輩を見て答えた。

 

「よろしいのですか?しかし...」

 

「....了解」

 

ユメ先輩のすぐそばにいた機械が先輩に向けて銃を構える。

まさか。そんな。

やめろ。その銃を下ろせ。

 

「や....めろ....!」

 

何とか声を出す。しかし奴らが聞いてくれるわけもなく、機械は銃の引き金に指をかける。

こいつら、ユメ先輩を殺す気だ。

ユメ先輩が殺される。

僕の眼の前で。

助けなきゃ。

でもどうやって?

もう.....殺すしか....

 

 

 

ああ、そっか。

 

 

 

 

 

 

 

殺すしか、ないんだ。

 

 

 

 

 

 

「ころ....してやる....!!」

 

身体を無理矢理動かし、左足で一番近くにいたやつの足を蹴り上げる。転んだ機械の頭部に銃弾を3発撃ち込む。機械は動かなくなった。

 

ユメ先輩を傷つける奴は僕が全員許さない。ユメ先輩を守るためにはもうこれしかない。殺してやる。

 

残りの2体が僕に銃を向ける。僕は骸と化した機械を盾にして少しずつ前に詰め寄る。

弾切れのタイミングで僕は顔を出し、的確に相手の頭を狙っていく。もう1体の機械の頭に銃弾が2発命中し、相手が倒れ込む。その隙にもう1人の足元に弾をばら撒く。

 

「ゆるさない....ゆるさない....!」

 

もう1体の左足に銃弾が命中し、体制を崩して後ろに倒れこむ。その隙を狙って左手に持っていた愛銃を投げつけ、右手のもう1丁で首元を撃ち抜いた。

 

「ユメ先輩に...近寄るな....!」

 

動かなくなった機械に馬乗りになり、ひたすら頭を殴り続けた。

ゆるさない。ゆるさない。殺す。

気づけば機械の頭部は原型を留めておらず、再び動くことはなかった。

 

「.....おわ....った....?」

 

眼が覚めたような感覚になる。辺りを見ると動かなくなった機械が散乱していた。

これ、全部僕がやったの?

目の前の光景が信じられなかった。

でも、これでユメ先輩を助けられる。よかった。

僕は足を引きずりながら歩いて、ユメ先輩のもとに向かう。

 

「せんぱい....もう大丈夫だから...」

 

僕は先輩を肩に担いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

はずだった。

 

「ぐあっ...」

 

背後から何者かに首を絞められている。呼吸ができない。後ろを向きたいのに、首が完全に固定されていて動かせない。

僕は右手に持っていたハンドガンで後ろに向けて弾を雑に撃った。刹那、首の苦しみから解放される。

 

「げほっ...げほっ...」

 

何とか後ろを振り向くと、そこにはさっき壊したはずの機械が経っていた。頭部には銃弾が2発命中した跡がある。

あれだけじゃ壊れてなかったのか。鬱陶しい。僕はハンドガンを構え、頭部に再度銃弾を撃ちこもうとする。しかし、

 

 

 

 

 

弾は出なかった。銃のスライドが後退したまま止まっている。

 

あ、まずい。

 

 

なすすべなく、僕は頭を掴まれ、持ち上げられる。そのまま、近くにあった瓦礫に後頭部から叩きつけられた。

 

「がっ.....!」

 

視界が大きくゆがむ。精一杯頭を掴む手を退かそうと足掻くが、力勝負じゃ機械相手に勝ち目はない。腕はびくともしなかった。

機械は空いているもう片方の腕で何かを掴んだ。何か鋭い棒のようなものを取ったように見える。機械はその腕を振り上げた。

 

まさか。よせ。やめろ。

 

「やめ......ろ....!」

 

必死に抵抗するが、僕の両手は無常にも空を切る。

 

「や...だ....っ...はな.....せぇ.....!」

 

そんな願いを機械が聞いてくれるわけもない。暴れる僕を片手で制しながら、機械は腕を振り下ろした。

 

 

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ゛っ゛っ!!!!」

 

砂漠に叫び声がこだまする。

それと同時に耐え難い痛みが脇腹から伝わる。痛みで暴れる僕の身体を、機械は易々と抑える。

 

「あ゛あ゛っ゛.....うあ゛......」

 

次第に暴れる手に力が入らなくなっていく。動くことすらままならない。

機械は僕を軽々と持ち上げ、僕の腹部を強く蹴り上げた。

 

「がはっ....が....ぁ...」

 

僕の身体は壊れた人形のように地面を転がる。起きあがろうと顔を上げると、そこにはさっき投げた僕の愛銃、M17が転がっていた。すかさず僕は銃を握り、機械の方へと銃口を向ける。

 

「あ゛あ゛あ゛!!!」

 

剥き出しの殺意と共に、僕は引き金を引いた。銃弾は機械の頭部を貫き、機械は倒れて動かなくなった。

 

「はあっ.....はぁっ.......」

 

今度こそ、終わったのか.....?

激しい痛みでまともに動くことすら叶わない。改めて自分の傷を確認する。

脇腹に鉄筋のようなものが刺さっている。刺さっている箇所からは血がドクドクと脈を打って溢れている。

意識を失うのも時間の問題だ。僕は自分の体からくる反応で理解した。

 

「ホ..シノ.....に...きて...もらわ....ない...と...」

 

ポケットからGPSを取り出して、スイッチをオンにする。本体が赤く光り、起動したのを確認した。

 

「つか....れた....」

 

ユメ先輩を助けなきゃいけないのに、立つことすらできない。こうしてる間にもユメ先輩の猶予は刻一刻と迫ってきているのに。

 

「せ....んぱ.....」

 

這いずりながらユメ先輩のもとへ向かう。

その時だった。

ピッ、ピッと電子音が聞こえる。

僕がさっき起動したGPSじゃない。あれはこんなタイマーのような音は鳴らない。

音の元凶は、最後に倒した機械の元から鳴っていた。そこには、四角い箱のようなものに、携帯のようなものが取り付けられていた。

 

ホシノから聞いた言葉を思い出す。

 

「最近、"ヘイロー破壊爆弾"と言われるものがブラックマーケットで取引されているようです」

 

「あくまで噂ですが、私たちのヘイローを破壊するほどの爆発力があるみたいです」

 

「レイヤも気をつけてくださいね」

 

 

これが、もしそれだとしたら。

まずい、ユメ先輩が死ぬ。

それだけは嫌だ。

 

僕は咄嗟にユメ先輩に覆い被さった。

次の瞬間、凄まじい轟音と共に僕の意識は途切れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「...っはぁっ......!」

 

目を開ける。意識が覚醒してないせいで、一瞬何が起こったかわからなかったが、ゆっくりと理解した。

左腕を見る。そこには形こそ元に戻っているものの、歪な縫い目や傷跡が残っていた。

 

「夢、か....」

 

正確には夢じゃない。あれは僕がユメ先輩を守れなかった時の記憶だ。

嫌な思い出ほど、よく鮮明に覚えているのもだ。

 

「....今、何時だろ」

 

壁にかかっている時計を見る。時刻は午前5時を回ったところで、カーテンの隙間から日の光が差し込んでいる。

 

「...シャワー、浴びようかな」

 

パジャマは汗でぐっしょり濡れている。学校に行くのにも少し時間があるし、この不快感を排除するため僕は浴室へ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

いつものように、学校へ向かう支度をこなす。

ネクタイを締め、スクールバッグを持ち、愛銃のXM7を肩から提げ、準備を完了させる。

 

「いってくるね。ユメ先輩」

 

僕は机の上に飾ってあるボロボロのネクタイに向けてそう言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

学校の門へ着くと、見覚えのある桃色の髪の毛の少女が、別の少女に話しかけているのが見えた。

 

「ホシノ....と、誰だろ」

 

あんな子ここら辺にいたっけ。なんてことを考えていると、もう1人の白茶の髪をした子が走ってどこかへ行ってしまった。

僕はすかさずホシノに駆け寄る。

 

「...少し言い過ぎちゃったかな」

 

ホシノはそう呟いた。

 

「ホシノ。おはよう」

 

僕はそう声をかける。

 

「あ、レイヤ。おはよう」

 

「さっきの子、知り合い?何か話してる様子だったけど」

 

「いや、知り合いってほどでもないよ。ただ、企業絡みで名前を知ってただけ」

 

「逃げるようにして走ってったけど、一体何言ったの」

 

「いやー別に?ただ「回答によっては、ヘイローの安全は保証しないよ」って言っただけだよ?」

 

.....洒落になってない。

ホシノの力があれば、いとも容易く言葉通りにできるだろう。

 

「それは僕でも怖いよ。知らない子相手にそんなこと言ったの」

 

「まあ、ちょっとね」

 

ホシノは歯切れが悪そうにそう答えた。

 

「それより、身体の調子はどう?どこか痛いところない?」

 

「...今日は大丈夫。腕も、結構動かせるようになったし」

 

僕は自分の左手を見てそう言った。

あの戦闘で僕が負った傷はかなり酷かったらしく、後遺症がいくつか残ってしまった。

1つはこの左腕。著しく握力が低下してしまって、物を持つ、引っ張るなどがほとんど出来なくなってしまった。

具体的に言うと、ヘイローのない人間の半分程度の力しか残っていない。日常生活にもかなり支障をきたしている。

2つ目は、内臓機能の低下による薬の服用。脇腹の傷が思ったよりも深かったらしく、いくつかの内臓の機能が損なわれてしまって、それを錠剤で補っている。これがまた面倒で、一回の食事でかなりの量の薬を飲まないといけない。

この2つは、もうどうしようもないらしく、一生の付き合いになると退院する前、医者が言っていた。

 

「そっか。ならいいんだけど」

 

ホシノは、僕のリハビリをとても熱心に助けてくれた。それのおかげで、今の僕があると言っても過言ではない。

ホシノには、感謝しても仕切れない。

 

「今日も、お願いしてもいい?」

 

僕はそう尋ねる。

 

「もちろん、おじさんにできることはこれくらいしかないからね」

 

そう告げて、ホシノは校舎の中へと歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「構えが雑!もっとしっかり狙って!」

 

「....っっ!」

 

僕はその声を聞いて銃を構える手に力が入る。学校のグラウンドを走りながら学校の備品で作られた標的に弾丸を撃ち込んでいく。

 

物陰に隠れ、マガジンリリースを押して新しいマガジンに交換する。再び物陰から走って出ていく。銃を撃つ。この繰り返しだ。

これが、僕がホシノにお願いした「訓練」だ。

もう2度と大切なものを失わないように。

もう、間違えないように。

 

 

 

「その銃にはもう慣れた?」

 

訓練の休憩中、銃の手入れをしている僕にホシノが話しかける。

 

「だいぶね。右手だけで構えるのも少しずつ形にはなってきた」

 

僕は銃を変えた。左手がまともに使えない今じゃ、2丁の銃を扱いきれない。それにハンドガンじゃ火力に欠ける。だから、もっとパワーがあるライフルに変えた。特別にオーダーしてもらって、片手でも構えやすいよう軽量化、力のない左手でも撃てるようにトリガープルを特別軽く作ってもらった。

今はこの銃を右手で構え、左手で引き金を引いている。いわゆる左利きの構え方をしている。

 

「....現状は65点ってとこかな。まだまだ荒いねぇ」

 

「...ホシノ基準で言われても困る」

 

流石にギヴォトストップクラスのホシノと比べられたら見劣りする。それでもうまくやっているつもりだ。

 

「そう言われても、頼んだのはレイヤでしょ?」

 

「...うん。そうだね」

 

僕は少し下を向いて答えた。

まだこんなのじゃ足りない。何も守れない。またあの時と同じ結果を引き起こすだけだ。

もう、あんな結果にはなりたくない。何があっても、あんなことには....

 

 

「...また、何か焦ってる?」

 

ホシノが、確信をつく言葉を吐く。

 

「....もうそろそろ、ユメ先輩が亡くなってから半年が経つ。もう少ししたら、後輩たちがここに入学してくるかもしれない。こんな状態じゃダメなんだ。このままじゃまた....」

 

「...大切な人を、守れない?」

 

...静かに僕は頷いた。

 

「もっと、強くならなくちゃ。人を、守れるくらい」

 

「...レイヤ、変わったね。髪型もそうだけど、銃も、性格も」

 

「...ホシノもね」

 

あの事件があった後、僕は伸ばしていた髪を昔のホシノほどの長さに切った。

昔のホシノを忘れない為に、とでも言うべきか。

あの件以降、ホシノは変わった。

ホシノは、少しずつだけどユメ先輩に似てきている。

何が彼女をそうさせているのかはわからない。だけど、ホシノは昔ほど自分を出さなくなった。僕と対比するように、髪も伸ばし始めた。

少しずつ、少しずつ。「小鳥遊ホシノ」は僕の知っている「小鳥遊ホシノ」じゃなくなっていっている。

僕とユメ先輩が知っている小鳥遊ホシノは、だんだんと形を変えていってしまっている。

だから、せめて僕があの時のホシノを忘れない為に。

僕らと共に過ごした思い出を忘れて欲しくないから。

だから、僕は髪を短くした。

 

性格は、気づけばこうなっていた。

昔のように、根拠なく明るい予感に甘えられていた頃が、今では不思議だ。

 

「お互い様ってところでしょ。ほら、訓練の続きやるよ」

 

「うん。わかった」

 

僕は再び銃を構える。

今の僕には生きる理由がある。

大切な人を守れるように。

ユメ先輩が亡くなった時、襲ってきた奴らのことを調べる為に。

奴らが、何故襲ってきたら調べる為に。

ホシノに、これ以上重荷を背負わせない為に。

今は、それだけで十分だ。

 

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