Pokémon LEGENDS Gray 虚無の英雄√ 作:居待月さん
高台から移動し、広場で向かい合う。
キョウヘイの前にはミジュマル。ヒュウの前にはポカブ。
少し離れた場所ではメイがツタージャを抱き、ベルと一緒に二人を見守っていた。
「使うポケモンは一匹ずつ。どちらかが戦えなくなったら、そこで終わりだよ!」
ベルの説明に頷きながら、キョウヘイは図鑑で確認した技を思い返す。
ミジュマルが覚えている技は『たいあたり』と『しっぽをふる』。
対するポカブも、覚えているのは同じ二つらしい。
(みずでっぽうはまだ使えないんだな……)
みずタイプとほのおタイプ。
相性だけなら有利だが、タイプ技を使えなければ話は別だ。
いや、そもそも相性がよければ勝てるわけではない。
つい先程テレビで見たダークライは、効果抜群の技を受けても倒れなかったのだから。
「準備はいい?」
「はい!」
「いつでもいいです!」
キョウヘイとヒュウが答える。
ベルは二人の顔を見てから、片手を上げた。
「それじゃあ──バトル、スタート!」
「ポカブ! 『たいあたり』!」
開始と同時にヒュウが指示を出す。
ポカブは地面を蹴り、小さな身体からは想像できない速度で走りだした。
(はやっ……!?)
画面の中なら、相手が動き終わるまで待っていればよかった。
だが、ここでは考えている間にも距離が縮まる。
あと数歩でぶつかる。
それでも、キョウヘイは決めていた指示を変えなかった。
「ミジュマル! 『しっぽをふる』!」
「ミジュ!」
ミジュマルがくるりと背を向け、尻尾を左右に振る。
目の前で揺れる尻尾に、ポカブの視線が僅かに下がった。
だが、突進は止まらない。
「ミジュッ!?」
振り返りかけたミジュマルに、ポカブの『たいあたり』が命中した。
身体が浮き、地面を転がる。
「ミジュマル!」
駆け寄りそうになった足を、どうにか止める。
痛そうだ。
そんな、当たり前の感想が頭を埋めた。
ゲームでは減った体力を見れば、どれくらい耐えられるかわかった。
だが、目の前のミジュマルに体力の数字なんて浮かんでいない。
今の一撃で、どれくらい痛かったのか。
まだ戦えるのか。
それすら、見て判断しなければならなかった。
「ミジュ……!」
ミジュマルは両手をついて起き上がる。
それから、自分を心配するキョウヘイを振り返った。
眉を寄せ、口をきゅっと結んでいる。
まだやれる。
そう言われた気がした。
「……ごめん。次は、ちゃんと指示する」
ミジュマルは一度だけ頷き、ポカブに向き直った。
「攻めるぞ、ポカブ! もう一度『たいあたり』!」
ヒュウは止まらない。
こちらが立ち上がったのを見て、すぐさま次の攻撃を仕掛けてきた。
「ミジュマル、避けて!」
声に反応し、ミジュマルが横へ跳ぶ。
だが、ポカブも向きを変え、その身体にぶつかった。
「っ、ミジュマル!」
今度は倒れずに踏みとどまった。
それでも、地面を滑った足が二本の跡を残す。
(ただ避けろって言っても駄目だ……!)
ヒュウの指示は真っ直ぐだ。
ポカブはその指示を迷わず実行している。
対して、自分はどうだ。
避け方も、その後どうするかも、全部ミジュマルに任せてしまっている。
知っているだけでは、指示にならない。
「ポカブ、そのまま押せ!」
目前のポカブが、もう一度踏み込もうとする。
キョウヘイはその足を見た。
四本の足で地面を踏み、身体を前へ押し出す。
なら、踏み込む前に──!
「今だ! こっちも『たいあたり』!」
「ミジュマッ!」
ミジュマルが両足で地面を蹴った。
至近距離からの一撃が、ポカブの正面に突き刺さる。
「ポカッ!?」
押し返されたポカブが、後ろへ転がった。
ヒュウが目を見開く。
先程まで二度も攻撃を受けていたミジュマルが、一撃でポカブを弾き飛ばしたのだ。
(……効いてる)
キョウヘイは息を吐いた。
最初の『しっぽをふる』。
あの一手で下げた防御が、今の一撃に繋がっている。
何度も使う必要はない。
同じ技で打ち合うなら、一度下げるだけでも差になる。
ただ、その差を生かす前に倒されてしまっては意味がない。
「まだいけるな、ポカブ!」
「ポカ!」
ヒュウの声に、ポカブが立ち上がる。
ミジュマルも前へ出ようとしたが、キョウヘイは手を伸ばして制した。
「待って。ここで迎えよう」
すぐに飛び出したいらしいミジュマルは、一瞬だけ不満そうにこちらを見る。
しかし、キョウヘイが頷くと、足を止めて身構えた。
「なら、こっちから行くぜ! 『たいあたり』!」
ポカブが走り出す。
キョウヘイは今度こそ、その動きを見続けた。
頭が下がる。足が地面を蹴る。
こちらまで、あと三歩。二歩。
(まだ……今!)
「右に一歩!」
ミジュマルが動く。
すぐ傍をポカブの鼻先が通り過ぎた。
先程よりも、ずっと近い。
だが、近いからこそポカブも曲がりきれない。
「そのまま横から『たいあたり』!」
「ミジュ!」
身体を捻り、ポカブの脇腹へ飛び込む。
鈍い音とともに、二匹が地面を滑った。
ミジュマルは両足で踏ん張る。
ポカブは横倒しになり、慌てて立ち上がろうとした。
「ポカブ!」
ヒュウの呼びかけに、短い足が動く。
だが、身体を起こしかけたところで力が抜け、再び地面に伏せた。
ベルが駆け寄り、ポカブの様子を確認する。
「……ポカブ、戦闘不能! ミジュマルの勝ち!」
その言葉を聞いても、キョウヘイは直ぐには動けなかった。
勝った。
初めてのポケモンバトルで、自分たちは勝ったのだ。
「ミジュマ!」
先に動いたのはミジュマルだった。
嬉しそうに振り返り、両手を高く上げる。
その姿を見て、ようやくキョウヘイの顔にも笑みが浮かんだ。
「……やったな、ミジュマル!」
しゃがんで手を差し出す。
ミジュマルは勢いよく駆け寄り、その手に自分の手を叩きつけた。
ぱちん、と小さな音が響く。
「でも、ごめんな。最初、痛かったよな」
土のついた身体をそっと撫でる。
ミジュマルは少し考えるように首を傾げてから、キョウヘイの胸を軽く小突いた。
「……次はもっと上手くやれって?」
「ミジュ!」
今度は即答だった。
「ははっ。わかった。頑張るよ」
「最初に『しっぽをふる』を使ったの、あれが効いたな」
ベルにポカブを手当てしてもらいながら、ヒュウが言った。
「こっちの二発より、お前の一発の方が重かった」
「でも、最初は全然指示できなかった。ミジュマルが頑張ってくれたんだ」
抱き上げた相棒が、得意げに胸を張る。
ヒュウはその姿を見て笑い、ポカブへ視線を落とした。
「俺たちも負けてられねえな。次は勝つぞ、ポカブ」
手当てを終えたポカブが、元気よく鳴いた。
「キョウヘイ、おめでとう!」
メイが駆け寄ってくる。
その腕の中では、ツタージャがミジュマルをじっと見ていた。
「最後のところ、すごかったよ!」
「……ありがと」
「でも、最初はわたしもびっくりした。キョウヘイ、ミジュマルと一緒に飛び出しそうだったんだもん」
「それは……仕方ないだろ」
図星を刺され、思わず目を逸らす。
メイはくすっと笑って、ミジュマルの頭を撫でた。
「頑張ったね。キョウヘイのこと、よろしくね」
「ミジュ!」
まるで任せろと言うような返事に、今度は二人で笑った。
腕の中には、まだ少し息の弾んだ相棒。
隣には、同じようにポケモンを抱く幼なじみ。
キョウヘイはミジュマルを抱き直し、メイと一緒に広場を歩き出した──。To Be Continued