ハッピーエンド   作:ぶり大根(元・孤高の牛)

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彼女はその本質を知らない


ユメとリソウ

 本当は、あの場で一網打尽にしていいはずだった。

 誰が犠牲になろうと、それでワタシの隣にいるアイツが犠牲になろうとそんなのはただワタシの為に駒になってただけの存在なんだから気にするなんて有り得るはずが無かった。

 

「……イライラするのよ」

 

「――え?」

 

「アンタ達を見てると、やっぱり虫唾が走る。ワタシがワタシで無くなりそうになるのよ」

 

「あ、あなたは!?」

 

「久しぶりね――キュアハッピー?」

 

 だから、今こうして対峙するのも有り得なかったはずだ。

 わざわざアイツを気絶させて、プリキュア達が図書館から出たところを狙って襲撃するなんてそんな事、そんな事、まるで――

 

 喉元まで出かかった『それ』を飲み込む。

 それこそ本当に『有り得ない』事だ。

 

「あの時消えたんじゃ……ネガティブなわたし……ううん――バッドエンドハッピー」

 

「お生憎、そう簡単にワタシは死なない。復活したのは数日前だけどね……今度こそ貴方を潰してあげる。そして、バッドエナジーを吸いまくってワタシがこの世界を支配する」

 

「……?もしかして――」

 

「『ワタシ』ぃ?ジョーカーの命令で動いてたんとちゃうんか?」

 

「でも消滅しちゃったでしょ。いたらいたで忠誠は誓ったかもしれないケド……いないならいないで好きにやらせて貰うってコト」

 

「その為に私達が邪魔と……おっしゃるのですね?」

 

「邪魔も邪魔、大邪魔よ!特にキュアハッピー、アンタには借りを返さないと気が済まない……アンタの苦痛に歪んで絶望する顔が見たくて見たくて仕方ないのよ……」

 

 全てのムシャクシャをぶつけるように、元の姿で対峙する。

 今ワタシの内にある憎悪、バッドエナジーは全盛期を超えている……5人まとめてでも潰せると確信するくらいには。

 

「……だったらわたし、向き合わないとね。『わたし』じゃなくて『あなた』と」

 

「でしたら私達も――」

「待って!……これだけは、誰にも譲れない。譲りたくないって思う」

 

「は?」

 

 しかしその言葉に思わず素っ頓狂な声が出る。

 今コイツはなんて言った?1人で?向き合う?ワタシと?

 まるでバカにされたみたいで更に怒りが湧いてくる。

 

「バカにしてんじゃないわよ!!今のワタシならアンタら全員が相手でも捻り潰してやる!!」

 

「そ、そうだよ!さすがにみんなで力を合わせた方が良いよ!」

 

「……確かにやよいの言う通り、1人は危険すぎるよ」

 

「わたしさ、バカだから難しい事は分からないけど……でも、あの子は『わたしじゃない』けど『わたしでもある』んだよ。その心は1人で受け止めて、応えたい……ダメ、かな」

 

「何を呑気な――」

 

「私は、みゆきさんの言葉を信じたい」

 

 ワタシの声を遮るように、ビューティが割り込んでくる。

 本当にどいつもこいつも気に入らないったらありゃしない。

 

「合理性の欠片も無いと思います、危険すぎると言うのも分かります。しかし……ここでその言葉を信じられなきゃ、みゆきさんは一生後悔する。ただの直感ですが、そう感じたんです」

 

「あー……れいかがそう言うんやったら信じんとアカンな」

 

「そうだねぇ、何せこの中で一番頭キレるし」

 

「何より、わたしたちもみゆきちゃんの言葉を信じたいもん」

 

「ええ、私達は『友達』ですから」

 

 何が信じるだ、何が友達だ。

 その言葉の一つ一つが癪に障る、イライラする、腸が煮えくり返る。

 なぶり殺すなんて事はしない、徹底的に潰す。

 

「どいつもこいつもふざけんじゃないわよ……ムカつくムカつくムカつくムカつくムカつく!!!ああ良いわよ、だったらお望み通りアンタからぶっ潰してやるわよ!!!キュアハッピイイイイイイイイイイイイ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――それはまるで、私達の戦いではない……そう直感した。

 

 みゆきさんがキュアハッピーになって暫くは見慣れた『技と技の全力のぶつかり合い』というような乱打戦に見えた。

 普段はリスクを考えて連発なんてしないはずの『プリキュア・ハッピーシャワーシャイニング』も何発も撃ち込んで……バッドエンドハッピー側も消耗なんてお構い無しの撃ち合い。

 

「プリキュア!!ハッピーシャワーシャイニングうううううううううううう!!!!」

 

「バッドエンドシャワーダークネスううううううううう!!!!」

 

 

「ぐっ……爆風も圧も桁違いや……」

 

「一体なんで……みゆきはあそこまで……」

 

「みゆきちゃん……大丈夫かな……」

 

 誰もそれは分からなかった。

『偽物』として対峙して打ち負かした私達では、きっと。

 

 なのに、何故か私には分かる気がした。

 

『ネガティブなわたし』として立ち向かったみゆきさんだからこそ、バッドエンドハッピーに『自分』を重ねて見て、それでいてあの方を『別の心を持った存在』としてどこかにそう断定する何かがあったのだと。

 そこまでは私にも分からない、けれど。

 

 

「わたしは……後悔してたのっ」

 

「後悔っ?はっ、バカバカしい!」

 

「本当にあなたを倒すしかなかったのかなってっ!もしかしたら、あなたと分かり合えたんじゃないかって!」

 

「ふざけるんじゃないわよ!!そんな事あるワケない!!」

 

 

 何故かあの2人を見てると、何かを思い出しそうになる。

 いや……それだけでは無い、この光景とその『何か』を私はきっと重ねて見ている……ただそれは、それ以上何も思い出せない。

 最近見る夢と何か繋がりはあるのか、それとも……

 

 しかし考えてる余裕は無かった。

 2人とも技を撃ち合う事が無くなる……パワーが切れたのが分かる。

 それでも双方戦いをやめようとはしなかった。

 そしてそれは……『それはまるで、私達の戦いではない』ものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「例え技が撃てなくても……ワタシはアンタを絶対に倒す!!!」

 

「わたしだって……あなたを受け止めて、自分の想いをあなたに伝える!!!何度だって伝えてみせる!!!」

 

 お互い肩で息をして、もう技を撃つ力は残されていなかった。

 一体どれくらいの時間撃ち合っただろう、お互いの一番の技を体力温存なんて関係無しに撃ち合ったのだから当然、どちらかが倒れないならこうなる未来はどちらも読めていた。

 

 最早形なんてどうでも良い、綺麗に勝とうだなんて一切思わない、ただただワタシはアイツに勝ちたい、それだけだった。

 

 一心不乱に殴る、蹴る、そして相手から飛んでくるそれを防ぐ。

 何よりもアイツの言葉をねじ伏せたかった。

 

「夢もッ!理想もッ!くだらないッ!!そんなもの全部全部全部!!無くなれば良い!!」

 

「くっ……!じゃあッ!なんであなたは『この世界を支配したい』とか『わたしを倒したい』とか言うの!?」

 

「それの何がおかしいってのよ!」

 

「だって!!だってそれは『夢』だよ!『理想』だよ!わたしは自分の考える『理想』の為にあなたのそれを受け入れられない……でも!それでも!あなたのその言葉を夢だって!!理想だって!!あなたにもわたし達と同じ『心』があるんだって!!言う事は出来るもん!!」

 

「…………は?」

 

 思わず手が止まる。

 今コイツはなんと言った?ワタシに?夢と?理想が?ある?人間と同じ心がある?

 

「ワタシを愚弄するのも大概にしろ……人間と同じ心がある?夢と理想がある?ふざけるなッ!!」

 

 心がぐちゃぐちゃに乱されている気がしてならない。

 いや、そもそも心なんてあるはずがない。ならばこれはバグだ、気のせいだ、コイツに惑わされてるだけに過ぎない。

 

 じゃあなんで簡単に言い返せない?たかがこんな事を?

 何故叫ぶ事しか出来ない、こんなの認めない、認められるワケが無い、有り得ない。

 

「あなたにもきっと心がある……だから分かり合えるって信じてるんだ。あの時は……助けられなかったけど。今度こそ助けたいから。だから……握手してくれないかな?」

 

「何なのよアンタ……頭おかしいんじゃないの?」

 

 一歩思わず下がってしまう。

 なんで笑顔で近寄って来れるのか分からなくて。

 

「確かにわたしは頭良くないからなあ……テストの点数も悪いし、ドジだし。でもね、心を教えたり、友達を教えたり、笑顔を教える事は出来るんだよ。だからね――」

 

「な……何が心よ!友達よ!笑顔よ!くだらない!!くだらないくだらないくだらない!!!ワタシはそんなもの信じない!!!次こそ絶対ぶっ倒してやる!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「クソックソクソクソクソクソクソクソクソクソクソォ!!!!」

 

 あの場から逃げ出した事は一生の不覚だ。

 敵前逃亡なんて負けを認めるようなもの、二度も負けた事になる……屈辱以上の何ものでも無かった。

 

 逃げた先の路地裏で衝動的に暴れ回っても、星空みゆきの顔が脳裏から消える事は無かった。




正直本来なられいかの方から指摘が入ってもおかしくないんですが、あくまでもこの対立構造と因縁はみゆきとのものなのでみゆきに言わせました
ハッピーエンドや夢が大好きな彼女なら気が付けると思ってるので
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