ハッピーエンド   作:ぶり大根(元・孤高の牛)

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正直長く続ける気は無いけど、やりたい事は全て詰め込む気でいる


夢と理想

『ここから一緒に出よう?……ね?』

 

 そう、手を差し伸べてくれた人がいた。

 泣く事も笑う事も仲間を想う事もそれを力にして戦う事も、何一つ知らなかった私に微笑んで友達になろうとしてくれた人がいた。

 

 でも、それは叶わなかった。

 

 私は死んだ。元よりそうなる運命だったかのように、残酷に、嘲笑うかのように……でも、それでいて自分の心情は何だか穏やかで。

 

 ――もしも、もしもこんな何も無い存在が生まれ変われるのであれば。

 

 友達がいて、いつも笑顔が絶えなくて、私はそんなみんなを見守りながら輪に入っていられたら。

 

 そして……もしも、私のように、あの子に教えられた感情を知らないヒトがいるのだとしたら。

 

 今度はきっと、自分が手を差し伸べる番だと――

 

 

 

 

 

 

 

 

「れいかちゃん?れいかちゃーん?どうしたの?ボーッとしてるよ?」

 

「……え?あ、ご、ごめんなさい」

 

「確かにらしくない気ぃするな、寝不足?」

 

「では無い……と、思うんですが。何か不思議な夢を……懐かしい夢を見たような気がして……」

 

「懐かしい夢……れいかにしては珍しく抽象的な言い方だね」

 

「夢って起きた瞬間は覚えてるけど、すぐ忘れちゃうよね……」

 

 何か不思議な夢を見た気がする……という不覚の理由でらしくない失態をしてしまったと僅かながらに後悔する。

 見ていた時は鮮明にその目で見ていたはずなのに、起きてすぐにその映像にはモヤが掛かったようになってしまって。

 

「何だか、忘れてはいけないような夢を見ていた……思い出そうとしてもモヤが掛かったように思い出せないのに、そんな気がするんです」

 

「それってわたし達の夢?」

 

「うーん……とは違うような……もっと昔……ずっとずっと昔のようで……それでいて何故かそれ程遠くないような……ごめんなさい、本当にそれくらいしか」

 

「まあしゃーない、思い出せるとええな」

 

「ですね」

 

 でも、一つだけ皆さんには言ってない事がある。

 その人が誰なのか、どこで、どんなシチュエーションで、どんな表情で言っていたかすら覚えていないけれど。

 

『ここから一緒に出よう?』

 

 その声を、手の温もりを、覚えていた。

 本当は話しても良いのではと直前まで思っていた、何か夢の手掛かりになる可能性があるのなら……そう考えていた。

 でも何故か、何故だか『話したくない』と『誰にも教えたくない』と思ってしまった、親友であるみなさんにすら。

 

 だからこそ余計に、知りたくなってしまう。

 あの夢の正体を、あの夢の私は何者なのかを、そして……感じた手の温もりの答えを。

 

 

 

 

 

 

 

 

「へー、家出したの?」

 

「うん、しばらくね。あのまま家にいても俺は『俺』を見つけられないと思ったからさ。母さんがどういう反応するかでこれからの付き合い方も決めたいし。もう授業も無いし生徒会も部活も引退したから自分探しの旅ってやつだね。……とはいえ、こうして変装して適当にぶらついてるくらいだけど」

 

 もう何日か成り行きで金ヅルにしているコイツがどうやら家出というものをしたらしい、無関心そうに……というか実際無関心だけど適当に受け流す。

 今のコイツはワタシにとってはバッドエナジーも吸えないから純粋に不審がられない為と金ヅルでしかない。

 

 ……はずなんだけど、何だか2人でいると調子が良くない。

 

 調子が良くない割には一緒にいても気分が悪いとは思わないのが余計にタチが悪い、というか最早気持ち悪い。

 

「今日は特に予定なんて決めてないわよ、着いてきたって何も無いケド」

 

「良いよ、俺が気兼ねなく本音を話せるのはキミしかいないし」

 

「変なの」

 

「実際変な奴ではあるんだろうなあ」

 

「はぁ……良いわ、取り敢えず図書館行くから。着いてきたければ来たら?」

 

「分かった、お言葉に甘えて着いていくよ」

 

「アンタの場合明日も明後日も同じ事言いそうね」

 

「実際言うと思うよ」

 

「……明日も明後日も同じやり取りしてそうね」

 

「かもね」

 

 実際、コイツと毎日の約束なんて交わしてないしまた会おうなんて事すら言ってはいない。

 だけど何故か、毎日遊園地の近くに行くとばったり出会うしそうして成り行きで毎日バッドエナジーを各地で吸いながらぶらついている。

 

 今日も今日とて人の多そうな場所を、影の中から見ていた時の経験則から適当に選んでは気ままに行く。

 そこにコイツがいるのは、関心は無いが別に邪魔とも思わない。何故かは知らないけど。

 

「……アンタ、なんか少しだけだけど変わったわね」

 

「そうかな?」

 

「数日前まではワタシの好きそうな陰気臭そうな顔してたのに、なんかちょっとイイカンジになってるわ。軽口も叩いてるし、気に入らない」

 

「でも許してくれるんだよね」

 

「ワタシは寛大だから許してあげるのよ。あと一々アンタにそういう文句言っても面倒臭いし」

 

「そういうキミだって、貴方呼びからアンタに変わってるし少しは仲良くしてもらえてるのかなって」

 

「……思いたければ勝手に思っとけば?」

 

 確かにワタシはコイツの呼び方を変えていた、ただそこに特別な何かなんてあるワケが無いしただ面倒臭いから変えていたに過ぎない。

 一々取り繕って言わなくても問題無いと思ったから軽々しく呼んでるだけ、そこに他の感情なんて混在する余地は無い、はずだ。

 

「なによ、ニヤニヤしちゃって」

 

「キミといると、なんだか楽しいなって思ったんだよ。こんな気持ち初めてなんだ」

 

「ワタシといて楽しい……ねえ、ほんとアンタって変わり者ね」

 

 溜め息を一つ吐き出した割にはどこか悪い気持ちには、ならなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……な、なんでよりにもよってアイツらがいるのよぉ〜」

 

「アイツらって……あ~、星空達か。確かキミは星空とは面識あったんだよね。他の4人とも知り合い?」

 

「一応ね一応、他の4人はほぼ面識無いに等しいけどそれでも顔はバレてるからあまり近付きたくないのよ……」

 

「まあ、なんで見つかりたくないのかとか聞きたい事はあるけど聞かないでおくよ。俺も今は母さんに見つかるのは嫌だし」

 

「そんなとこまでワタシに似られても困るんだけど」

 

「そりゃ申し訳ない」

 

「絶対思ってないでしょアンタ」

 

 図書館に来た瞬間は正直言って最高だった。

 何せこの数日どころか全盛期の時にすら感じた事の無いバッドエナジーを感じられたのだから。

 嬉々として吸い上げてはいた、だが問題はここからだった。

 

「もうすぐ卒業かぁ……なんだかみんなと過ごしてるとあっという間だった気がするな〜」

 

「せやなあ、楽しい時はすぐ時間が過ぎてまうわ」

 

「こ、高校生になってもみんなでたくさん遊べると良いねっ」

 

「それは同感、疎遠になんてなりたくないし」

 

「きっと大変な事も多いとは思いますが、できるだけ時間を作りたいですね」

 

 先客がいた――それも、この世で最も会いたくない先客だった。

 星空みゆき……とその他4人、そうプリキュアの連中。

 プリキュアの力を失ってるならまだしもまだ健在、対してワタシはまだまだ力を蓄えないといけない立場……見つかれば勝てるようなビジョンは無い、あくまでも『今は』に限るケド。

 

「何が『最高のスマイル』よ、綺麗事ばかり並べ立てて反吐が出る……」

 

「やっぱりそういうハッピーエンドってキミは嫌い?」

 

「大嫌いよ」

 

「そっか」

 

 星空みゆきの持ってる本……『最高のスマイル』。

 あの中に何が描かれてるのかは知った事ではない、どうせ理想論ばかり並べ立てて都合のいいハッピーエンドになってるに違いないのは分かるが。

 

 くだらない、どうせ理想なんて理想に過ぎないと言うのに。

 現実にはそんな描いていたものなんて殆ど叶いやしないのに。

 

「バッカみたい。どうせ叶いやしない理想ばかりなのに」

 

「……」

 

「イライラするのよ、希望?夢?理想?そんなものくだらない。結局は未来という名の現実が一番の絶望なの、希望なんて持つだけ無駄、夢なんて見ても無意味、理想なんて語ったところで叶わない。だからワタシはアイツらが大っ嫌い」

 

「…………じゃあ、なんでキミは」

 

「何か言った?」

 

「……いや」

 

 くだらない。くだらないくだらないくだらないくだらないくだらない。

 なんでこんなにムシャクシャするのか、なんでこんなに胸がザワつくのか分からない自分にムシャクシャする。

 あの本だ、あの本を見てからずっとずっとムシャクシャする。

 この図書館のバッドエナジーで全盛期まで戻ってきたって言うのに、こんなに不快な気持ちになるなんて。

 

 今すぐにでもこの図書館で不意打ちして今度こそ仕留めてやりたい……いや、今なら丁度力が溜まり切ったんだ、大チャンスも大チャンスだ。

 

 なのに、だと言うのに。

 

「…………くっだらない、本当に」

 

「大丈夫?」

 

「うっさい」

 

 この気持ちは――

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