マンハッタンカフェは大人の階段を昇りたい   作:あばなたらたやた

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8話:サトノダイヤモンド③

 彼女は一瞬、目を丸くしてサブトレーナーを見つめた。

 

 「……遊びに行く?」

 

 その声には驚きと戸惑いが混じっていて、まるでそんな提案が彼女の日常に馴染まないかのようだった。サブトレーナーは微笑みを崩さず、優しく続けた。

 

「ええ、そうなんです。あなた、サトノ家のプレッシャーでずっと頑張ってきて、心も体も疲れてるでしょう? 僕には、それが分かりますよ。だから、少しだけ走るのを忘れて、楽しい時間を過ごすのもいいんじゃないかって思うんです。私と一緒なら、気楽に楽しめる場所を考えてみますから」

 

 彼女はサブトレーナーの言葉を聞いて、しばらく黙ったままハーブティーのカップを見つめた。彼女の手がカップを握る力が増し、考え込むように眉が寄った。

 

「でも……私、そんな気分になれるか分からないし、サトノ家のトレーニングもあるから」

 

 その返答に、サブトレーナーは彼女の葛藤を感じつつも、そっと励ますように言った。

 

「遊ぶなんて考えられない。でも、ちょっとだけ外に出てみると、意外と気持ちが軽くなる気がします。トレーニングも大事ですけど、あなたが笑顔で走れる方が、きっとサトノ家の誇りに繋がります。私がそばにいるから、無理なく楽しめるようにします。どうでしょう?」

 

 彼女はサブトレーナーの言葉に目を上げ、涙の跡が残る瞳でサブトレーナーを見つめた。彼女の唇が僅かに動き、迷いが表情に浮かんだが、やがて小さく頷いた。

 

「……サブトレーナーさんがそう言うなら……少しだけ、試してみてもいいかも」

 

 その声は弱々しかったが、そこにはほんの少しの好奇心と信頼が混じっていた。サブトレーナーはその反応に心から嬉しくなり、柔らかく微笑んだ。

 

「ありがとう。嬉しいです、あなたがそう言ってくれて。私、計画を考えますから、楽しみにしてくださいね。例えば…近くの湖でボートに乗ったり、美味しいスイーツを食べに行ったり…あなたが好きなことがあれば、それが良いでしょう」

 

 サトノダイヤモンドは私の提案に目を瞬かせ、初めて小さな笑みを浮かべた。「スイーツ。実は甘いものが好きで……でも、最近は食べてなかったから」

「それなら決まりですね」

 

 サブトレーナーは軽く笑いながら応じた。

 

「甘いもので心を満たすのも、立派な気分転換ですよ。私が美味しいお店を探しておきます。あなたが少しでも笑顔になれるなら、私も幸せです」

 

 喫茶店の暖かな灯りが彼女の顔を照らし、彼女はハーブティーを手に持ったまま、穏やかな息をついた。その表情に、ラスティは彼女の強いストレスが、遊びの誘いを通じて少しずつ和らぐ兆しを感じた。

 ラスティは心の中で、彼女が笑顔で過ごせる一日を思い描きながら、彼女の回復を願った。

 

 サトノダイヤモンドはハーブティーのカップを手に持ったまま、ラスティの「遊びに行く」という提案に小さく微笑んでいた。

 

 暖かな灯りが彼女の顔を照らし、夜空の星々がガラス越しに瞬いていた。サブトレーナーは彼女の穏やかな表情に安堵しつつ、彼女のストレスを和らげる楽しい一日を具体的に計画しようと考えた。

 

 彼女は「ありがとう……楽しみにしてます」と呟き、初めて軽い期待が瞳に宿った。サブトレーナーはその反応に嬉しくなり、次のステップを提案した。

 

「じゃあ、具体的にどこに行くか、私と相談しながら決めませんか? 連絡先を交換しておけば、メッセージでやり取りできますよ。ちゃんと返信しますから」

 

サトノダイヤモンドは一瞬驚いたように目を瞬かせたが、すぐに頷いた。

 

「そうですね……メッセージなら気楽に話せそう」

 

 彼女はバッグからスマホを取り出し、サブトレーナーと一緒にアプリの連絡先を交換した。彼女の指先がまだ少し震えていたが、その動作には僅かな安心感が感じられた。

 

 サブトレーナーは自分のスマホに「サトノダイヤモンド」と登録し、微笑んだ。

 

「これで繋がりましたね。私、早速アイデアを送りますから、楽しみにしてください」

 

 彼女は小さく笑い、「サブトレーナーさん、ほんと優しいですね……信遅かったらごめんなさい」と少し照れたように言った。ラスティは首を振って、「あなたのペースでいいですよ。私、待つのは得意ですから」と軽く返した。

 

 喫茶店を出る時、彼女の足取りは少し軽くなっているように見えて、サブトレーナーは心から嬉しく思った。

 

 その後、サブトレーナーは寮に戻る。

 サブトレーナーの部屋のソファに、マンハッタンカフェが当たり前のように座り、コーヒーカップを片手にくつろいでいた。長い黒髪がソファに流れ、眠そうな眼差しが私の方にゆるく向けられた。

 テーブルの上には彼女お気に入りのコーヒーポットが置かれ、部屋中に濃厚なコーヒーの香りが漂っていた。

 

「おかえりなさい、サブトレーナー。遅かったですね」

 

 彼女の声は低く、眠気を帯びていて、まるでここが自分の部屋であるかのように自然だった。サブトレーナーは一瞬呆気に取られ、コートを脱ぎながら言った。

 

「マンハッタンカフェ。なぜ私の部屋に?」

「はい……コーヒー淹れてたから、ついでにここで飲んでただけ。サブトレーナーの部屋、静かで落ち着きますし……それに、私には当然の権利がありますから」

 

 彼女はカップを軽く傾け、平然と答えた。

 私はソファの反対側に腰を下ろし、彼女の言葉に首を傾げた。

 

「当然の権利? それはどういう意味だい?」

 

 マンハッタンカフェはコーヒーを一口飲み、眠そうな目で私を見据えながら、さらりと爆弾発言を投げてきた。

 

「だって、私、いずれサブトレーナーさんの恋人になるんですから。だったら、今からここにいてもいいですよね。当然の権利です」

 

 私はその言葉に一瞬言葉を失い、手に持っていたスマホをテーブルに置いた。

 

「……君、いきなり何だい? 恋人って……そんな話、初めて聞いたよ」

 

 サブトレーナーの声には驚きと困惑が混じっていたが、彼女は至って冷静だった。

 

「まだ決まってないだけ。私のコーヒーを美味しいって言いましたよね? それに、サブトレーナーの紳士っぷり、私にはちょうどいいですし……だから、いずれそうなります。決まりです」

 

 彼女はカップをテーブルに置き、ソファに深く沈み込んで眠そうに目を細めた。

 サブトレーナーは彼女の突飛な主張に笑いを堪えきれず、軽く肩をすくめた。

 

「君のコーヒーは確かに美味しいけど、恋人になるかどうかはもう少し慎重に決めたいな。急にそんな権利を認めるとは言えない。でも……まあ、君がここでくつろぐくらいなら、別に構わないけどね」

 

 マンハッタンカフェは小さく笑う。

 

「紳士っぽい返しですね。まあいいです、ゆっくり認めれば。私、待つのは得意ですから」

 

 と言い、カップを手にまたコーヒーを啜り始めた。

 

 サブトレーナーは早速メッセージアプリを開いた。彼女とのチャット画面に、まずは軽い挨拶を打ち込んだ。

 

サブトレーナー『サトノダイヤモンドさん、今日はありがとう。遊びに行く場所、楽しそうな候補を考えてみました。どうでしょう?』

 

 しばらくして、彼女から返信が来た。

 

サトノダイヤモンド『サブトレーナーさん、こちらこそありがとう。候補、楽しみにしてます……私、頭整理するのに少し時間かかるかも』

 

 彼女の返信に、私は彼女のストレスを考えつつ、気楽に提案を続けた。

 

サブトレーナー『ゆっくりで大丈夫ですよ。例えば、湖畔のカフェでスイーツを楽しむのはどうでしょう? ボートもあって、景色が綺麗なんです。僕、ボート漕ぐの得意ですから、任せてください』

 

サトノダイヤモンド『湖畔……いいですね。私、スイーツならチーズケーキが好きで。ボートはちょっと緊張するけど、サブトレーナーさんが一緒なら安心かも』

 

サブトレーナー『チーズケーキ、メモしました。ボートは僕がしっかり漕ぎますから、ゆっくり楽しんでくださいね。他にも、街の隠れ家的なパティスリーとか、どうでしょう?』

 

サトノダイヤモンド:『隠れ家のパティスリー……素敵。私、甘いものなら我慢しなくていいですよね』

 

サブトレーナー『もちろんです。甘いものは我慢しないで楽しむのが一番ですよ。私も付き合いますから、思う存分味わいましょう』

 

 メッセージのやり取りは続き、彼女の返信が少しずつ明るくなるのを感じた。サブトレーナーは彼女がストレスから解放される一日を想像しながら、計画を具体化していった。

 

 と、一段落ついたところで、サブトレーナーは問いかける。

 

「君は何者だい?」

「マンハッタンカフェですが……」

「肉体はそうだろう。そこに疑いはない。だけど中身は違う。オトモダチか、それとも闇霊か。どちらにせよ、良い趣味とは言えないな」

【アハッ】

 

 マンハッタンカフェは笑う。

 

【アハハハハハ! バレちゃった、バレちゃった、バレちゃった! いい能力、いい男!! ほしいよ、欲しいよ!!】

「正体がバレた途端、随分と元気がある」

【マンハッタンカフェはねぇ!! いやらしい女の子なの! 貴方に抱かれたい! 貴方とエッチなことがしたいって、妄想して一人で慰める!! 哀れな女、哀れな女!! アハハ!】

「それで?」

【だったら私が代わりにやってあげる!! 貴方を手に入れてみせる! サブトレーナー!】

「人の肉体を操って恋人になろうとする女性は趣味じゃない。もし私の心が欲しいなら、自分の肉体を使うことだ」

【またネ゙! また!】

 

 バタッ、とマンハッタンカフェは地面に倒れる。そしてすぐに起き上がり、ぶつけた頭を押さえる。

 

「サブトレーナー……さん、今のは!」

 

 慌てる本物のマンハッタンカフェに、サブトレーナーは膝をついて目線を合わせながら、言う。

 

「大丈夫。理解している。災難だったね。今日はもう遅いから帰ると良いだろう。送っていく」

「あ、う、はい。ご迷惑をおかけしました。私が偽物だと気付いてくれて、うれしかったです」

 

 

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