Pokémon LEGENDS Gray 虚無の英雄√   作:居待月さん

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第3話 初めてのポケモンバトル!

 高台から移動し、広場で向かい合う。

 キョウヘイの前にはミジュマル。ヒュウの前にはポカブ。

 

 少し離れた場所ではメイがツタージャを抱き、ベルと一緒に二人を見守っていた。

 

「使うポケモンは一匹ずつ。どちらかが戦えなくなったら、そこで終わりだよ!」

 

 ベルの説明に頷きながら、キョウヘイは図鑑で確認した技を思い返す。

 

 ミジュマルが覚えている技は『たいあたり』と『しっぽをふる』。

 対するポカブも、覚えているのは同じ二つらしい。

 

(みずでっぽうはまだ使えないんだな……)

 

 みずタイプとほのおタイプ。

 相性だけなら有利だが、タイプ技を使えなければ話は別だ。

 

 いや、そもそも相性がよければ勝てるわけではない。

 つい先程テレビで見たダークライは、効果抜群の技を受けても倒れなかったのだから。

 

「準備はいい?」

「はい!」

「いつでもいいです!」

 

 キョウヘイとヒュウが答える。

 ベルは二人の顔を見てから、片手を上げた。

 

「それじゃあ──バトル、スタート!」

 

「ポカブ! 『たいあたり』!」

 

 開始と同時にヒュウが指示を出す。

 ポカブは地面を蹴り、小さな身体からは想像できない速度で走りだした。

 

(はやっ……!?)

 

 画面の中なら、相手が動き終わるまで待っていればよかった。

 だが、ここでは考えている間にも距離が縮まる。

 

 あと数歩でぶつかる。

 それでも、キョウヘイは決めていた指示を変えなかった。

 

「ミジュマル! 『しっぽをふる』!」

 

「ミジュ!」

 

 ミジュマルがくるりと背を向け、尻尾を左右に振る。

 目の前で揺れる尻尾に、ポカブの視線が僅かに下がった。

 

 だが、突進は止まらない。

 

「ミジュッ!?」

 

 振り返りかけたミジュマルに、ポカブの『たいあたり』が命中した。

 身体が浮き、地面を転がる。

 

「ミジュマル!」

 

 駆け寄りそうになった足を、どうにか止める。

 

 痛そうだ。

 そんな、当たり前の感想が頭を埋めた。

 

 ゲームでは減った体力を見れば、どれくらい耐えられるかわかった。

 だが、目の前のミジュマルに体力の数字なんて浮かんでいない。

 

 今の一撃で、どれくらい痛かったのか。

 まだ戦えるのか。

 それすら、見て判断しなければならなかった。

 

「ミジュ……!」

 

 ミジュマルは両手をついて起き上がる。

 それから、自分を心配するキョウヘイを振り返った。

 

 眉を寄せ、口をきゅっと結んでいる。

 

 まだやれる。

 そう言われた気がした。

 

「……ごめん。次は、ちゃんと指示する」

 

 ミジュマルは一度だけ頷き、ポカブに向き直った。

 

「攻めるぞ、ポカブ! もう一度『たいあたり』!」

 

 ヒュウは止まらない。

 こちらが立ち上がったのを見て、すぐさま次の攻撃を仕掛けてきた。

 

「ミジュマル、避けて!」

 

 声に反応し、ミジュマルが横へ跳ぶ。

 だが、ポカブも向きを変え、その身体にぶつかった。

 

「っ、ミジュマル!」

 

 今度は倒れずに踏みとどまった。

 それでも、地面を滑った足が二本の跡を残す。

 

(ただ避けろって言っても駄目だ……!)

 

 ヒュウの指示は真っ直ぐだ。

 ポカブはその指示を迷わず実行している。

 

 対して、自分はどうだ。

 避け方も、その後どうするかも、全部ミジュマルに任せてしまっている。

 

 知っているだけでは、指示にならない。

 

「ポカブ、そのまま押せ!」

 

 目前のポカブが、もう一度踏み込もうとする。

 キョウヘイはその足を見た。

 

 四本の足で地面を踏み、身体を前へ押し出す。

 なら、踏み込む前に──!

 

「今だ! こっちも『たいあたり』!」

 

「ミジュマッ!」

 

 ミジュマルが両足で地面を蹴った。

 至近距離からの一撃が、ポカブの正面に突き刺さる。

 

「ポカッ!?」

 

 押し返されたポカブが、後ろへ転がった。

 

 ヒュウが目を見開く。

 先程まで二度も攻撃を受けていたミジュマルが、一撃でポカブを弾き飛ばしたのだ。

 

(……効いてる)

 

 キョウヘイは息を吐いた。

 

 最初の『しっぽをふる』。

 あの一手で下げた防御が、今の一撃に繋がっている。

 

 何度も使う必要はない。

 同じ技で打ち合うなら、一度下げるだけでも差になる。

 

 ただ、その差を生かす前に倒されてしまっては意味がない。

 

「まだいけるな、ポカブ!」

「ポカ!」

 

 ヒュウの声に、ポカブが立ち上がる。

 ミジュマルも前へ出ようとしたが、キョウヘイは手を伸ばして制した。

 

「待って。ここで迎えよう」

 

 すぐに飛び出したいらしいミジュマルは、一瞬だけ不満そうにこちらを見る。

 しかし、キョウヘイが頷くと、足を止めて身構えた。

 

「なら、こっちから行くぜ! 『たいあたり』!」

 

 ポカブが走り出す。

 キョウヘイは今度こそ、その動きを見続けた。

 

 頭が下がる。足が地面を蹴る。

 こちらまで、あと三歩。二歩。

 

(まだ……今!)

 

「右に一歩!」

 

 ミジュマルが動く。

 すぐ傍をポカブの鼻先が通り過ぎた。

 

 先程よりも、ずっと近い。

 だが、近いからこそポカブも曲がりきれない。

 

「そのまま横から『たいあたり』!」

 

「ミジュ!」

 

 身体を捻り、ポカブの脇腹へ飛び込む。

 鈍い音とともに、二匹が地面を滑った。

 

 ミジュマルは両足で踏ん張る。

 ポカブは横倒しになり、慌てて立ち上がろうとした。

 

「ポカブ!」

 

 ヒュウの呼びかけに、短い足が動く。

 だが、身体を起こしかけたところで力が抜け、再び地面に伏せた。

 

 ベルが駆け寄り、ポカブの様子を確認する。

 

「……ポカブ、戦闘不能! ミジュマルの勝ち!」

 

 その言葉を聞いても、キョウヘイは直ぐには動けなかった。

 

 勝った。

 初めてのポケモンバトルで、自分たちは勝ったのだ。

 

「ミジュマ!」

 

 先に動いたのはミジュマルだった。

 嬉しそうに振り返り、両手を高く上げる。

 

 その姿を見て、ようやくキョウヘイの顔にも笑みが浮かんだ。

 

「……やったな、ミジュマル!」

 

 しゃがんで手を差し出す。

 ミジュマルは勢いよく駆け寄り、その手に自分の手を叩きつけた。

 

 ぱちん、と小さな音が響く。

 

「でも、ごめんな。最初、痛かったよな」

 

 土のついた身体をそっと撫でる。

 ミジュマルは少し考えるように首を傾げてから、キョウヘイの胸を軽く小突いた。

 

「……次はもっと上手くやれって?」

「ミジュ!」

 

 今度は即答だった。

 

「ははっ。わかった。頑張るよ」

 

 

 

「最初に『しっぽをふる』を使ったの、あれが効いたな」

 

 ベルにポカブを手当てしてもらいながら、ヒュウが言った。

 

「こっちの二発より、お前の一発の方が重かった」

「でも、最初は全然指示できなかった。ミジュマルが頑張ってくれたんだ」

 

 抱き上げた相棒が、得意げに胸を張る。

 ヒュウはその姿を見て笑い、ポカブへ視線を落とした。

 

「俺たちも負けてられねえな。次は勝つぞ、ポカブ」

 

 手当てを終えたポカブが、元気よく鳴いた。

 

「キョウヘイ、おめでとう!」

 

 メイが駆け寄ってくる。

 その腕の中では、ツタージャがミジュマルをじっと見ていた。

 

「最後のところ、すごかったよ!」

「……ありがと」

「でも、最初はわたしもびっくりした。キョウヘイ、ミジュマルと一緒に飛び出しそうだったんだもん」

「それは……仕方ないだろ」

 

 図星を刺され、思わず目を逸らす。

 メイはくすっと笑って、ミジュマルの頭を撫でた。

 

「頑張ったね。キョウヘイのこと、よろしくね」

 

「ミジュ!」

 

 まるで任せろと言うような返事に、今度は二人で笑った。

 

 腕の中には、まだ少し息の弾んだ相棒。

 隣には、同じようにポケモンを抱く幼なじみ。

 

 キョウヘイはミジュマルを抱き直し、メイと一緒に広場を歩き出した──。To Be Continued

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