関わる人全てを曇らせるホシノの同級生   作:フタバ ハクシ

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Rapport

「こちらレイヤ、対象を確保」

 

僕は無線機を取り出し、電波の向こうにいるホシノ、ノノミに連絡をとる。

 

「了解、おじさんたちもそっちに行くね」

 

シロコは僕の少し後ろで、指名手配されていた人物を捕らえてくれている。

 

「シロコ、ホシノ達も来てくれるって。もう少しだけ、そのままでいれる?」

 

「ん、大丈夫。レイヤは力が弱いから、レイヤにやらせる方が不安」

 

「ひどい言われようだよ....一応シロコよりは強いんだけどね」

 

苦笑いをしてシロコの言葉に返事をする。

 

「とりあえず、これで借金の足しにはなる」

 

シロコが指名手配犯を取り押さえながらそう言う。

 

「そうだね、今月はこれで何とかなりそう」

 

なぜこんな危険な仕事をしているのか。理由は簡単で、僕たちの在籍するアビドス高等学校には借金があるからである。大まかな金額しか僕も知らないが、ざっと9億と少し。こんな警察まがいのことをしても、利息分の返済にしか充てられない。

でも、それでも返済するしかない。それが僕たちがアビドスに残る、ユメ先輩が大切にしていた場所を守る、唯一の方法だからだ。

 

「おまたせ~。ありがとね2人とも」

 

連絡をしてから数分も経っていないのに、ホシノとノノミが駆けつけてきた。2人とも、流石の速さだ。

 

「ありがとうございます。さすがの2人ですね!」

 

「シロコが頑張ってくれてるだけだよ。僕は接近戦はからっきしだから」

 

「またまた~。レイヤの射撃、ここにいる誰よりも正確じゃん」

 

ホシノが茶化す。

 

「弾代だってバカにならないからね。なるべく有効活用していかないと」

 

「レイヤ、貧乏性」

 

「うるさいよシロコ、無駄にするよりかはいいでしょ」

 

「うへ~。二人とも、すっかり仲良しだねぇ」

 

ホシノは親のような目線で僕たちを見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今日はここまで!みんなぁ〜帰っていいよぉ」

 

あの後、指名手配犯をヴァルキューレに引き渡し、報酬金を受け取って対策委員会の教室へ戻ってきた。そのお金をまとめて金庫に入れ、今日の業務は終了した。

 

「お疲れ様ですっ!」

 

「ん、お疲れ様」

 

シロコ、ノノミが教室を後にした。教室には僕とホシノだけが残されている。

 

「この生活にもだいぶ慣れたねぇ」

 

「もう3ヶ月も経つからね」

 

「そうだねえ」

 

気づけばもう7月の半ばだ。朝は蝉の鳴き声が聞こえるし、茹だるような暑さの日がだんだんと多くなっている。左手のアームカバーと手袋が暑い。

 

「...そういえば、指名手配犯を抑えてたの、シロコちゃんだったね」

 

「僕は力がないから、シロコにお願いしてやってもらった」

 

「まだ傷のこと、隠してるの?」

 

ホシノの視線が僕の顔から黒く覆われた左腕に移る。

 

「話す必要がない。あの子達に言ったら、余計な心配をかけるだけ」

 

「...あと、2人に話すのが怖い」

 

僕の傷について、2人にはまだ話していない。もっとも、話すつもりもないけれど。

正直、あの2人にこの傷を、僕の過去を話したとき、嫌われるのが怖い。

ノノミもシロコも、今の僕を見ている。過去の僕を知ってしまったら、きっと軽蔑してしまうだろう。僕はそれがたまらなく怖い。

 

「レイヤらしいねぇ。まあ、私は別にいいけどさ」

 

「それに、こんな醜い傷、みんなに見せるわけにはいかない」

 

「私にはいいの?」

 

ホシノが尋ねる。

 

「...ホシノは特別だよ。色々助けてもらってるしね」

 

退院後のトレーニングやリハビリをホシノが献身的にしてくれたおかげで、今は日常業務なら1人でもできるようになった。

今の僕がいるのは、ホシノのおかげだ。

 

「ホシノになら、僕の弱さを少し預けていられる」

 

「そう、なんだ...」

 

何故かホシノの歯切れが悪い。気になってホシノの顔を見てみると、少し笑っているように見えた。

 

「...ねえ、レイヤ」

 

「うん?」

 

「いつもの"あれ"、お願いしてもいい......?」

 

「うん、いいよ。じゃあ準備しよっか」

 

僕は体育館にあったマットを委員会の教室まで持って行き、適当に床へ放り投げた。そこに正座で座り、準備は完了だ。

 

「ん、おいで」

 

僕は両手を広げ、ホシノを優しく包み込む。次第にホシノの頭は僕の胸からゆっくりと大腿へと移る。ゆっくりと、僕は右手で頭を撫でる。

 

「うへへ、レイヤぁ...」

 

「今日もお疲れ様、ホシノ」

 

少し前から、ホシノは僕と2人きりになるとこうやって僕に子守りをお願いするようになった。

「レイヤが近くにいると安心する」と言って僕のそばで寝るようになったのが始まりだったのだが、最近は膝枕まで注文してくる。そのうち家にまで来そうでちょっと怖い。

これの何がいいんだか、と僕は毎回考えるのだが、本人が満足しているのでとりあえずは良しとしている。

 

「レイヤの太もも、やわらかいぃ」

 

「ひっぱたくぞ変態」

 

「冗談だってぇ...ありがと...れいやぁ....」

 

その言葉を最後に、ホシノのヘイローが消えた。すぅ、すぅと寝息を立ててホシノは夢の中へと旅立った。

どうやらホシノもユメ先輩がいなくなった後から悪夢に悩まされているようで、1日中ヘイローが消えない日もあるらしく、最近のホシノはやけに眠そうだ。

でも、僕がそばにいる時だけはヘイローを消して休息に集中できているようだった。

 

「無理しすぎだよ、ほんとに」

 

"ホシノ先輩"を演じて、学校の借金を返すためにいろいろなことを考えて。

僕にはとてもできないことを、ホシノは毎日繰り返している。

だからせめて、僕といる時だけは本来の"小鳥遊ホシノ"であってほしい。

 

「いつも頑張ってる分、ゆっくり休んでよ」

 

こんなこと、いつもはらしくなくて言わないけどね。

僕は綺麗な桃色の髪を右手で撫でる。さらさらと絹のような手触りの髪の毛は、僕の指の隙間をこぼれ落ち、元の場所へと戻っていく。

眠っている姿は本当に美しい人形のようで、口を開けば「おじさん」なんて言う人だとは思えない。

このしばしの休憩を、心ゆくまで堪能してほしい。

 

そんなことを考えていた。突如、教室のドアが開けられる。

 

「わっ...」

 

素っ頓狂な声を上げる。そこに立っていたのはシロコだった。シロコは目を丸くして、僕とホシノを見つめる。

 

「...ごめん、忘れ物を取りに来ただけなんだけど、取り込み中だった?」

 

「あー....いや、別に大丈夫だけど」

 

シロコはゆっくりと教室に入り、自分の忘れ物を手に取る。

 

「....レイヤといるときは、いつもこんな感じなの?」

 

ホシノを起こさないように、かなり小さな声でシロコが尋ねる。

 

「うーん、どうだろう。あんまり考えたことないけど、割とそうかも」

 

「ふふっ、珍しいもの見れた」

 

シロコは満足そうにつぶやく。

 

「あっ、シロコ」

 

「どうしたの?」

 

教室を出ていく寸前のシロコを呼び止める。

僕は右手の人差し指を自分の口元へもっていき、

 

「このこと、ホシノには内緒にしてね。きっと恥ずかしがっちゃうから」

 

と言った。するとシロコは少しだけ笑い、

 

「うん、わかった。約束」

 

と返してくれた。

 

「じゃあね、レイヤ。また明日」

 

「うん、またね」

 

シロコが扉を閉めるまでの間、僕は手を振り続けた。ガタン、という音とともに扉が閉まり、僕は視線を膝の上で眠っているホシノに移す。深い眠りについているようで、起きる気配はまだない。

 

「悪い夢を見てる感じはない、かな」

 

その後、僕は1時間半にもわたりホシノに膝を貸していた。足がしびれてしばらく立てなくなったのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ホシノ、手伝ってほしいことがあるんだ」

 

後日、朝早くに学校へ向かい、屋上でうたた寝をしているホシノに向かってそう告げた。

 

「ん.......どうしたの?レイヤが私にお願いするなんてめずらしい」

 

「手伝ってほしいっていうか、ホシノに無断でやったら怒られることだと思うから」

 

「...なるほどねぇ、戦闘系なんだ」

 

ホシノは立ち上がり、僕の前に立つ。

 

「具体的に聞かせてくれる?場所とかさ」

 

「...場所は、セクター42の市街地」

 

「そこって...」

 

ホシノの表情が変わる。それは昔のホシノと同じ、鋭い目つきだった。

 

「...僕が、ユメ先輩を見つけた場所だ」

 

「そこで、人型の機械が砂漠をうろついてるらしい」

 

「もしかしたら、ユメ先輩について知っているかもしれない」

 

「わかった。じゃあ放課後、夜になる前に行こう」

 

そう言ってホシノは校舎に続く扉を開け、僕をおいて行ってしまった。

 

「...言わない方がよかったかな」

 

ホシノの中のスイッチが入ったらしい。こうなったホシノを止めるのは骨が折れる。

 

「まあ、いいか」

 

僕はホシノの後を追うようにして、ドアノブに手をかけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

委員会が終了し、僕とホシノはそのままアビドス砂漠へと向かっている。夏場なのと、日が沈んでいないことも相まってものすごく暑い。

 

「大丈夫?しんどいなら私が背負っていくけど」

 

「いや、大丈夫だよ。水分もあるし」

 

「そっか、ならいいんだけど」

 

ホシノは僕の数歩前を一定の速度で歩いている。彼女はいつもの恰好ではなく、小さな体躯に似合わないほどの大きなプレートキャリアを装備していて、その胸元にはいつものショットガンとは違う、サイドアーム用のハンドガンがホルスターに収められている。

昔のホシノの恰好に近いが、それよりもより戦闘向きの服装をしている。

 

「特殊部隊みたいな恰好....」

 

「褒めてるってことでいいのかな、それ」

 

どうやら声に出ていたようだ。

 

「ホシノを敵に回したくないって、心底思うよ」

 

「....」

 

いつもなら「敵になることなんてないよ」と言ってくれそうなホシノだが、この言葉に対して否定も肯定もしなかった。

僕には心あたりがある。

 

「...カイザーPMCだっけ」

 

どこかで聞いた、企業の名前を口にする。そこにホシノが傭兵としてスカウトされているという、そんな噂。

 

「行くの?」

 

「...ううん、いかないよ。シロコちゃんやノノミちゃん、レイヤもいるんだから、きっと何とかなる。大丈夫だよ」

 

ホシノにしては珍しい、希望的観測。

合理的で現実的なホシノが「きっと」なんて言葉を使うのは、アビドスが抱える借金の額が額だからだろう。

 

「うん、今度は僕たちが守らないと」

 

僕は決意を胸に、一歩一歩踏み出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「数は22....いや23か」

 

物陰に隠れ、僕は敵のいる方向を見つめる。壁の向こうに広がる荒野には、砂と同じ色の機械たちが蔓延っている。

 

「装備はみんなアサルトライフルかな、危険な装備はないと思う」

 

「ただ数が多いから、スピード勝負でやっていく方がいいかも」

 

「了解。装備の確認はできてるよ。そっちは?」

 

ホシノが銃のチャンバーを確認し、スライドの後端を軽く叩いた。展開型の盾も構えて、臨戦体制は万端のようだ。

僕は「Dagger of Thanatos」と書かれた自分のライフルを構える。白を基調としたデザインに、所々に赤が散りばめられていて、僕の髪色と同じ配色になっている。本体の重量を増やしたくないので、サプレッサーとホロサイトのみを付けたシンプルなカスタムにしている。

そのライフルのチャージングハンドルを引き、残弾確認を済ます。セーフティを解除して、いつでも撃てる状態にする。

 

「うん、大丈夫。いつでも行けるよ」

 

僕はホシノにそう声をかける。

 

「私が囮になるから、後ろから援護をお願いしてもいい?」

 

「了解」

 

その言葉を聞くや否や、ホシノは盾とショットガンを構えながら勢いよく物陰から飛び出した。

ホシノのショットガンが轟音を立てながら機械をどんどんと倒している。

数名の機械がホシノに気づいて銃を撃ち返すも、それは盾によって簡単に防がれてしまう。埒が開かないと思ったのか、機械が撃つのをやめる。ホシノはその隙を見逃さなかった。すぐさま相手に近づき、ショットガンが炸裂する。ショットガンが弾切れになるとすぐさまハンドガンに切り替え、ショットガンのリロードをしながら牽制射撃をしている。

 

「これ、僕いるかなぁ....」

 

後ろから援護をしてほしいと言われたが、気づけば半分以上がホシノによって無力化されている。

 

「まあ、行きますか」

 

僕はホシノの50メートルほど後ろから援護射撃を始める。それが数体の機械の頭部に命中し、機械が倒れ込む。ホシノはそれらに容赦なくショットガンを叩き込んでいた。

 

「うわぁ、むごぉ....」

 

気づけば機械たちは1体を除いて動かなくなっており、ホシノの周りにはさっきまで動いていた機械がガラクタのように転がっている。残された1体も、四肢をもがれており蛹のように動くことしかできない。

 

「終わりだよ、ホシノ。お疲れ様」

 

僕は構えを解かないホシノの肩を優しくぽんぽんと叩く。ようやくホシノは全身の力を抜き、楽な姿勢になる。

 

「やっぱり弱くなってるな....」

 

ぼそっと呟いたホシノの言葉に僕は戦慄した。

 

「いや、あれで弱くなってるの...?」

 

「まあね。それよりも、そこの機械に用があるんでしょ?」

 

ホシノは唯一起動している機械を指差す。

そういえばそうだったなと、僕は本題に戻る。蛹のような機械に歩み寄り、僕は言葉を口にする。

 

「機械の人、いろいろ聞きたいことがあるんだけど、いい?」

 

僕はユメ先輩の写真を取り出し、機械の頭部に見せる。

 

「この写真の人、知ってる?知ってるなら聞かせて欲しいことが....」

 

刹那、僕の右肩に鈍い痛みが走る。銃弾だ。

 

「っ...!」

 

すぐさま話しかけていた機械にとどめを刺し、弾が飛んできた方向を見る。僕は目に力を入れ、周囲の敵を確認する。視たところ、敵は1人のようだった。

 

「レイヤ!!大丈夫!?」

 

ホシノが僕のそばに駆け寄る。心配そうな顔で僕を見つめている。

 

「大丈夫、少し掠めただけ...」

 

それよりも、敵の情報だ。

僕は200メートル先にいた機械の情報を取ろうとした。

しかし、

 

「は...?」

 

僕は敵の姿を見て驚くことしかできなかった。

僕らの周りにある機械とは色が違う。そいつらは砂と同じ色だったのに対して、あの機械は真っ黒だ。

あの日見た、嫌という程夢に見た、

先輩と僕を襲ってきた機械の色と全く同じだった。

気づけば僕は走り出していた。

 

「ちょ、レイヤ!!」

 

ホシノの言葉が聞こえる。でも、何だか霞んでて内容まではわからない。

 

僕に向けて何発も銃弾が飛んでくる。僕はジグザグに動いて的を絞らせないようにして、一瞬で距離を縮める。まず両足に銃弾を撃ち、動けないようにする。あとはもう簡単だ。動かない機械の腕を正確に狙って、壊す。機械は倒れ込んで動かなくなった。

だけど、まだ起動している。起動していてもらわないと困る。こいつには聞きたいことが山ほどある。

僕は銃口を頭に突きつけ、いつもとは違う口調で問い詰める。

 

「お前には聞きたいことが山ほどある」

 

「まず、お前の雇用主を答えろ」

 

「.....」

 

しかし、機械は答えない。

 

「お前たちが人間の言葉を理解しているのは知っている」

 

「....」

 

「1年前のあの日、なぜ僕、燐葉レイヤと梔子ユメを襲った?」

 

「誰に命令されてここきた?誰の差し金だ?」

 

「.....」

 

「っ....答えろ!!」

 

僕は機械の胸に1発、銃弾を叩き込んだ。

それでも機械は答えない。

 

「お前たちは誰だ!!なぜここにいる!!」

 

「レイヤ!!」

 

ホシノが僕の肩を掴む。僕ははっとして、正気に戻る。

 

「....ごめん、取り乱した」

 

「こいつが、レイヤとユメ先輩を襲ったっていうやつなの...?」

 

「...ああ、間違いない」

 

僕は機械の頭に銃口を向け、引き金を引いた。

 

「でも、もうこいつに用はない」

 

「レイヤ、大丈夫....?」

 

見たことのないほど心配そうな顔でホシノが顔を覗かせる。

 

「...大丈夫」

 

「でも...レイヤ、泣いてるよ」

 

僕は目を触って確認する。確かに血とは違う、透明の液体が僕の指にはついていた。

なぜ今溢れたのか、今僕はどんな気持ちになっているのか、全てわからない。

 

「ねえ...ほんとに大丈夫....?」

 

「うん、大丈夫.....だよ」

 

理解できない気持ちが僕の中をぐるぐると駆け回る。大丈夫じゃない。でも、ホシノに行ったところでこの気持ちは改善しないだろう。

 

なぜ、ユメ先輩はこの砂漠に出向いたのか。

なぜ、この機械達は僕らを襲ったのか。

なぜ、今もここに機械たちが蔓延っているのか。

教えて。

教えてよ。

 

「ねえ.....ユメ先輩....あなたはここで、何をしていたの...?」

 

夕陽を見つめながらそう呟いた僕の声は、砂の風にかき消された。

 

 

 

 

 

 

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