Pokémon LEGENDS Gray 虚無の英雄√ 作:居待月さん
「……ポケモン。今から、もらいに行くのか!?」
ゲームのキャラクターであるメイが目の前にいる事実以上に、ポケモンをもらいに行く。という言葉に強く反応したキョウヘイは、前のめりになってメイに問う。
「……!! もう~いきなり近づいたらびっくりするよ」
「ご、ごめん。それで、えっと、誰からもらうんだっけ?」
そう聞くと、メイは「もう、キョウヘイは仕方ないな~」と言って説明をした。
どうやら今日はアララギ博士の助手をしている少女がヒオウギシティに来ており、自分、メイ、そして幼なじみのヒュウの三人にパートナーポケモンをくれる、という話らしい。
説明を聞くうちに、キョウヘイも今日の約束を思い出した。
前世の記憶が蘇った衝撃で頭から抜けていたが、昨日までは何度も時計を見るくらい楽しみにしていたのだ。
(そうだよ。俺、昨日もメイとその話したじゃん……)
十四年間過ごしてきた記憶はちゃんとある。
それなのに今は、窓の外を飛ぶマメパトにまで目を奪われてしまう。
ここはポケモンの世界。
そして、自分は今日からポケモントレーナーになる。
「……やばい。すっげえ楽しみ」
「ふふっ。さっきまで忘れてたくせに」
「忘れてたんじゃなくて、ちょっと頭がこんがらがってただけ」
「はいはい。じゃあ、準備してきてね。ヒュウも待ってるよ!」
背中を押され、キョウヘイは用意してあった鞄を手に取った。
母親に見送られ、家を出る。
隣を歩くメイは、自分の鞄を両手で持ちながら機嫌よさそうに足を進めていた。
「キョウヘイは、どの子にするか決めた?」
「いや、会ってから決める。メイは?」
「わたしも! でも、かわいい子だといいな~」
そう言って笑ったメイの横顔を、つい見てしまう。
幼い頃から何度も見てきた顔だ。
一緒に遊び、喧嘩をして、仲直りをして。その繰り返しで、気がつけば隣にいるのが当たり前になっていた。
だが、当たり前だからといって、かわいいと思わないわけではない。
「……なに?」
「いや、楽しそうだなって」
「楽しみだよ。ポケモンももらえるし、キョウヘイと旅もできるし」
あまりにも自然に言われ、キョウヘイは一瞬返事に詰まった。
「……そっか」
「うん。……あ、ヒュウ!」
メイが前に向かって手を振る。
その耳が少し赤くなっていたことには、キョウヘイは気づかなかった。
「遅かったな」
待っていたのは、逆立った髪が特徴的な少年──ヒュウ。
腕を組んでいた彼は二人の姿を確認すると、街の奥へ視線を向けた。
「ベルって人、高台にいるらしいぜ」
「もう探してくれたの?」
「ああ。早く行こう」
言うが早いか歩き出すヒュウ。
その背中を追いながら、キョウヘイは記憶を探った。
(ベル……確か、bwで一緒に旅を始める子だったよな)
ヒュウのことも、前世の知識として多少は知っている。
だが、どこで何が起きるかまで覚えているわけではない。思い出そうとしても、ゲーム画面が断片的に浮かぶだけだった。
階段を上りきると、風が頬を撫でた。
高台の柵の向こうには、ヒオウギシティの街並みと青い海が広がっている。
そして、その景色を眺める一人の少女がいた。
「あの、ベルさんですか?」
メイが声をかけると、緑色の帽子を被った少女が振り向く。
赤い眼鏡の奥で瞳を瞬かせた彼女は、三人を見るとぱっと表情を明るくした。
「そうだよ! もしかして、キョウヘイくんたち?」
「はい。俺がキョウヘイです」
「メイです!」
「ヒュウです。今日は、よろしくお願いします」
挨拶を聞いたベルは、一人ずつ顔を確かめるように頷いた。
「うん、よろしくね。あたしはアララギ博士の助手をしているベルです!」
ベルは持っていた鞄を開き、中からケースを取り出す。
蓋が開かれると、そこには三つのモンスターボールが並んでいた。
キョウヘイの心臓が、どくんと跳ねる。
「この子たちが、みんなのパートナーになるポケモンだよ!」
ボールから三つの光が飛び出した。
最初に現れたのは、すっと背筋を伸ばした緑色のポケモン。
続いて、鼻をひくひく動かす橙色のポケモン。
最後に現れたのは、お腹に貝殻をつけた水色のポケモンだった。
「くさタイプのツタージャ。ほのおタイプのポカブ。それから、みずタイプのミジュマル!」
「……本物だ」
思わず、声が漏れた。
ツタージャがこちらを見上げている。
ポカブがベルの靴に鼻を寄せている。
ミジュマルは海から吹いてきた風に目を細め、両手で貝殻を押さえていた。
画面越しではない。
手を伸ばせば、触れられる場所にいる。
「気になる子はいる?」
ベルの問いに答えようとした、その時だった。
「ミジュッ!」
ミジュマルが一歩前に出た。
胸を張り、お腹の貝殻を外して掲げる。
どうやら、自分を選べとアピールしているらしい。
だが、勢いがよすぎた。
「あ」
手からすっぽ抜けた貝殻が、キョウヘイの足元に落ちる。
ミジュマルは掲げた手を見て、それから地面を見た。
「……ミジュ」
しょんぼりと下がった耳に、キョウヘイは小さく笑った。
しゃがんで貝殻を拾い、差し出す。
「ほら。大事なものだろ?」
受け取ろうとした小さな手が、指に触れた。
ひんやりとしていて、けれど確かに体温がある。
ミジュマルは貝殻をお腹に戻すと、今度こそ、と言いたげに胸を張り直した。
「俺と来たいのか?」
「ミジュ!」
返事はすぐだった。
キョウヘイの脳裏には、いくつもの知識が浮かんでいた。
進化した姿。覚える技。得意な相手と苦手な相手。
だが、目の前で自分を見つめる瞳に、そのどれもが後回しになった。
「……ベルさん」
「うん」
「俺、この子がいいです」
そう伝えてから、もう一度ミジュマルと目を合わせる。
「相棒は、君に決めた」
「ミジュマッ!」
飛び込んできた身体を、両腕で受け止める。
想像よりずっと重かった。よろけながらも抱きとめると、ミジュマルは嬉しそうに頬を寄せてきた。
「よろしくな、ミジュマル!」
「わたしは、この子にします!」
メイの前にはツタージャがいた。
差し出された手をじっと見たあと、ツタージャは自分の手をちょこんと重ねる。
「よろしくね、ツタージャ。一緒にメイっぱい楽しもうね!」
ツタージャは少しだけ口元を緩めた。
「なら、俺はポカブだ。……一緒に強くなろうぜ」
ヒュウが膝をつく。
ポカブは元気よく鳴くと、その足元に駆け寄った。
三人と三匹を見たベルが、嬉しそうに笑う。
「みんな、決まったね!」
それぞれにモンスターボールと図鑑が渡される。
自分の図鑑。自分のボール。そして、自分の相棒。
キョウヘイが手の中のボールを見つめていると、ヒュウが口を開いた。
「キョウヘイ。早速だけど、俺と勝負しようぜ」
顔を上げる。
ヒュウの足元では、ポカブがやる気十分に地面を踏んでいた。
「お前とポケモンが、どれくらいやれるのか知りたい」
キョウヘイはミジュマルを見る。
腕の中の相棒もまた、真っ直ぐにこちらを見返していた。
「……やってみるか?」
「ミジュ!」
返事を聞いて、そっと地面に下ろす。
前世では、何度も何度も遊んだポケモンバトル。
だが今、指示を待っているのは画面の中のポケモンではない。
自分を選び、自分が選んだ相棒だ。
「いいぜ。やろう、ヒュウ!」
キョウヘイの、初めてのポケモンバトルが始まる──。To Be Continued