Pokémon LEGENDS Gray 虚無の英雄√ 作:居待月さん
ポケモンセンターの自動ドアが開く。
中に入ると、受付にいた女性がこちらを見て微笑んだ。
「こんにちは。ポケモンのお預かりですか?」
「はい。お願いします」
キョウヘイはミジュマルをボールに戻し、ヒュウと一緒に受付へ預けた。
赤い髪に白い帽子。見覚えのある姿に、つい視線が向いてしまう。
(ジョーイさんまで本物だ……)
ミジュマルを見た時も思ったが、知っているものが実際に目の前にあるというのは不思議な感覚だ。
そんなキョウヘイの横で、ベルが胸を張った。
「旅の途中でポケモンが疲れたら、こうしてポケモンセンターに連れてきてあげてね」
「はい!」
「それから、これも渡しておくね」
ベルが鞄から取り出したのは、モンスターボールだった。
三人にそれぞれ手渡していく。
「野生のポケモンと出会って、仲間にしたいと思った時に使うんだよ」
キョウヘイは受け取ったボールを見つめた。
これから、この中に新しい仲間が入るのだ。
誰と出会えるだろう。
そう考えるだけで、自然と口元が緩んでしまった。
回復を終えたポケモンを受け取ると、ヒュウは早速出口に向かった。
「俺は先に行くぜ」
「もう行くの? 一緒に捕まえ方、教えてもらおうよ」
メイが声をかける。
だが、ヒュウは振り返って首を横に振った。
「捕まえ方は知ってる。それに、ポカブともう少し練習したいんだ」
そう言って、腰につけたボールに触れる。
初めてのバトルで負けたことが、やはり悔しいのだろう。
「キョウヘイ」
「ん?」
「次は負けねえからな」
真っ直ぐな言葉に、キョウヘイも笑って返す。
「俺たちだって、負けるつもりはないぜ」
「言ったな。じゃあ、またな!」
ヒュウは片手を上げ、そのまま外へ駆けていった。
メイと一緒に見送ってから、キョウヘイはミジュマルのボールを軽く持ち上げる。
「俺たちも頑張ろうな」
ボールが、手の中で小さく揺れた。
ヒオウギシティのゲートを抜け、19番道路へ。
ベルの後ろを歩きながら、キョウヘイは周囲を見回した。
道の脇には草むらが広がり、その向こうには木々が並んでいる。
風が吹くたびに葉が擦れ、何処かからポケモンの鳴き声が聞こえた。
「ここなら、ポケモンがいそうだね」
ベルが足を止める。
その言葉が終わるより早く、近くの草ががさりと揺れた。
「うおっ!?」
飛び出してきたのは、一匹のミネズミだった。
キョウヘイが思わず半歩下がると、隣から笑い声が聞こえた。
「ふふっ。キョウヘイ、びっくりしすぎ」
「いや、急に出てきたから……!」
「草むらには、ポケモンが隠れていることもあるからね。ちゃんと周りを見て歩こうね」
ベルはそう言うと、自分のポケモンを繰り出した。
捕獲の方法は、キョウヘイの知っているものと同じだった。
まずはバトルをして弱らせる。そして、モンスターボールを投げる。
だが、実際に見ると簡単そうには思えなかった。
ミネズミは逃げようとするし、反撃もする。ボールだって、動いている相手に当てなければならない。
ベルの投げたボールがミネズミに触れ、赤い光がその身体を包む。
地面に落ちたボールが揺れ、やがて動きを止めた。
「はい、捕まえられた!」
「おお……!」
「すごいです!」
二人の声に、ベルは少し照れたように笑った。
「じゃあ、今度は二人も野生のポケモンとバトルしてみようか」
「わたし、やってみたいです!」
真っ先に手を上げたのはメイだった。
ボールから出たツタージャが、周囲を見回す。
メイはその前にしゃがみ、目線を合わせた。
「わたしたちも、初バトルだよ。よろしくね!」
ツタージャは短く鳴き、草むらへ顔を向ける。
そこには、こちらを窺う別のミネズミがいた。
「よーし! ツタージャ、『たいあたり』!」
メイの指示でツタージャが駆け出す。
だが、ミネズミはすぐに草の中へ飛び込み、その一撃を避けてしまった。
「あっ。追いかけて、もう一回!」
ツタージャは足を止めていた。
首を動かし、草むらの奥をじっと見ている。
「ツタージャ?」
メイが呼んだ瞬間、横の草が揺れた。
飛び出したミネズミの『たいあたり』が、ツタージャを押し退ける。
「大丈夫!?」
ツタージャは踏みとどまり、メイを振り返った。
その目は、少し不満そうだった。
「……どうして追いかけなかったの?」
問いかけながら、メイも草むらを見る。
ミネズミの姿は、また見えなくなっていた。
ただ、草だけが動いている。
「……そっか。何処にいるか、見てたんだね」
ツタージャが頷く。
メイは一度口を閉じ、相棒の隣まで視線を下げた。
「ごめん。わたし、急ぎすぎた」
キョウヘイは口を開きかけて、やめた。
メイはもう、ツタージャと同じ場所を見ている。
右の草が揺れる。
ツタージャの顔が、そちらへ向いた。
「今度は、ちゃんと見てるからね」
再びミネズミが飛び出す。
メイはすぐには叫ばなかった。
ツタージャが片足を引く。
その動きに合わせるように、声を出した。
「横に避けて!」
突進が空を切った。
ミネズミが振り向くより早く、ツタージャが地面を蹴る。
「『たいあたり』!」
今度の一撃は、しっかり命中した。
転がったミネズミは起き上がると、慌てて草むらの奥へ逃げていった。
「あっ……!」
メイはボールを取り出しかけた手を止める。
少し残念そうにしたあと、ツタージャへ駆け寄った。
「大丈夫? 痛いところない?」
身体についた土を払う。
ツタージャはその手を見つめ、やがて自分から一歩近づいた。
「……次は、もっと上手くやろうね」
差し出されたメイの手に、小さな手が重なった。
「捕まえる前に逃げられちゃった」
「でも、最後は息が合ってたじゃん」
キョウヘイが言うと、メイは嬉しそうにツタージャを見た。
「うん。ちょっとだけ、わかった気がする」
「二人とも、これからだよ。ポケモンのこと、少しずつ知っていけばいいんだから」
ベルはそう言ってから、鞄を持ち直した。
「あたしは博士のところに戻るね。何か困ったら、連絡してきて」
「はい。ありがとうございました!」
「ミジュマル、大切にします」
「うん!」
手を振るベルが、ヒオウギへと戻っていく。
その姿が見えなくなってから、二人は顔を見合わせた。
「……行こっか」
「ああ」
キョウヘイはミジュマルをボールから出した。
隣にツタージャが並ぶと、ミジュマルは嬉しそうに話しかける。
何を言っているのかはわからない。
ただ、得意げに身振りを交えているので、先程のバトルの話かもしれない。
「ミジュマル、前見ろよ。転ぶぞ」
声をかけた直後、小さな足が石に引っかかった。
慌てて抱きとめると、隣でメイが吹き出した。
「もう。キョウヘイに似たのかな?」
「俺、そんなに転ばないだろ」
「小さい頃はよく転んでたよ」
「いつの話だよ、それ……」
いつも通りの会話。
だが、向かっているのは互いの家ではない。
キョウヘイは一度だけ、後ろを振り返った。
街へ続くゲートは、もう少し遠くなっていた。
不意に、袖が引かれる。
「大丈夫だよ。わたしもいるから」
メイは前を向いたまま言った。
キョウヘイはその横顔を見てから、小さく笑う。
「……それ、俺が言うところじゃない?」
「先に言った方が勝ちです~」
袖を離したメイが、一歩先へ出る。
その後ろをツタージャが追い、ミジュマルも腕の中から降りたがった。
「わかった、わかった。今度は転ぶなよ」
地面に下ろすと、ミジュマルは元気よく走り出す。
キョウヘイもその後を追った。
今度は、振り返らなかった──。To Be Continued