「ねえねえ!レイヤちゃん!!ホシノちゃん!!」
大きな声が生徒会室に響く。
「どうしたの、先輩?」
「...なんですか先輩。今度はどうしたんですか?」
「今日は宝探しをします!!」
高らかに宣言されたのは、今時子供でもやらないようなことだった。
「ってかホシノ、なんで水着なの....?」
「もしかして、ついに自分のことをお魚さんだと勘違いしちゃったとか...」
「そんなわけないじゃないですか!!」
「水道の修理をしてたら濡れちゃったので、着替えただけです!」
「あっ、グラウンドのところ?直してくれたんだね」
「いえ、まだ直せてません。思ったより難しくて....」
「あのホシノにもできないことが....」
「ふふっ、不器用なおじさんみたいで、ちょっと可愛いね」
「そ、それより宝探しがどうかしたんです?」
「あっ、そうなの。見て見て、ホシノちゃん、レイヤちゃん!!」
そう言ってユメ先輩はポスターのようなものを取り出す。
「すごい情報を手に入れたんだ!!」
「先輩の言う「すごい」は、もう信用できないんですけど....」
「右に同じ」
僕とホシノは散々この人に振り回されてきた。今更「すごい」と言われても大したことじゃないんじゃないかと思ってしまう。
「今度こそ大丈夫だから、信じて!」
「また騙されてないよね、ユメ先輩?」
「「生徒会の谷」.....?」
「昔、アビドスの生徒会長が作った展示館があるらしいの!」
「貴重な物が、いーっぱい展示されてるんだって!」
先輩は嬉々としてそう話した。
「もし本当だとしても、とっくに売り払ったか盗まれてると思いますよ」
ホシノが言葉を返す。
確かに、貴重品があるのならアビドスの経済危機の時にまとめて売り払われていてもおかしくない。そんな物があるのなら、盗まれている可能性だってある。
「ふっふっふ、そう思うよね?」
先輩は含みのある笑い方をする。
「でもここは、一般に公開されていない秘密の場所にあるんだって」
「つまり...」
「学校が経営難で売っちゃってたら仕方ないけど、少なくとも盗まれてる可能性は少ないよ!」
「だから....探しに行こう、と?」
「うん!」
子供のような返事をユメ先輩は返す。
「誰も場所を知らないのに、どうやって探すんですか?」
「ふふん!」
ユメ先輩は誇らしげにその大きな胸を張る。
「昔の資料を漁ってたら、これを見つけたの!」
ユメ先輩はさっきのポスターのようなものを指差す。
「....塗りつぶされてて、ほとんど読めないけど....」
その資料とやらは黒く塗りつぶされていてほとんどの情報が読めないままだった。
「ほら、ここ見て」
ユメ先輩が指を指したそこは、何かの位置が書かれているようだった。
「「アビドス砂漠閉鎖地区セクター35‐9」?」
「少なくとも、ここに手がかりがあると思うの!」
「はぁ....」
ホシノはかなり険しい顔をして、ため息を吐いた。
「ダメ、かな....?」
ユメ先輩が捨てられた子犬のような顔をしてホシノに懇願する。
「まったく、ユメ先輩は...」
これを言うときは大体「ダメです!生徒会業務に戻ってください!」と怒号が飛んでくる時だ。
「は、はぅ...」
先輩もそれを察知したのか、浮かない顔をしている。
ホシノは静かに先輩のもとへ歩み寄った。
「なんでもっと早く言わないんですか!!すぐ行きますよ!」
ホシノは目をキラキラと輝かせ、ユメ先輩の手を取った。
「ホシノちゃん!」
先輩も笑顔でホシノの手を取り、楽しそうにしている。
「今度こそお宝を見つけましょう!」
ホシノはそう言い残し、颯爽と教室を去っていった。
「あ~ぁ....始まった...」
こうなるとホシノと先輩は止まらない。
ユメ先輩はもともとそうだけど、ホシノはたまにユメ先輩と同じくらいかそれ以上にバカになるときがある。こうなると僕も巻き添えを食らって日が暮れるまで宝探しコースだろう。
「ほ、ホシノちゃん待って。先に着替えないと!」
「あっ!」
ハッとしてホシノは再び教室に戻ってきた。
「またこれかぁ.....」
僕は渋々外に出かける準備を始めた。
「ん....」
懐かしい、夢を見た。
こんな和やかな夢を見たのは何か月ぶりだろうか。
それほど、寝心地がよかった。こんな朝にはゆっくりコーヒーでも.....
「おはよう、目が覚めた?」
「!?!?!?!?!?!?」
びっくりして僕は飛び起きる。
声の方を見ると、昨日ひどい目に遭わせてしまった先生の姿があった。
辺りを見回すと、自分の部屋とは違う壁の色、違う家具の配置、違う部屋の形だった。
ここは間違いなく自分の部屋ではない。
「...威嚇する猫みたいな表情、できればやめてもらえると助かるかな」
今の僕の顔はとても険しい顔をしているようだ。
そりゃそうだ。目が覚めたら知らない部屋にいて、目の前には自分が邪険にしていた大人がいる。この状況で警戒しない方がおかしい。
「....ここはどこ」
身体が強張って自然と戦闘態勢になる。まさかとは思うが、眠っている間に何かされたのではないかと考えてしまう。自分の身体を確認すると、昨日と同じ格好だった。ひとまず何かされているわけではなさそうだ。
....おそらく傷も、バレてはいないだろう。
「ここはシャーレの執務室。あの後ぐっすり寝てたし、レイヤの家の位置知らなかったからとりあえずここに」
状況を少しずつ理解して頭が冴えていく。ふぅ、と短く息を吐いて僕は身体の力を抜き、楽な体制に戻す。
「...それは、申し訳ないことを」
どうやら相当失礼なことをしてしまったようだ。
まさかあのまま朝まで眠ってしまうなんて。僕はとんだバカ野郎だ。
「別に。昨日それ以上の迷惑をかけられてるからね」
先生は少しいたずらっぽく笑う。
「本当に...申し訳ない...」
頭に手を置いて、ここ半日ほどの行動を反省する。
思えばとんでもないことをしてしまった。
ヘイローのない人間を危険に晒して、銃口を向けて、挙句寝床まで貸してもらって。
先生に合わせる顔がない。
「学校までまだ時間あるし、先にシャワー浴びておいで。扉出て右のところ」
先生はこちらに視線を移すことなく、タブレットを眺めながら僕にそう告げた。
「...何から何まで、本当に申し訳ない...」
.....本当に合わせる顔がない。
「いいよ。気にしなくて」
先生はそう言って少しはにかんだ顔をこちらに見せてきた。中性的な顔立ちから放たれるその笑顔は年頃の女子を軽く惚れさせることができるほどの破壊力を持っていた。
...この人、いつか生徒を狂わせるな。
そう思いながら僕はシャワー室へ向かった。
「...おはよう。みんな」
先生と一緒に委員会の教室へ入る。結局あの後コーヒーと朝食までご馳走させてしまって、少し、いやだいぶ気まずい。
「おはようございます。レイヤ先輩。と、先生も」
「レイヤ先輩...おはよう」
アヤネとセリカはそんなことも知らずに元気よく挨拶を交わしてくれる。ただセリカは先生のことをよく思っていないのか、先生に挨拶はしなかった。
「ん、おはよう」
「おはようございます、レイヤ先輩、先生」
ノノミ、シロコからも同じように挨拶が返ってくる。そして、
「おはよう。レイヤ」
表情の違いを読み取られたのか、ホシノがいつもとは違う顔つきで挨拶を返した。
「どうしたのさ先生〜、うちのかわいいレイヤちゃんとずいぶん仲良くなったみたいじゃん〜」
ホシノのこういうところが恐ろしい。直接的な表現をせずに人を問い詰める時は、大体ホシノが怒っている証拠だ。
「まあ...ちょっとね....」
バツが悪そうに先生が答える。
「へぇ〜、ぜひおじさんにも聞かせてほしいなぁ〜」
笑顔を張り付けてはいるが、この裏でどんな顔をしているか想像に容易い。というか、怖くて想像もしたくない。
「....あとで....話すよ....」
気迫に圧倒されてしまって、小さな声でそう答えるのが精一杯だった。
「へぇ.....誘拐させて本性を暴こうとした.....へぇ.....」
放課後の屋上で僕は正座をさせられている。
ホシノに何も話さず独断行動をしたこと、先生の処罰を急いでしまったこと、先生との距離を不用意に近づけてしまったことを主に怒られている。
「....すみませんでした」
ひたすらに平謝りをするしかなかった。
「はぁ....もういいよ。レイヤが私に相談してくれないのなんて、今に始まったことじゃないし」
「ごめんなさい」
怖くてホシノの顔が見れない。
「...で、どうだった?先生は信用できる大人なの?」
さっきの声とは少し違う、真剣な声色でホシノは尋ねる。
「...わからない。だけど、生徒のために命を張る大人だってことは確か」
「それが信用に値するかは、現時点ではわからない」
"生徒のために命を捨てる覚悟は、とうの昔にできてる"
昨夜のあの言葉を思い出す。
あの言葉には果たして裏があるのか、それともただ本当に言葉通りなのか、今の僕にはその先を想像することが出来なかった。
「レイヤがそこまでしても「生徒のため」を想えるのなら、ひとまずは様子見でいいんじゃないかな。それに、これ以上怪しい動きをすると、今度はシャーレが敵になるよ」
「....そうだね。とりあえずは、このままでも」
「あと、そろそろ正座解いてもいいよ。別にレイヤのことを痛めつけたいわけじゃないし」
「...ありが」
「ただ、いつも言ってるけど」
言い切る前に遮られてしまった。
「レイヤはこれ以上怪我したら、本当に命が危ないんだよ?」
「...存じております...」
釘を刺されてびくりと肩が動いてしまう。
変な口調で僕は答える。
「...レイヤが傷ついて悲しむ人間がいること、忘れないで」
そう言ったホシノの声は少し震えていた。
「...うん、ほんとにごめん」
もうホシノに何も背負わせたくない。
僕が死んでしまえば、ホシノはきっと壊れてしまう。
僕は知っている。僕に気づかれないように涙を流していることを。ずっと「ごめんなさい」と謝りながら生徒会室の中で泣いていることを。
...身体、ちょっとは大切にしようかな。
ホシノのために、ユメ先輩のために。
僕はまだ死ねない。
「いらっしゃいませ!!柴関ラーメンで......」
「わわっ!?」
「あの〜☆6人なんですけど〜!」
僕らは今、とある理由で柴関ラーメンに来ている。
先生とセリカが市街地で出会い、セリカは突き放したそうだが先生は食い下がることはなく後をつけたらしい。
そこで行き着いた先がここというわけだ。
...この人、積極的なのかそうじゃないのかよく分からないな。
「あ、あはは.......セリカちゃん、お疲れ.....」
アヤネが申し訳なさそうな顔して手を振る。
「お疲れ」
シロコもセリカに対して言葉を返す。
「み、みんな......どうしてここを......!?」
「うへ〜やっぱりここだと思った」
「どうも。セリカ、お疲れ様」
「せっ、先生まで.....やっぱりストーカー!?」
「うへ、先生は悪くないよー。セリカちゃんのバイト先といえば、やっぱりここしかないじゃん?だから来てみたの」
「ホシノ先輩かっ...!!ううっ.....!」
セリカは露骨に恥ずかしそうな顔をしている。
「アビドスの生徒さんか。セリカちゃん、おしゃべりはそれくらいにして、注文受けてくれな」
このラーメン屋の店主らしき人物がセリカに声をかける。
「あ、うう.....はい、大将。それでは、広い席にご案内します.....こちらはどうぞ....」
セリカは本当に渋々と言った感じで席を案内し始めた。
「「「「「「ごちそうさまでした」」」」」」
ラーメンを食べ終わり、みんなは談笑に花を咲かせている。そんな中、僕はバッグの中から小さなポーチを取り出す。
「レイヤ、それは何?」
隣に座っていたシロコが気になったのか、声をかけてきた。
後輩たちの前だと心配させるからあまり見せたくないんだけど、食後に飲まないといけないので仕方がない。幸いシロコ以外は会話に夢中で気づいていないようだった。
「薬だよ。持病があるからそれのやつ」
「レイヤ、病気なの?」
シロコが少し心配そうな顔をして僕の顔を覗く。
「大丈夫だよ。日常生活に支障はないし」
持病なんて都合のいい嘘を吐く。
脇腹の傷からくる臓器不全。この7、8錠の薬がなければ僕の身体は少しずつ、ゆっくりと壊れていく。
食事をする度この量の薬を飲まなければいけないので、怪我をする前より食事という行為が楽しくなくなってしまった。
食べれば一緒だ、という考えになってしまい、自分1人の時はついゼリー飲料やブロック状の栄養食ばかりになってしまう。
「そうなんだ。でも、辛い時は私に言って。いつでも助けるから」
「...シロコは優しいね。ありがとう」
「ん、レイヤにはいっぱい助けられてるから」
いい後輩に恵まれたな。
優しさに触れて嬉しくなり、つい口元が緩む。
結局、先生が6人分の会計を済ませて僕らは店を出た。セリカが去り際に「みんな死んじゃえー!」と言っていたが、ツンデレ特有の愛情表現だと信じたい。
「セリカが、攫われた?」
日が沈んでしばらく経った対策委員会の教室で、僕たちは緊急事態について話し合った。
セリカからの連絡がなく、気になったアヤネがセリカの家に向かったところ、自宅には帰っていなかった。シロコが柴関ラーメンに電話をかけても、定時に退勤しているらしく、行方がわからなくなっていた。
先生が連邦生徒会のセントラルネットワークにアクセスして調べたところ、連絡が途絶える前のセリカの端末はアビドス郊外の市街地の端を指していたらしい。
「学校を襲うだけじゃ物足りなくて、人質をとって脅迫しようってことかな」
シロコが冷静に分析する。
「考えていても仕方ありません!急いでセリカちゃんを助けに行きましょう!」
ノノミがみんなに対して声をかける。
「うん、もちろん」
「よっしゃー、そんじゃ行ってみよー!」
「出発!!」
先生はそう言って、教室の外へと向かった。
「セリカちゃん発見!生存確認しました!」
「こちらも確認した、半泣きのセリカ発見!」
無線から聞こえるのはセリカの無事を報告する言葉だった。
「よかった。とりあえず一安心」
僕は周囲を警戒しながら無線でそう伝えた。
「なにぃー!?うちの可愛いセリカちゃんが泣いていただと!そんなに寂しかったの?ママが悪かったわ、ごめんねー!!」
ホシノがふざけながらセリカをいじる。
「う、うわああ!?う、うるさいっ!!な、泣いてなんか!!」
セリカが否定しようとする。しかし、
「嘘!この目でしっかり見た!」
シロコがすかさず言葉を紡ぐ。
「何はともあれ、無事でよかったよ」
無線越しに先生の声が聞こえる。
「な、なんで先生まで!?どうやってここまで来たの!?」
「だてにストーカーじゃない!なんてね」
先生は少しふざけながらもセリカの無事に安心しているようだった。
「ふ、ふざけないでよ!この変態教師!!」
セリカはツンツンとした言葉を先生に浴びせる。
「みんな、感動の再会中ごめん、だけど周囲からかなりの数の敵が来るよ」
僕は眼の力を使いながら得た情報をみんなに伝える。
「まったく...敵ながらあっぱれ....」
「それじゃー、せっかくだから包囲網を突破して帰りますかね」
ホシノがショットガンと盾を構え、戦闘体制に入る。
「それじゃ、行こうか!!」
ホシノの掛け声を皮切りに、僕たちは銃のトリガーを引いた。
僕は前方の一角をホシノと共に片付けることになった。
目の前いる敵の数は26体。戦車が3台だ。
「全員、逃がさない。アビドスに手を出した事、後悔させてやる」
僕は前方にいた5体の雑魚の頭に1発ずつ銃弾を撃ち込む。次に奥の戦車が砲身をこちらに向けたのを確認してから、戦車のバレルの中に銃弾を1発撃つ。戦車は爆発して粉々になった。
ホシノはすでに十数人を倒して屍の山を作っていた。
...やっぱり、ちょっと怒ってたんだな。
ホシノはこういう時本当に恐ろしい。
「あと半分」
マガジンを交換して、敵の元へ走り出す。
残り7体の敵を片付けるのに、そう時間はかからない。先生の指示のもと、被弾を避けながら確実に1体1体倒していく。戦車はホシノが盾とショットガンを駆使して蹂躙していた。
「君で最後」
僕はそう言って倒れている敵の頭に引き金を引いた。発砲音が聞こえ、その敵はぴくりともしなくなる。
「掃除完了、かな」
被弾はなし、消費した弾も2マガジンも使っていない。
自分にしては上出来だ。
無線機を繋げ、ホシノに連絡を取ろうとする。
「ホシノ、こっちは終わったよ。そっちは」
「これでも...くらえ....!!」
言い切る前に聞こえたそれは、ホシノの声ではなかった。
声のする方を振り向くと、さっき倒したはずのヘルメット団員がショットガンを構えていた。
その瞬間、僕の右脇腹にショットガンの弾が命中する。
「がっ.....!」
痛みで一瞬視界が歪む。でも意識を失うほどじゃない。僕はすぐさまXM7を構え、相手に向けて乱雑に撃つ。
「ぐあっ.....」
5発ほど撃った後、そんな声が聞こえてそいつは動かなくなった。
「いっ....た.....」
思わず近くにあった瓦礫にもたれる。被弾した箇所は出血こそしていないものの、激しく痛む。やってしまった。
よりによって....傷の...あるところに...
「...げほっ....ごほっごほっ....!」
喉から何かが込み上げてきて、思わず咳き込んでしまう。咄嗟に口元を手で覆った。
ビチャビチャと音を立てて手から溢れ出したそれは、赤黒い液体だった。
「けほ.....いっぱつ....もらった....だけ.....なのに....」
瓦礫にもたれていた身体が次第に重くなってきて、砂の上に倒れ込む。痛みで呼吸がおかしくなる。
「レイヤ〜?そっちは大丈......っ!!レイヤ!!」
ホシノの声が聞こえた。声のする方を見ると、ホシノが血相を変えてこちらに向かってくる。
「レイヤ!!レイヤっ!!しっかりして!!」
ホシノに激しく身体を揺すられる。
「大袈裟...すぎ.....」
大丈夫だから、と言おうとしたが、それは叶わなかった。
「今みんなを呼ぶから....!何も喋らないで....!」
そう言ってホシノは無線機のスイッチを入れる。
僕はそれを右手で制す。
「大丈夫....だから...みんなには...言わないで...」
痛みの中で笑顔を作ろうとしたが、ホシノの表情が変わらないのを見るとうまくできていないようだった。
「っ...これのどこが....!」
「みんなに....心配させたくない....」
「それに...痛いだけ..だから...」
「...わかった」
ホシノは苦悶の表情で僕のお願いを聞き入れてくれた。
ホシノは僕の口元をハンカチで拭き、僕を背負って歩き出す。
「自分で...歩く...」
僕がそう言うと、
「黙ってて。血を吐いた人間を歩かせられるわけないでしょ」
と言う答えが返ってきた。
よく考えれば至極真っ当な返答である。
「...ごめん」
「帰ったら説教だからね」
「....はい」
しくじった。
また、ホシノに余計な心配を.....
次第に視界がぐらついてくる。どんどんと眠気が僕の意識を蝕んでいく。
「ほ...しの....ごめ....」
「...眠い?」
「う....ん......」
「いいよ。学校までは私が背負っていくから」
「あり.....がと.....」
視界が完全に闇に包まれる。でも聴力だけは生きていて、いろいろな音が聞こえてくる。
ざっ、ざっ、砂を歩く音が聞こえる。
ホシノの背中からどく、どくと心臓の鼓動音が聞こえる。
規則的な音が、すごく心地いい。
「ごめんねみんな〜遅くなっちゃった」
ホシノの声が聞こえる。
「レイヤったら、昨日寝不足だったらしくて、ヘルメット団を倒した後にすぐ眠っちゃってさ〜」
「おじさんだって眠いのに、ずるいよね〜」
ホシノは僕のお願いをしっかりと守ってくれたようだった。
本当に、感謝しても仕切れない。
「...あり....が...と...」
なんとか口を動かして伝えたつもりだが、届いているか怪しい。
その言葉を最後に、僕の意識はぷつんと途切れた。