関わる人全てを曇らせるホシノの同級生   作:フタバ ハクシ

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信頼

「ねえ...ホシノさん」

 

「なに」

 

「離してくれませんか?」

 

「いやだ」

 

セリカ救出作戦の後、保健室で目覚めた僕はホシノに抱きつかれていた。

ここで目を覚まし、身体を起こした途端、ホシノの両腕が僕の胴体に巻き付いて離れなくなった。

 

「セリカだってそこで寝てるし、誰かに見られたらまずいよ...」

 

隣のベッドではセリカがすぅすぅと寝息を立てて眠っている。どうやら戦車砲をもろに受けたようで、かなり無理をしていたようだ。

 

「...離したらまた、何処かへ行くんでしょ」

 

「行かないよ...というかそんな元気ないよ...」

 

銃弾を受けた時よりは多少マシにはなっているが、脇腹がズキズキと痛む。流石にこのままホシノを引き剥がして何処かへ行く力は残っていない。

 

「嘘つき」

 

日々の出まかせが祟ってしまったようで、ホシノは僕の言葉を1ミリも信じていない。 

 

「...どうしたら、信じてくれる?」

 

「...しばらくこのままがいい」

 

...結局こうなってしまうのか。

 

「......わかった」

 

諦めた僕は静かにホシノの頭を撫で始めた。僕の胸に顔を埋めるその姿はまるで母から離れたくない子供のようだった。

 

「....かたい」

 

「おい変態」

 

胸の抱き心地について文句を言われた。

確かに僕は決して大きいとは言えない。だとしてもホシノよりかはある。というかノノミや先生が異常にあるだけで、別にこれくらいが普通だと思うのだが。

 

「レイヤの匂い...安心する..」

 

どんどんと発言が変態じみてきてる。

このまま犯罪に手を染めてしまわないか不安になって僕は頭を抱える。

 

「...こわかった...」

 

「レイヤがまた....どこかへ行っちゃうんじゃないかって....」

 

「レイヤが倒れているのを見ると....どうしてもあの日を思い出しちゃって.....」

 

ぽつぽつとホシノが自分の心情を吐露する。

ユメ先輩を失って、僕が死にかけた、一生ものの傷を負った日。

嫌という程夢に見るあの日。ホシノもトラウマになっているのだろう。

目の前で先輩が死んで、僕も致命傷を受けた。並大抵の人なら発狂するような出来事だ。

 

「...レイヤは...怖くないの...?」

 

「次は本当に死んじゃうかもしれないんだよ...?」

 

涙ながらにホシノが問いかける。

 

「...怖いとはちょっと違う」

 

「ユメ先輩を守れなかった。そんな僕が生き続けていいわけがない」

 

「だけど、簡単に命を絶ってもそれはなんの解決にもなってない。楽な方向に逃げるなんて、そんなことはできない」

 

「僕は死ぬことも、生き続けることも許されない」

 

ユメ先輩を襲った奴を見つけ、なぜ僕らを狙ったのかを知る必要がある。死ぬのはその後でいい。全てを終わらせるまでは、僕は死ねないし絶対に死なせない。

 

「...でも大丈夫。当分死ぬ予定はないよ」

 

 

撫でる左手を止め、見つめる。

こんなザマだけど、まだ戦える。

ユメ先輩のために戦えるのなら、今はそれでいい。

 

「...いつか...死ぬつもり...?」

 

顔を上げずホシノは尋ねる。

 

「そりゃ人間なんだからいつかは死ぬよ。でも今後しばらくは死ぬ予定じゃないってだけ」

 

死ぬのは全てを終わらせて、罪を償った後だ。

ホシノが笑って過ごせるようになって、シロコやセリカ、アビドスのみんなが何不自由なく生活できるようになった時でいい。

そこに僕の姿はいらない。僕はそんな資格がないから。

 

「ぜったい....死なせない」

 

ホシノの抱きしめる力が強くなる。脇腹の痛みがより一層強くなる。

 

「いだ......ホシノに殺されちゃう...」

 

すぐにホシノの力が弱まる。でも離すつもりはないようで、一定の力は入ったままだった。

 

「...謝って」

 

「...思い当たる節が多すぎて何か分からないんだけど」

 

「自分の身体を大切にしなかったことについて、ちゃんと謝って」

 

「ごめん。次はなるべく無理しないようにする」

 

「一人で何でも解決しようとしないで。次は私を頼って」

 

「...うん。わかった」

 

頼ることは苦手だ。どうやって頼ればいいのか、よくわからないから。

昔はいろんなことを先輩やホシノに手伝ってもらっていたのに、いつからかその頼み方まで忘れてしまった。

随分と、不器用になったものだ。

離れないホシノを撫でながら、僕はそう考えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん......」

 

重い瞼を開ける。知らない間に眠ってしまったようだ。

さっきまで僕のことを離すまいとしていたホシノの姿はもうなかった。

 

「ホシノなら、もう帰ったよ」

 

聞き覚えのある声が聞こえる。声のする方に顔を向けると、先生が椅子に座っていた。

 

「おはよう、レイヤ。と言ってももう夜だけどね」

 

先生は笑いかけながらそう言った。

 

「セリカもさっき起きて帰っていったよ」

 

「さすがに先生として生徒を一人にするのはよくないと思って」

 

辺りを見渡すとセリカの姿はなく、カーテンの隙間から覗く外の景色は暗闇に包まれていた。

 

「...どれくらい寝てた?」

 

「私が来てから大体1時間くらいってところかな。可愛い寝顔が見れて私は幸せだったよ」

 

先生は悪戯っぽく言う。

凛々しい顔に見つめられて少しドキッとしてしまった。

 

「先生...そういうこと、あんまり生徒の前で言わない方がいいよ」

 

「え?なんで?」

 

ぽかんとして先生は尋ねる。

 

「...なんでも。とにかくやめて」

 

「ひぃん....わかったよ」

 

その瞬間、僕は先生の方を反射的に見る。

 

「え.....」

 

「ん?どうかした?」

 

先生が心配そうな顔で僕の方を見る。

聞き間違いなのか、偶然なのかは知らないが、先生が言ったそれはユメ先輩の口癖と同じだった。

 

「...先生、兄妹とかっているの?」

 

勝手に言葉が出る。

言った後に変なことを聞いてしまったと思い、訂正しようとした。

 

「ごめん、なんでもな」

 

「いるよ、妹が1人だけ。でも小さい時に色々あってそれっきり会ってないかな」

 

先生は僕の質問を疑うことなく答えてくれた。

 

「そう、なんだ」

 

「レイヤは兄妹、いるの?」

 

今度は先生が僕に質問を投げかける。

 

「...いない、ずっと1人」

 

自虐を込めてそう答えた。

大切な人はいたけど、もういない。

僕が守れなかった。僕が殺した。

 

「ホシノとは、仲がいいみたいだね」

 

「...うん、昔色々あって、それで」

 

「何があったのか聞いてもいい?」

 

「面白くない話だから」

 

やんわりとした否定の言葉を吐く。先生は納得してくれたのか、聞くことを諦めてくれたようだった。

この人に話しても、何も解決しない。

これは僕の問題だ。他に誰も巻き込む必要はない。

 

「...そっか」

 

それから会話が弾むことはなく、静寂が訪れる。

 

「...僕、帰るね」

 

静寂に耐えきれなくなった僕がそう告げると、先生は心配そうな顔をした。

 

「1人で帰れる?よかったら送って....」

 

「大丈夫だよ。ただ眠いからここで寝てただけだし」

 

「そっか、なら良いんだけど」

 

先生がそう言った後、あまり元気のない身体に鞭を打ち、僕はベッドから立ち上がった。すぐそこに置いてあった銃と鞄を手に取る。

 

「ありがとう、先生。セリカを助けてくれて、僕のこと、待っててくれて」

 

「先生として当然のことをしただけだよ」

 

僕は保健室の扉を開け、中にいる先生の方を見る。

 

「また明日、先生」

 

「うん、また明日」

 

笑いかける先生を見ながら、僕は保健室の扉を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

後日学校が休みなので僕は定期検診と昨日受けた傷を診てもらうために病院にいた。

 

「レイヤさん、検査の結果ですが」

 

嫌なほど白い診察室の中、医師が告げる。

 

「ひとまずは大丈夫ですが.....これ以上同じ箇所に怪我を受けるといくらキヴォトス人とはいえ、命の危険があります」

 

「具体的にどれだけ耐えれるかは医師の私たちにも分かりかねます。しかしその箇所に怪我を負うことは確実に寿命を縮めていると思ってください」

 

「医者としては今すぐにでもあなたの環境の改善を求めますが....立場上、あなたが多少の武力行使を辞さないのも理解しているつもりです」

 

「ですが、臓器が傷ついているんです。あまり無理はされないように」

 

「それに....」

 

 

 

 

 

 

 

「つ、疲れた....」

 

その後、医者からは30分ほど説教をされてしまった。

何もしていないはずなのに疲れた。もう今日は帰ろう。僕はそんなことを考えながら病院の出口を通った。

 

「...レイヤ?」

 

僕の名前が、少し遠くから聞こえる。

 

「...先生」

 

そこにはいつものスーツに身を包む先生の姿があった。

しまった。病院から出るところを見られてしまった。

 

「偶然だね。ここで何をしてたの?」

 

「...ちょっと、用があって....」

 

歯切れが悪い回答しかできなかった。怪しまれている気しかしない。

 

「ここ、病院だよね。やっぱり、どこか体調が悪かったの?」

 

先生はとても不安そうな顔をしている。

また、他人に余計な心配をかけさせてしまった。

 

「昨日のやつとは関係ないよ。僕は生まれつき持病があって」

 

シロコに言った時と同じ嘘を吐く。

 

「ちょっと内臓が弱いから、薬で助けてもらってる。ただ、それだけ」

 

無愛想な回答をしてしまっただろうか。でも、これでいい。先生にあの件を話す必要はないんだから。

他人を巻き込むことは、できればしたくない。

 

「そうだったんだ....」

 

先生は驚きを隠せず、丸い目をして僕の方を見つめる。

しばらくすると、先生はまた悲しそうな顔をした。

 

「....ごめん。私、レイヤのこと何も知らなくて」

 

何に対する謝罪なのか、僕にはよくわからなかった。

僕は先生に僕のことを知られるのを拒んでいたんだ。知らないのは当たり前だろう。

 

「先生が気にすることじゃないよ。これは僕の問題だし」

 

「....先生はどうしてここに?」

 

このままだと会話が重苦しくなりそうなので、僕は思い切って話題を変更した。

 

「アビドス近郊の土地勘には疎くてね。今日は休みで仕事もひと段落ついたし、このあたりを散歩しようかなって思って」

 

「なるほど」

 

仕事熱心な人だな、と思った。

その時だった。

道路の向こうから発砲音が聞こえた。

 

「....っ!先生!!」

 

咄嗟に先生に向けて叫ぶ。僕は先生を抱きしめたまま建物の陰に飛び込んだ。先生に衝撃が行かないように、僕が下敷きになるようにして。

 

「きゃっ....!」

 

女の子らしい声をあげて先生は僕の胸に倒れ込んだ。

 

「...先生、怪我はない?」

 

「あれ.....レイヤっ!?ごめん!重いよね!!」

 

先生は慌てて僕の上から退こうとする。僕はそれを右手で制した。

 

「だめ。物陰からは出ないで」

 

「あっ...!ご、ごめん!」

 

僕の隣に先生が座り込んでいる。状況を理解していないのか、混乱しているようだった。

 

「怪我はない?どこか痛むところは?」

 

「えっと....大丈夫、どこも痛くないよ」

 

先生は自分の身体を触りながら異常なところがないか確認する。どうやらどこにも怪我はしていないようだった。

 

「あ、ありがとう、レイヤ」

 

動揺しながらも先生は僕に感謝の言葉を送った。

 

「合理的な判断をとっただけ。先生は僕らとは違ってすぐ死んじゃうから」

 

先生には色々と借りがある。それが助けるに値しただけ。僕は自分にそう言い聞かせた。

 

「先生、襲撃だよ」

 

改めて先生に今の状況を説明する。

 

「気晴らしに僕らを狙ったのか、それとも意図的なのかはわからないけど」

 

「しゅ...襲撃....」

 

先生は理解し難いという顔をしていたが、僕の話を静かに聞いてくれている。

 

「おい!!そこにシャーレの人間がいるのは知ってるんだ!!!大人しく出てこい!!!」

 

僕は眼を使って相手を捕捉する。7名ほどのチンピラの集団のようだった。もれなくみんな、銃火器を所持している。

 

「...だそうですけど。先生、何かしたの?」

 

「いや...全く心当たりがないけど....」

 

「...まあ、別にどうでもいいか」

 

僕はバッグからXM7を取り出し、チャージングハンドルを引き、安全装置を外す。

 

「先生、しばらくここにいて。すぐ戻ってくるから」

 

僕は先生にそう言い残し、物陰から飛び出した。

手前にある遮蔽物目掛けてスライディングをしながら銃弾を2発撃つ。2人の不良はうめき声を上げ動かなくなった。

 

「あと5体」

 

相手も物陰に隠れ、こちらのタイミングを伺っている。でも、僕にはまる視えだ。物陰から不良が上半身だけを出そうとしている。

僕はタイミングを合わせて遮蔽から身を乗り出し、1発1発丁寧に狙って撃つ。着実に一体ずつ減らしていく。

よく分からないが、アビドスを助けようとしてくれている人を傷つけるなら僕は容赦しない。

 

「あと1体」

 

残りの1人は物陰に隠れて出てこなくなった。このままじゃ埒が開かないと思い、その不良のもとに近づく。

 

「が....っ....」

 

突如、激しく脇腹が痛んだ。

足に力が入らなくなって、その場に座り込んでしまう。

銃弾を受けたばかりなのに、激しく動きすぎた。

止まっちゃ駄目だ。敵を倒さなきゃ。

僕は顔を上げ、敵のいた方を向く。不良は絶好のチャンスと言わんばかりに銃を構え、僕を狙っている。

僕も銃を構えようとするが、相手の方が早い。ここからじゃ回避も間に合わない。何発かは受けてしまうだろう。

まあ死ぬわけじゃないし、別に良いかと僕は頭の隅で考えていた。

その時だった。

 

「レイヤっ!!危ない!!」

 

そんな声と共に、僕の身体は勢いよく突き飛ばされる。衝撃を受けた方を見る。

 

 

 

 

そこには、先生の姿があった。

刹那、銃声が響き渡る。

 

 

 

 

「.....ぇ........」

 

背中に衝撃が走る。即座に銃を構え、不良の顔面へと銃弾を打ち込む。不良は獣のような声を上げ動かなくなった。

 

「っ.....先生!!」

 

僕は倒れ込んだ先生の元へ駆け寄り、肩を揺さぶる。

 

「っいたたた......」

 

「どこか痛むところは!?」

 

僕は叫ぶ。

 

「たぶん...大丈夫」

 

先生の身体を確認する。どこにも銃弾が命中した跡はなく、赤黒い液体もそこにはなかった。

先生は痛そうな顔をしているが、特別重い怪我はしていないようだった。

僕はほっと胸を撫で下ろす。

 

「まったく....このバカ!!」

 

先生に対する怒りが爆発し、らしくない言葉を吐く。

 

「なんでじっとしてなかった!!本当に死ぬかもしれないんだぞ!!」

 

倒れ込む先生に対して馬乗りになり、罵声を浴びせる。

 

「....あのままじゃ、レイヤに弾が当たってた」

 

「.....!」

 

先生はそれだけ答えた。

そんな先生の回答を聞き、僕は少しずつ冷静になっていく。

この人は僕を庇ってくれたのだ。

自分の命を厭わずに。

 

「....ごめん。先生、助けてくれたのに」

 

次第に申し訳なくなり、先生に謝罪の言葉を送る。

 

「ううん、レイヤの言う事を守らなかった私にも悪いところがあるから」

 

先生はくしゃっと僕に笑いかける。

全く、この人はどれだけ優しければ気が済むんだ。

僕は右手を差し出して、先生に言う。

 

「ありがとう、先生。僕を庇ってくれて」

 

先生は僕の手を取って立ち上がる。

 

「先生として当然のことをしたまでだよ」

 

困った人だ。僕は借りを作るばかりで、先生に返そうとすると彼女は「先生だから」と言って拒否する。

僕に恩返しすらさせてくれない。

本当に、困った人だ。

 

「...レイヤが笑ったところ、初めて見た」

 

先生の言葉で僕は自分が笑っていたことに気づく。

確かに先生の前で笑ったのは初めてだ。

 

「そう、かな」

 

「うん。笑った顔、とっても可愛いよ」

 

先生は屈託のない笑顔でそう答える。

僕は少しだけ心が暖かくなった。

 

「...本当に、ありがとね、先生」

 

僕は先生に聞こえない程度の声でそう呟いた。

この人は、他の大人とは違う。

言葉に裏表がない。この人の言葉は本当に本心から出ている言葉だ。

自己の犠牲を顧みず、人のために行動できる。

この人は、信用できるのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

とても、ユメ先輩に似ている。

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